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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第三章 武器は"情報"と"連携"

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76.万事休す

 76.万事休す


 他国から訪れた司祭たちに対し、

 グエル大司教はしっかりと

 ”清廉潔白で敬虔な神のしもべ”、を演じ切っていた。


 まあそう簡単に、シッポは出さないだろうと思っていたよ。

 職場が教会なのに、長い年月の間

 自分の中にある”魔属性”を隠しきってきたのだ。

 きっとうまく化ける術を身につけているのだろう。


 だから俺たちはその方法を探して、

 いつも通り緑板(スマホ)で検索したのだ。


 そして出てきたのは以前、勇者のパーティーが

 旅の最中、辺境の地で遭遇した

 ”身寄りのない子どもを引き取る神父”の話だった。


 ************


 その神父は各地から身寄りのない子どもを引き取り、

 養い親を探し引き渡している、

 と村人から賞賛されていた。


 しかし唯一不可解なのは、

 出て行った子どもに連絡を取ろうとしても、

 誰ひとり、返事を寄こさないのだ。


 勇者(親父)たちが教会を訪れると、

 神父は優しい笑顔でもてなしてくれ、

 子どもたちにも怯えた様子はない。

 それどころか、やりたい放題に過ごせていたのだ。


「神父様は何をしても怒らないで笑っている。

 何でもいっぱい食べさせてくれる」

 子どもたちは自由に遊びまわり、

 いつでも好きなものを食べ散らかし、

 勝手気まま、怠惰な生活を許されていた。


 それを見ながら神父は優しく笑って言う。

「辛い思いをした今までの苦労の分、

 ここではずっと、甘やかせてあげたいのです」


 しかし勇者(親父)は違和感を感じた。

 もし養い親を見つけるために、いや見つけなくても

 その子の”将来”を思えば、”してはならぬこと”や

 ”やるべきこと”を教えるのではないか? と。


 もし、そういったことを教えなくて良いのであれば

 それはその子どもに”将来”など無い場合ではないか?


 勇者の合図を受け、ユリウスが神父に願い出た。

「皆様の幸せのために、祈りの歌を捧げましょう」

 そして彼が歌ったのが、この歌だ。


 荘厳で穏やかなメロディーだが

 実は古代語で語られる”破魔の聖句”だった。


 最初は笑顔で聞いていた神父の顔は

 徐々に青黒いものに変わっていき、

 最後には口から二本の牙と長く赤い舌を垂らした

 恐ろしい魔族へと変わったのだ。


「やめろおおお!」

 ものすごい形相でユリウスに飛び掛かってくるその魔族を、

 剣士ダルカンが一刀にする。


 魔族は切り裂かれてもなお動き回り、

 勇者たちを襲ってきた。

 子どもを捕らえようと伸ばしたその腕を

 弓手ブリュンヒルデがすばやく弓で射て封じ、

 空間が震えるような怒号をあげる首を

 勇者がその聖剣で切り落とした。


 その亡骸をユリウスが聖なる力で完全に浄化した後、

 教会を見回った勇者一行が見たのは……。


 地下室いっぱいに転がった、子どもたちの骨だった。


 ************


 そして今。

「やめろおおお!!

 やめろといっているだろおおお!」


 ギョロギョロとした目は血走り、

 垂れ下がった鼻は興奮で膨れ上がり、

 ブクブクに肥った体にまとった壮麗な服を振り乱しながら

 グエル大司教は両耳を塞いで絶叫していた。


 この歌、すごい効果じゃないか。

 さすがは僧侶ユリウス。


 赤黒くなった顔で、目を血走らせ歯を剥きながら

 グエル大司教は俺に向かって、両手を伸ばし迫って来た。


 残念ながら俺が奴の足にかけた補助魔法”スロウ”のせいで、

 醜態をさらしつつも、全然俺に近づくことは出来ずにいた。


「グエル大司教?!」

「グ、グエル様? どうなさったのです?」

「あの美しい聖歌を、耳障りな音とは……!」


 騒然とする人々は、やがて大司教の異変に気が付く。

 他国から来た司祭が叫んだ。

「あの手を見よ! あれは……悪魔の腕ではないか!」


 グエル大司教の手は赤黒く変色し、

 ゴツゴツした表面に覆われていた。

 爪は長く伸び、刃物のように鋭くとがっている。

 もはや、人間のものではなかった。


 その言葉にグエル大司教はハッ! と我に返ったようで

 自分の両手を見て、そのあと人々に向きなおる。


 マズイ! と思ったのか、

 禿げあがった頭に汗をかき、大きな目玉を泳がせる。

 そして俺を見て、何かを思いついたように叫んだ。


「あ、あの者のせいだ! 

