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魔石の使い道

「そこの紙に抜けている項目を書いたから、担当者に話を聞いて埋めて来て。手が空いている奴は、これをまとめておいて」


 執務室と化した俺の作業部屋に入れば、スタインが紙の束と格闘しながら周りの奴に指示を出していた。

 さっそく頑張っているな。最初の一週間は村を案内したり、俺が作った計画書もどきを読んでもらったりしていたが、相当内容に不満があったようだ。


 そっと部屋を後にする。あれは俺が入る余地がない。


「りょーしゅ様、こんにちは」

「ジエノアか。ディナはどうした?」

「お母さんは洗濯に行ったよ」


 お茶でも飲もうと台所へやってくれば、スープか何かを作っているのだろう。火にかけられた鍋をジエノアが見守っていた。


 子供に火の番をさせるのは危なくないか?コンロみたいに捻れば消せるのならいいが、薪だから簡単には消せないし。

 触らないようには言い聞かせてはいるのだろう。ジエノアも見ているだけだ。火もかなり弱めだから、下手に触らなければ問題はない。

 それでも心配だから、俺もここにいるか。


「火を見ているのは暑いだろ。これでも飲みなが見ておけ」

「ありがとう!」


 ストレージから冷えた果実水を取り出して渡す。奴隷として買った奴らは遠慮しているのか、こちらが言わないと水ですらなかなか飲まない。

 水分補給と食事、適度な休憩くらいは過度でなければ勝手にしてくれていいのに。


「村での生活はどうだ?」


「いろいろお仕事できて楽しいよ」


 他に子供も少ないから遊び相手もいないし、人が足りていないからな。子供には遊んでもらいたいが、今はそうも言っていられないか。


「しんどくなったら言えよ。やりたいこともどんどん言っていいからな」

「はい! りょーしゅ様は今暇ですか?」

「暇だぞ」


 やることはあると言えばあるが、急ぐ必要はないから夜にでもやればいい。

 今はスタインがまとめ終わるのを待っている段階だから、それを手伝えば仕事は進むが、働きたくないから手伝いはしない。


「じゃあ、魔法を教えてください」

「魔法か。どういった魔法がいいんだ?」

「ソフィアお姉ちゃんみたいに水を出したり、火をつけたりしたい」


 魔物と戦いたいとかじゃないならいいか。ソフィアの負担も減るし、覚えておいて損はない魔法だからな。

 魔力操作系のスキルも魔法に対する適性も、ジエノアを鑑定したが表示されない。

 適性が無くても魔力を感じて動かせるようになれば、適性が追加されるだろう。クロードがそうだったからな。


 ただ、クロードと違ってジエノアの場合は、魔力を消費するようなスキルがない。どうやって魔力の感覚を掴ませるかが難しいところだな。


「とりあえず、魔力を感じれるようにならないといけない。よくある修行方法として、精神統一から始めようか」


 本当によくあるのかは知らないが。

 何か教材になりそうな本やアイテムでも買ってきた方がいいかな。ジエノア以外の子供や手の空いた大人にも教えることになるかもしれないし。


「何をしたらいいですか?」

「まずは自分の体の中に魔力があると思って、お腹の奥底からそれを引っ張ってくるイメージで集中して」


 これもよくある丹田とかいうやつだな。本当にそんなところに魔力があるのかも知らないし、どうイメージしたら魔力をそこから出せるのかも分からないが。


 むむむと唸りながらジエノアが目を閉じて体をくねくねさせている。面白いなと思いながらそれを見ていると、数分経ったところで諦めたのかパタンと床に寝そべる。


「りょーしゅ様。全くわかりません」


 そうだろうな。そんな簡単に使えるようになったら、クロードもあれだけ苦労はしなかっただろうし、もっと魔法を使える奴が多いはずだ。


「そうすぐには使えるようにはならないさ。じゃあ、次は俺の魔力を少し流すから、それに集中してみて」


 ジエノアと手を繋いで魔力を少し放出する。

 そういや、人に直接魔力を注いで大丈夫なのかな?魔力譲渡がどういう原理で魔力を与えているのか分からないが、人に魔力を与えることって普通はできないようだし。

 不安なので魔力譲渡を発動させる。手を握っている必要はなくなったが、勝手に魔力が吸われないようにコントロールしてゆっくりと手から伝えるためにそのまま手は握っておく。


「どうだ?」

「うーん。全然分かんない」

「そうか」


 この方法は、俺の集中力の方が問題になるのでやめておこう。

 他に何か方法は無いのか。まず魔法についての知識が少ないから、何が良いのかも分からないから困ったな。


 あれはどういう原理で魔力を吸収するのだろうか。

 ストレージからリーシアにもらった改造版の魔石を取り出す。ついでに普通の使い終わった魔石も取り出してみる。


「これに魔力を流すイメージで握ってみて」


 改造版の魔石を渡す。ほんの少しだが、手に持っているだけで魔力を吸われた感覚があった気がする。魔力操作に自信があるわけでは無いから、微量すぎて今のが魔力が吸われた感覚だと言い切れないが、もしかしたらいけるかもしれない。


「変な感じがするー」


 魔石を両手で覆うように持っていたジエノアが手をぷるぷると震わせる。

 魔力譲渡により魔力がほんの少しジエノアに流れた感覚があったので、これは成功だろう。


「その吸われているものが魔力だ。その感覚を忘れないようにな」

「これが魔力」


 まだ子供なのもあって魔力量が少ないから、あまり長い時間やるのは良くないだろう。ジエノアの手から魔石を回収して、しまう前に魔石を確認する。

 今のじゃ、魔石に魔力が溜まる程ではないのか。


「その感覚を思い出しながら魔力を操れるように練習していれば、次第に使えるようになるよ」


「りょーしゅ様ありがとう!」


 頑張って使えるようになってくれるといいんだが。

 うおー、と唸りながら魔力を感じれるように練習し始めたので、俺も普通の魔石を手の中でいじりながら、魔力を思いって切りこめる。


「っつ──」


 どんどん込めていくと、途中で魔力が暴走しそうになったので霧散させる。

 普通の魔石に魔力を込めるのは、今の俺では無理だな。魔力を魔石の中に入れようとする時にかなりの抵抗がある。俺の魔力コントロールでは、その抵抗を貫ける程の操作は無理だった。魔石に対して魔力譲渡も発動できないようだし。


 ジエノアのおかげで、改造版魔石の新たな使い方が判明したのは良かった。これでスキルによる魔力消費と、俺の魔力譲渡の二つが無くても魔力を感じるための練習ができるようになる。俺の魔力譲渡が無ければ、練習時間は短くなってしまうが、俺がいなくても出来るというのは素晴らしい。


「さて、俺はそろそろ行くが、あまり練習しすぎるなよ。一日30分以内にしておくのがいいだろう」

「はい! また時間のあるときに教えてね」

「ああ。俺も魔法が使えるやつが増えるのは嬉しいから、また教えてやるよ」


 そういやお茶を飲んでないなとか思いながら部屋を出る。ストレージの中の冷えたお茶を取り出して口にする。

 冷えた飲み物は俺じゃ作れないから、またソフィアに頼んでストレージに入れておいてもらわないと。

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