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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第3章 聖女はもふもふ精霊に出会う

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21.聖女は肉じゃがを作る

 それから屋敷内を厨房に向かって歩いていくと、シエラとばったり出くわした。

 小脇に醤油の壺を抱え、移動している最中みたいだ。


「んー……どうかしたの? きょろきょろして……」

「へっ……!? べ、べつに……」

「遠くから見えてたけど、なんだか悶えているような……頭を抱えていたような……」


 ……どうやら挙動不審だったらしい。

 別にさっきのことは、なんともないんだから……!

 切り替えよう、うん。


 これから私は肉じゃがを作りにいくのだ。

 何があっても断固として肉じゃがを作り抜く、無慈悲な和食料理人になるのだ……!


「な、なんでもないよ、本当に」

「それならいいけど……この先にあるのは厨房よ? 私は壺を調べがてら、昼食を貰いにいくところなんだけど、一緒にどう?」


 調べがてらって……そのまま醤油を味見する気だ。私にはわかる。

 シエラは結構、新しいモノはほいほいと口にするタイプだし。


 でもちょうど良かった。

 肉じゃがを作るのに、試食係が欲しかったのだ。シエラならうってつけである。


「うん、私はむしろこれから厨房に料理を作りにいくんだけど……」

「……料理? 厨房の人に言えば作ってくれるんじゃないの?」

「んー……それだとうまく行かないかもで……自分でやりたいかなぁって」


 そういえば、シエラとの付き合いも結構長い。

 さっきフォルトに前世の告白をしたところだけど――シエラにも同じ事をしたかった。


 これは確信だけれど、シエラは受け入れてくれると思うのだ。

 それだけの信頼関係はある。こちらの世界では最も長い付き合いなのだから。


 二回目なのでフォルトの時よりも緊張せず、手際よく前世のことを話せた……と思う。

 シエラは口を挟まず、ふむふむと聞きに徹してくれた。

 普段は軽いノリだけど、こういうときはちゃんと聞いてくれる。


 ちょうど厨房に着いたとき、話に一区切りがついた。

 ……一日でこんなに喋ったのは人生で久しぶりな気がする。


 シエラは聞き終えると開口一番、


「ニーアが特別なのは昔からわかってたし、いまさら驚かないわよ」

「……そ、そうなの? そういう風に言われるとなんだか……」

「むしろ良く言ってくれたわ。ニーアはニーア、何かがなくなったりしたわけじゃないし……ね?」

「うーん……足された、と言った方がいいのかな。昔の記憶と人格が一緒になったと言うべきなんだと思う」

「前世の記憶も今のニーアも両方とも大切なものでしょう? それなら、それでいいじゃない」

「……うん、ありがとう」

「んふふ、どういたしまして」


 そういうとシエラの白い手が私の頭を撫でた。

 あまりに自然な動作なので、受け入れてしまった。


「よしよし♪」


 ぐ……なぜシエラも私を撫でるぅ。

 嫌じゃないけどさっ。むしろ姉的な存在だと思ってるけど……!


 フォルトもそうだったし、私の頭の位置なのだろうか。撫でたいところにあるのだろうか。

 げせぬ。


 黙ってされるがままにしていると、シエラは手を動かしながら、


「……ああ、もしかしてフォルトにも撫でられた?」

「――っ!」


 勘、良すぎ!

 付き合いが長いってのはこれだから……!


「…………ま、他意はないと思うわよ。深く考えちゃ駄目なんだから」

「もうっ、当たり前だよ!」


 と言い合いながら厨房へと入っていくのだった。



 ◇



「で、肉じゃが……だっけ? どういう料理なのかしら」

「スープのない煮込み料理、かな。味付けに砂糖も使うし、結構珍しいと思う」

「砂糖ね……あまり聞いたことないわ、でも面白そう!」


 厨房の一角を借りた私達は、これから肉じゃがを作ろうとしていた。

 グルメなシエラも手伝ってくれるのはありがたい……多分、出来立てを食べたいだけかもしれないけれど。


 厨房は最新式で、魔法具が色々とセットされている。

 蛇口、コンロもちゃんとある。食材も大体はある――しらたき以外は。


 砂糖もあるし、これなら現代とあまり変わらず作れそうだ。


「まずはじゃがいも、にんじんを切って……たまねぎはくし形に……」

「任せて! スパスパいくわよ!」


 シエラは魔法具の包丁を使いこなし、手際よく野菜を切っていく。

 ……歴戦の主婦並の速さだ。


 彼女は令嬢でもあるけど、戦場暮らしも長かったので問題なく料理ができる。

 あっという間に野菜がお手頃サイズへ切られていった。


「鍋に油をひいて、火を通して――たまねぎ、じゃがいも、人参の順番で入れていって炒めてっと……」


 前世以来の肉じゃがなので、手順を確認しながら作っていく。

 火力も十分、油もそんなに現代日本と変わらない感じだ。


 サラダ油はここにはないので、癖の弱いオリーブオイルを用意してもらったんだけどね。

 この辺りはこれからも臨機応変にやるしかない。


 野菜に火が回ったみたいだ。牛肉を加えてもう一度肉の色が変わる程度に炒める。順調だ。


 ここからが肉じゃがの本題――水を加えて煮立たせる。

 でもスープが残るほどじゃない。水気は後で飛ばすのだから。


「へぇ……ここで水が出るわけね……ふむふむ。あんまり量は多くないのね」


 シエラがいつの間にかメモを取りながら熱心に見ている。

 なんだろう、それ以外の料理人からもちらちらと視線が……注目されているのかな。


 水が煮立ったらアクを取り、今度は砂糖を投入して蓋をする。

 軽く蒸していくのだ。


「そういう風に砂糖を入れるのね……よく考えるわね」

「前世では砂糖はよく使ってたんだよ」

「お菓子以外で使うのは初めて見たかも……その辺り、興味深いわ」


 と言っているうちに十分くらい経った。

 蓋を外すと――ふんわりと甘い、懐かしい匂いが立ち上る。


 ああ、和食の匂い。優しい匂いだ。

 ちょっと味見してみるけど、大丈夫。おかしくなってない。


 甘い煮付け、あともうちょっとだ。


 最後に大さじの醤油(ちゃんと味見はした)を加えたら、水気がなくなるまで煮込んでいく。

 この醤油は昔風で味が濃い。あまり入れなくても多分、ちゃんと出来上がる。


 やがて砂糖と醤油の混じったいい香りがどんどんと立ち上る。

 周りから料理人も集まってくるほどだ。皆、興味津々の顔をしている。


 香りだけで、わかるのだろう。

 醤油も砂糖もこちらの世界では使わない――ここにいる誰も作ったことのない料理なのだ。


 十分後。

 水気は十分飛んでいった……!

 肉じゃが、完成!

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