魔石
「スタイン、今ちょっと時間いいか?」
中に他の客がいなかったので、すぐにスタインに声をかける。ポケットに手をやり、ここに大事な物が入ってるというアピールを少ししておく。
スライムの魔石は道中でスキルを使い、しっかりと一つに合成できている。。
「見りゃわかるだろ。空いてるに決まってる」
まあ、物の見事に客はいないもんな。暇すぎて商品の配置を考えているくらいだし。こんな店でやっていけているのだろうか。もう少し場所がなんとかなれば人気は出そうなのに。
「聞きたいことがあるんだけど」
「……いいだろう。取り敢えず付いて来い。商談用の個室がある」
俺を一瞥するとすぐに奥に向かうスタインに着いて行く。話が分かる奴は楽でいい。少し何かあることを伝えておけば、こうやって何も言わずとも奥の部屋で話をしようとしてくれるんだから。
商談用の部屋だろう。本や資料が大量に置かれているが、しっかり整理されていて、置かれている机や椅子も質がいい部屋に案内された。
「で?聞きたいことってなんだ?冒険者ってことはパーティーメンバーか?それともレアアイテムでも手に入れたか?」
さすがにこうやって押しかけてきたら分かってしまうか。
俺が少し驚いた表情を見せると、その通りかとスタインがニヤッと笑う。
「ま、ケーマが最初に来た時から商人の伝手を手に入れようとしてたのは何と無く感じてたからそんな所だと思ったよ」
うん、俺が思っていたよりもかなり優秀な商人だったみたいだ。こんな所にしっかりとした商人が眠ってるなんて幸運だ。そして俺の人を見る目はまだまだだということも痛感する。鑑定抜きでの俺の分析なんて当てになるようなものではないと分かっているからいいけれども。
「だったら話が早い。ギルドで待ち続けているようなあぶれ者じゃなく、真面な奴か良い駒になるようなパーティーメンバーは何処で募集すればいい?」
「なかなか辛辣な事をズバッと言ってやるな。お前が望むようなパーティーメンバーを手に入れるなら、時間か金のどちらかが必要だ」
そんな上手い話はそうゴロゴロと転がってないか。転がっているようであれば、ああやってあぶれ物になっている奴はもっと少ないものな。
「時間があるならギルドの酒場とか、俺みたいな伝手を使って、パーティーメンバーが死んだりパーティーメンバーの増員を考えている奴と知り合うって方法だな。運が良ければすぐに良いパーティーが組めるが、悪ければ一生組めない可能性もある」
「それは困るな。時間はあるが待っている間ソロで活動するのはきつい」
経験者ってのは有難いが。
ある程度冒険者としてやっていれば、そいつの評判ってのは隠そうとしても流れているもんだからな。良い奴かどうかの判断はしやすいのは良い。
ただ、流石にいつまでもスライム叩きをしてられないし、パーティーメンバーを待つ間一人でやっていくのは無理だ。ノーマルスライムを狩りに町から出ようと考えるだけで足がすくむ。
「だったら、金を使うしかないな。冒険者と契約で期間限定のパーティーを組むか、奴隷を買ってパーティーメンバーにするかだな」
奴隷か。
こういう世界には定番とは言え、自分がいる世界に奴隷が実在するとは。
「難しく考える事はない。お前が買わなければその奴隷はもっと待遇の悪い所に売られるかも知れないんだ。買って救ってやると思えば奴隷を買うことだって悪いことじゃない。それにちゃんとした奴隷商で買えば、国が定めた最低限の契約内容もあるからな」
そうだよな。売れ残れった奴隷の末路や、変な奴に買われるよりは、俺が買った方がいいかもしれない。
だが、奴隷なんてどう扱えばいいかもわからないし、人一人の面倒を見るなんてことができるのだろうか。
気は乗らないが実利を考えれば、パーティーメンバーは必須だし、それなら言うことを聞いてくれる奴隷は文句はない。俺自身が割り切れるかと、良い奴隷がいるかが問題か。
「健康で動ける奴隷一人の平均的な値段ってどのくらいだ?」
「ピンキリだが……今の相場だと、戦闘能力の高い亜人では無く、人族で、それも戦闘経験が無い奴隷なら安くて10万コルくらいかな。元冒険者とかの奴隷だと20万コルは行くだろう」
最低でも10万コルね……
魔法の適性さえあれば元冒険者とかでは無くていいが金が全く足りない。どうやって金を稼ぐか……
「この魔石なんだけど、幾らくらいで売れる?」
とりあえず金になりそうなスライムの魔石を取り出す。
こいつの値段次第で今後の金稼ぎの方法が変わってくるからな。
スタインが魔石を手に取りじっくりと観察した後、息を飲む。
「こ、これ!?何処で手に入れた?」
机に乗り出してこちらに詰め寄るスタインを宥めながら答える。
「何処って……た、たまたまデカいノーマルスライムがいたから倒したら出てきたんだが」
「お前運が良いぞ!これなら俺が10万で!……いや、ここは一肌脱いでやろう。俺が伝手を使ってコレクターに売り付けてやるから前金で15万コルでどうだ?」
は?15万コル?
