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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第二章 新たなる力と仲間

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51.生きていた魔導士

 51.生きていた魔導士


「この子たちの名前を決めないと!」

 夕食後、ファルファーサに囲まれながら

 フィオナは嬉しそうに宣言する。


「名前? そんなのパパっと決めようぜ」

 そう言う俺を横目に、フィオナは口をとがらせる。

「ファルファーサだからファル、なんて論外です。

 ダックスフンドにダックスと

 つけるようなものじゃないですか」

「確かに複数匹飼うと問題が生じるな」

 俺は素直に認めた。


 ”自分たちに関することを話している”

 と理解しているらしく、

 小ファルたちはずらりと並んでこちらを見ていた。

 その親であるファルは、俺の足元でスピスピ寝ている。


「そもそも見分け、つきますか?」

 ジェラルドが首をかしげる。

「どいつもポメラニアンを大きく丸くして、

 ”キリッ”の顔文字みたいな(ツラ)してるんだよなあ」


 俺たちの物言いに、エリザベートが抗議する。

「あら、全然違うじゃない。フィオナの子は、

 他のファルファーサより毛の色が薄めだわ」

 確かに、他がゴールデンレトリバーみたいな色だが、

 こいつはややクリームに近かった。


「よく見れば、真ん中の子は耳が大きいですね」

 ジェラルドが特徴を発見すると、フィオナもうなずいて言う。

「一番端の子は大柄で、眉が太い気がします」

 微妙な差ではあるが、なんとか見分けはつきそうだ。


 しかしいざ命名となると困惑してしまう。

 ……良い名がなにも思いつかないのだ。


 フィオナが苦し気に、横のジェラルドに問いかける。

「何か良い名前、ありますか?」

「えっ?! 僕ですか?」


 ジェラルドは考え込み、ぽつりとつぶやく。

「……フサ太郎? モコ次郎? 毛三郎……とか」


 俺たちの間に沈黙が流れる。

 こう答えるのがやっとだった。

「この三匹の性別は、まだわからないだろ?」


 今わかっているのは、見た目のわずかな差異と、

 ジェラルドにネーミングセンスが無いことだけだ。


 エリザベートが苦笑しながら提案する。

「シフォン、マカロン、タルト、なんてどう?

 友だちの飼ってた犬、スイーツの名前だったのよ」

「あ! 可愛い! 良いじゃない、それ」

 メアリーが嬉しそうに賛同する。


 フィオナもうなづきかけるが、うーん、と考え。

「それも良いけど、この子たちの

 可愛いだけじゃなくて、強さもあるんですよね」

「確かに。戦闘中に名前を呼ぶなら緊張感も欲しいわ」

 女性陣は輪になって、

 あーでもないこーでもない、を始めた。


 ジェラルドは苦笑し、コーヒーを飲み始める。

 俺もめんどくさくなったので

 ソファーにごろりと横になっていた。


 ヒマそうな俺の横に、三匹はトトト……と歩いてきた。

 一番手前の奴は、オモチャをくわえている。


「ん? 遊んで欲しいのか?」

 オモチャを受け取り、片手で一匹ずつ撫でてあげる。


 そしておもちゃを片手で放り投げて叫ぶ。

「1号、2号、3号、全員出撃だー! ははは」

 転がるように走り出す三匹。可愛いなあ。


 輪になっていたエリザベートが、こちらを見て言う。

「……レオナルド?」

「ん? なんだ? 決まったのか?」

 俺が顔を向けると、エリザベートが歩いてくる。


「あなた、この子たちを今まで何て呼んでたの?」

「え? あれ? 別に何とも呼んでないと思うが」


 エリザベートの問いに、俺は答える。

 しかし彼女は不安顔のまま、

 オモチャを取り合う三匹を見ている。


 そして意を決したように、三匹に向かって呼び掛けた。

「1号!」

 すると、一匹だけがこちらを振り返ったのだ。

 ……嘘だろ? 偶然だよな?


