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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第二章 新たなる力と仲間

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35.ガウールに隠された怪異

 35.ガウールに隠された怪異


 今まで”情報”は俺たちを助けてくれていた。

 しかしまさか”情報”を得ることでピンチに晒されるとは。


緑板(スマホ)の検索機能に、

 ”知る”ことに、こんな弊害があるとは」

 俺は手にもった緑板(スマホ)を見つめながらつぶやく。


 あの後、夕食時に顔を合わせた俺たちは、

 互いに一目見てわかるほど憔悴していた。

 引きつった笑顔で食事を開始したが

 すぐに沈黙がその場を支配してしまう。


 夕食のメインはベーコンで巻かれた白身魚のソテーで、

 バターで作ったソースが美味しそうではあったが

 なんかもう、味がしなくて必死に飲み込んだ。


 そして食後のコーヒーは俺の部屋に運んでもらい、

 ”明日の作戦会議”という名の反省会を開いていたのだ。


「知りたいことを何でも教えてはくれますが

 それを知るべきかどうかまでは

 考慮してくれませんからね」

 ジェラルドが苦笑いしながら言った。


「”閲覧注意”って出して欲しかったですが……

 出たとしても、ドキドキしながら読んだと思います」

 フィオナがしゅん、と落ち込みながら言う。


 エリザベートは黙って、窓から外を眺めていた。

 外は真っ暗で、何も見えないというのに。


 一生をこの地に縛られることを憂いているのだろうか?

 俺はその心中を案じてしまう。


 俺は立ち上がり、切り替えるように明るく言い放つ。

「いや、これで良いんだ。

 ”あらすじ”にある悲惨な死を回避するには、

 知らないわけにはいかないんだからさ」

 みんなも渋々だがうなずく。


 緑板(スマホ)に書かれたあらすじに”予言”されていたのは

 呪われた地 ガウールにおいて

 人々は苦しみを抱え、嘆き、憂いていることと、

 俺たちもそれに巻き込まれる、という内容だったから。


「じゃあ、情報を整理しようぜ」


 まず、このガウールは大昔より、

 神隠しのように人が消えることがあった。

 しかし他の事例と異なるのは、

 必ずその人の代わりとなる者が()()()()()ことだ。


「村人から外の者へと、強制的に交代させられるのか」

「たとえ誰かにそれを訴えても、

 聞いた人までここから出られなくなるんですね」

 フィオナの問いに、俺はうなずく。


 もし、この秘密に気づいたり知ってしまうと

 ガウールから一歩も出られなくなるのだ。

 この村の者として、永住を余儀なくされてしまう。


「そもそも以前は稀なことで、

 こんなことが起こるのは、数十年に一度だったらしい」

 村人は入れ替わりに気付かず、

 錯乱する本人もそのうち現実を受け入れ

 大人しく暮らしたらしい。


 しかし最近、気付かざるを得ない状況に変わってしまった。


 魔獣の増加と同時に、かなりの頻度で起こるようになったのだ。

 さらには”記憶操作”が追い付かないのか、

 村人の数人が違和感に気付いてしまう。


 ガウールの人々は恐怖を感じ始めた。

 中でも医師であるマーサの不安は相当なものだった。


 しつこく感謝を強要し、患者を家に帰さなかったのは

 独りになるのが恐ろしいあまりに、

 少しでも長く一緒に居て欲しいためだった。


 そして自分の存在価値を強く主張していたのは、

 ”自分の代わりなどいない!”ということを

 目に見えぬ怪異に対して訴えていたようだ。


 涙ぐましい努力だが、その心中を察すると笑えるどころか

 気の毒な気持ちでいっぱいになってしまう。


「……交代の相手は、本人の意思に関係なく、

 訪れた者から突然選ばれるようだな」

 俺は書き上げたリストを見ながらつぶやく。


 農家のピートは元・兵士だ。

 一昨年この地に物資を運ぶために訪れたのだが、

 村に来て数日後の朝、目覚めたら農民になっていたそうだ。

 慌てて仲間の元に向かったが、すでに部隊は出立した後だった。

 まるでピートの存在を忘れてしまったかのように。


 焦ったピートが村の誰に訴えても、

 困惑したように首をかしげるだけだった。


 始めは泣き叫び、なんとかこの地を出ようと足掻いたが

 どうやっても出られずに戻ってきてしまう。


 そして自然に畑仕事へと足が向いてしまい、

 気が付くと農作業をしている始末だった。

 家の中だけでなく、村のことは何でも知っているし

 野菜を育てるノウハウもしっかりあることに混乱しつつ。


 今では兵士だったことが自分の妄想に思えるようになった。


 しかし今でも時おり()()()()()

