表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第三章 武器は"情報"と"連携"

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/126

81.王太子妃の脱出計画

 81.王太子妃の脱出計画


「本当に良かったんですか? 王子?」

 心配そうな顔で、ジェラルドが俺に尋ねる。

 せっかくチュリーナ国から譲り受けた母上の弓を

 国王(アイツ)なんかに渡してしまって……と思ったのだろう。


「正直、オリジナル・レオナルドは怒るだろうな。

 ”転移者が勝手な事しやがって!”って」

 俺がそういうと、エリザベートが首を横に振って否定する。


「そうかしら? 彼ならちゃんと判ってくれるわ。

 あの弓を、国王に持たせる理由を」

 まあ、そうだと良いのだが。


 ”母上が幽霊となって枕元に立ち、

 国内に潜む魔物の存在を告げた”、という俺の言葉に、

 国王は想定以上に反応したのだ。


 しかも弓を見て激しく動揺した上に

 明らかに王妃と意見が分かれている様子だった。

 だからもう一押し! と思い、弓をアイツに譲ったとたん、

 案の定、二人の関係は大きく変わったのだ。


 国王は王妃の意見を丸無視するだけでなく、

 ”俺の王位継承権を復活させる”と宣言したのだ。

 これは単なる”抵抗”ではなく、王妃に対する立派な”反抗”だ。


「まさか驚いたよ。俺は王位継承権を

 ”きわめて病弱であり、王としての教育を今後、

 受けられないため”って理由で喪失していたんだよ。

 ……俺の魔法属性が補助魔法とわかった直後に、な」

 まさかそれが、あの弓を渡したことで復活するとは。


「そんな目的で渡したんじゃないのだが……」

「本物の”光の守護”ですからね。国王の体や心に、

 何かしら影響をもたらすかもしれませんよね」

 フィオナはそう言うが、俺は多少複雑だった。


「その通りだが、あの国王がもし光の属性を取り戻しても

 善政を行うとは思えないけどな。

 侍従たちの話では、あいつは幼少のころから

 人間嫌いで偏屈だったそうだから」


「それが無いとしても、あの弓が王宮にあるだけで

 この先、王宮内に何か不可思議なことがあったとしても

 ”第三王妃の霊”が原因だと人々に思われますからね。

 我々にとっては都合が良いです」

 ジェラルドの言う通りだ。


 あの後すぐに緑板(スマホ)で検索すると、

 宮中では王妃がひどく乱心した話とあわせて、

 第三王妃の霊が魔物の出現を予告したことが噂になっていた。


 この先、俺たちが王妃に近づくために

 緑板(スマホ)で知った情報を基に行動しても

 彼らはその”超常現象”を、すぐにそれと結びつけるだろう。


 大臣たちだけではない。

 正気を取り戻した王妃がすぐにしたことは、

 お祓いが出来る霊能者を集めることだった。


 ”バレないはずのことがどんどん明るみになる”といった

 あまりにも不可思議なことが続いているのだ。

 緑板(スマホ)の存在を知らない以上、

 怪奇現象に思えるのも仕方ないだろう。


「母上に会ったら、謝らないとなあ」

 俺は苦笑いする。久々に怒られるのが楽しみだ。


 そして3人に向かって言った。

「では……あの弓を持たせた、もう一つの目的。

 それを実行するため、俺は王宮に行ってくる」


 ************


競闘遊戯会(きそいあそび)、ですか?」

 王太子妃ステラが俺に聞き返す。

 あの日からさらに顔色は悪くなっており

 華奢な体はいっそう細くなっていた。


 今も変わらず、王太子(長兄)から虐待を受けているのだろう。

 片腕には太い腕輪が巻かれ、アザが不自然に隠されていた。


「ああ、楽しいぞ? ぜひ王太子妃にもご参加いただきたい」

 そう答える俺にステラは、悲し気にうつむいて答えた。

「……残念ですが、私は……ご参加出来そうにありません」

「知っているさ。王太子に”全ての娯楽を禁じられている”んだろ?」

 本を読むことも、お茶会も、散歩すら許されていないのだ。


「それだけではございません。

 たとえ殿下が口添えしてくださったとしてもダメでしょう。

 王妃様からも、厳しく命じられているのです。

 ”王太子妃にふさわしくない振る舞いは厳禁”だと」


「それも知っているよ。

 決して走らず優雅に歩け、姿勢正しく座れ、

 そして息を乱すような、はしたないことはするな”、だろ?」

 俺が笑いながら言うと、涙を溜めた目で彼女は抗議する。

「ご存じでしたら、なぜ!」


 彼女に、俺は唐突に尋ねる。

「もし自由になったとしたら、どうしたいと願う?

