第五十位一話 最終決戦2
アルベールは高級騎士を投げ飛ばすと同時に内部から魔法がアルベールたちに襲い掛かる。
アルベールはそれに気づき、水の盾で波紋を揺らすように食い止めると、再び襲い掛かってくる。
無限にも近い。何度も何度もどこからか襲い掛かってくる魔法に、アルベールはついにある答えに気づいた。
「我々は弱者だ。奴らは魔物で我々は囲まれている。じりじりと......」
アルベールのその言葉で、周りの高級騎士は頭がついにおかしくなったのか、と思う。
その間にも、魔法は止まない。
城壁は振動し、魔法は迫り、城外からは蛮族の奇妙な叫びと見たことがない奇妙な武器のガガガガという音が聞こえてくる。
まだ1時間も経っていなかった。
つまり、アルベールの予想を遥かに上回る速さで貴族たちはやられている。
「要するに、今の我々はクルザの民。いいや、それだけじゃない。帝国人、リース人もだ。敵が我々だ。言いたいことがわかるか?」
アルベールの言葉に反応できる高級騎士は誰一人としていなかった。
だからアルベールは笑い出す。
「降伏などと言い出す馬鹿共にはわからない、か」
アルベールはガクッと頭を下げ、そういうと、続けて、
「いいか。降伏などしたら、事態はより悪化する。さっきの言葉を覚えているな。敵が我々で、我々が民衆だ。降伏などしたら、その後、代々どういう生活が待ち受けているかわからない。想像をしてみろ」
アルベールの言葉にその場にいた全貴族たちが、本質に気づいた。
自分たちがやってきたことを子孫がやられるということを想像した貴族たちは、ようやく自分たちの行いは悪だったと気づいたのだ。
救いようがない。
もし、ジークたちや民衆が彼らの言葉を聞いていたらそう思うだろう。
貴族達は真っ青な顔で、恐る恐るアルベールに疑問に思ったことを聞いた。
「では、どうすれば......」
その答えが返ってきたのは数秒後になってからだった。
アルベールは冷静さを取り戻している。語調はいつものアルベールだ。
「一つだけある。昔から敵の総大将を討ち取るというのは、戦略において有効である。だが、困ったことにジークは強すぎる」
アルベールの言葉に喉を鳴らしながら、その先の言葉を待つ貴族たち。
「そこで人質というのが有効だ。ジークの傍にはいつも聖女様がおられる」
「まさか、聖女様を人質にと言うわけじゃないだろうな」
軍事担当官の老人がそういうと、
「その通りだ。聖女リスティアを人質に我々は交渉する」
「ならぬ! ならぬぞ!! クリスタルの祝福を受けた聖女様を攻撃することは許さぬ!」
「では、あなたは死に、家も無くなる。それだけだ。反対意見がある者は?」
アルベールの冷酷な言葉に反対できる者などいなかった。
みな、神の代弁者で聖女リスティアより、自分たちが大事なのだ。
仕方がない。そういう決意に満ち溢れた瞳をした貴族たちはやはり救いようがない。
「反対意見はないようだ。では作戦について説明する」
アルベールは城壁の外を指さす。
「奴らは大胆にもこの巨大なクリスタを囲むように陣を配置している。そして所詮は反乱軍。指揮官が少ない以上、分散している。つまりは聖女リスティアもとある部隊の指揮官になっている可能性が高い。聖女リスティアは学院時代、2番手の実力者だ。ジークは必ず別行動をさせるだろう」
「だが、どうやって聖女様の居場所を知るつもりだ」
老兵がそういうとアルベールは適当に騎士たちを指さす。
「お前たちは各方面に突撃し、リスティアがいる場合のみ信号魔法を打ち上げろ」
「それでは我々に死ねと言っているようなものです」
魔法騎士たちがそういうと、アルベールは無表情で残酷なことを言う。
「ならば貴様らの女、子供は殺す。今すぐ居場所を突き止め、目の前で殺してやろう。幸いなことに、貴様らの家族は今ここにいる。勝利のための犠牲になれ」
そう言った瞬間、数人の魔法騎士は自らの理性を保つことができなかった。
杖を取り出し、魔法を繰り出そうとしている。
だが、実力が違う。アルベールは素早くクリスタの騎士数人を消し炭にしていた。
「従わないのなら死ぬだけだ」
有無を言わさぬその言葉に、指名された魔法騎士は従うしかなかった。
魔法騎士たちは散っていく。
「素早く動けるように準備をしておけ」
夜の魔法照明が輝く中、見えるアルベールの顔は様々な色でまるで悪魔の様だった。
★★★
