表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第二章 新たなる力と仲間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/126

55.死ねない罪人

 55.死ねない罪人


 敬虔な信者が多いこのチュリーナ国において

 罪人の死体は埋葬する前に

 光魔法”清浄なる光明”を浴びせることになっている。


 そうやって死者の魂を浄化し安息をもたらすことで

 悪霊になることを防ぐ風習なのだが。


 その光を浴びた死者が、

 恐ろしい姿に変わり、動き出したというのだ。

 そんな不可思議なことがあるのか?!


「悪霊どころか、ゾンビになるとはね。

 ”不良にならないように厳しく育てたら

 ヤクザになった”ってことか」


 神殿に向かって走りながら俺が叫ぶと、

 フィオナも後ろで叫ぶ。

「そんなに浄化されるのが嫌だったんでしょうか。

 ”せっかくここまで(けが)れたのに!”って」

 ……世の中いろんな考え方があるからな。


 神殿の前に着くと、外には兵や聖職者が溢れていた。

「近づくのは危険です! お下がりください!

 今までのよみがえりとは、段違いの凶悪さなんです!」


 両手を広げて止める兵に、俺は状況を尋ねた。

「中にはまだ人が残っているのか?」

 兵たちは俺を見て一瞬迷ったが、

 国賓であるエリザベートに気が付き、あわてて答えてくれる。


「一人だけ……パウル助祭が祭壇で祈りを捧げています。

 ”この件は自分にまかせてほしい”とおっしゃって」

「なぜ?! そんなことを」


「パウル助祭があの罪人たちの浄化を行ったんです。

 ……いつもはもっと上の階級の者が行うんですが」

「ああ、責任を感じて残ったんですね……」

 ジェラルドの言葉に、

 兵たちは顔を見合わせ、何故か複雑そうな顔をした。


 俺たちは彼らに手を挙げ、神殿の中へと進んだ。

 それを彼らはとんでもない! と遮ろうとしたが

 ジェラルドの胸にある”騎士の紋章”を見たとたん、

 嬉しそうな顔で通してくれた。

 ……本当にこれ、便利なんだな。


 チュリーナの神殿は中央に大きく広がり、

 その先に祭壇が、左には墓地が広がり、

 右には事務的な作業を行う建物があった。


 神殿の中に入ると、細かな振動とともに、

 奥から奇声が聞こえてくる。


 前室を抜け、大きな両開きの扉を開けると。


 どこか元世界のローマ神殿に似たその建築物は

 ガラスというガラスが破壊され、

 美しい彫刻が施された壁面はひび割れていた。

 イスや台座は木っ端みじんに破壊されており、粉塵が舞っている。


 その砂煙の中、こちらに背中を向けた男の姿が見えた。

「よお、久しぶりだな」

 俺はアーログ()()()()()に声をかける。


 ”天罰の符札”に命を奪われる際、

 その罪の重さに比例して状態も変わってくる。

 軽微な罪ならば”ちょっとダルいな”くらいで済むのだが

 殺人を犯したとなれば、奪われるのは体力だけでは済まない。

 それも複数の罪を犯したとなれば、なおさらだ。


 脱走したアーログを兵が看取った時には、

 すでにミイラのようだった、と聞いていたが。


 目の前の姿は、それとは真逆のものだった。


 水死体のようにパンパンに膨れ上がり、

 関節以外のところも妙にデコボコしていた。

 腕が異常に長く、足元まで届くように垂れ下がっている。


 気色の悪い黄色い肌には

 盛り上がった緑の筋が表面をうねっていた。

 それはビチビチと躍動し、

 まるで体表を太ったミミズが這っているようだった。


 逆立てた髪型や、リストバンドなどで

 やっと(アーログ)だとわかるレベルの変わりようだ。


 ウウウ……ウウ……


 俺の呼びかけに、アーログはゆっくりと振り向いた。

 その顔を見てフィオナは凍り付き、

 エリザベートは両手で口をふさぐ。


 俺は思わず声を漏らす。

「食ったな……他のやつらを」

 アーログの分厚く膨れた口から胸まで

 血とぐちゃぐちゃの何かにまみれていた。


 そしてその足元には、彼の仲間のものと思われる

 足や腕といった部位が散らかっている。

 その周囲は血まみれだった。


 アーログはだらんと伸びた腕を振り回し

 こちらに向かって何かを投げて来た。

 俺の横に転がっていた椅子に当たったそれが

 人間の肉片だと気付いたフィオナが悲鳴をあげる。


 しかし、こいつが最も恐ろしいのは。


 エリザベートが声を振り絞るようにしてつぶやく。

「……どうして……こんな姿で悪意に満ちているのに……

 彼から”光の魔力”が溢れてくるの?」


 ジェラルドが顔をしかめて言う。

「光の属性が強すぎたのでしょうか?

