表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第一章 異世界転移と悲惨な結末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/126

7.良妻の鑑を叩き割れ

 7.良妻の(かがみ)を叩き割れ


 俺たち4人が持っていた緑の石板は

 スマホ同様にフリック入力が可能で、

 しかも、この世界についての情報を何でも与えてくれる

 素晴らしきアイテムだったのだ。


「でもさ、レオナルドの記憶を探っても、

 この緑板(なんちゃってスマホ)については出てこないんだけどなあ」

 俺がそう言うと、みんなも同意する。


 エリザベートが緑板をみつめたまま言う。

「とりあえず、私たちの現状について調べてみましょう」

 俺たちはうなずき、引き続き検索にのめりこむ。


 高位聖職者の給与が、密かに高額になっていること

 討伐対象の魔獣は増え続けていること、

 王家と貴族の散財のため、すでに国は破綻寸前であること、

 ……などなど。


 そして聖騎士団のほぼ全員が

 金銭と貴族のコネで選ばれた者だということが判明したのだ。


「最初から出来レースだった、ってことかよ。最低だな」

 憤慨したり、呆れながら、検索に夢中になっていたら。


 トントン。

 ドアがノックされる。


「構わない、入れ」

 俺の言葉に、不安そうな顔をした侍女が顔をのぞかせて言う。


「聖女様に、お迎えの方がいらっしゃいました。

 ……かなりお怒りのご様子です」

「迎えだと? 誰だ?」

「イザベル伯爵夫人のご命令だと……」


 その名を聞き、フィオナが条件反射で震えあがる。

 あまりの様子の変化に、ジェラルドが驚いて尋ねる。

「どなたです?」

 唇を噛み、うつむくフィオナの代わりに俺が答える。


「聖女はシュバイツ公爵家の嫡男ディランと婚約している。

 イザベル伯爵夫人はその姉だ。

 あの家は聖職者を多く輩出していて、

 歴代聖女は王家か、シュバイツ公爵家のどちらかに

 嫁ぐことになっているんだ」


 俺の長兄には妻が、次兄には大国から来た婚約者がいる。

 当然のごとく俺の存在は無視され、

 フィオナはシュバイツ公爵家にあてがわれることになった。


「なんで、すでに嫁いだ姉がしゃしゃり出てくるのよ?」

 エリザベートの疑問に、フィオナが青い顔で答える。

「花嫁教育のため、だそうです。

 シュバイツ公爵家にふさわしい者になれるよう

 自分が厳しく(しつ)ける、といわれました」


 俺は苦々しい気持ちで吐き捨てる。

「だから毎日、フィオナは聖女の仕事をこなした後、

 アイツに呼び出されて、

 下らねえ詩文や歴史書を暗記させられたり

 お辞儀の仕方を何百回もさせられたりするんだよ」


「小姑のイジメなんて付き合う事ないのに!」

 憤慨するエリザベートに対し、フィオナは悲し気に答える。


「フィオナは、期待に応えたかったみたいです。

 政略にしろ、家族が出来るのが嬉しかったから。

 彼女……孤児でしたから」

 フィオナの記憶をさぐりながら、第三者目線で代弁する。


「めまいがするほど刺繍を練習させられる、と聞いた時は

 俺もまだ我慢するしかないのか、と思ったよ。

 でも指先から血がにじむほど水場仕事をさせられてる時点で

 ”そりゃ公爵夫人の仕事じゃないだろ?”って気が付いたんだ」


 俺がそう言うと、フィオナも暗い顔で続ける。

「とうとう聞いてしまったんです。

 私を形式上の第一夫人にした後は、

 本宅から離れた小屋に追いやって

 ディラン様の愛人たちの侍女にする予定だって」


 そんなの、家族でも何でもない。


 相手は教会と繋がりの深い公爵筋だ。

 その命令を覆すのは王家しかできない。

 だからこそ、フィオナは第三王子(オレ)にすがった。

 そこにどのくらい愛情があったのか、正直わからない。


 フィオナは悲し気に言う。

「いっそ婚約破棄してくれれば良いのに。

 ディラン様の周りにはいつも多くの女性がいますし、

 私でなくても全然良いはずです」


 エリザベートも同意する。

「あの男は宮廷でも有名だもの。

 常に違う美女を侍らせてる、ってね」


「でも、イザベル様は私に言うのです。

 貴族たるもの、妾や愛人のひとりやふたり、居て当然だと。

 それを寛容に受け入れ、むしろ彼女たちを大切にするのが

 第一夫人の役目、良妻というものです……って」


 そのあげくに、聖女を騙ったものとして処刑されるのだ。

 ……これは早急に手を打たねばならない。


 俺はドア裏で困っている侍女に告げる。

「下で待て、と伝えてくれ」


 慌ただしく走っていく侍女を見送った後、

 俺たちは緑板を手に相談を始めた。


 ************


 打ち合わせを済ませた俺たちが

 フィオナを先頭に下に降りていくと、

 イライラした顔で迎えの侍従が立っていた。


 そしていきなりフィオナを怒鳴りつけてくる。

「聖女様っ! こんな時間まで外出など、

 貴婦人にあるまじき振る舞いです!