 俺は起き上がり、震える声で試してみる。

「3号……?」

 すると別の一匹が、こちらにダッシュしてきたのだ。

 そして目の前で”何か御用ですか?”という顔で

 俺をみつめてくるではないか。


 メアリーの顔が般若のようになり

 フィオナが膝から崩れ落ちていく。


 エリザベートが声を詰まらせながら俺を責めた。

「無意識なんでしょうけど、あなたって昔から

 名前を覚えるのがめんどくさいのか、

 適当に命名して呼ぶクセあったのよ!」


 俺はそもそも名前を覚えること自体が苦手なのだ。

 だから適当な名で呼び、それで便宜を図る癖があった。

 オリジナル・レオナルドもそうだったとは。


 ……親近感など感じている場合では無かった。

 みんなの目が冷たい。


 フィオナが小声でつぶやく。

「……1号、なの?」


 クリーム色のファルファーサが、

 大喜びでフィオナに向かって走っていく。

 膝に飛びついてきた”1号”を、

 フィオナはぼうぜんと撫で続けていたのだった。


 ************


 ファル、そしてイチゴー、ニゴー、サンゴーを従え

 俺たちは討伐に明け暮れた。

 魔獣の数は減り、問題は収まりつつある。 


 しかし、それだけではダメなのだ。

 4,5年前、急に魔獣が増えた理由は何なのか。


 それらを解明しなくては、たとえ危険度が下がっても

 この地が抱える問題は解決したとは言えない。


 それについて検索しても、答えはシンプル。

 ”ガウールには聖なる力があるから”だった。


 なんの手がかりも見つけられないまま

 ある日、俺たちが討伐から帰ると、

 エリザベートをチュリーナ国王からの使者が待っていた。


 それは先日、この村で傍若無人の振る舞いをし

 捕縛されたアーログたちの裁判に

 エリザベートにも参加を願う伝令であった。


「……仕方ないわね。私が告発したのだし」

「一人では行かせられない。俺も行こう」

「そうですよ、みんなで……」


 それを聞き、エリザベートが首を横に振る。

「ロンデルシアに行った時のように、飛竜を使うわ。

 一人の方が迅速に動けるでしょう」


 それでも俺はOKを出すわけにはいかなかった。

 ”ガウールを世界的なリゾート地にしましょう”

 などと言い出した頃から、エリザベートは時おり

 思い悩む様子を見せていたから。


 少なくとも明らかに、自然な笑顔が減っていたのだ。


 しかしエリザベートは説得するように言う。

「貴方はここを離れるわけには行かないでしょう?」

 痛いところを突かれ、言葉を返せなくなる。


 シュニエンダール国とその第二王子にかけられた嫌疑を

 晴らすためにここに来たのだ。

 チュリーナ国に行くことで万が一、

 ”逃げ出した”と解釈されたら外交的に大変なことになるだろう。


 俺は仕方なくうなずき、

 エリザベートは静かに口角をあげた。


 ……違うんだよな。

 俺が見たいのは、そういう笑顔じゃねえ。


 ************


 そうして”すぐに戻るわ”、と言い残し

 彼女は翌日、チュリーナ国へと旅立っていったのだ。


 飛竜で空を遠ざかっていくエリザベートを見送る。

 ……参ったな。なんだろう、この沸き上がる不安は。


 俺たちは何となく気落ちしながら森に向かった。

 かなり先まで討伐を進めているため

 途中までは馬で進んで行く。


 フィオナは馬には乗れないため、

 ジェラルドの前に座っていた。

 ファルたちは転がるように走り、ついて来る。


 ある程度進んだ時、フィオナが手を挙げた。

「どうした?」

 俺が馬を近づけて尋ねると、彼女は真剣な面持ちで答える。

「なにか、おかしいです。

 森全体がいつもと違います」


 俺たちは周囲を見渡す。一見、いつもの森だが。

「……確かに、静かだな」

「ええ、生き物の気配がしません」

 俺とジェラルドも、その異変をなんとなく感じる。


 ばゔゔゔ……

 ばゔゔゔゔ……


 足元で、耳をぺったんこにし、

 ファルファーサたちはうなっている。

 何か危険が近づいているのだ。


 ゆっくり周囲に霧が満ちていく。

 この時期、森には霧など発生しない。


 これは……まさか。


「おかしいと判っていながら、何をしているんだい?

