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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第3章 聖女はもふもふ精霊に出会う

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19.聖女は決意する

「こっちにもありました~!」


 エリアンがユキを連れて戻ってくる。彼女は脇に小さな壺を抱えていた。

 どうやらユキの嗅覚がちゃんと当たったらしい。


 エリアンも「うまく掘り当てましたっ!」という顔をしている。

 ドヤ顔、かわいいよ……!


「よしよし……ユキ、よくやったよ~。エリアンもお疲れさま!」

「いえいえ! お安い御用ですとも!」


 ユキはわふわふと私に近づき、尻尾を上に立てている。

 もしかして撫でて欲しいのだろうか。

 抱き枕にしてもユキは嫌がらなかったし、スキンシップは大好きなのかも。


 なでなで。

 そのままユキのもふもふ頭を撫でる。


 シエラもエリアンから壺を受け取りながら、にこにこと上機嫌であった。


「エリアンもお手柄、収穫ね。その壺も側面には……ああ、書いてあるわね。こっちの壺と同じ文字だわ。ショーユ、だったわね」


 シエラに頷き返しながら、ぼんやりと今後のことを考える。

 とりあえずそこそこの量の醤油は揃った。中身は魔法で調べれば大丈夫だろう。


 匂い的には腐ってなさそうだし、魔法でさらに解毒することもできる。


 それよりも問題は、料理に活かそうとする方だろう。


 泉から醤油(大豆ソース)が見つかった!

 それで料理作ろう――とはすんなりいかない。


 安全性を証明して説明しても、もうひとつ問題がある。それは領主としての立場である。


 普通なら、料理はしないからね……。

 さすがに炙り肉と同じわけにはいかないと思う。


 ……どーやって肉じゃがのことをフォルトに話そうかなぁ。普通に調理場を貸して――なんて領主が言ったらダメだよね……。



 ◇



 屋敷に戻ってきた私はメモを片手に、唸りながら歩いていた。


 もちろん、私も自分の食欲だけで物事を決めているわけではない。

 最近はそういうことが多いと自覚していても、だ。


 醤油があれば和食のラインナップが増えるのは事実。

 シエラに確認したけれど、やはり【元】があれば魔法で醤油の量産は可能だ。

 手間も金もかかるけれど、醤油は増やせる――相当な高級品にはなるけれど。


 とはいえ醤油を使った料理は、当然こちらの世界にはない。

 刺身に醤油でもいいのかも知れないが、それではインパクトがない。

 カルパッチョのような料理はさすがに存在するのだ。


 以下、刺身と醤油を売り出した場合の予想――。


 なるほど。変わったソースですね。いただきます。大豆からできてるのですか。おいしいですね。ごちそうさまでした。


 そんな感じで終わる可能性もある。それではもったいない。


 醤油が売れれば、財政的にもプラスになる……。肉じゃがなら調理自体はそんなに難しくないし、特別な調理器具も必要じゃない。

 だからレシピとセットで売り込むのはいいと思うんだけど……。


 私がメモに書いたのは肉じゃがのレシピである。

 あとは泉にいった報告書。報連相は大事だ。


 自分が食べたいのは本当だけど、それだけで色々と領地のアレコレを動かすのは……うーん。


 アステリア王国では貴族は料理をしない。そういうのは使用人の仕事、賤職と見られている。


 シエラも自分で調理場に立ち入ることはしていないはずだ。


 例外はその場で取った狩猟や釣りの獲物を調理することだけ――だからホタテの時は何も言われなかった。

 ジビエは優雅。そういう考えなのだ。


 レシピを渡して任せればいいのかもしれないが、それだと出来映えはどうなるかわからない。


 もちろん、出所不明のレシピを料理人が実践してくれるかということもある。

 正直この世界では誰も知らないレシピなので、期待は薄いだろうな……。


 考えすぎても仕方ない。私はフォルトのいる執務室にノックして入った。


 いざとなれば――また古文書で読んだとか、適当なことを言うしかないか。


 あるいは本当のことを、前世のことを伝えるか……。

 いつまでもこういうやり方が通るほど、フォルトは馬鹿じゃない……。


 うーんとひとつ唸り、私はフォルトに向かい合うのだった。


 ◇


 泉でのことを報告し終えると、いよいよ本題を切り出す。


「……それでここに、醤油を使った新しい料理のレシピがあるのですけれど」

「ふむ…………ところでそれは、どこで手に入れられましたか?」


 当然、聞かれるに決まってた。

 そりゃそうだ。普通の人にとっては未知の調味料なんだから。

 私はボロが出ませんようにと思いながら答えた。


「アステリアにあった古文書で読みました! 多分、とても美味しそうな…………」

「………………ふむ」


 フォルトの目がなんだか、少しだけ悲しげなように見えた。

 信じようしているけれど、にわかには信じられない――形容するならそんな雰囲気だ。


 やっぱり彼は何かに気づいている。


 胸がちくりと痛む。

 フォルトは頭がいい。あえて突っ込んでは来ないけれど、不自然さを感じているのだ。


 ――騎士になりたい。


 そんな風に言ってくれたフォルト。

 あのときの真剣な眼差しが忘れられない。


 どう思われるだろうか、と一瞬考えた。

 でも多分、もう避けては通れない。


 戻れない。国にもかつての自分にも。

 向き合うしかないのだ。


 そう考えると、私の心はすんなりと決まった。

 言おう、全部。

 受け入れて、くれるよね。

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