 シュバイツ公爵家に嫁がれる者として……」


「黙りなさい。まだ嫁いでいませんし、

 彼女は貴婦人である前に聖女よ。

 あなた、教会の任務を軽んじるおつもり?」


 フィオナの後から階段を降りながら

 睨みつけるエリザベートの冷たい言葉に

 ヒッ! と声をあげて、侍従はふるえあがった。


 後ろに控えた俺とジェラルドも反射的に身を縮める。

 (こわ)っ!


 言っている内容はたいしたことではないのに、

 とんでもなく冷徹に聞こえ、

 トゲや毒のある雰囲気を漂わせているのだ。


 エリザベートは片手を腰に当て、侍従を見据えて言い放つ。

 真っ赤な瞳に見据えられ、侍従は固まっていた。


「彼女は第三王子と、ローマンエヤール公爵令嬢である(ワタクシ)

 助力を求められて呼び出されたの。

 ”それを無視して帰宅せよ”とは!

 シュバイツ公爵家はいつから

 そんな権力をお持ちになったのかしら?」

 絶世の美貌に薄笑みを浮かべ、侍従を睨みつける。


「い、いえ、そうとは存じませんでしたので……

 それでしたら、そうとご連絡をいただければ!」

 侍従の言い訳を、エリザベートが即座に叩き切る。


「まああ! 驚いたわ! 王家と我が公爵家は

 シュバイツ()()に報告の義務を有していたとは!」


 ローマンエヤール公爵家はこの国の筆頭公爵というだけではない。

 多大な軍事力を持ち、その発言は国内外で強い影響力を持っている。

 同じ公爵家とはいえ、他の貴族など足元にも及ばないのだ。


 侍従は泣きそうになり、必死に訂正する。

「いえいえいえ、申し訳ございません!

 もしご連絡を頂けていたなら、

 お迎えにあがるようなことはせずに済んだ、

 それだけでございますっ!」


 出だしの勢いはどこへやら、侍従は身動きも取れずにいた。

 エリザベートが”冷酷非情で残酷な魔女”と言われる所以だ。


 誰かの間違いを訂正したり、反論するだけで

 生まれ持った雰囲気のせいか、

 相手を過剰に怖がらせ、怯えさせてしまうのだ。


 なんなら平凡な会話すら、悪い意味で受け取られてしまう。

 以前エリザベートが花壇の前で”この花……”とつぶやいたとたん

 聞いていた庭師が大慌てで平伏し、

 ”目障りでしたか!?”と叫んだくらいだ。


 まあ、今回は攻撃する気満々で話しているようだが。


 エリザベートは急に優し気な口調になって言う。

「では、お引き取りくださいな。

 聖女様は私が責任を持って明日、

 ()()()とお送りいたしますわ」


 侍従が慌てて言う。

「あの、しかしながら! 聖女様は毎夜、

 イザベル伯爵夫人のところに

 お連れする約束になっております!」


 エリザベートは事も無げに言う。

「ではお伝えくださいませ。

 王家とわが公爵家が、聖女の力を必要としているため

 彼女との約束はなかったことにさせていただきたい、と。

 もちろん、これから先も、ずっと彼女は忙しいの」

「……そんな! それはちょっと……」


 エリザベートは、口元にニヤリと笑みを浮かべて言う。

「まあ?! イザベル夫人は聖女に、

 大事な御用がおありのようですのね?

 では明日の昼、聖マリオ礼拝堂にいらしてくだされば

 彼女とお話しすることができますわ。

 ……明日の夕刻からはまた、彼女はまた忙しくなりますし」


 つまり、イザベル夫人がフィオナと話したいなら、

 明日の昼に聖マリオ礼拝堂に来るしかないのだ。


 侍従は動揺しつつも一礼し、とりあえず帰っていった。


 その姿を不安そうに見送るフィオナ。

 エリザベートは俺たちを振り向いて言う。

「……イザベル伯爵夫人、来るかしら?」


「来るさ。絶対に」

 俺は答える。


 検索の結果、イザベル夫人は

 フィオナが教会に作られた聖女であることや

 のちのち処刑される運命にあることは知らないようだった。


 だから彼女が意地悪する動機は、

 単なる自慢の弟可愛さからだ。


 それで公爵家の教育、という名目で虐待したあげく

 愛人の侍女にするつもりとは……度が過ぎているだろう。


 度が過ぎている、ということは

 全く周りが見えていない、ということだ。


 俺は三人に向かって指示を出す。

「さあ、準備に取り掛かろう。まずは……」


お読みいただきありがとうございました。

評価、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