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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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94.善と悪の基準

 94.善と悪の基準


 ”王妃の力”が噴出していた大地の裂け目を念入りに修復した後。

 ガウールの別荘に移動し、俺たちは改めて再会を喜び合った。


「結局、王妃(イライザ)は貴方の”天啓”を解除できなかったのね。

 あれだけ自信たっぷりに宣言していたのに」

 母上は呆れたような顔で言う。


 俺は苦笑いでうなずく。

「したつもり、ではあったのでしょう。

 俺がロンダルシアへ行くのを止めませんでしたから」


 でも俺が居なくなったとたん、国が急速に乱れ始めたのだ。

 それで国王も王妃も焦り、苛立っていたのだろう。

 ”国王は常に苛立ち、王妃と激しく口論ばかりしている”と

 エリザベートを迎えに来たジャクソン伯爵も言っていたとおりに。


 おそらく”解除したんじゃなかったのか!?”などと言って、

 王妃のことを責めていたのではないだろうか。


「結果的には、連れていかなくて良かったのかもしれないけど……」

 母上は申し訳なさそうにうつむいてしまう。


 再会後、母上は俺の頬に手をあて、悲し気に何度も詫びた。

 しかし俺としては喜びの方がはるかに勝っていたし、

 置いていった理由も納得ができるものだったから責める気はなかった。


 俺の中のレオナルドからも、怒りはまるで感じられない。

 むしろ母親を案じている気配すら感じる。


 母上は目に涙を浮かべて言う。

「今でも連れていかなかったことが正解かどうか分からないわ。

 貴方は独りでさまざまなものと戦わなくてはならなかった。

 ローマンエヤール公爵家が陰で支えてくれなかったら

 もっと早くに連れ出していたかもしれない」


 国より我が子。母親とはそういうものかもしれないが。


 俺はあえて不満顔を作って笑った。

「そうですね。飼い猫(ミイナ)さえ連れていったのに、

 俺は長い長い留守番でしたからね。

 おかげでいろんな悪事を楽しみましたよ」


 ”偽装事故”の一か月前、飼い猫のミイナが行方知れずになった。

 侍女たちは”そのうち戻ってきますよ”と慰めていたが、

 何のことはない、先んじて”逃亡”させていただけらしい。


 母方の祖父母の遺品や高価な宝飾品は

 全て置いたままだったのに。

 なんとも母上らしい選択ではないか。


 まあ残していくと王妃に殺される可能性があったからな。

 アイツはいつも、母が大切なものを傷つけようとしていたから。


「あの時は予定が大幅に早めなくてはならなくて、大変だったよ」

 キースが伸びをしながら言う。

 母上は小さな声で詫びた後、小さく笑った。

 お腹に出来た子を王家に知られる前に、

 死んだことにしなくてはならなかったのだから仕方ない。


「聞きましたよ。……ルクレティアだっけ?

