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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第二章 新たなる力と仲間

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34.深淵をのぞく代償

 34.深淵をのぞく代償


 結末が再び”バッドエンド”に書き換わったことを知り、

 俺たちはいったん別荘に戻って話し合うことにした。


「まだ諦めてなかったか。

 正体不明のシナリオライター”俺たちを絶対殺すマン”」

 俺は頭を抱えて唸る。


「こんなにも美しく豊かな村なのに、呪われた地だなんて」

 ジェラルドも片手を額にあてて絶句する。


 エリザベートが眉をひそめて言う。

「”その命をガウールに捧げる”ってどういうこと?」


 フィオナも心配そうにつぶやく。

「この村に何が起こっているのでしょう?」


 ”魚や貝が取れる綺麗な海があり、

 風光明媚な丘陵地にはヤギや牛が放牧され、

 野菜や果物など食物豊かな土地”


 このガウールという場所についての情報はそれだったが。

「まあ、嘘はないわね。全部その通りだったし」

 エリザベートが苦笑いしながら言う。


 しかしこの地は、魔獣が異常発生している以外にも

 何か問題があるのだ。


 ジェラルドが沈んだ顔で話し出す。

「やけに良い話には裏があるものです。

 以前、友人が見つけた物件が

 駅近で築浅、広さも充分なのに

 あり得ないほど格安だったんですが……」


 フィオナが怯えたように尋ねる。

「……もしかして、事故物件ですか?」


「はい、殺人の。しかも何人も手にかけており、

 全員の遺体を風呂場で解体し、密封して

 クローゼットに収納していたそうです。

 被害者の髪の毛束だけ、壁に飾っていたと」


 ジェラルドの丁寧な説明に、

 フィオナは小さな声をあげてクッションを抱きしめた。


 俺は起き上がって緑板(スマホ)を手に取った。

「この土地には別に、なんの因果もなさそうだけどな」

 歴史的に検索しても、侵略の対象にすらならない辺境地だ。


「因果ね……それって実際どのくらい、

 ”今”に影響をもたらすのかしら」

 エリザベートが首をかしげ、ジェラルドが同意する。


「そうですね。事故物件は心霊現象を恐れるものですが

 過去にその地で起きた出来事に

 関連した何かが起きるのでしょうか」


 俺たちの会話に、フィオナがハッ! と気が付いたように

 中腰て椅子から立ち上がって叫ぶ。

「そういえば! うちの近所で!

 以前ケーキ屋だった場所に、

 歯医者さんができたことがありました!」


 ……。


「まずは彼らが苦しんでいる理由を探り、

 その原因を取り除く力になりましょう」

 ジェラルドの言葉に、全員がうなずく。


「”ガウールの人々が抱えている問題”で検索しても

 ”周囲に魔獣が増え孤立したこと”って出るわね」

 ……そうだよな、それを何とかするために俺たちが来たんだし。


「ガウールの医者マーサさんの悩み事は……

 ああっ! この質問はダメですっ!

 皆さん! 別の言葉で検索してくださいっ!」

 ジェラルドが顔を赤くして叫んだ。


 かなり個人的なことなのだろう。

 ジェラルドは自分を戒めるようにこぶしで額を叩いた。


「今更だけど恐ろしいわね、この検索機能」

「本当ですね、どんなこともわかっちゃうなんて」

 エリザベートとフィオナが怯えた表情になる。


 そして俺たちを見て、凍り付くような声で言う。

「”お互いに関することは、絶対に検索しない”。

 そういうルールを作り、厳守しましょう!」


 俺とジェラルドはウンウンうなずく。

 それでも彼女たちは疑わしい目で俺たちを見てくる。

 何がタブーなんだ? 体重とかか?