何言ってるんだこいつ?
15万コルとか俺の目標金額を普通に超してるんだけど。
「ちょっと待ってろ。魔石の相場の資料を出してやるから」
背後にある資料棚から一つの資料を取り出しパラパラとページをめくる。
「これがよく出回っている魔石だ。ケーマの持ってきた魔石の三分の一以下のサイズで、一つ当たり1万コルってとこだな」
魔石の価値は大きさと純度で決まるみたいだな。
魔石を合成して大きくしても複数の魔石を混ぜると純度が下がり、魔石としての効果が弱くなってしまう。その結果、値段も下がってしまうってことか。純度の高い魔石というのはかなり高値で取引されるようだ。純度の低い魔石は、それこそ100コルにも満たないようなものまであるが、純度の高い魔石はビー玉サイズでも1000コルを超えている。
「このサイズの魔石となると……これが以前取り引きされた時の価格だ」
17万コル。
ごくりと唾を飲み込む音が部屋に響く。俺が持ってきた魔石より少し大きいが、それが17万コルにもなるのか。
「ケーマが持ってきた魔石は、この魔石よりも少し小さいが純度がかなり高い。このサイズでこれほどの純度を保っている魔石なんて俺も見たことがない」
どういうことだ?俺はかなり小さい魔石を合成して作り出したのに……
もしかして、モンスター作成でノーマルスライムを作るときに条件を固定して繰り返して作り出していたからか?同じ条件で作り出したモンスターだから魔石の魔力も同じ質で作り出されたとか。
「このサイズと純度の魔石を普通に売れば15万コルから20万コルにはなるだろう。だが、コレクターに売るか、王都で開かれるオークションで売ればもっと高くなるのは確実だ」
毎日無心でひたすらにスライム叩きを続けた甲斐があったということか。
ただ、あれを続けて金稼ぎをするのは精神的にきついな。無心で一週間狩り続けて20万コルだとしても、最初はいいが何個も売るうちに価値が下がってきてしまうだろうからな。永続的に稼ぐのは無理そうだ。
「だから前金で15万コル。さらに売れた値段から前金の15万コルを引いた残りの金額から三割を俺が貰うってのでどうだ?」
「五割でいい。その代わりに、これからも色々相談に乗ったり、優遇してくれ」
「それくらい任せろ!じゃあ、今日は店仕舞いにしてこれから王都まで行って売り付けてくる」
「あ、ああ。頼んだよ」
商人魂に火でもついたのか凄まじいテンションで今にも飛び出しそうなスタインに驚きつつ承諾する。
「これ前金の15万コルと、俺の知り合いがこの町で開いている奴隷商の店の地図と紹介状だ。多分、俺の名前を出せば、ふっかけられたりもしないだろう」
「あ、ああ……助かるよ」
大慌てで出かける準備を始めたスタインに礼を言って店を出る。
これで金の面では心配ないだろう。そんなに高い奴隷を買うつもりはない。スタインのくれた紹介状もあるから難しい駆け引きをする必要もないだろうし、気が変わらないうちにさっさと見に行きますか。




