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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第二章 新たなる力と仲間

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57.2つめの称号と母の遺品

 57.2つめの称号と母の遺品


 パウル助祭が乱射した雷魔法のせいで神殿は崩壊し、

 俺とエリザベートは崩落した床から落ちてしまう。


 下には地下聖堂があったらしく、

 転落したのはせいぜい数メートルといったところだ。

 しかしあの部屋周辺が大きく倒壊したため、

 なだれ込むように瓦礫(がれき)が俺たちの上に降り注いできた。


 エリザベートはパウルによって放たれた”戒めの鎖(バインド・チェーン)”のせいで

 軽く麻痺しているようだった。

 彼女にこんなダメージを与えるとは、

 あいつの光魔法、パワーだけは桁外れだったらしい。


 落下するエリザベートが伸ばした手に、

 俺はすぐさま硬化魔法をかけた。

 そして自分にも同じものをかけながら一緒に落ちたのだ。


 だから今、エリザベートを抱え込みながら横たわってる状態だが

 俺たちにはそれなりの圧力はかかれど

 重くも苦しくもない。


 ……ただ、ただ、気まずいだけだ。


 エリザベートは泣いているようだった。

 嗚咽を必死に抑えているから、体は小刻みに震えている。


 この状況が怖いのか? 理由が分からず焦った俺は

 ”倒壊した家屋の下敷きになった時の心得は

 体力を温存し救助を待つことだ”、などと語ろうと思ったら。

 俺の腕の中でエリザベートがささやいた。


()()。私がガウールで、どれだけ幸せだったかわかる?」

「ああ、なんやかんや楽しかったな」

「違うわ、そんな話じゃない」

 俺の返答に、彼女は強い口調で否定する。


「毎日一緒に食事して、お話して……笑って。

 笑っているあなたを見れたのなんて、本当に何年振り?」

 とまどいつつも、俺は気が付いた。


 そして腕の中にいる彼女の顔をゆっくり頭を動かして見下ろす。

 彼女も同時に顔をこちらに向けた。


 目前に見える、涙にぬれた美しい顔は。やはり。

「……()()()

 俺の呼びかけを無視し、彼女は必死で訴えてくる。


「お願い。ガウールにいて、レオ。

 もう国には戻らず、ガウール辺境伯として、

 フィオナやジェラルドと幸せに暮らして」

 そういえば、エリザベートはチュリーナ国王に

 俺をガウールの辺境伯にするよう願い出ていたのだ。


 何故だ? なんでそんなに必死なんだ?

 考えを巡らし、結論に行き着く。……それしかないだろう。

 俺は彼女に尋ねる。

「検索で、何を知ったんだ?」


 エリザベートはビクッと体を固くする。

 しかし、もう誤魔化すことはできないと察したのだろう。

 涙でぬれる目をこちらに向けて言ったのだ。


「私、あなたの最後がどうなるかって検索したの。

 あらすじがもう、出てこないんですもの。

 そうしたら……」


 エリザベートはグッと顔を歪ませる。

「……”シュニエンダール国にて死す”、だったのよ」


 俺はその言葉を呆然と聞いていた。

 俺があの国(シュニエンダール国)で死ぬ?

 緑板(スマホ)にそう、出ていたというのか……。


 だから俺に、シュニエンダールには帰るなと言ったのだ。

 エリザベートは悲し気に微笑む。

「ガウールでの生活で、私の願いはこれだわ、って思ったの」

「落ち着け、俺たちあの地で呪われたり戦ったり大変だったんだぞ」


 俺の反論に、エリザベートは狭い空間で首を横に振る。

「あんなの楽しいイベントのうちだわ!」

 戦いの女神にとってはあんなの、

 命の危険をさらされたことにもならないらしい。


「国に戻ったら、もっと普通のイベントを楽しもうぜ……」

 花火大会とか? 仮装パーティーとか?

