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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第三章 武器は"情報"と"連携"

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74.魔王はここにいた

 74.魔王はここにいた


 善良なフィオナは、ジェラルドの報酬として引き渡された

 あのチープな壺がどうなったのか知りたくなったそうだ。

「ありがたがっていたら、なんか申し訳ないかなって思って」


 俺は最初からわかっていた。

 国王(アイツ)だって、”腐っても王”だからな。

 一目見て、あの壺の価値を見抜き、

 俺とフリュンベルグ国の”宣戦布告”に気付くだろう、と。


 そこで”壺を受け取った時の国王の様子”を検索した結果、

 あの一部始終が映像として表示されたのだ。


 アイツが叩き割ろうとするのは俺の予想通りで

 その後の悔しがりっぷりは笑えたが……

 問題はその後だ。


 イライザ王妃は人払いした後、国王に言ったのだ。

 レオナルド()をこれ以上、増長させるな、と。

 そのために仲間を引き離し、俺の力を削ぐことを提案した。


 フィオナはグエル大司教に引き渡し、

 ジェラルドは仲間にならないなら殺せ、と命じていた。

 エリザベートにいたっては、

 国王にすら隠れて、何か悪だくみをしているようだった。


 そしてその後、衝撃だったのは。

 王妃の顔と手が異様な姿に変わり、

 チュリーナ国で見た、あの光魔法が暴走した時のような

 怪しげな魔力を使っている様子が描写されていたのだ。


 なんだよ、 ”清冽(せいれつ)なる光明”って。

 緑板(スマホ)の検索で調べても、

 ”光魔法の一種で、(けが)れを払い清める効果を持つ”

 と、書いてあるだけだ。


 俺たちはゾッとしながらも、彼女の正体を考える。

「グエル大司教の属性が”光”と”魔”になっていたように、

 あの女の属性も、もしかして……」


 俺はすぐに検索し、その結果は予想通りだった。

「イライザ王妃の属性は”聖”と”魔”ですって!?

 そんな相反する性質を同時に持つなんて有り得るかしら」

 エリザベートがショックを受けたようにつぶやく。


「うーん……あり得るんじゃないか?

 梅干しはクエン酸を含有するけど、アルカリ性食品なんだし」

 俺が卑近な比喩を用いたせいか、

 エリザベートの不安や緊張感が一気に崩れたらしい。


「……やめて。今度あの方にお会いした時、

 思い出して口が酸っぱくなりそうだわ」

 キュッと顔をしかめるエリザベートに、フィオナが首を振る。

「梅干しと違って、王妃の存在は国民の健康を害してしますけどね」


 その言葉にジェラルドも深刻な顔で同意する。

「とりあえず我々の身に危険が迫っているようですし」


 そうだ。偶然とはいえ

 ”俺たちをバラバラにし、始末する”という

 王妃の策略を知ることが出来たのだ。


 先んじて手を打っておかないとな。


 ************


「……なんですって?!」

 俺の目の前で、イライザ王妃は骨ばった顔を歪ませる。


 そんな彼女に、俺はにこやかに告げた。

「いやあ、フリュンベルグ国の討伐以来、

 すっかり多忙になりましたからね。

 ジェラルドはすでに、ロンデルシアに向かいましたよ」


 王妃に呼び出され、挨拶もそこそこに俺は

 ジェラルドが傭兵団の任務として出国したことを告げたのだ。


 俺を呼べば、護衛である彼もついて来ると思っていたのだろう。

 その時、なんやかんや理由を付けて

 別室に連れていく予定だったらしいが。


 いきなり出鼻をくじかれ、王妃は困惑している。

 どうやって呼び戻そうか考えているような横顔に、

 俺は会話を続けた。


「ジェラルドは、かなり辺境の魔獣討伐に送られるそうです。

 しばらくの間は誰も、彼と連絡を取ることは出来ませんね」

 笑顔の俺を睨みつけ、唇を震わせるイライザ王妃。

 しばしの間を置き、”まあ、いいわ”と言うように、

 フン……と息をついた。


 俺は呑気(ノンキ)を装い、明るく会話を進める。

「忙しくなると言えば、フィオナ元・聖女も、ですね。

 彼女の元に、世界各国の教会本部役員が集まったそうです。

 ”失った力を取り戻す方法について研究する”ためだって。

 大司教や高名な司祭など、名だたる人物が揃うようですよ」


 イライザ王妃はショックで目を見張って叫ぶ。

「力を取り戻す研究ですって!? 

 他国の聖職者の来訪など聞いておりません!

 そのような勝手が許されると……」


「ええっ? 全世界の、教会本部の命ですからね。

 王族や貴族の管轄外ですよ。

 王妃様の手を煩わせることは何もございませんが……

 彼らを国に招き入れることに、何か問題でも?」

 俺はキラキラを振りまきながら尋ねる。


 そのような高名な聖職者が集まれば、

 うちの国の教会に巣食う邪悪な存在なぞ、すぐに気が付かれるだろう。

 例えば大司教なのに”魔”の属性を持つグエルなんて大ピンチだな。


 焦燥感にとらわれた王妃の額に、汗が浮かんでいる。

 さあ、ここからが本題だ。


「で、ご用件はなんでしょう?」

 俺の問いかけに、王妃は必死に平静を装いつつ言った。

「エリザベートのことですが……」

「ああ、彼女の事ですか?!」

 俺は大仰に驚き、彼女の話を遮って叫ぶ。


「やはり、()()()ですよね!? 俺も誰かにお聞きしたかったんです」

「……何のことかしら?」

 王妃はいぶかしげに眉をひそめて言う。


 俺は一歩、王妃に近づき、小声でささやいた。

「彼女が公爵に命じられた、現在極秘のことでしょう?