夜に輝く魔法照明で照らされたクリスタじゃないな。
あれから2時間ほどが経った。俺たちは全軍を包囲させながら、城壁へと迫り、もうすでに交戦を開始している。
城壁の上には騎士でもない女やまだ見習の子供もいるが、容赦はできない。
彼らは死に物狂いだ。魔法のレベルだって高い。マーネリア貴族より強いかもしれない。
血眼で殺しにくる彼らだったが、最初は殺すことを躊躇していた。女、子供だからだ。
だが、それはさっき言った通り違う。
俺は魔法を繰り出そうとしている、化粧をしただけのただの女貴族を天剣できる。
「あんたのせい! わかってるんでしょうねぇ! この田舎もんが!」
さらに左から一名。
「せっかく、私の時代が来ると思ったのに、邪魔をしやがって!」
右から一名が襲い掛かってくる。
だが、斬るまでもなかった。
二人は北部クリスタル団による魔法弾により、倒れていた。
「ナイスアシストだ」
「いや~。さすが私って感じですかー?」
アーシャはニコって笑う。
相変わらず、笑顔が似合う。
「まあな。おかげでこのエリアは制圧したようだ」
「ちょっと! 今のは冗談ですよ! ジーク様強すぎますよ、なんですか、あの剣さばき! 見えないんですけど!」
アーシャは身振り手振りで説明しようとしていた。
「でも、なんか最初にいた時より少ないというか、予想では15000人なのに」
アーシャの言葉に頷いた。
「確かに、少なすぎるな。何かを企てているのは確実だが......」
そのなにかがわからない。
絶望的な状況をひっくり返す何かを企てているはずだが。
クリスタ内部の民衆を人質にでも取る気か?
ん、ちょっと待て。人質?
そうだ、人質か
「アーシャ、蛮族、南部、東部、技術部隊の進捗はどうなっている?」
「何を急に焦っているんですか! 怖いです――」
「いいから早く!」
その言葉にアーシャはびくっとしていた。申し訳ない。
だが、時間がない。
「す、すみません。伝令によると、どの部隊もまだ戦闘中らしいです」
となるとどの部隊も今は敵の援軍が一番厄介で、敵は奇襲をかけることは可能だ。
そして、敵が狙っているのはリスティア、帝国の要人ヨセフとアロイス、俺の弟子であるナナ、クリスタル団の長アーシャ。
この5人に絞られるが......
一体、だれを人質にとる。
リリーザに停戦を申し入れるならヨセフかアロイスだ。
総大将である俺に要求を飲ませるのなら、リスティアかナナ。
クリスタル団の士気を削ぎ落すのならアーシャだが、アーシャはこの部隊にいるから除外できる。
残るは4人。そして手段もわからない。
27万もいる中、的確に人質を見つけることは容易ではない。
そうなると、俺が思いつく考えは一つしかない。
特攻だ。切り捨て作戦。
それを思いついた瞬間、俺は寒気がした。
自分でもその作戦を考えついたことと、その作戦を実行しているクズがいることに。
「どうしたんですか? 震えてますよ? 大丈夫ですか??」
アーシャは気遣ってか、上目遣いで俺の顔を覗き込んでいた。
「いや、相手は人質作戦を取ろうとしているが、リスティア、ナナ、ヨセフ、アロイスのだれが目標かわからなくてな」
俺はできる限り、ことの詳細を語らないようにそういうと、アーシャは微笑む。
「そんなのわかる人間なんていないですよ! 無理です!」
「でも、やらなきゃいけない」
「だから、無理ですって!」
アーシャはそういうと矢継ぎ早に、
「リスティア様がジーク様はいつも頭で考えるといっていました。だからこういうときは直感です! それしかありません。ジーク様が感じる人のところに行けばいいと思います!」
「だが......」
「それしかありませんよ!! 大丈夫です。修道女のアーシャがクリスタルに誓って保証します。ジーク様はクリスタルに導かれている」
アーシャは自分の胸をトンっと叩くと、ニコッと笑う。
と言われても、判断できるものではない。
俺の判断次第では、人が死ぬ。
俺が戸惑っているとアーシャは再び口をひらく。
「守れないものはこの世にあるんです。私がライアの町の全員を守れなかったように。でも、安心してください。ジーク様は失敗などしません! 私が、部隊を分散させますから! 時間稼ぎにはなるでしょう?」
その言葉の意味を知って、俺は自分の頭を勝ち割りたくなった。
何をくよくよと悩んでいるんだ。
