第二話 親友
「でも、本当に良かったのか?」
宮廷を出て少し経った後、俺は気になっていたことをリスティアに聞いていた。
この国には代々聖女という、人々を治療し、悪から人々や国を守る役目がある。
リスティアはその聖女で、聖女はとても神聖な職業で、他の国では発生しない稀な存在だからだ。
「ジーク。私たちが出会ってから何年?」
「ええっと、今が25だから、もう9年も経つのか」
「そう、9年よ。そんな大事なジークがあんなに馬鹿にされていたら腹が立つわ! ジークがいなければこの国は腐るというのに!」
リスティアは強い語調でそう言うと、9年も付き合っているというのに見たことのない、身振り手振りで怒りが伝わってきた。
だから、俺は慌ててリスティアを落ち着かせるために口を開いた。
「9年かー。俺たち割と長いよな」
そう。6年間、俺たちは王都学院という剣術、魔術に秀でた者たちがいるなかで、トップワンツーとして暮らしてきて、その後に宮廷で、俺はティアの護衛に、リスティアは聖女として3年過ごしてきた。
だから聖女であるリスティアは剣術も魔術も一流だ。
「ジーク! 話をそらさないで! ジークがいなければ、暗殺者の処理もできていないし、他国との交渉なんて上手くいかずに、すぐに飢えや戦争が訪れるわよ。あいつらはジークの凄さが分からないなんて、ほんと間抜けだわ」
そう言いながらリスティアは土を力強く踏んでいた。
俺はそんなリスティアを見て、再び感謝を言いたくなった。
「ありがとう、ティア。でも、お前が、俺の事で怒ってくれるとは思ってなかったぞ」
いつも淡泊なリスティアがこんなにも激しく怒ってくれるなんて思わなかった。だから、嬉しい。
すると、リスティアは首を傾げ、俺を見ると、再び口を開いた。
「まぁ、それは、こういうことは恥ずかしいし、ジークは強くてなんでも解決しちゃうから。 それに、私に不当に扱われていたことを話してくれてもよかったじゃない!」
リスティアはふんと顔を背ける。
「まぁ、それはそうだな。親友でもあるお前にこのことを言わなかったのは悪い」
俺はリスティアに言うのを躊躇っていた。リスティアはこの国の聖女で、立場がある。そんなリスティに俺が不当に扱われているなんてことを言ったら、リスティアはきっと行動するはずだ。
そうすればリスティアの立場は怪しくなる。だから黙っていた。
でも、そうする必要はなかったようだ。俺はそっぽ向いているリスティアを見て思った。
「分かってるならいいの。それより、これからどうする? 衝動的になってああいう風に言っちゃったけど、私、あてはないのよね」
リスティアは再び俺を見ると、そう言っていた。
「ああ、それなら大丈夫だ」
俺はそう言うと、カバンの中から一枚の紙を取り出し、ペンで書く。
「それ、どうするの?」
書いている最中に、リスティアはそう言っていた。
「皇帝に送るんだ。只今無職だから、そっちに行ってやってもいいぞってな」
俺がそう言うと、リスティアは驚いた声を上げていた。
「え? 皇帝ってアーシス帝国の皇帝ってこと?」
「ああ、そうだ」
ペンをカバンにしまい、紙を封筒に入れると、近くにある魔法郵便箱の中までその封筒を入れる。
「ちょっと待ってよ! あの国は危ないって有名でしょ? 悪逆非道の皇帝が、民を苦しめているって」
「実際はそうじゃないんだ。あの皇帝はいい奴だぞ」
アーシス帝国皇帝は、敵対関係のこの国では悪逆非道扱いされているが、実際にはいいやつだ。
以前、皇帝が道中、悪の教団に襲われていた時に、助けたことがある。
それから、皇帝とは仲良くなり、アーシスにこないかとスカウトまでされた。
そんな彼女が頂点の帝国は、この国より大分先進的で、内政だってしっかりとしている。
「そ、そうなの? ま、まぁ、ジークが言うならそうなんだろうけど」
そう言いながらも、尚も半信半疑なのか歯切れが悪かった。
「まぁ! 行けばわかると思うぞ」
俺はそう言い、魔法の馬車と魔法の馬を作り出す。
淡い青色の光を出すそれは俺たちの前に止まり、扉が開く。
「さあ、行こう、ティア」
リスティアに手を差し伸べると、リスティアは驚きながら俺の手をとる。
「すごいわ。やはりジークの魔法はいつ見ても、すごいわね」
「そんなことないさ。俺の魔法は大したことない」
そう言うとリスティアはむっとした表情になる。
「それは私が万年2番手だったことに対する皮肉?」
「そうじゃないって!!」
俺は身振り手振りで違うということをアピールすると、リスティアは急に笑い出す。
「冗談よ、冗談!」
「なんだよ、人が悪いな! むっとしたから本気かと思ったぞ」
そう言うとリスティアは手を口に当てて微笑する。
「ちょっと本気だったかな?」
「はいはい。ティア、冗談はもう終わりな」
俺は何故か小声でいうリスティアのその言葉を無視して、手を振る。
と同時に、馬車は石造りの道路をガタンゴトンと音を鳴らしながら進んでいた。
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