 俺のような()()()には教えてもらえませんが、

 王家にとって、かなり深刻で危険な状況のようですね。

 ぜひ、詳しく教えてください」

 彼女は困惑しつつ、そっぽを向く。


「……それは言えないわ。貴方はなんの役にも立ちませんもの」

 俺をディスることは忘れずに、王妃はシラを切る。

 彼女も知らなかった”極秘任務”とやらについての情報を、

 少しでも俺から引き出したいのだ。

「それは酷いなあ。俺は彼女の婚約者なのに。

 あれ? 彼女に何か、御用があったのでしょうか?」


 詳しくはエリザベートから聞き出してやろう、

 そう思ったのが見え見えの態度で、俺に尋ねてくる。

「その”秘密事項”が理由よ。

 しばらくの間、私の警護を命じたいの。

 ……エリザベートは今、どこに居るのかしら?」

 ふーん、とりあえず彼女を、

 自分の側に拘束したかったのか。


 俺は彼女の目を見て、はっきりと告げた。

「今は、グエル大司教のところです……フィオナたちと一緒に」


 王妃は息を吸い込んだ。

 俺は首を傾けながら、彼女に言う。

「グエル大司教が秘密にしている郊外の別荘でしょうか?

 んー、それとも”ヘーネスの酒場”の地下かなあ?

 最近は礼拝にもご参加されないですから。

 リッカ侯爵の御婚礼も、密かに代役を立ててましたしね」


 イライザ王妃は口を開けたが、言葉は出なかった。

 自分の思惑が、全てこちらに読まれていただけではない。

 グエル大司教が名指しされ、その不審な動きがバレているのだ。


 敬虔な信仰国家チュリーナの国王は、

 このシュニエンダール国における教会の腐敗ぶりを案じていた。

 ここは一気に叩きたいところだし、

 王家に邪魔をされるのだけは避けたいのだ。


 だから俺は今日、王妃に呼び出されたふりをして、

 逆に彼女へ警告をしに来たのだ。

 教会の腐った部分は見捨てろ、さもなくば。


「ご安心ください。もし王族の警護が必要となりましたら、

 彼女の代わりにローマンエヤール公爵みずから

 警備してくださるとのことです。

 ……普段は公爵家すら立ち入ることのできない、”祈りの塔”にもね」


 王妃はあごを上げ、歯を食いしばって俺を見ている。

 両手で握りしめた扇子は真っ二つに折れそうだった。


 エリザベートを拘束したかったようだが、

 ”彼女でなければならない任務”など、

 王妃が探し出すことなど不可能だ。


 万が一、ゴリ押しで警護を要求しようものなら

 やって来るのは公爵であり、

 ”彼女が最も触れられたくない場所”だと検索で出ていた

 ”祈りの塔”にまで踏み込まれてしまうのだ。


 俺たちは視線を合わせたまま動かずにいた。

 そして、長い沈黙の後。


 王妃は青い顔のまま、異様に光る眼で俺に言った。

「……この辺にしておきなさい。

 幸福にはそれなりの限界があるけど、

 悲劇には底が無いのよ?」


 そして不気味な笑みを浮かべ、首を傾ける。

 ”さあ、どうする?”と言わんばかりに。


 これ以上、俺が”攻めの姿勢”を見せることは、

 この国の悲劇が増大する、ということを示唆しているのだ。


 俺は世界最強のローマンエヤール公爵家が、

 この王族に対し従順の姿勢を貫いている理由を察した。

 天才魔導士キースがあの、桁外れの魔力を持ちながらも、

 なかなか手が出せなかった理由も。


 この女は、何らかの力を用いて、

 シュニエンダール全国民を人質にしている。


 しかし、そんな脅しに屈するくらいなら、

 喧嘩を吹っ掛けるわけないだろう。

 母上がなぜ、俺をこの国に置いていったんだと思う?


 俺はしらばっくれた調子で彼女に言う。

「いやあ、俺なんてまだまだです。

 この国に対する貢献はこれからですから。

 ぜひ、ご期待ください!」

「レオナルド、お前はーーー!」


 とたん悪鬼の形相に変わった王妃に一礼し、

 くるりと背を向け、俺は歩き出した。


 背中に怒り狂うような視線を浴びながら、俺は考える。

 あの後、改めて確認した緑板(スマホ)の”あらすじ”にはこう書いてあった。


 ”王子レオナルドと公爵令嬢エリザベート、

 騎士ジェラルドと聖女フィオナは、

 シュニエンダール国を内乱の渦に巻き込んだ。

 そして”光あふれる世界”は終わりを告げた”


 そしてもう一つ。

 ふと俺たちは王妃の属性に続き、

 シュニエンダール国王の属性も調べたのだ。


 あいつは元々”光属性”だったが、

 王妃やグエル大司教と同様に、

 ”魔”の属性も加わっているのではないか、と。

 しかし結果は違った。


 シュニエンダール国王の属性は、”魔”のみ。


 国王はすでに、”光”の属性を完全に失っていた。

 つまりこの国は”魔族”によって支配されていることになる。


 魔王はこんなところに居たのだ。


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