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第三十五話 ラザルとアランは謝る

 高級な長いテーブルと椅子が王座の間に持ち込まれると、リリーザが辺が短いところに座り、ジークたち帝国の人間は左側に、クルザの人間は右側に座った。


 今でものほほんとしているリリーザを除く、ジークたちとクルザの人間の表情はピリピリしている。

 対面してなおかつテーブルの幅もないので、パーソナルスペースが被ってしまっているからだ。


 そんな空気が張り詰めている王座の間で、最初に口を開いたのはアランだった。


 アランは作り笑顔のまま、ラザルを無理やり立たせると自らも立つ。


「この無能なラザルが宰相だったことにより、ジーク様や聖女様にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 アランはラザルの頭を無理やり下げると、アランも頭を下げる。


「見てください、ジーク様。この通り、前のラザルでは考えられない落着きでしょう」


 ラザルを指さしたアランを見て、ジークはお前が言うかと思う。


 だからジークは口を開いた。


「謝罪なんていい。それに無能というのならアラン。お前もだろう」


 冷静にそういうジークにアランの表情は引きつっていた。


「どういうことですかな?」


 アランの頬がピクピクと動いていることをジークは確認すると、今までの仕返しとだと、アランを煽る。


「聖女の護衛という役目を知っているか? その役目は裏の宰相だ。俺はお前らの後始末をしたりしていたんだ。だというのに、時間がない俺にお前は部屋の掃除や買い物に行かせていただろう。それに罵倒もあったかな? 『これが平民上りに、相応しい仕事だ』そんな言葉、何度も聞いた」


 額の血管が浮き出ているアランはジークのそんな言葉にたまらず口を開いた。


「だまれぇ!! この平民が!!」


 息を荒げながらそういったアランは言った直後に後悔した。


「知らなかったから声を荒げてしまった。そういうことですか」


 ヨセフは冷静にそういうと、リスティアも口を開く。


「この人は知っていたはずよ。ラザルの仲間だったわけだから。知っていて平民であるジークをコキ使っていたということだけど、ジークが何をやっていたかまではラザル同様、知らなかったようだけど」

「そもそもの話、大元帥が平民であっても宰相級の位に在りつけたのは有能だからでしょう。なのに、生まれが平民だからと言って差別するのは許せませんね。全く、クルザという国がわかりませんよ私は」

「ええ、そうね。だからジークが許せても私は許せないわ」

「同感です。聖女様」


 意気投合するリスティアとヨセフだったが、アランはヨセフに対して叫ぶ。


「黙れ! 魔法が使えないクズが私を罵倒する権利などない。貴様、帝国の将だからと言って調子に乗るなよ。私は、クルザのトップといってもいいんだぞ!? 場所も場所だ。裸になり土下座すれば許してやろう」


 見下した目でそういうアランにジークは天剣を素早く抜く。


「部下を侮辱するのはやめてもらおうか。次言ったらその首はないぞ」


 たった1秒以下で反対側にいるアランの首元に天剣を添えたジークに、アランは頷くしかなかった。


(化け物め。アルベール殿とも互角に渡り合えるかもしれない強さだ。悔しいが、グレア生まれは馬鹿にはできんな)


 アランは喉を鳴らし、ジークがいつの間にか座っていることにも驚愕する。


「す、すみませんジーク様。確かに、私もラザル同様馬鹿でした」


 そういってアランは再び頭を下げる。


(悔しいが認めざるを得ない。ジークとかいう男は平民のくせにクリスタルに選ばれている)


「私が馬鹿なせいでジーク様に迷惑をかけてしまいました。ですから、私はジーク様のためになんでもします。ですから、どうかクルザにお戻り頂けないでしょうか。相応のポストはご用意しますぞ」


 頭を下げたままそういうアランにジークは短く簡潔に答えた。


「今更だ」


 だが、アランは引かない。

 アランは頭を上げると、魔法紙をジークに手渡そうとしている。

 魔法紙とは普通の神とは違い、映像が魔法の力によって流れる紙だ。


「何の真似だ?」

「見てください。諸悪の根源であるラザルが、こんなにも大人しくなったのは罰せられたからです」


 アランがそういうと魔法紙は映像を再生する。




「1日目。ラザルが初めて投獄された日」


 映像を撮影していた男の声が聞こえてくると、牢獄にいるラザルは地団太を踏んでいる。


「おい、出さんか! 下級貴族だか何だか知らんが、私はラザルだぞ!」

「だめだ。口答えのたびに鞭うち1回といったな」


 バシッ。


 鞭が体に当たる音が聞こえると、今度はかつてジークが使っていた部屋が映し出される。


「ラザルはジーク様のために、毎日部屋を掃除しています」


 ラザルは文句も言わずに部屋を掃除している。


「ラザルもジーク様を追放したことをとても反省しているようで」


 そういうと、また映像は切り替わる。


 そこには王都の民衆の姿とラザルが映っていて、何やら騒がしい。


「お前のせいでジーク様がいなくなったんだよ! この野郎!」


 一人の男がそういって投げられた石が、ラザルの頭にヒットする。


「これは無能なラザルとジーク様の違いを認知させる刑です」

「ラザルは無能だ!」


 そんな声が聞こえてきたところで、ジークは魔法紙を破り捨てた。

 この映像を見てジークは確かにすっきりとした気持ちになっていた。


 だが、同時に呆れてもいた。


「わかっていないな。アラン」

「どういう意味ですか?」


 アランが不思議そうに首をかしげると、ジークはため息をついた後、口を開く。


「確かに俺はラザルやお前らに困らされた。だが、誰が一番迷惑だと思っていたのか」

「ジーク様以外にいますか?」


 ニコッと笑いながらそういうアランにジークは憤怒する。


「俺はまだいい! 一番被害を被っているのは民衆だろ!」


 ジークは机を叩きながらそういうが、アランはにやけ面のままだ。


「ああ~。なるほど。民衆ですか。ふむ、確かにクルザの民衆は守らねば。ですが、今は重要な局面。クルザを守るために耐え抜いてもらうしかないでしょう」


(馬鹿なことを言い出す。民衆は確かに大事だ。だが、それよりも大事なのは国の在り方で、民衆はいくら犠牲になってもいいではないか。本当に、こんなやつで大丈夫なのか。心配になってきたな)


「それを本気で言っているのか? お前らがちゃんとしないせいでクルザは今大混乱だと聞いたぞ」


 ジークの問いに答えたのはヨセフだった。


「大元帥。クルザ中心思想ですよ。それは古来からです。今ほどじゃないにせよ、言うだけ無駄ですよ」


 ヨセフの言葉にジークは頷いた。


「そんな考えじゃなおさら行く気はしない。俺は絶対に王には仕えないぞ。だが、クルザの人々の手助けはする」


 冷静になったジークがそういうと、リリーザはパンッと手を叩く。


「さて、話は終わりのようだな!」


 リリーザはそういうと、アランたちを見る。


「ジークは帰る気がないといったぞ。ということで、中心のクルザに帰ってもらえないか!」


 不気味な笑みを浮かべながらそういうリリーザに、アランは今までの作り笑顔を止めた。


「とても残念だ。これが大国として十分に譲歩した結果だったというのに」


 アランは嘆息すると、ジークたちをゆっくりと見渡す。


「宣戦布告しようじゃないか」





読んでいただき、ありがとうございます!


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