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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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99.フィオナの帰還

 99.フィオナの帰還


「フィオナさん! よくぞ戻ってきてくれました」

 マウロさんが私の手を握って、感極まったような声をあげます。

「絶対、断られると思ってたよ……良かった、本当に良かった」

 フランコさんも腕を目に当てて涙をぬぐいました。


 ここは私の拠点だったゲルメン教会です。

 あの頃はまだ下働きをしていた二人も、

 今では立派な助祭さんになっていました。


 皆さんの熱烈な歓迎ぶりに、私は事態を察し、

 内心”あちゃー”と思っていました。何故なら。


 ”異常に歓迎される職場は、

 かなり切羽詰まった、ギリギリの状態である”、

 という元・世界での経験があるからなのです。


 私は苦笑いをしながら、皆さんに言いました。

「でも私、相変わらずたいしたこと出来ませんよ?

 簡単な治癒とか……浄化とか……。

 それよりも、べリアさんのことです!

 どうしていきなり処刑だなんて!」


 二人は顔を見合わせ、困惑した顔でこちらを見ました。

「いや、何もかもいきなりだったんですよ。

 急に聖騎士団がやってきて、彼女を連れて行ったんです。

 裁判も何もなく、いきなり処刑の日だけが知らされて」


 私は彼らに、私が引退してからの彼女の様子を尋ねました。

 するとマウロさんだけでなく、

 他の人々も口々に不満を言い出したのです。


「彼女は感謝を強く要求してきたり、ずっと偉そうだったよ」

「勝手なことをしたり、間違っても人のせいにするし」

「”自分が特別な存在である”というのに()()()いて……」

「ああ、それも”泥酔”だったな。

 あんだけ傲慢にふるまえるなんざ普通(シラフ)じゃできない」


 よほど不満が溜まっていたのか、

 べリアさんに対する不満が止まりません。


「しかもとんでもないこと始めたんだよ」

 私は最悪の事態を想像して青くなりました。

「……ま、まさか!」

 彼らはうなずき、呆れたように言いました。

「そう、例のハッタリですよ」

「えっ? ハッタリ?!」


 私は意味がわからず首をかしげました。

 とんでもないことを始めたと聞き、

 ”まさか、彼女も醤油の製造販売を始めていたのか?!”と

 ライバルの出現に怯えただけなのですが……。


「なーにが”ワタクシ、優れた霊力も持っていますの!”、だよ」

「霊視にはいろいろ準備がいるから金をたくさん払え、とかな!」


 私は心の中でふたたび”あちゃー”と思いました。

 そして”殿下には正座で反省してもらわなくては……”とも。


 私たちが緑板(スマホ)で次々と秘密を暴き、

 どんどん先手を打つのを

 王家の皆さんは”スパイか裏切者がいる!”と誤解したのです。


 罪のない人が疑われ、断罪される危険があったため、

 王子は先読みできた理由を”心霊現象”に仕立てたのでした。


 聖女べリアさんは”謝ったら死ぬ病気”にかかっているだけでなく、

 ”マウントを取らないと滅びてしまう世界”の住人だったため

 それはもう、簡単に王子の挑発にのってくれました。


「聖女というのは大変だな。

 ()たくもないものも視えてしまうのだから」

 などと当たり前のように王子に言われ、 

 ”できない”とか、”知らない”とは決して言わない彼女は

 すぐに霊能力があるフリをしてきたのです。

 その臨機応変っぷりには感心してしまいました。


 そして王子はべリアさんに

 ”もれなく憑いてます”と太鼓判を押してもらい、

 国王たちに尋問された際には

「母上の霊が俺に教えてくれました」

 などと言って、王族の追及をまぬがれたのです。


 まあゲームや漫画でしか見たことのないような生き物や

 いまだにどういう原理かわからないまま使っている魔法など

 異世界ならではの設定があふれている状態です。

 王子の読み通り、それ自体は意外とすんなり受け入れてもらえました。


 ……でも。

「さすがにみんな気が付いたんだよ。

 ”こいつ、誰にでも当てはまるようなこと

 適当に言ってるだけじゃね?”って」

 町人のひとりが言い、みんながうなずきました。


 恋愛のいざこざ、仕事への不満、健康の不安。

 亡くなった家族や先祖、大通りに彷徨う浮遊霊や地縛霊。


 そういったものを出せば、

 当たりもしなければハズレもしない、

 というお告げを繰り返していたそうです……なんとも残念。


 いったん疑惑を持たれると、後は転落の一途。


 反発心を持った若者が、わざと相談を持ち掛け

 べリアさんにさんざん喋らせた後、

「嘘でーす! 俺の親父は生きてまーす!」

 とニヤニヤ笑いながら暴露し、仲間たちと爆笑したり。


 殺人現場が心霊現象で困っている、と呼び出し

 彼女が除霊のために奮闘し

「みなさん! 逃げてください!