 あの、貴女に不幸を強いる実家に戻るのか?」

 ステラは言い返そうとするが、ぐっと黙り込む。


 しかしその理由は、残念なものだった。

「王太子から暴力を受けることを両親と姉に相談した時、

 ”もし離縁しても戻ってくるな、

 お前にはもう行き場がないのだ”

 って言われてしまったのです……戻れません」


 ステラの実家である伯爵家も、かなりのクズだな。

「実家に戻らないほうが良いだろ。

 こことは違った地獄だろうから。

 ……じゃあ、外国に興味は?」


 ステラはブンブンと首を横に振る。

「私のようなものを受け入れてくれる国はありません!

 親戚も、知人さえおりませんもの!」


 家族と王族に、自己肯定感を丸削りされてしまったようだな。

 俺は自信を思い出させるように明るく諭す。

「貴方の”光の魔力”はなかなかのレベルだぞ?

 その力を真に必要としている国や場所があり、

 俺がそこに送ってあげることができるんだが」

「えっ!? ど、どちらの国でしょうか?」


 俺は彼女に、2つの移住先を提示する。

「ひとつはチュリーナ国で、”光魔法の技能士”として働く。

 まあ働くといっても、儀式の多いあの国で、

 式典などに参加して、数々の法具に力を注ぐ仕事だ」

「ああ、この国と一緒ですね。国王様の代わりに……」


 そこまで言ってステラは口を塞ぐ。

 ”国王の代わりに光の魔力を使っている事”は

 固く口止めされているのだろう。

 顔色が悪くなる彼女に、俺は手を振って言った。

「気にすんな、知ってるよ。俺だって王族だぜ?」


 ほっとした彼女に、話を続ける。

「もちろん修道女として迎え入れてもらう事もできるぞ」

「……それならば、技能士の方が、良いです……

 もしかすると異国で素敵なご縁があるかもしれませんし」

 そうだろうな。

 なんかこの人、恋愛体質っぽいとこあるからな。


「”もう光魔法なんてこりごり!”って思うなら、

 ガウール行きを勧めるよ。

 風光明媚な土地で、ホテル兼レストランで働くんだ。

 旨いもの食って、のんびり楽しく過ごせるぞ」

「それも、夢のようですね……」


 そう言ってステラは、ふわっと笑った後、涙をこぼした。

「どちらも、いいえ……どこにも行けるとは思えません!」


 俺は急に真顔になり、彼女に告げた。

「王太子妃、いや、ステラ。

 これが最後のチャンスだと思ってくれ。

 虐げられた不幸な結婚生活から逃れるための」

 ステラの目が大きく見開かれる。


「窮屈で、残酷で、屈辱的なことばかり命じられたあげく

 気分次第で殴る蹴るの暴行を受ける。

 それなのに誰も助けてくれない……そんな毎日を抜け出すんだ」


 俺の言葉にステラの整ったうりざね顔が歪み、涙があふれる。

 そして振り絞るような声でつぶやく。

「もう嫌です……こんな苦しい生活は!」


「前も言ったよな? 超人的なハンサムが現れて

 救ってくれるのを待つんじゃダメだって。

 自分が一番、自分を助けようとするんだ。

 ……俺たちも、それを手伝うから」


 ステラはとまどいながら、眉を寄せる。

「……ご迷惑がかかりませんか?

 もし、そうなら私……」

 俺はそれを聞き、思わず笑みがこぼれた。

 彼女は他力本願で思い込みが強いが、

 根は優しい娘なのだろう。


 俺は彼女にはっきりと告げる。

「迷惑がかかるどころか、俺たちにも理由があるんだ。

 王族の化けの皮を剥がすっていう目的が」

 ステラは一瞬、怯えたような顔をしたが、

 やはり心当たりがあるのか、ゆっくりとうなずいた。


「じゃあ、やってみるんだな?」

「……はい。もう限界ですから。

 では、私は何をすれば良いのでしょう?」


 俺はにこやかに、彼女の前に招待状を出した。


「それは最初に言ったとおりだ。 

 競闘遊戯会(きそいあそび)へ、ぜひご参加ください」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