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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第4章 お兄ちゃん、襲来

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29.聖女はすき焼きを完成させる

 というわけで、私達はキッチンを借りてすき焼きを作ることになった。

 酒場の空気にあてられて、私もお腹が空いてきている。シエラにも手伝ってもらって、手早く作ってしまおう。


 キッチンはさほど大きくない。一般的な酒場という感じだ。

 でも調理器具はドワーフ製で、きちんとした物が揃っていた。


 コンロも動かしていいタイプだな、これ……。後で席に持っていこう。


 シエラには包丁を握って、食材を切ってもらう。

 彼女が食材を切っている間――私はすき焼きで命とも言える、割下を作らないといけないのだ。


「エリンギは縦に切って……肉は薄くでいいのね。これだとすぐに熱が通りそうだけど?」

「うん、すき焼きはそういう料理なの。分厚いステーキにかぶりつくのとは違って、煮る料理になるのかな」

「煮る料理なのに、生卵がいるの……?」


 不安そうなシエラに、私はにっこりと微笑む。

 100年すき焼きを愛した日本人を信じろ!

 おいしいから、とってもおいしいから。


「大丈夫、私を信じて!」

「……信じてはいるわよ。味の想像ができないだけ」

「んー、きっとやみつきになると思うよ」


 今回は5人分を一気に作るので、割下も多めだ。

 まずは大さじ15杯、200ccくらいの白ワインを小さな別の鍋に入れ、煮立たせる。


 アルコールを飛ばしたら一旦、火を止める。

 そして同じく200ccの醤油と上質の砂糖60gをぱらぱらっと鍋に入れる。


 砂糖は溶けて消えればいい。中火でゆっくり温める。

 う~ん、甘い匂い……。すき焼きの割下のいい香りだ。


 少しして、砂糖が消えてなくなった。ちょっとスプーンで、割下の味見をする。


 甘辛く、私にはちょうどいい……。濃い目の割下だけど、水で薄めることもできるしね。


「よしよし……! んふふふ~」


 思わずにまっとしてしまう。すき焼き……それは前世でも、ご馳走料理。

 頑張った自分への、ご褒美の食事でもあるのだ……!


 割下が完成したら、私も食材切りに参加する。シエラは完成した割下を見て、ますます不思議そうだ。


「……そのスープがすき焼きなの? 量が少なくないかしら? 具材が入りきらないわ」

「うーん、具材は途中で取り出したり、継ぎ足したりというか……」

「つまり最初に全部を入れないのね……初めて聞く料理だわ。それならスープが少ないのも納得ね」


 そうだ、この世界に鍋料理はなかったんだ。

 言われて私も、鍋料理の特異なところを自覚した。鍋料理では、最初に具材を全て投入しない。


 最初にネギとか時間がかかるものを入れて、食べ始めたらまた具材を入れる。

 こういう形式は鍋料理だけの食べ方なのだ。


 そうこうしているうちに、野菜と肉の準備が整った。


「……これで準備は終わりかな。肉と野菜、割下……あと牛脂に生卵もオッケー」


 切り揃えられた野菜と肉。そして割下の入った小さな鍋と、すき焼き用の大きな鍋。

 あとは溶いた卵を入れる器。

 すき焼きの準備が、完璧にできていた。

 これで食べられるぞ。


 キッチンを出て、私達は皇帝様の前に移動する。

 手に持った具材と鍋、皇帝様は鍋料理を知っているだろうか?


 酒瓶が置かれたテーブルをさっと片付けてもらい、すき焼き用鍋をセットする。

 その準備を見て、皇帝様は眉を寄せていた。


「……出来上がっていないように見えるが」

「そうです、まだ出来上がってません。これから、ここで完成させるんです」


 私の言葉に酒場内がどよめく。


「席で作る? 聞いたことがないぞ」

「それに鍋が小さすぎるんじゃ……あの量の肉や野菜はとても入りきらないぞ」


 そう思うでしょ?

 でもすき焼きは、日本が世界に誇る名物料理。

 たしかに西洋風料理しかないこちらの世界では、珍しいというより未知の領域だろう。


 しかし一口食べてもらえれば、必ず気に入ってくれると私は信じている。

 ステーキを食べるようになっても、ハンバーガーを食べるようになっても、日本人はすき焼きを愛し続けているんだから。


「いいだろう、食べると言ったのは俺の方だ。しっかりと完成させてくれ」

「はい、まずは牛脂と肉とネギを鍋に入れて――そのまま焼きます」


 割下はまだ入れない。ネギはこうして一手間かけた方が香ばしくなる。

 火力は弱めに、じっくりと……肉からほんのりと赤みがなくなってきたら、ネギを一旦取り出す。


 肉を鍋の端に寄せたら、いよいよ割下を少しだけ鍋へと投入する。


 じゅわ……!


 醤油と砂糖、そして肉の匂いがぶわっと立ち上る。

 これぞ、すき焼き!

 ……ああ、実はお肉はかなり高いのを買ってきたんだよね。絶対おいしい。


 それまですき焼きに懐疑的だった周りの空気が、少しだけ変わる。やっぱり、この香りだ。

 実際に鼻先にくれば、嫌でも食欲をかき立てられる。


「で、生卵をこの小さな器に入れてっと」


 ぽんと割った卵。箸がないのでフォークでちゃっちゃっとかき混ぜる。


 肉にいい感じに割下がしみこみ、火が通ってきている。

 完全に煮え切らないうちに食べ始めるのがすき焼きだ。

 もう食べてもいい頃だ。もちろん私も食べたいし。


「さて、お肉に火が通りきらないうちに――まずは一口、召し上がれ!」

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