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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第4章 お兄ちゃん、襲来

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28.聖女は生卵を食べさせようとする

 食材と鍋をもった私達は、帝国の商人がいるという持ち込み酒場に到着した。


 レンガ造りは他の建物と変わらないけど、白と赤で綺麗に彩られている。

 看板には銀粉がまぶされており、私の感覚だとそれなりの高級店――という印象だ。


「元々、帝国にいたドワーフが開いたお店なんですよ~。大のお酒好きで、自分で店を開きたくなったみたいでして」

「店の外にある、この酒樽の数を見ればわかるわね……」


 空の酒樽がずらっと外に置かれている。相当な酒飲みが揃ってると見た。

 あとは店内はかなり盛り上がっているようだ。入り口にまで声が聞こえる。


「よし、行こうか!」


 酒場には軽い木の扉を押して、中に入る。

 予想通り、酒場の中は人でごった返していた。


 酒場内の人達が楽器を弾いたり、歌っていたり……一丸となって騒いでいる。

 その騒ぎの中、ひときわ派手な衣装の男性が、木箱の上に立ってヴァイオリンを弾いていた。


 一瞬聞いただけで、彼のヴァイオリンに釘付けになりそう。すごくうまい……宮廷音楽をアレンジして激しく盛り上げていた。


 うん…………あれが皇帝様かな?


「おー! 帰って来られたか! つまみが切れそうだったのでな、ちょうどよかった!」


 曲が一段落したときに、彼は木箱から飛び降りてこちらに駆け寄ってきた。

 周囲の何人か――明らかにゴツい体格の人もこちらに来る。この人たちが護衛役かな。


 銀の髪に、快活そうな瞳。どことなくフォルトの面影がある。

 ……こちらもまぶしいくらいのイケメンだ。


 商人風にしていても、物腰と姿勢の良さは隠せていない。個人的にはちょっと取っ付きづらさのあるフォルトの方が好みだけど……。


「悪かったな、買い出しに走らせて。手間賃を払おう」

「いえいえっ! こんなに貰ったのに受け取れませんよ!」


 彼は懐から皮袋を取り出すと、エリアンにぐいっと押し付ける。


「くれるなら貰っておけばいいんじゃないかしら?」

「そうだ、ただほど高いものはないからな。これは正当な労働の対価だ――と、そちらのお嬢様方は?」

「あっ、えっと……友達なんですけれどそこで会ったので一緒に飲みに来たんです」

「ほうほう……美しいお嬢様方、どうぞこちらへ。少々騒がしいですが、華はいくらあっても足りることはない。存分に飲み明かしましょう」


 本当にフランクな人だなぁ。目付きはやや鋭いんだけど、態度は金持ちの商人そのものだ。あるいは遊び好きの貴族か。


 とはいえ彼の隣で飲むのは目的じゃない。

 すき焼きを売り込まなくては! 領主の営業はここからなのだ。


「えーと……その前にお腹が空いたので、キッチンをお借りしますね」

「それはそれは……酔ってはいますが、店員もおりますよ。彼らに任せては? 何を隠そう、俺も帝国でそれなりの商人でな。見たところ、お嬢様方も同じ商家の人間と見える。ぜひともお話をしたい」


 あ、これ……もしかして私とシエラの正体に気付いてるのかな。

 圧というか、雰囲気が若干尖りはじめる。


 いやいや、ここで主導権を渡してはいけない。

 ……向こうがこちらの正体に気付いたのなら、ここはもう外交の場だ。


 そういうときにどうするのか?

 もちろん、決まってる! インパクトだ!

 未知なるすき焼きの話題で押し切る!


「たとえば――ここにいる誰も食べたことのない料理を作るといったら、どうします?」

「……ほう? それは大きく出ましたな。俺も散々、名品珍味を食べてきた身。興味はありますが……見たところ、ありふれた食材しかないような?」


 よし、話に乗ってきた。ここで派手に飲み食いするような人は、食に興味ありありのはずだ。


 すき焼きで肝心なのは醤油と白ワインの割下。

 それの食材以外は、そこら辺で買えるものばかり。


 でも、私にはとっておきの魔法の言葉がある。前世の記憶があって、世界の差異を理解している私だから言えること。


「これから作るのは、生卵で食べる料理です」

「…………なに?」


 周囲の空気が固まる。

 そりゃそうだ、こちらの世界で生卵を食べる習慣はない。必ず加熱調理する。


 生卵、それはすき焼きには欠かせないもの!

 だけどこちらでは、間違いなく蛮族の所業そのもののはず!


 シエラでさえ目をぱちくりさせている。

 エリアンは卒倒しそうな雰囲気だ。


「冗談であろう? 生の卵を食べるなど聞いたことがない……」

「えっ、マジで生卵をそのまま食べちゃうの?」


 マジマジ。日本人なら生で卵食べちゃうんですよ。

 あー……ご飯があれば、卵かけご飯もいいよねー。


「食中毒が気になるなら、解毒魔法をかければよろしいでしょう? それとも怖じ気づきました?」

「言うではないか……面白い、たしかに生の卵を食べさせるのには出くわしたことはないが……」


 そこで一瞬、彼の目付きが鋭くなった。

 お、こちらの話に乗ってくれそう。


「無論、あなたも食べるのであろうな? ゲテモノを一方的に押し付けられるのは御免だ」

「ええ――出来上がったらお腹いっぱい、私も食べるつもりですから!」

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