アーシャがこんなにも頑張って選択してきたというのに、俺は臆病だ。
俺は焦げ臭い空気を肺いっぱいまで吸い込む。
「ああ、そうだな。すまないな、アーシャ」
「いえいえ! リスティア様でしょー?」
再び陽気なアーシャに戻り、アーシャは俺の直感を当てていた。
「ま、そういうことだ」
「大丈夫です! ジーク様の直感は正しいと思いますよ! さあ、行ってください。後の北部軍は任せてください」
アーシャはニコリと俺を見送った。
★★★
東部軍を指揮しているティアがいるのは俺がいるところの反対だ。
城壁を一度おりて遠回りする方法もあるが、嫌な予感がする。
俺はクリスタ内部を直進することにした。
内部は民家は壊れ、石畳の道がひび割れ、時には土がむき出しになっている。
そういう状況で、戦闘に巻き込まれると思っていたが、違った。
クリスタの民衆は俺を見つけると、暖かい声をかけてくれる。
「ジーク様だ!!!」
「おおおおおおおおお!!! ジーク様、戻ってきてくれてありがとうございます!」
魔法騎士部隊と戦闘中だというのに、民衆は笑っていた。
きっとこれから先の明るい未来を想像しているのだろう。
俺は手を振りながら、そんな道を通り抜ける。
すると、信号魔法が俺の前に現れた。
俺の直感は正しかった。何の根拠もない直感。
だけど、それは正しかった。
どうやら、クリスタルに祝福されているというのは本当らしいな。
俺はさらに足を速めた。
魔法騎士部隊と民衆が戦う中を強引に抜け、荒れた道を抜け、ようやく東の城壁が見えてきた。
あともう少しでつく、そう思ったが、俺は俺に向けられている殺気を感じて足を止める。
この気配、相当のつわものだ。
「でてこい」
すると屋根が吹き飛んでいた民家からそいつは現れた。
「私は、私の使命を果たす。民衆などどうでもいい、蛮族なんてどうでもいい。私たちの楽園を壊すな」
瞬間、アルベールは杖を振る。
と同時に、空から雷が落ちてくる。光の速度。
俺目掛けピンポイントで落ちてくる雷を俺はすかさずハデン流1の型を取る。両手で剣を突き刺すように持つ攻撃的な型。
それによる、移動力上昇で容易に避けられるはずだった。
普段の俺であれば。
だが、魔力があまりにも足りない。
俺の真横にその光は落ちると焦げ臭い匂いが俺の鼻を刺激した。
「一つ質問していいか? なぜ、そこまで固執する。人質を取ったとしても、時間稼ぎにしかならない」
俺の質問にアルベールはにやりと笑った。
「私は気づいたのだ、お前のおかげでな。どうやら私は弱者を虐げることが心の底から好きらしい。そして、それは私だけではない。これはクルザ貴族の話だ。それを得るために、私が犠牲になってもいい」
あまりにも狂っている発言に俺は何も言うことができなかった。
だからアルベールは続ける。
「私はお前に負けるだろう。だが、残った1000の魔法騎士たちはお前の最愛の人物を捕える。そのときのお前の顔を想像するだけで愉快。だから私はお前の邪魔をする。これが貴族の本質なのだ」
アルベールは目を瞑り、にやりと笑っている。
その気味の悪い顔に俺は泥をかけたくて、口をひらいた。
「残念だが、リスティアは捕まらない」
もちろん、これははったりだが意図がある。
「どういうことだ?」
これが第一段階。アルベールは動揺する。
「城壁の外を見てみろ、すでに戦闘を開始しているぞ?」
これが第2段階。アルベールは後ろを見るはずだ。その首の角度で、敵の位置を知ることができる。
アルベールは左を気にしていた。
「ありがとうな。結局、お前は俺には適わない。全てにおいて2流だ」
「貴様! ひきょうだ――」
ようやくアルベールが意図を察したころには遅かった。
アルベールが俺に振り向くころにはハデン流奥義、青龍波はアルベールをやすやすと飲み込んでいる。
街そのものを飲み込むような巨大な青龍波はアルベールが見ていた方面の城壁をも易々と飲み込む。
元からそこに城壁が存在しないかのような空白地帯になったところを見て、俺は目が閉じそうになる。
魔力がない状態での奥義は厳しいな。
だが、守った。リスティアも、民衆も。
誰一人としてかけることなく守り、クルザ貴族に勝ったんだ。
直感を信じてよかった。ありがとうな、アーシャ。
瞼が何度も閉じ、足がふらつくのを我慢していたが、どうやら限界らしい。
大歓声が聞こえるが、辺りは暗い。
俺は瞳を閉じた。