 恐怖と悔しさ、理不尽さでいっぱいになってしまうようだ。


「それで、トマトを握りつぶしてたんだな」

 彼の苛立ちと悲しみを思い、俺は深く同情した。


 漁師のジャンは魔獣討伐に訪れたハンターだった。

 彼も同様で、ある日魔獣討伐の帰りに

 滞在中の宿ではなく、気が付くと猟師の家に戻っていたと。


 人の家に入ってしまったと飛び出ようとしたが、

 そこにあるのは全て自分のものに思え、

 その翌朝からは何事も無かったかのように漁に出たそうだ。


 牧場主のマイクは物資支給隊の元・御者だ。

 彼の場合はもっと突然で、牛の世話をしている最中

 ふと、丘から村を出て行くキャラバンを見つけた、その瞬間。


 それが自分が御者として参加していた隊だ! と気付いたのだ。

 彼はぼーっとそれを眺めた後……牛の世話を再開した。

 なんでこんなことになったんだろう、そう思いながら。


 薬屋のグレイブは元・商人。

 たくさんの薬草を持ってきて、売っているうちに

 気が付くと定住していたらしい。

 彼がしゃべらないのは、出身が辺境のため

 このあたりの言語が不自由だからだった。


 検索してもこれが”ガウールの問題”として出ないのは、

 この地が抱える問題ではなく、

 拘束された外部の者のみの、個人的な苦しみだからだ。


「本人だけでなく、村を出て行った者の記憶にも干渉できるなんて」

 エリザベートは暗い面持ちで言う。

 失踪者を誰も探しに来ないということは

 恐ろしいまでの強大な魔力を持っている、ということだ。


 そう。この忌まわしい因習の原因となっているのは。


 失踪した元村人がどうなったのかも、

 検索結果は隠さず俺たちに教えてくれた。


 ”()()が食っている”、と。


 そして必ず新たな人間をこの地に縛る理由は

 ”補充のため”と出ていた。

 まるで生け簀にとらえるかのように、

 人間を備蓄しているということか?


 怒りを感じた俺はみんなに告げる。

「俺たちの最初の討伐対象は、魔人(そいつ)に決まりだ」


 ************


 眠れない夜を過ごした翌朝、

 俺たちはどうにか朝食を平らげ、

 全員が戦闘服という”魔獣討伐がんばりまーす!”