 それでも、こんなことにはならないはずですが」

「そうですよ! 光魔法と聖なる力は別物ではありますが

 退魔の力を持つという特徴では同じなんです!

 アンデッドを生み出す光魔法なんてあり得ません!」


 アーログは苦し気な声を出しながら、

 座り込んで床を叩きつける。

 その振動で壁や窓が揺れ、破片をまき散らしていく。


「このままだと神殿が崩壊するな」

 俺はアーロンを抑えるべく、彼に向かおうとするが。


「ごめんなさい、みんな。

 ここを頼んでも良いかしら?

 私は礼拝堂にいるパウル助祭に聞きたいことがあるの」

 急にエリザベートが、そんなことを俺たちに言い出したのだ。


 フィオナがすかさず答える。

「大丈夫ですよ。動きを抑えるなら私でもできそうです」

「おそらくアンデッドの一種でしょうから

 倒すのはそんなに難しくないと思いますし」

 ジェラルドもうなずく。


 俺は一瞬、何を脳裏に閃いたが、うまく言葉にできず

「二手に分かれるか?」

 とエリザベートに尋ねるが、彼女はそれを断った。

「祭壇にいるパウル助祭と話すだけよ、1人で大丈夫。

 できればアーログの注意を引いてくれるかしら?

 祭壇は、あの奥だから」


 俺たちはうなずき、神殿の左側へと走る。

 アーログはゆっくりとこちらに向きを変え、

 ズルズルと移動を始めた。


 その後ろをエリザベートは、すべるような速さで駆け抜ける。

 そしてあっという間に、神殿の奥へと消えていった。

 それを横目で見送りながら、

 頭のどこかで誰かが叫んでいた。

 ……なんだ? この感覚は。


「いろいろ試してみましょう」

 フィオナはそう言って、アーログに”浄化の霧”を浴びせる。

 低級の妖魔や悪霊に効果がある呪文なので、

 まさに”お試し”といったところだ。


 白い霧はふんわりとアーログを包み込む。

「……これ、除菌くらいしかしてないんじゃねえの?」

「失礼な! 先週これで庭に出たアメーバの幼体、

 ちゃんと倒したじゃないですか!」

「アメーバの幼体なんて、日差しが強くても死ぬんだよ。

 ”お箸で切れる柔らかさ”だしな」

「圧力鍋で煮た角煮みたいに言わないでください!」


 俺とフィオナがしょうもない口論を繰り広げている間。


 ウウウウウウウー……

 顔面を両手で抑え、うめきながらアーログは座り込む。

 これが思いのほか効いたのだ。


 その様子に俺たちは拍子抜けしてしまう。

「……なんだ、結構簡単に倒せそうだな」


 本来なら、ほっと安心するところだろう。

 しかし俺の中には、ものすごい勢いで

 強い焦燥感が沸き上がってきたのだ。


「動きも遅いですし、斬撃も効きそうですね。

 両側から攻撃してみましょう」

 ジェラルドの提案に俺はうなずいた、のだが。


 しかも、いざ進もうとすると足が動かない。

「どうしました?!」

 ジェラルドが振り返って叫ぶ。


 俺は焦っていた。

 おかしいのだ。


 エリザベートが選ぶのはいつも、”最も危険な相手”だ。

 仲間に任せて自分は退避するなぞあり得ない。


 おかしい。そして、危険だ。


 俺の首が勝手に動き、神殿の奥を見た。

 俺の足が勝手に動き、そちらに向かって走り出す。


 背後でジェラルドが叫んでいる。フィオナもだ。

 でも俺は一心不乱に、その先を目指して走り続ける。


 そして俺の口が勝手に叫んでいた。


()()()! ダメだ! 戻ってこい()()()!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