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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第2章 聖女と海の幸

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8.聖女は食材を発見する

 それからというもの、私は自分の知る海産物を片っ端から説明していった。

 とはいえ、まず狙うべきモノはわかっていた。あまり泳がない海産物――貝やカニから始めるべきだ。


 捕まえるならやっぱりあまり動かないモノがいいよね、うん。

 というわけでまずは馴染みのある貝類からだ。


「今説明したのがあさり、しじみ……蒸したりスープの具材にするとおいしいのです」


 フォルトは私の説明からさらさらと描いていく。

 懐かしい。

 いつかまた、味噌汁で食べたいなぁ。


「ほう……こうしたものも食べられるのですね。ふむふむ……」


 感心しながら、フォルトは手を休めることなく紙にすっとスケッチしていく。

 ……うまい。まるで写真に取ったかのような正確な絵があっという間に出来上がる。


「すごくお上手じゃありませんか……」


 朝焼けの中、すらすらと絵を描くフォルト自身もとても絵になる。

 見惚れてしまいそうなほどだ。


「ありがとうございます、ニーア様。ニーア様も何か芸術は嗜むのでは……?」

「まー、貴族社会の最低限の教養は身に付けましたけど……それだけですね。どれも普通です」


 これは本当だった。魔獣討伐やら魔法具で忙しかったので、あまり身につける暇がなかった。

 せいぜい宮廷でなんとか恥ずかしくないレベルにしか到達できなかったのだ。


 なので私自身がイメージを絵にするのは無理がある。

 ちゃんと描ける人に任せた方がいいのだ。

 そして、その後はどういう環境で芸術を勉強したかの話題になった。


「ふむ……アステリア王国では誰が教師役を?」

「バルマー先生です。有名な方なんですよね?」


 バルマーは世界的に名前を知られた芸術家の貴族だ。音楽のみならず絵画や彫刻等なんかも好きで、そしてどれでも評価される。

 ゆえに「万能芸術家」と呼ばれているくらいだ。

 見た目は気のいい白髪のお爺さんなんだけど。


 時間をかけられない私のために、他国から呼び寄せて教師役にあてられたのだ。

 期間は短かったが、教え方もうまくていい先生だった。


「筋は良いって誉められたんですけどねー……弟子にならないか、とか言われたんですけど」

「それは本当ですかっ!? バルマー公爵がそのようなことを言うとは……」

「……別に社交辞令だと思いますよ。やる気を出させるのに、そう言っているだけかと」

「それはあり得ません。こと芸術についてはそのようなおべっか紛いのことを言わないので、彼は有名なのです」


 知らなかった。やけに誉めてくるのは、そういう教育方針なんだと思っていた。


 私も教養レベルでレッスンが終わるのはわかっていた。バルマーも聖女の仕事があるから、その程度の意味としか受け取らなかったんだけど。


「まさか、バルマー公爵がニーア様をそのように評しておられたとは。夢にも思いませんでしたが、信じがたいことです……彼の弟子になりたい貴族は沢山いるのですよ。しかし、彼は決して弟子は取らないのです」

「そ、そうなんですか……」

「ある貴族がバルマー公爵を城に招いて、この城をやるから弟子にしてくれ――そう言ったことさえあるぐらいです。信じられません、ニーア様は芸術方面でも世界的な才能があるのですね……」

「そ、そんなことはないですよぅ……あう……」

「いえいえ、近いうちに芸術方面でももっと深い話をいたしましょう。外交でも芸術は立派な武器にもなりますから」


 きらきらと蒼い瞳を輝かせてフォルトは私を見つめてくる。

 うう、ドキドキする……。


 アステリア王国でもあまり向けられたことのない類いの眼差しだった。

 あそこでは大抵、出自がすべてで――平民出の私が認められることなんてめったになかった。


 当然、周囲の男性から何か誘いがあるわけでもなく、私の男性遍歴は皆無のまま。

 前世を含めても非常に寂しい。


 なので、見目麗しいフォルトからそういう視線を向けられると――動悸がしてくる。

 前世でも今でも、こんな格好いい男性から熱く見られたことはなかった。


 落ち着け、私……っ! これは聖女として主として尊敬されているだけなんだから! そう、職場の人に凄いというようなもので……個人的なモノじゃないんだから!


 モテない女性を自認する私は、そこで一線をひくことにした。

 フォルトがどういうつもりかは置いておくとして、勘違いはしてはいけない……それに恋愛とかはもう、やらないと決めたのだ。


 ふーっと息を静かに吐き、作業を続けることにする。

 私にとっては馴染みのある食材を出していくけれど、フォルトも知っている食材はないようだ。


 残念、食文化の意識の違いは思ったよりも根深いかもしれない。

 逆に言えば、それだけ食べられるモノがまだ手付かずで眠っているとも言えるけれど。


「もう十種類目ですが、お疲れではありませんか?」

「うーん、説明だけの私は大丈夫ですよ……。それよりもフォルトの方が明らかに大変で描き続けていますけれど……」

「お気遣いありがとうございます、私は慣れているので……」


 色々な角度から描いたりするのに、ひとつの種類を何度も説明している。

 あとは比較か。前の貝と比べて大きいとか小さいとか。

 

 と、フォルトがここで初めてスケッチした物をじっくりと見始めた。


「ニーア様、これは……見覚えがあります。教会の式典で用いるのですが、ここには大量に生息しているのです。もしこれが食用になるのなら――ヴァレンストにも光明が見えるでしょう」


 その時、私が説明していたのは貝の一種――高級品としても食される、ホタテであった。

 私はぼんやりと記憶の奥底から、ホタテについてのことを引っ張り出す。


 確かテレビでやっていたけど、日本の農林水産物の輸出でホタテが第一位なのだ。地球でも大人気。

 もちろん、とてもおいしい。調理も難しくない。


「港に行けば、この貝はすぐに見つかるでしょう」

「行きましょう、いますぐっ!」

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