 まさか妹がいたとはなあ」

 俺がそう言うと、母上は嬉しそうにうなずいて

 ちょっと言いづらそうに告げたのだ。


「……実は弟も、いるのよ」

「何だってえ!」

 さすがに驚きすぎて椅子から落ちそうになる。

 エリザベートも驚愕の表情で、両手で口を覆っていた。


「うん、まあ、結局、良かったけどね。

 ルクレティアが居てくれたから、

 ()()の活動を抑えるのが容易になったんだし」


 キースの言葉を聞き、フィオナが嬉しそうに身を乗り出す。

「もしかして、聖なる力の持ち主ですか?!」

 するとキースは軽く肩をすくめ、

「惜しい。正解は、”聖なる力を持った光属性”だよ。

 母親の血もしっかり継いだらしい」


 確かに、母上は光属性だ。

 俺が親父の補助魔法を継いだようなものか。


「ルクレティアもアレクサンドも、

 貴方に会うのを楽しみにしているのよ。

 それに、誰よりもダン……あなたの父親も」


 そう言って母上は、ふたたび俺の頬に手を添えて言う。

「……本当に、ダンにそっくりだわ」

 俺は思わず吹きだした。

「そんなことを言われるのは初めてですよ。

 誰に会っても、母上に生き写しだと言われましたから」


 それを聞き、母上はゆっくりと首を横に振った。

「確かに顔の作りや色は私と一緒よ。

 でもね、動いたり話したり、仕草がダンと一緒なの。

 教えたわけでも見て育ったわけでもないのに」


 俺は胸がいっぱいになりかけるが、待てよ? それって。

 ダルカン大将軍も言っていたではないか。

 ”まるで彼女の体に、ダンの魂が宿ったみたいだな。

 大胆で不遜な態度、強固な自我と口の悪さ!”だと。


 喜んで良いのか迷っている俺に気付かず、

 母上は嬉しそうに言う。

「今はみんな、あの場を離れられないけど……

 遠くない未来、きっと会えることでしょう」


 俺は母上に問いかける。

「みんなは”世界の果て”で

 さっきのあの、白いブヨブヨと戦っているんですか?」

 フリュンベルグ国の北側の大渓谷にある、”死の断層”で

 緑板(スマホ)の検索結果には”倒せない”と出ていたモノと。


「さっき出た()()……私たちは粘人(グーイーマン)って呼んでるけど。

 あれは、倒し方さえ解かればたいした敵ではないわ。

 聖なる力で凝固させれば、魔法攻撃でも物理攻撃でも効くから」

 母上はそう言った後、眉をしかめる。


 つまり、もっと手強くやっかいな敵がいる、ということか。


「まさか今さら、新種の妖魔や魔獣が現れるなんて……」

 エリザベートが憂鬱そうに言う。

「この20年近く、大規模な魔獣の襲撃などは起きていないから

 すっかり平和になったと思われていましたが……」


 ジェラルドも同意すると、キースは静かに笑った。

「起きていないのがおかしいんだよ。

 怖いのは、目に見える魔獣ではない。

 気付かぬうちに蝕まれているのが一番恐ろしいんだ」


 俺たちは沈黙する。


 するとドアの向こうで、メアリーが声をかけてきた。

「ご歓談のところ失礼いたします。

 お飲み物のご用意ができました」


 彼女は母上を見て、顔を真っ赤にしながらお辞儀する。

「こちらのお食事は本当に美味しかったわ。

 世界のどのレストランにも負けないわね」

 母上はそう言って、メアリーに笑いかける。

 メアリーは頬を染めたまま、ブンブンとうなずいた。


 母上を最初に見た時から、メアリーは母に夢中だった。

 陰でこっそり、彼女が話してくれたのは。


「エリザベートさんもフィオナさんも綺麗で可愛いけど。

 あなたのお母様って……私が小さなころに見た女神様ソックリなの」

「おっ! すごいな、女神を見た事あるのか」

 俺が驚くと、メアリーは口を尖らせて言う。

「これでも元・聖女よ。幼いころは見えたわ

 ……聖職者に引き取られてからは全然だったけど」


 そして今も、目が乾燥するんじゃないかってくらい凝視している。

 そんなメアリーに母上が今日の料理について質問をした。

「あのチキンソテーって、何のソースで漬けたものかしら?

 ただの塩味ではなくて旨味が強くて……食べたことのない味で。

 とにかく美味しかったわ」


 それを聞いたとたん、メアリーは伸び上がって喜んだ。

「嬉しいっ! あれを気に入ってもらえるなんてっ!」

 そう叫んだ後、フィオナに笑顔を向けた。

 フィオナも激しくうんうん! とうなずいている。


「まだ試行錯誤しているところだけど……あれ、”ミソ”なんです!」

「ええっ!? いつの間に?」

「ああ、そういえば新しい麹を何種類か作っていたわね」

 ジェラルドとエリザベートも口々に言う。


 母のいた場所にエリザベートが座り、メアリーの手を取る。

「がんばっているのね、メアリー。

 本当に美味しかったわ」

 エリザベートに褒められ、メアリーは照れ臭そうにうなずく。

 そして感無量、というようにつぶやいた。


「美味しいものを食べるだけじゃなくて、

 美味しいものを作る生活……本当に夢みたいだわ」

 俺は彼女が、”生贄(いけにえ)”にされた過去から少しずつ脱却し

 新たな人生を進んでいることを嬉しく思い、目を細める。


 俺の視線を感じ、メアリーはおどけたように言う。

「最初はね、カビだの腐食だの聞いて、

 信じられない気持ちだったわ。

 でも、あの時……ジェラルドさんが言った言葉がショックだったの」


 確かにあの時、ジェラルドは言ったのだ。

 ”腐らせて作る”と聞き、ドン引きするフィオナに

 発酵と腐敗の違いは”人間にとって有益な状態になるか”、

 ”有害な状態になるか”、の違いだと。


 メアリーは屈託のない笑顔で笑いながら言う。

「ほんっと人間って、身勝手よね。

 善と悪の基準は自分にとって有益か有害か、

 それだけなんですもの」


 話を聞いていたキースが、いきなり割り込んでくる。

「敵の正体はまさにそれ、それなんだよ」


 そうしてキースは、俺たちが困惑するようなことを言い出したのだ。

「王妃の力は、今のところ”正義”なんだよね。

 彼女がそう()()()んだから」


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