20.聖女は告白する
今回より一人称に変更いたします!
順次改稿を進めますが、よろしくお願いいたします!
それから私は、たどたどしいと自覚しながらも説明をしていった。
自分には異なる世界での記憶があること――生まれ変わりであること。
きっかけは婚約破棄のショックであること。
「指輪を投げ返したときに、こう……頭の中が……」
……あの時の魔力のうねりというか、そんなものが頭に作用したんだということ。
最近の自分の行動には、少なからず自分の前世の影響があること。
今の肉じゃがもそうだ。前世で食べた記憶があるから、作りたくなっている。
「……あの字を読めたのも、なぜかあの字が前世と同じだからで」
あと大切なことだが、過去の記憶は残っているし、自分はあくまで自分ということ。
……そして最後に、元の自分――前世を思い出す前の自分には戻る気がないこと。
なんとか説明をしていくなかで、フォルトの顔を見れないことに気が付いたが、もう止まれなかった。
ここまで来たのなら、言い切ってしまうしかないだろう。
堰を切ったように話して、話して、話し終えてしまった。
隠し事は自分の思っている以上に心を削る。わかっていたようで、わかっていなかった。
結局、私は自分の考えをぶちまけてしまったのだ。
「……なるほど」
全てを語り終えたとき、フォルトの声が妙に低く聞こえた。
……ぁ、でももう遅い。
私の視線は床に落ちて、彼の顔も直視できない。
「え~と……つまりは、はい、そういうことなんです」
「……にわかには信じがたい、というのが率直な感想です」
……やっぱりやめておいた方が良かったかな。
なんとかうまく説明はできたとは思ったんだけれども。
ああ、なんでこう……時に私は考えなしなんだろうか。
しかし、フェルトの次の言葉は限りなく優しかった。
これまでで一番暖かく、優しく私には感じられた。
「しかし、ニーア様は変わらない……。あなたが過去に為したことはいささかも曇りはしないのです。顔を上げて下さい、ニーア様。私はそのようにしているあなたを見るのが、一番辛いんだ」
ふっと顔を上げると、フォルトが私のそばに立っていた。
「……私も立場にずっと縛られてきました。皇子であったり、色々と。でも人生の選択で後悔したことはありません。ニーア様は今、後悔されていますか? もっと他の生き方があると――そう考えたりはしますか?」
その問いかけは子どもに言い聞かせるような口調だった。
でも不快では全くない。
今の私には、これくらいがちょうど良かったのだ。
少なくても、ここに来てからは割りと好きなように生きている。後悔なんてあるわけがない。
友達とやりがいのある仕事があるのだから。
なので、不器用な私はそのまま言葉にした。それが今できる精一杯なのだから。
「後悔なんてしていませんし、今の生活は楽しいです。やりがいもありますし」
「それなら、それが全てです。……神の意思を人が知るのは難しいこと。これもまた、ひとつの奇跡なのでしょうね」
そう言うとフォルトは、私の頭を軽く撫でた。
あまりにも自然だったので、黙って受け入れてしまった。
「……んあっ?」
「ニーア様はもう少し、周りに甘えられてもいいかと思います。私もその方が、嬉しいですし」
あう、なんてこった。反論できない。
「…………善処はします」
なんだろう。
受け入れてもらえたと思うし、それはとても嬉しいのだけれど。
もちろん今の私は子どもの姿なので、違和感があるわけではないのだけれどっ。
……今のは、不意打ち過ぎる……。
結局、この後肉じゃがのための厨房は借りることができた。
私が調理したいということも、すんなりと通った。
なのでフォルトの執務室を出た私は、そのまま厨房に向かうことにした……のだけれど。
さっきのフォルトの姿と声が、どうしてか頭から離れない。
「……ああ、もう……心臓に悪いよ」
撫でられるなんて、何年振りだろうか。
前世でもモテキャラではなかった私には、刺激が強い……。
「緊張というか、そういうのをほぐすためのアレなんだから、アレは…………」
ぶつぶつと言いながらも、私の心は弾んでいた。
ようやく肩の荷を下ろすことができたのかもしれない。
それだけはしっかりと私にもわかるのだった。




