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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第4章 お兄ちゃん、襲来

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26.聖女はお忍びモードになる

 フードを被り、ちょっと化粧をして香水を振りまく。そしてお高めのアクセサリーとバッグを身につければあら不思議、商人風のお忍びモードの完成だ。


 ……いや、そう言えば他国の要人と会いに行くのって初めてだ。

 正式に出迎えるならドレスなんだろうけど(ちなみにフォルトがそういうモノはちゃんと集めている)


 シエラはキリッと女社長みたいな風貌になっている。彼女も普段、工房で仕事することが多いので化粧はほぼしない。

 私ももちろん、お屋敷をうろつくのに気合い入れて化粧するタイプじゃない。普段はパンくずのように軽い化粧だ。


 でもシエラは元の素材は極上で、たまに着飾ると紳士諸君が群がっていた。

 珍しく気合い入れたシエラは輝く黄金のようで、ふえーとため息が出る美しさだ。


 そんなシエラは私を見ると、化粧道具をぐっと持って、


「ニーア、ちょっとちょっと……ココはこう、目元と眉はもう少し……」


 ぐいぐいと私の顔を――もとい化粧を修正し始めた。


「あうあうあう……そんなに私の化粧、ダメだった? 女子力死んでる?」

「んー、センスは悪くないんだけど……。黒髪になって若返ってから、あまり化粧してないでしょう。前のノリでやると合わないわ」


 ……あ。そりゃそうだ。

 手癖で化粧したけど、前と根本的に化粧のやり方を変えなくちゃいけないんだった。


「造形的には凄く可愛いから、少し触るだけで――ほい、どう?」

「うわっ……! これ、私……!?」


 鏡に映っているのは、多分美少女と言っていい私の姿だった。

 ……結構変わるんだ、これ。


「これならフォルトと並んでも負けないわね。髪にも手を入れて育てれば勝てるわよ」

「へっ……?! 今の私ってフォルトと並ぶの?」

「なるほど。自覚ないのね。背丈では合わないけど、キラキラ度合いは負けてないからね!」


 ぽむぽむ。シエラが私の頭を撫でる。

 ……わからぬ。自分の魅力なんて、到底わからぬ……。

 せいぜい見苦しくない程度でいいと思っていたのに……。


「さてと、あんまり遅くなると食事処も混んでくるし……行きましょう!」


 そう言うとシエラが意気揚々と出発しようとする。

 私は首を傾げながら、うーんと唸る。


 顔はまぁ、シエラの言う通り受け取るとして――胸と腰は全然ダメだこりゃ。

 つるーんとしてるんですよ……。


 ◇


 夜のヴァレンストを回るのは、久し振りだ。

 最初に来た頃に案内されて以降、私は夜出歩いたりはしなかったから。


 街について驚いたのは、人の多さだ。

 黒髪、赤髪、青髪……世界各地の色んな服装の人がわっと街に繰り出している。


 おかげで私達に気づく人はいない。皆、思い思いに通りを歩いていた。

 お忍びにはうってつけだ。


「ひえー、こんなに人が来るようになってたんだねぇ……」

「ホタテの買い付けで商人が増えたのよ。それにこの辺りは何百年も放置状態で、レアな海産物も取れるの。転移魔法の手間を差し引いても、希少な魚の買い付けに来る人もいるのよ」


 本マグロを羨ましく見てた私には、よくわかった。おいしい魚を食べたい人はどこにでもいる。


「あなたのおかげで、ヴァレンストの安全と信用が高まった。聖女様がいるなら大丈夫ってね」

「そういうものかなぁ……」


 私が言うと、シエラは肩をすくめた。


「ま、なかなか自覚は難しいかもね」


 人が増えれば店も増える。確かに前よりも食事する所や宿屋も増えていた。おいしそうな匂いがあちこちから……じゅるり。


「おやー? そこにおられるのはもしや……!」


 思い切り千鳥足のエリアンが、私達の前にいた。

 なぜこんなところに?!

 まずいっ……! せっかくのお忍びが!

 秒速で崩壊するぅ!


「ちょーとお忍びなの、静かにね」

「もごぉ!」


 すっと動いたシエラがエリアンの口を素早くふさぐ。忍者みたいな動きだ。


 おとなしくなったエリアンに、私はこそっと耳打ちする。


「たまには街で夜ご飯をと思って……。そうだ、エリアンも行く?」

「むぅ、いきまふ!」


 解放されたエリアンはすでにアルコールの匂いをさせて、赤ら顔だ。もうどこかで一杯やってきた後みたいだけども。


「おいしいところがありますよ、最近できたのですけど! そこで呑んできたんです。案内しましょうか?」

「……いいの? またもう一度同じ店に行くのとか」

「他の店行ってから戻ろうと思ってたので!」

「ドワーフは割と底なしよね、私も人のことは言えないけど」


 よし、行く店は決まった。

 どのみちノープランだったのでちょうどいい。


 そう思っていると、エリアンがとんでもないことを言い出した。


「そのお店に、すっごいド派手な商人が来てて大騒ぎしてて――たしかに帝国の訛りがあるんで、きっとあれですね……帝国の大商人が大盤振る舞いしてるんです!」

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