 俺は異世界でもできるイベントを必死に考えるが。


「帰ればもっと陰惨で恐ろしい戦いが待っているのよ。

 そしてそのあげく、あなたは……!」

 ”シュニエンダール国にて死す”、だもんな。


 俺は何といって良いかわからず、沈黙する。

 しかし、その時。


「ぱう!」

 ずっと上のほうで聞こえるのは。


「ぱうぱうぱう!」

「ぱうーーーー!」

 ガリガリガリガリ……


 それと同時に、俺たちの周囲にバリアが生成された。

 そしてそのまま、瓦礫を押しのけながら上へと運ばれていく。


 ガラガラと周囲に壁や床の破片をまき散らしながら

 俺たちは地上へと引き出されたのだ。


 そして両手を前につきだして念じ続けるフィオナと

 安心した顔をみせるジェラルド、

 俺たちをみつけ興奮して吠えまくるファルファーサ達の前に

 ゆっくりと着地したのだ。フィオナ、すごいな。


「大丈夫ですか? 二人とも」

 フィオナが心配そうにたずねる。

 俺はエリザベートを抱きかかえて言う。

「エリザベートは光魔法にあてられて麻痺しているだけだ。

 しばらくすれば回復するだろう」


 チュリーナ国の兵たちはすぐに救護隊を呼び、

 倒壊した神殿の処理を始める。

 俺が尋ねる間もなく、パウル助祭が拘束された姿で

 担架で運ばれていくのが見えた。


 もはや、あの強大な光魔法は使えないらしい。

 ……なんだったんだ? あれは。


「もう大丈夫よ、降ろして、()()()()()