 周囲を見渡すだけで良いと思ってるのかな?

 ずいぶんと呑気な勇者ご一行だ」


 あざ笑うような、それでいて冷酷な声が響いた。

 俺は、この声を知っている。


 木々がほとんど見えないくらいに立ち込めた霧の中から

 黒いマントの男が現れた。


 俺たちよりかなり年上だが、端正な美貌で若々しい。

 魔導士特有の長い杖に、首に下げたたくさんの宝飾呪物。

 そしてエリザベートと同じ、癖のある黒い髪に赤い瞳。


「思った通り、たいしたことないね。レオナルド」

 そう言って、死んだはずの男が(わら)っていた。


「……キース・ローマンエヤールっ!」

 俺のつぶやきに、ジェラルドとフィオナが目を見張る。


 あの天才魔導士キース・ローマンエヤールが、

 俺たちの目の前に現れたのだ。


 ************


 数年前、王家の強い要請により

 彼は妖魔の融合実験を行った。

 しかしそれは失敗に終わり、彼の魔力は暴走。


 王都の大規模な暴発を防ぐため、

 兄であるローマンエヤール公爵が

 みずから彼に手を下した……とされている。


 だが、それは偽りだった。目の前に立つ、

 皮肉な笑みを浮かべた美貌の男は間違いなくキースだ。

 エリザベートの大好きな、彼女の叔父。


 生きているのは緑板(スマホ)の情報で知ってはいたが、

 実際に目にすると激しく動揺してしまう。


 何しろコイツは、俺の母親の死因である

 ”馬車の事故”の実行犯であることは間違いないのだ。

 とはいえ、殺した理由を検索しても、

 緑板の答えは”未検出”なのだが。


 キースはゆっくりと歩いてきた。

 そして数メートル手前で立ち止まってつぶやく。

「……本当に母親そっくりだな」

 ダルカン大将軍、そしてユリウス神官と全く同じことを言う。


 しかし彼らと違い、その言葉の後、

 ”あの男の血をみじんも感じさせない”、と続かないのは

 俺の父親が誰であるかを知っているからなのだろう。


 あえて、俺は(あお)ってみる。

「じゃあ、たいしたことないのは父親似なんだろうな」


 先ほど俺にそう言ったキースに腹を立てているわけではない。

 彼の()()()()が知りたいだけだ。


 キースは首をかしげ、フッと笑った。

「違うな。あの男を父親だと思って育ったせいじゃないか?

 あれは本当につまらない男だからね」

 雑魚も雑魚だよ……そう呟き続けるキース。


 シュニエンダール国王をここまで馬鹿にするということは

 キース生存の真相は、やはりローマンエヤール公爵家が

 彼を王家から解放するために仕組んだことなのだろうか。


「それにダンがたいしたことないのは、能力値だけだからな」

 キースのその言葉に、親父に対する深い敬愛や信頼を感じる。

 なんなんだ? 敵なのか? 味方なのか?


 彼は俺たちを順番に眺める。

「ふーん。お前と可愛いエリザベートの他に、

 もう2人も()()()()のは予想外だな」


 何のことだ? 俺たちはうろたえる。

「呼ばれた? 誰にだ?」


 俺の問いを聞き、キースは軽く驚いて答える。

「俺に決まってるだろ? まだ()()()()()のか?

 天から落ちた青いイナズマ。あれは俺の魔法だ。

 ”大いなる力”を()()()()()、究極の闇魔法だよ」


 俺たちに衝撃が走った。

 この異世界転移をもたらしたのは、なんと彼だったのだ。


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