 霊が怒り狂っていますっ!」

 などと激しい演技を見せた後に


「ここで人が死んだことなんてありません~

 ここはずっと昔から豚小屋でした~」

「あっれー? もしかして、豚の霊と戦ってました?」

 真っ赤な顔で怒りに震えるべリアさんを

 見守る人々で笑い者にしたり。


「そんな訳で、心当たりはたくさんあるのですが、

 いきなり死刑だなんて」

 マウロさんは疲れたような顔で語り終えました。


 私はため息が出ました。

 べリアさんの間違いを認めないところや

 絶対に謝らないところ、

 ”出来ない”と言えないところは

 いつか絶対に問題を起こすと思っていたから。

 

 悲しい気持ちになった私に、

 皆さんも落ち着きを取り戻したように言いました。

「最初はみんなも彼女の”霊視”を楽しんだわけだからなあ」

「そうなんだよ、さんざん盛り上がった挙句、

 飽きてきたら”このインチキめ!”だもんな。

 だから誰も、罰して欲しいとまでは思ってなかったんだよ」


「連れて行かれたべリアさんはどうなりました?」

 私の問いに、皆さんは気まずいように視線をそらしました。

 沈黙したまま、なぜか周りをうかがっています。


 するとフランコさんが言いづらそうに、私に囁きました。

「居場所はだいたい分かっているのですが。

 とても無事とはいえないと思われます」

 居場所が明らかと知り笑顔になった私は、

 後半の言葉を聞き、たちまち不安顔になりました。


「元・教会関係者の噂では、彼女は牢に入る前に、

 聖なる力を()()()()られたそうです」

「えっ? 禁じたり、封じられたのではなく?

 取り上げられちゃったんですか?」

 私が驚いた声をあげると、フランコさんは暗い顔でうなずきました。


 マウロさんは周囲を警戒しながら、小声で教えてくれました。

「聖騎士団たちは、べリアに長い(くさり)を付け

 ”禁忌の印”のついた妖魔がいる檻にほおり込んだ、って」

 私は叫び声を抑えるため、両手で口を塞ぎました。


 ”禁忌の印”のついた妖魔は”聖なる力”を

 すべて吸い取ってしまう恐ろしい魔獣ですが、

 それが、なんで、こんな街中にいるのです?!


「そんなことをして、無事だったのですか?!」

 私が叫ぶと、フランコさんはうなずきました。

 ただし、不快そうな顔のままで。


「”処刑するために、生かしておく”。

 聖騎士団の男がそんなことを言っていましたよ」


 私は怒りが爆発しそうでした。

 べリアさん、どれほど恐ろしかったでしょう。

 そしてどれほど悲しく、絶望したのでしょうか。


 私にはわかっていました。

 オリジナルのフィオナも似ているところがありましたから。


 ”聖女の力を持っている”。

 べリアさんもオリジナルのフィオナも、

 心の底で自分を”それ以外の取り柄のない人間だ”、と

 評価しているように思えたのです。


 その唯一の自信を、生きる支えを取り上げられるなんて。


 王妃たちは、それを理解していたからこそ

 この刑を行ったんだ、と私は確信しています。

 あの人はそれくらい、残酷で無慈悲なことをできるから……。


「そんなこと、絶対に許せません!」

 私がそう叫んだとたん、

 マウロさんは大慌てで私に詰め寄って小声で言ったのです。

「決してそのようなことを表で言ってはいけません!」


「な、何故でしょうか?」

 不思議がる私に、彼は怯えたように言いました。

「聖騎士団に聞かれたら捕縛されてしまいます。

 何人か抗議しに行ったんですが……」


「ですよね、私もひどすぎると……」

 そういう私の口を手のひらで押さえ、マウロさんは言ったのです。

「抗議しに行った者は、誰ひとり戻ってはきませんでした」

 私は驚いて目を見開きました。


 彼は周囲をうかがいながら、さらにショックな話をしました。

「それどころか、聖騎士団を批判した町の者の家は

 窓ガラスが割られたり、ドアが壊されたり……

 ひどいものでは火を放たれたりしました」


 恐怖と怒りで頭がいっぱいになった私に

 マウロさんは悲し気に言いました。

「戻ってきてくださったのは本当に感謝しております。

 今こそ、私たちには安らぎと救いが必要なのですから。

 聖女の存在が、心細く不安な私たちの希望なんです。

 たとえ、お声をかけていただくだけでも……」


 私はがんばって笑顔を作り、うなずきました。

 ホッとした様子の皆さんには申し訳ないのですが、

 ”お声をかけるだけ”で済ますつもりはさらさらありません。


 べリアさんを救い出し、

 外国に逃がさなくてはなりません。

 それにはまず、彼女を拘留している聖騎士団をなんとかしないと。


 それに。”禁忌の印”のついた妖魔。

 こんな王都に、あの妖魔がいるなんて……。


 聖職者が地下で飼育していたのなら

 警察が違法な植物を栽培していたようなものです。


 私はふと、キースさんの言葉を思い出しました。

「”いる”、”いない”というのは”人の認識”だ。

 ガウール周辺では認識されやすかった、それだけだ」


 あの後、王子も言っていました。

「つまり、人が見つければ”いる”。

 見つからなければ、実際はいたとしても”いない”ってことだ。

 犯罪件数も警察がカウントしなければゼロだからな」


 ”禁忌の印”のついた妖魔は、

 実はどこにでもいたのかもしれない……

 私はそれに気づき、独りで身を震わせるしかありませんでした。


 今までと違って、王子もジェラルドさんも、

 エリザベートさんもいません。


 自分で策を考え、自分で行動する。

 みんなが居ない今、私は独りで

 ”べリアさん救出”を成功させねばならないのです。


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