表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/126

93.母上との再会

 93.母上との再会


「ここって……」

 エリザベートが辺りを見渡しながら言う。

「……ガウールとチュリーナの中間地点のようですが」

 ジェラルドが遠くに見える山々から位置を割り出したらしい。


「どうしてここに?」

 俺の問いに、キースは無言で離れた場所の地面を指し示す。

 行ってみると、そこには大きなひび割れが入っていた。


 地割れだろうか。

 この辺りで地震でもあったのだろうか?


 縦に5メートルくらいだが、

 一番開いた部分でも幅は30センチに満たないものだった。

 俺たちはその亀裂を覗き込む。


「意外と深いな……」

「なんで裂けたんでしょう」

 俺とジェラルドは首をかしげる。

 手をかざすと、亀裂からは風が吹いてくるのを感じる。

 結構、強い風だった。下は大きな空洞になっているのか?


 ふと振り返ると、遠く離れたままエリザベートとフィオナが立っている。

 二人の間でキースが、彼女たちの肩に手を置いているのが見えた。

 ……と、いうことは。


「離れろ! ジェラルド!」

 俺が叫び、彼と共に後方に飛び下がった瞬間。


 シュワッ……シュワシュワッ……


 どこか炭酸が抜けるような音をさせて、

 その亀裂から白い何かが噴き出してきたのだ。

「うわっ! なんだこれは!」


「それだよ。それが王妃の力だ」

 遠くでキースが叫んでいる。


「レオナルド!」

「大丈夫ですか?」

 エリザベートとフィオナが駆け寄ってきた。

 さっきキースが二人を行かせまいと

 ガッチリ制止しているのを見て、俺は気付いたのだ。

 ”この亀裂は危険なものだ”と。


 キースは彼女たちにこれが直撃しないように気を配ったのだろう。

 ……中途半端な紳士だな、おい。


 亀裂から溢れる白いモヤは、周囲に広がっていく。

 すると周囲の植物が、ぐったりを萎れだし

 みるみる生気を失っていくではないか。


「これはまた……強力な除草剤だな」

 俺がキースに向かってそう叫ぶと、彼から返事が聞こえた。

「除くのは草だけじゃないよ。生き物全てだ」


 さらに大地の裂け目から、真っ白な腕が何本か伸び、

 地面のふちにしがみつくように何かが現れた。


 3体の真っ白な人型は、地面へ這いずりあがった後、

 ゆっくりと立ち上がったのだ。


 それは白い粘土で作った、つなぎ目の無いデッサン人形のようだ。

 ベトベトした質感で、表面は泡を含んだようにデコボコしている。

 ”呪われた洋館の廊下”に歩いていそうな風貌だ。


 気持ちの悪さと不気味さが、昼間の爽やかな草原に不似合いだった。

 3体はそれぞれ、ぶるぶると震えながら前進してくる。


 俺はもう判っていた。

 キースは俺たちに、ノーヒントで”なんとかしてみろ”といっているのだ。

 彼は馬車にもたれながら、腕を組んでこちらを笑顔で見ている。

 俺の視線に気が付くとご機嫌な様子で片手をあげた。

 ……ちくしょう。


 エリザベートがすでに緑板(スマホ)で検索していたので

 他の三人は期待に満ちた目で待ち構えていたが。

「”倒す方法”を検索しても”無い”って出るわ!」

 という絶望的な回答を返され、

 思わずガックリと肩を落としてしまった。


 どうすんだよ、これ。

 親父は”魔法吸収”と”無効化”の属性で乗り切ったらしいが。

 次々と湧いてくるこれを”消滅させた”わけではないのだ。


 その時、必死で検索を続けるエリザベートの緑板(スマホ)に向かって、

 一筋の白い筋が伸びていることに気が付く。

 その細い線を視線でたどると、

 大地の裂け目へと続いているではないか。


「なんだ?! この線」

 俺の叫び声に、エリザベートはハッと顔をあげる。

 緑板(スマホ)の文字入力をしていた指も止まった。


 すると、プツッと糸が切れたようにそれは消え失せたのだ。

 エリザベートは困惑した顔で俺を見た後、

 再び画面に顔を向け、入力を始める。


 そのとたん、大地の割れ目からシュッと線が伸び、

 エリザベートの緑板(スマホ)に繋がったのだ。

 それと同時にエリザベートが叫んだ。

「倒せないけど、抑えることは出来るって!」

 検索し、答えを得たのだ。


 まさか。

 そう思いつつ、俺は自分の緑板(スマホ)を取り出す。

 そして検索窓に”王妃の力とは……”と入力する。

 すると俺の緑板(スマホ)にも、白いモヤに紛れながら

 一本の白く細いラインが繋がったのだ。


 俺は続けて入力する。

「王妃の力と緑板(スマホ)の関係性は?」


 その答えが画面に表示され、俺が息を飲んだ瞬間。

 フィオナの叫び声が聞こえたのだ。

「ダメです! 危ないから逃げて!」


 フィオナが案じたのは俺たちではなく、

 広がりつつある白いモヤの側にいた小さなヤモリだった。