 厳しい視線を振り払うように、

 俺は勢いよく立ち上がって言った。

「とにかく、村人たちの情報を集めよう!」


 しかしこの後、”情報を得ることの恐ろしさ”を

 俺たちは思い知ることになったのだ。


 ************


 ”この村について知りたい”と頼み込み、

 老執事に時間を取ってもらうことにした。


 食堂の長いテーブルに、俺たち4人は向かい合って座り

 端っこに老執事とその妻であるメイド頭が立っていた。

 彼らはとても礼儀正しいのだが

 あまり表情がなく、感情というものを感じなかった。


「何なりとお聞きください」

 老執事は斜め下に視線を落としながら言う。

 その様子に少々違和感を感じながら、

 俺たちは質問を始めることにした。


 テーブルの上にガウールの地図を置き、

 俺たちはそこに主だった施設の主の名を書き込んでもらう。

 その中には、あの幼い兄妹が

 恐れたり嫌ったりしていた名前もあった。


 人名と職業が書き込まれた地図を見ながら、

 俺は老執事にたずねる。

「ガウールで、魔獣以外の問題は起きていないのか?」

「はい、とても平和な地でございます」

 よどみなく彼は答える。


「薬屋のグレイブはなぜ無口なの?」

「もともと寡黙な男だと聞いておりますが」

 エリザベートの問いにもさらっと応じる。


「牧場主のマイクさんって

 いきなり殴りかかってくるんですか?」

「いいえ、そのようなことは一度もございません」

 フィオナの質問には、執事ではなく、

 メイド頭が無表情のまま即座に答えた。


 ……だんだん怪しくなってきたな。

 子どもは嘘をつくが、大人はそれ以上に大嘘つきだ。


 例えばあり得ないことを聞いた時、

 聞き返して確認する人の方が多いだろう。


 ”〇〇さんって泥棒なの?” と聞かれたなら

 ”え?! あの○○さんが? 泥棒?”というように。


 それなのに、メイド頭は即答で否定したのだ。


「漁師のジャンさんは、なぜ()()()()()()()お怒りなんですか?」

「農家のピートって奴もトマトを握りつぶしてたな。

 みんな、何か不満でもあるのか?」

 ジェラルドと俺は、否定されないように、

 あたかも自分が見てきたかのように問いかける。


 老執事とメイド頭は二人とも一瞬だけ黙ったが

 すぐに何でもないことのように言葉を返した。

「何か不快な出来事に見舞われたのでしょう。

 わたくし共には、それが何か及びもつきませんが」


 そうか。あくまでも”普段は何もない”を貫くのか。


 俺は二人をじっと見つめた。

 彼らはけっして敵だとは思えない。

 しかし、何かを隠している。それも必死に。


 握りしめた老執事のこぶしを見ながら、

 俺は笑顔でお礼を言った。

「ありがとう。この村について十分知ることが出来たよ」

 執事とメイド頭が同時に、フワッと緊張が解いた。


 名前などの情報を得たから、もう十分なのだ。

 後は緑板(スマホ)が教えてくれる。


 メイド頭がドアの前で礼をし、退出していく。

 その後を追い、老執事が深く礼をして。

 頭を下げたまま、一言つぶやいた。


「知らぬが仏という言葉がございます。

 知るということは、己が変わるということです」

 これ以上は、詮索するなということか。


「……今日はもう、どこにも行かないよ。

 明日からはずっと魔獣退治だ! 頑張ろうな!」

 俺はそう言って、他の三人と顔を見合わせる。

 老執事はあからさまにホッとしたようだった。


「感謝いたします。どうかお気をつけて」

 そして老執事は部屋から出て行った。


 彼が出て行ったドアを、

 俺たち4人はしばらく見つめていた。


「平穏な村を乱さないで欲しい、って願いでしょうか」

 ジェラルドが心配そうに言う。


 エリザベートはそんな彼に笑いかけ、

「大丈夫よ、私たちには嗅ぎまわったりしなくても

 調べる手段はあるのだから。

 たとえ彼らの秘密を知っても、

 知らないふりしたまま解決策を探すことができるわ」

 そう言って緑板(スマホ)を出してみせた。


 俺たちは笑顔を取り戻し、自室に戻ることにする。

「じゃあ、また後でな」

「ええ、食後に集まりましょう」

「夕食楽しみです! 何がでるかなあ」

「そうですね。魚も肉も美味しいですから」

 そんなことを言いながら、明るく別れる。


 そしてそれぞれの部屋で、

 緑板(スマホ)を片手に検索しまくった。

 ガウールについてだけでなく、

 さっき知った村人たちの名前、

 そして執事やメイド頭について。


 次から次へと。

 留まることなく、延々と……


 ************


 あまりにも夢中になり、気が付くと夜になっていた。

 俺はぼうぜんとしながら、

 何も見えない真っ暗な外を眺める。


 そして突然、ものすごい後悔に囚われ

 床にしゃがみ込んでしまう。


 老執事は言ったじゃないか!

 ”知らないこと”が大切だと。


 ”村を嗅ぎまわるな”とか、”平穏を乱すな”なんて

 一言も言わなかったじゃないか!


 彼は俺たちが緑板(スマホ)を持っていることなど知らない。

 部屋にいたまま”秘密を知ることができる”なんて

 夢にも思わなかったんだろう。

 だから安心した様子をみせたのだ。


 俺は混乱しながら、哲学者ニーチェの言葉を思い出していた。

 ”深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ”


 そのフレーズを思い出した時。


 トントン。

 ドアをノックする音がして、俺はさっと身構えた。


 恐る恐るドアを開けると、

 そこにはエリザベートが立っていた。

 その顔は青ざめ、美しい瞳は濡れている。


 ……そうか、そうだよな。

 4人とも全員、検索しまくったよな。


 エリザベートが震える声で尋ねた。

「……知ったわよね?」


 俺はあえて笑顔を作ってうなずく。

「ああ、()()()()よ」

 泣き出しそうな彼女の肩に手を置き、俺は結論を告げた。


「俺たちはもう、このガウールから一生出られなくなった」


 ガウールの秘密を知った者は、その秘密の一部となり

 この地に拘束され、出ることができなくなる。


 これがこの地にかけられた”呪い”なのだから。


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