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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第4章 お兄ちゃん、襲来

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24.聖女は癒したい

 あれから、出来上がった肉じゃがをフォルトにも持っていった。

 作らせてと言ったんだから、成果を報告するのは当然だ。

 私はホウレンソウができる系女子なのだ。

 いや、本当はお手製肉じゃがを食べてもらいたいだけだけど……。


 フォルトはいつも執務室の隣にある大理石のテーブルでご飯を食べる。

 なかなかに仕事と食事を切り離さないのは、さすがだ。

 ……ほっこりできる肉じゃがを食べて癒されて欲しい。


「ほう、実に香ばしい……これが肉じゃがですか。確かに見たことのない料理ですね。煮込み料理のようですが汁気がない、そこに物珍しさを感じます」


 どきどき。向かい合って座っていると、なんだか料理番組で批評される料理人みたいな気分になる。


 しかし、肉じゃがを食べるのでも絵になるイケメン……。

 まさか白ナプキンにナイフとフォークで肉じゃがを食べるとは。


 箸がないから仕方ないけどさ。

 緊張するよ、その食べ方!

 肉じゃがは家庭料理だからね!

 ステーキを食べるような食べ方は見慣れないんだよ!


 フォルトは牛肉をすくいあげると、ゆっくりと口へと運ぶ。


「柔らかい……ふむ、ふむ……味もしっかりと染み込んで、ほのかに甘い」


 ……完全に食レポだ。

 肉じゃが作ったから食べるぅ? って持ってきた私の雰囲気じゃない。

 すごく真面目にフォルトが二口目のじゃがいもを食べ始める。


「こちらもほどよい固さですね。そしてやはり甘みと普段とは変わったコクと塩味がある……この塩味が醤油ですか?」

「はい、あの壺に入っていた大豆を発酵させたソースです。前世ではそれはもうたくさん色んな料理に使っていました」

「……ふむ。正直、未知のソースからどのような料理が出来上がるのかドキドキしておりました。しかし想像を遥かに上回る……」

「ほうほう、どんな風に……?」

「これほど家庭的で食べやすい料理が、まだあったとは」


 ……フォルトは見る目がある。

 この短時間で肉じゃがの本質を見抜いていた。


 というかよく考えてみれば、フォルトにとって醤油は見たこともない聞いたこともないソースなんだよね……。

 しかもそれを使った料理に的確なコメントができるとは、もしかしてフォルトもグルメだったりするのだろうか。


 舌が肥えてるとは思ったけど、多分、それ以上の見識がありそうだ。


「ええ、確かにこの肉じゃがは家庭料理です。前世の国で生まれて食べたことのない人はいないくらいの、超有名料理ですから」

「なるほど、とても豊かな国だったのですね」


 ずばりとフォルトは言い切った。


「他意はありませんよ――ただ羨ましい、と少し思っただけです。この醤油の風味にしても料理への活かし方にしても、貧しい国の発想ではない」

「……うーん、今普及させるのは難しいですかね?」

「そんなことはありませんよ。むしろ、ニーア様の手によって平和になった今だからこそ、価値がある料理です。私が感嘆したのは、特に野菜」


 そう言うとフォルトはじゃがいもをすくって見せた。


「子どもであれば苦手な野菜のひとつやふたつはあるでしょう。固くて土っぽい野菜は特に……。しかしこの肉じゃがは甘く柔らかい味付けです。子どもに野菜を食べてもらうのにも適しているかと」

「おおっ……! そうです、子どもが好きになれる料理です!」


 昔から好き嫌いのなかった私にはなかった視点だ。野菜を食べやすくする、それは利点になりうる。

 もちろんシチューやスープといった料理はこちらにもあるけれど、味付けの方向性はかなり違う。


 ふむふむ、そうね……料理を普及させるのはまず家庭からだ。フォルトの観点はためになる。


 私はそこで、はたと気が付いた。


「もしかして――フォルトはじゃがいも苦手だったんですか?」

「今はそのようなことはありませんよ(にっこり)」


 少しも隙のない笑み。

 こういう時は、大抵ちょっと都合が悪い時か悪いことを考えている時だ。なんとなくわかってきた。


「さて、これで醤油のポテンシャルは十分にわかりました……」

 あ、さっくりと話題を変えた。


「ぜひとも早急に量産したいところではありますが、今やるには少々人手が難しいところです。ホタテは魔法の使えない領民でも携われますが、醤油の複製には魔術師が大勢要ります」

「私やシエラが作るのでは駄目ですか」

「領主や宮廷魔術師長を、食料品の製造に使い続けるわけにもいかないでしょう……」

「まー、それはそうですね……」


 醤油は魔法で増やせるとはいえ、それには時間も手間も掛かる。

 もちろん大々的に売り出す量を魔法生産するには、もっともっと魔術師を確保しないといけない。


 しかし魔術師はどこの国でも引っ張りだこで、そう簡単に雇えない。

 まして地の果てのヴァレンストには、大金を積んでも来てもらうのは厳しいだろう。


「……幸い、つてがないわけではありません」

「おおっ、さすがフォルト!」


 私のなかでフォルトのもともとある後光が5割増しになる。

 たすけて、フォルトえもん!


「兄上から、ヴァレンストを視察したいという知らせが……」

「フォルトのお兄さんと言うと、世界最大のエンブレイス帝国の皇帝陛下の人ですよね? それは結構なことじゃないですか。人を貸してもらうよう交渉すれば……!」


 意気込む私から、フォルトがそっと視線をそらす。


「私の手元に来たのは、帝宮に書き置きを残して兄上が消えたという宰相の連絡だけ。…………あのお忍び好きな兄上のことです。もう、ヴァレンストに来ているでしょう……」

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