 もう少しでヤモリにモヤがかかってしまうという間際、

「嫌っーーー!」

 フィオナは叫び、”癒しの風(ヒールウィンド)”をぶちかましたのだ。

 その風圧で白いモヤは霧散し、ヤモリ君もふっとんだ。


 慌てて彼が落っこちた先をみんなで探すと……

 大慌てで去って行くヤモリの姿を見つけてホッとする。


 すると後方でエリザベートが叫ぶ声が聞こえた。

「見て! 動きが止まっているわ!」


 慌てて人型を見ると、彼らは完全に動きを停止していた。

 それどころか粘性を失い、凝固してしまったかのようだ。

「もしかして?」

「……たぶん」

 とまどうフィオナを俺が促す。そして彼女はもう一度、

 さらに威力を強めて”癒しの風(ヒールウィンド)”を3体に直撃させる。


 真っ白な体が化学変化を起こしたかのように、

 ゆっくりと透明になっていった。

 そしてそのまんま、ツヤツヤと凝固している。


 しかしすぐにゆっくりと、ふたたび白く濁り始めたのだ。

 俺はジェラルドとエリザベートに向かって叫んだ。

「試しに攻撃を……」

 そこまで言った時。


 ヒュン… ヒュン… ヒュン… 

 どこかで風を切る音が聞こえた。そして。


 ガシャン! ガシャン! ガシャン! 


 ガラスが割れるような音がして、三体が目の前で砕け散ったのだ。

 砕け散ったそれは、さらさらと細かく崩れ落ち、

 最後には水のように大地へと吸い込まれていった。


 俺はそれから視線を外し、ゆっくりと左の森を見た。

 そこに立つ人を見た時、息が詰まって言葉を失う。


 俺と同じ濃い金色の髪、同じブルーの瞳。

 真っ白だった肌は日焼けし、化粧など全くしていない。

 しかし、記憶の中よりもずっと美しいと思えるその姿。


 優しい笑みを浮かべ歩いてくるその人を見つめ、

 俺の中のオリジナル・レオナルドが叫ぶ声を感じる。

 ”母上”、と。


 ************


 波打つ黄金の髪を高い位置でまとめ、

 なめし皮の上着の上に銀の胸当てを付けている。

 ズボンをブーツに納めたその姿はいかにも男性的だが

 無骨なその装備に包まれることで、

 美しさや華やかさがさらに際立っていた。


「”シュニエンダールの光玉”……」

 ジェラルドがつぶやき、振り返った俺に恥ずかし気に笑って言う。

「やっと、言葉の意味を理解しました」


「ダルカン大将軍が何度も言っていた”世界一の美女”というのも

 キースさんが”実在する女神様”って言ったのも納得です」

 フィオナも興奮気味にうなずく。


 エリザベートは俺を見ていた。

 親子水入らずにすべきか気遣われているのだろう。

 それに気が付き、俺は彼女に笑いかけて手を伸ばす。


 彼女はいっしゅん驚いたが、俺の手を取って前に進んだ。

 俺たちは向かってくる母上のところまで歩き、その前で立ち止まる。


 俺は片膝を付き、エリザベートはカーテシーをする。

 母上はそれを優しく見守った後、両手を大きく開いた。


 そしてすっかり自分よりも

 ずっと小さくなった母上に抱きしめられる。


 足元でファルが俺たちを見上げていた。

 涙でにじむ視界の端にそれをみつけ、

 俺は失ったものが少しずつ戻ってくる実感をかみしめていた。


 ************


 俺と身を離すと、次に母上はエリザベートと抱き合って再会を喜んだ。

「……本当に素敵なご令嬢になられましたわね。

 その力を持て余すことも驕ることもない冷静さと

 常に人のためを考える慈愛を兼ね揃えているわ」


 そしてまぶしそうに目を細めて、

「それに……まるで”聖闇の女神”が降臨したかのような美しさだわ」

 と褒めたたえた。

 エリザベートは恐縮し、頬を染めて首を振るばかりだが。


 母上はふと視線を落とし、

 俺たちの足元を見て目を丸くして叫ぶ。

「この子は……ファルファーサ!

 えっ? ……ファルなの? まさか!」


 俺は笑顔で母上にうなずく。

 この瞬間をどれほど夢見ていたか。


「そうです、ファルですよ!

 森に逃げ延び、生きていたんです!

 兄上が”餓死させた”というのは嘘だったんですよ。

 ファルに噛まれて逃げ出され、

 恥ずかしさで本当のことが言えなかったそうです」


 母上は涙を浮かべ、ファルをわしゃわしゃしている。

 ファルのほうも”お久しぶりです”といった顔で

 されるがままになっていた。

 やはりちゃんと、母上のことも覚えているのだろう。


「ぱう!」

「ぱうぱう!」

「……まあ!」

 小ファルたちがワラワラと集まってくるのを見て、母上は絶句する。


「ファルの子どもたちですよ。

 再会した時に、一緒についてきたんです」

 そしてやはり母上も、俺や兄上と同じ反応だった。


「ファル……あなた、お母さんになったの!

 ……って、メスだったのね!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