 俺はそっと、エリザベートを立たせる。


「ぱう?」

 砂塵まみれの俺たちを見て、

 俺たちの救い主はωの口を動かし、

 ”かくれんぼは終わりですか?”というような顔で小さく吠えた。


 俺は救助犬の役割を立派に果たしたファルを撫でながら

 さっきのエリザベートの、いやエリーの言葉を反芻していた。


 ************


 ガウール周辺エリアの危険度を下げ、

 チュリーナ国からの安全な経路を作り出した功績に加え、

 パウル助祭の暴走を抑えた俺たち。


 国王にお礼は何が良いか、と聞かれ、

 素直に”騎士(ナイト)の称号”を願った。

 やっぱ単刀直入が一番だろ。


「……いや、それはちょっと厚かましいかと」

 当の本人であるジェラルドが必死で抵抗したが

「願い事は素直に言うのが一番です!」

 とフィオナが笑顔で言い含めたが、しかし。


「……正直なところ、チュリーナ国はもはや

 ”騎士(ナイト)の称号”を出したくないのだ」

 国王は眉をしかめ、苦し気につぶやく。


 現在、チュリーナ国は称号を出すのに慎重になっていた。

 そりゃそうか。

 せっかく”騎士(ナイト)の称号”を与えたアーログたちが、

 いろんな場所でそれを犯罪の道具にしやがったのだ。


「もはやチュリーナ国の称号など、

 相手に信用されないかもしれぬぞ?」

 悲観的な顔で国王は言うが、俺は反論する。


「ならば、なおさらジェラルドにおまかせください。

 悪評を封じるのは逃避や沈黙ではありません。

 彼の素晴らしき善行によって払拭するのが一番です」


 もう称号を誰にも出さないのではなく、出した騎士が、

 今度こそ手柄を立てることが大事、と説得したのだ。


 その言葉に納得したチュリーナ国は

 ジェラルドに”騎士(ナイト)の称号”を与えてくれたのだ。

 これで2つめだ。2つ持つ者は、まあ結構な人数いるが。


 3つもこの称号を持つ者は、世界でも少ない。

 これは全ての魔獣・妖魔討伐に参加する権限を持てる。

 つまり、どこにでも行ける、ということだ。


 4つ持つ者はごく数人だ。

 これはなんと、貴族や王族の断罪権を与えられる。

 最近はまったく保持者が出ておらず、現役の騎士はいないのだ。


 そして5つ。世界の全ての称号を手にした者。

 これはいまだかつて、一人もいないのだ。

 頬を紅潮させ、胸の勲章を見つめるジェラルドを見ながら

 俺は”聖騎士団に入らなくて本当に良かったな”などと思った。


「さて、レオナルド王子……」

 言いかけた国王に、俺は苦笑いで首を振る。


 そして辺境伯のお話は、なかったことにしてもらった。

 たとえエリザベートの言う通りにしても

 あの卑怯で陰湿な王族の事だ。

 何らかの手段で俺を攻撃してくるだろう。


 それに何より。

 俺はガウールの魔人討伐に対する、

 シャデール国からの報酬を思い出す。


 ジェラルドには”騎士の称号”。

 エリザベートとフィオナには、

 最高級品であるシャデール特産の”プラチナ・シルク”。


 そして俺にはシャデール国王からの手紙……

 という体裁をとった”同盟書”だ。

 国王の直筆で、”有事の際には共に戦うことを約束する”、とあった。


 ダルカン大将軍たちはシャデール国王に、

 会ったこともない俺に対して

 これを出させたのだ。


 俺は元・勇者のパーティーのすごさを思い知った。

 いまだに世界中の人々から

 多大な信頼と感謝の念を寄せられていることが伝わってくる。


 さらにダルカン将軍とユリウス神官からの手紙は、

 強大な悪しき力が、

 世界中を蝕んでいることを伝えていたのだ。

 しかもそれは日増しに強まり広がっている、と。


 俺たちには時間がないのだ。


「国に戻ります」

 はっきりと宣言した俺に、チュリーナ国王はゆっくりとうなずく。

 そして首を傾けながら、不安な表情を浮かべて言う。

「あの国はいま、動揺と混乱が加速しておる。

 このままだと、大変なことになるかもしれない」


 そんな国王にジェラルドが前に進み片膝をついて言う。

「与えてくださったこの称号に報いるためにも

 悪しきもの、穢れたものを封じて参る所存でございます」

 チュリーナ国王はうなずき、彼に祝福を与えた。


 この場を辞そうとした瞬間、俺はもうひとつ、

 国王に詫びなければならないことを思い出した。

「申し訳ございません。

 パウル助祭の暴走を抑えるため

 こちらの品をお借りしました」

「ああ、神殿の神具か。仕方のない事、別にかまわ……」

 そこまで言って、チュリーナ国王は俺が手に持った弓を凝視した。


 しばらくそのまま何も言わない。

 周囲にいる宰相や大臣たちも、驚いた顔のまま固まっている。

 そして全員が俺の顔を見ていた。

 ……やっべー。すごい値打ち品だったか。


 俺が弁償を言いかけた時。

「そうか。レオナルド王子……そなたの母は!!」

 チュリーナ国王は感極まった声を出す。

 ああ、俺が弓を使ったことが感慨深いのか? と思ったら。


 横に立っていた大司教が泣き笑いの表情で俺に言う。

「その弓は、あの方のものですよ。

 ”シュニエンダールの光玉”、ブリュンヒルデ様の」

「ええっ!」

「本当に?!」

 俺たちは叫び声をあげ、俺の持つ弓を見る。嘘だろ!?


「戦いの旅の後、母君がチュリーナ国へ贈ってくださったのです。

 ”光の守護”を持つこの弓を」

 パウル助祭は強大な光魔法を放っていたが

 吸収されること無く、抑えることができたとは。

 同じ光属性でも、何かが違うということか?


「どうぞお持ちくだされ。

 これは何かのめぐりあわせなのかもしれませんな」

 チュリーナ国王は俺に笑顔を見せた。

 俺は国王と重鎮の面々に、深く礼をする。


 そして国王は、厳しい表情に変えてつぶやいた。

「あの国はこの先、混沌を極めるだろう。

 おそらく争いは避けられないだろう」


 以前緑板(スマホ)に出ていた”あらすじ”の結末を思い出す。

 俺たち4人が残酷に断罪され、

 ”そうして、この国に平和が訪れたのだ”とあった。


 俺たちがあの国で生贄にならねば、

 シュニエンダール国の崩壊するとでも言うのか?


 俺は笑みを浮かべて首を振った。

 いいや、そんなのお断りだ。

 しかし逃げるのも隠れるのも論外だ。


「さあ、戻ろうぜ」

 俺は顔をあげ、みんなをふりかえる。

 三人がうなずき、ファルファーサが吠える。


 ”行動”だけなのだ。

 俺たちが”結末”をリライト出来る方法は。


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