 といった格好で、別荘を出発した。


 執事は心から安心した顔をして見送ってくれる。

 ……ごめん。俺は心の中で謝罪する。


「……魔獣討伐から、魔人掃滅に格上げとはね」

「まあな。でも魔人(そいつ)を倒せば問題解決だ」

 ため息交じりなエリザベートのつぶやきに、

 俺は軽く答えたが、彼女の顔色は晴れない。


 そりゃそうだろう。魔人は、魔獣とは大違いだ。

 知性が高く、なにより魔力が半端ではない。

 今回の敵は、大人数の人間に対して記憶操作まで出来るのだ。

 ハイレベルな魔人にちがいないだろう。


 不安いっぱいの俺たちが向かったのは、マーサの家だった。


 すっかり検索が怖くなった俺たちに、

 ”魔人の次のターゲットは医者のマーサ”だと

 緑板(スマホ)はいつものように教えてくれたから。


 マーサの家まで来ると、彼女は前回同様、

 ドアの前で立ちすくんでいた。

 その不安そうな顔は、親の帰りを待つ子どものようだった。


「……すみません、ちょっとお話をお聞きしても」

 ジェラルドが前に進み出ると、

 一瞬その顔に歓喜が浮かんだ。

 しかしそれを打ち消し、キツイ口調で返してくる。


「何のご用かしら? 討伐に一緒に来いとでも?」

「確かにお医者さんが居ると安心かもな。

 そうしてもらえるとありがたいが、今回は別の話だ」

 彼女の自尊心をあげつつ、俺は答える。


 マーサはジェラルドと俺を見て、頬を赤らめた後

 次にエリザベートとフィオナを見て一瞬顔をゆがめた。


 そして彼女たちを上から下までチェックする。

「女の……兵士よね? まあいいわ。

 全員さっさと入りなさいっ!」

 そう言ってドアを開け、家に入っていく。


 俺たちも顔を見合わせてうなずき、後を追った。

 そして部屋に入ると、マーサに向き合う。

 彼女が何か言う前に、俺は本題を切り出した。


「単刀直入に言います。

 俺たちはこの村の”秘密”を知り、

 それを解決するために来ました。

 ……もう二度と、誰も失踪者を出さないように」


 マーサは最初、体が伸び上がるほど驚いていたが、

 俺の言葉に安心し、力が抜けたように目を閉じ、

 ふらふらと椅子へと座り込んだ。


 そしてゆっくりと目を開きながら、弱々しくつぶやく。

「……次はどう考えても私なのよ。

 だから独りになりたくなかった。

 もう、どうなってしまうのか分からなくて」


 こりゃあ、”行方不明者は魔人に食われている”とは教えにくいな。


「今まではどうして大丈夫だったんですか?」

 ジェラルドの問いに、マーサは苦笑いを浮かべる。

「交代される条件は2つありますの。一つ目は、

 ”新しい者はその村人がやっていた仕事を引き継げるか”」


 兵士に農作業は可能だ。

 御者も、動物の扱いには慣れているだろう。

 漁師が猟師になるのはちょっと無理があるが、

 できないことはない……実際、ジャンは旨い魚を取ってくる。


 どの仕事も、ちゃんと”知識”や”ノウハウ”は引き継がれるのだ。

 だからなんとか上手く回せているのだろう。


「商隊が医師を伴ってくることもありますよね?」

「ええ、でも。もうひとつの条件のおかげで助かったわ」

「2つめの条件とは?」

「性別よ。私の代わりは、

 ”女で治療が出来る者”でないとダメだったの」


 俺たちはああ!、とうなずき、

「それならまあ、滅多にはいないな。

 ガウールまでの困難な道のりを考えたら」

 あの野営が連続する日々を思い出し、俺たちは納得する。

 女性の医師が志願する確率はゼロに近いだろう。


 初めて秘密を人と共有することができ、

 マーサの不安はかなり解消されたのだろう。

「あら、お客様なのに……私ったら!」


 余裕の生まれたマーサは

 俺たちにお茶を入れながら微笑んでいる。

 初対面の時、怒涛の勢いでクピダスを罵っていたのが嘘のようだ。


 これなら穏便に会話を進めることが出来、

 協力してもらうこともできそうだ。

 俺たちの間にも安堵の空気が広がっていく。


 マーサは茶葉を蒸らしている間、

 フフッと笑いをもらしてつぶやく。

「まあこんな場所ですし、聖職者だって来るはずないのに。

 だからそんなに心配ないんですけどね……」


「えっ? こんな場所って……何故です?」

 フィオナが驚いて尋ねる。

 マーサはカップをそろえながら答えた。


「ああ、()()()()はご存じないかもしれませんね。

 聖職者の間では有名ですわ。

 ガウールには”禁忌の印をつけられた妖魔”の

 出現率が異常に高い、って」

 俺たちはその言葉に息をのんだ。


 ”禁忌の印をつけられた妖魔”。

 それは聖職者の天敵で、

 聖なる力を封じてしまう力を持った特別な妖魔だ。


 ごくまれに存在する妖魔なのだが、

 まさかこんな辺境に実在していたとは。


「ではここには聖職者、いないんですか?」

「ええ。……4,5年前からかしら? 

 嵐で古い教会が倒壊してしまい、

 残念ながら亡くなってしまったの。

 それ以来、誰もいないわ」


 魔獣が増加した時期と重なるのは、偶然だろうか。

 いや、それよりも。


 困惑する俺たちをよそに、

 マーサはカップへと、均等に茶を注ぎながら笑う。

「……聖職者の女なんて来た日には終わり、よ。

 間違いなく、私の入れ替わりが起こるわ」


 俺たちはその言葉に凍り付く。


 マーサはのんびりと笑って続ける。

「”治癒の力”を持つ、なんて。私とまったく一緒だもの」

 フィオナが目を見開いて絶句する。


 俺たちは取り返しが効かないミスを犯したのだ。


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