 あの者の歌が、私をこのような姿に変えたのだ!」

 お、そう来たか。

 ”俺が大司教を魔物に変える歌を歌ったため”って作戦か。


 とまどう司祭たちが何かを言う前に、

 フィオナが呆れたような声で言った。

「それはちょっと、無理がありますねえ。

 かなり苦しい言い訳です」

「黙れえ! この偽聖女め! 

 クズ王子をかばうとはお前も仲間か!?」


 グエル大司教は苦し気に言い放ちながら、

 歯を食いしばりつつ、両手を向い合せ、

 光魔法”清らかなる癒し”をものすごい勢いで放出していた。


 それはあっという間に、グエル大司教を包み込む。

 彼の変形した両腕はゆっくりと、元の姿に戻っていった。


 そうか、そうやって光魔法を使い続けることで

 自分の魔属性を隠ぺいしていた、ってことか。

 自分から放出される“魔”を同時に”光”で滅していくのだ。

 臭い匂いの発生源を、強すぎる香水の匂いで打ち消すように。


 グエル大司教はハアハアと荒く息をしながら、俺に向かって言う。

「お前がかけた呪いを、我が光の魔法で打ち破ったのだ!

 私のような正しく清い者には、

 こんな低レベルな呪詛など効かぬわ!」


 すかさずグエル大司教の下僕たちが、

 ぞろぞろを俺を取り囲んで叫んだ。

「この悪魔め! クズだとは思っていたが、

 ここまで悪に手を染めるとは!」

「断じて許さないぞ! 

 ひっ捕らえて拷問し、全てを吐かせてやる!」


 グエル大司教は目を細め、フィオナを見て言う。

「お前も聖女をかたる悪魔の使いだったとは。

 人々を騙すとは、なんと罪深い女だ」


 そして俺に向きなおり、大きな声で命じる。

「さあ、この者たちを捕らえよ!

 フィオナと共に、すぐに裁判にかけるのだ!

 そして人々の前で厳しく断罪してやろうぞ!」


 ニヤニヤしながら、グエル大司教は俺たちを指さす。

 おお、自分の当初の計画どおりに進めるつもりか。


 俺は肩をすくめ、勝ち誇った顔のグエル大司教に言う。

「……では、最後に聞いていただけますか?」

 そろそろコンサートを終えよう。

 では、最後の曲です。


「……何をだ。もはや万事休す、いまさら足掻いても……」

 グエル大司教はあざけるような口調で言いかけたが。

 ……気が付いたのだ。小さな歌声に。


 グエル大司教は大慌てで、侍従たちに命じた。

「クズ王子を早く取り押さえよ!

 皆を魔物に変える気だぞ!」

 侍従が俺に向かおうとした、その瞬間。


「歌っているのは、彼ではありませんわ」

 エリザベートが冷たく言った。

「……なんだと?!」

 グエル大司教が背後を振り返ると。


 他国から来た司祭の1人が、先ほど俺が流した聖歌を歌っていた。

 彼だけではない、次々と、他の聖職者も歌い出す。

 その歌声はだんだん、大きくなっていく。


 彼らのうち、もっとも身分の高い大司祭が告げる。

「我らが集められた条件は……

 ”破魔の聖句”を歌えること、です」


 自国のクズ王子を犯罪者に仕立て上げることは出来ても

 他国から来た多くの司祭たちに疑いをかけることや、

 まして投獄することなんてできないのだ。


 そしてエリザベートが冷たい笑みを浮かべて言う。

「どうしてここに”暗黒の魔女”がいると思います?」


 グエル大司教はずっと、

 エリザベートの存在を気にしていなかった。

 最近、ずいぶんと親しくなったフィオナに

 ただついてきただけだろう、と思って。


 エリザベートは自分の鞄からゆっくりと

 ()()を取り出した。

 チュリーナ国より預かった秘宝を。


 悲痛な顔でグエル大司教は絶叫する。

「”真実の鏡”だと! なぜ、それがここにっ!」

 エリザベートが鏡をかざしながら答えた。

「私が来たのは、これの存在を貴方に気取(けど)られないように、

 ”闇”の力で”光の魔力”の放出を抑えるためですわ」


 グエルが光で魔の属性を抑えつけていたように、

 エリザベートは闇で光を抑えたのだ。


 さらに大きくなる、司祭たちの”破魔の聖句”。

 先ほどよりも赤黒く変色した顔に向けられた”真実の鏡”には

 華美で豪奢な衣装を着た、醜く恐ろしい魔物が映っていた。


 本当に”万事休す”、だな。


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