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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第一章 異世界転移と悲惨な結末

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24.パーティの始まり

 24.パーティの始まり


「……俺の馬鹿野郎」

 頭を抱える俺に、エリザベートが追い打ちをかける。


「ほんっとバカね!

 フェラーリで公道を突っ走るからよ!」

 返す言葉もなく、うなだれてしまう。


 俺は以前、レオナルドの外見を”フェラーリ”に例えた。

 超美形として異世界転移したが、

 調子に乗らない自信がある、と言いたくて。


 しかし実際は、自分のルックスが周囲に与える影響に

 無頓着でいるほうが大問題だったのだ。

 この飛びぬけた美貌で、エリザベートやフィオナ以外の女性に

 優しくフレンドリーに接すればどうなるか。


 俺は転生前の(オリジナル)レオナルドが女性に対して

 態度や口が悪かった理由をひしひしと痛感する。


「えーと、”フィリップ王子は魔獣ギドラスを見て、

 護衛と共に泣き叫んで逃亡。

 そのまま渓谷に転落、行方不明になった”」

 フィオナが、緑板(スマホ)に出た”事実”を読み上げる。


「恥をかかされたレティシア嬢は激怒。

 父親の侯爵に”第三王子は軍で腕を磨いた腕前”と聞いた故、

 代わりに彼を寄こすように懇願、侯爵はこれを受諾した」

 ジェラルドがその続きを読む。


 レティシア嬢はおそらく、

 これで俺が、フィリップの代わりに活躍すれば

 婚約者を俺に変更できる! と踏んだのだろう。


「……マズイな。行かないわけにはいかないし、

 活躍するわけにも、しない訳にもいかないぞ」


 すでに出陣命令は出ている。

 国王はおそらく歓喜しているだろう。

 アイツは前々から俺を、危険な魔獣の出現場所か

 戦争の激戦区へ送り込むつもりだったのだから。


「楽しみにしておれ。最も過酷な場所に送ってやろう」

 何度、面と向かって言われたことやら。


 ”……そんなに死んでほしいなら、

 さっさと刺客でも向かわせれば良いものを”

 そう思いながらも、俺はうすうす気が付いていた。


 国王は、何か”神に対する誓約”を立てている。

 それがどんなことなのか誰も知らないが、

 死んだ母親が関連していることは間違いないだろう。


「誓いを破るおつもりですか?

 ご自分のお命と引き換えに」

 そう言って国王を見据(みす)える母親を、

 俺は覚えているからだ。


「……明日の朝には出立ですよね?」

 フィオナの不安そうな声で、我に返った。

「ああ、そうだ。行くのはもう避けられない。

 後はどうやって、活躍しつつ業績を残さないか、だが……」


 俺はそう言って顔をあげると。

 そこに見えたのは、剣をせっせと磨くジェラルドと

 さっさと帰り支度をするフィオナとエリザベートだった。


 ドアを抜けながら、エリザベートが言う。

「じゃ、任務を終えたら現地に直行するわ」

 彼女に続き、フィオナも出て行く。

「私は朝、こちらに来ます。早起(はやお)きしないとなあ」


 あぜんとする俺に、ジェラルドが笑った。

()()()()試行錯誤しようと言ったのは、あなたですよ」


 ************


「兄の王族にあるまじき行動、誠に恥じ入るばかりです。

 皆様にも深く陳謝し、行動をもって償うことを誓います」


 俺はロンデルシア軍の前で、片膝を付き口上を述べた。

 兵士はみな恰幅が良く、筋肉隆々だ。

 無骨な鎧をまとい、腕を組んで仁王立ちしている。


 全員が冷たい目で見下ろしているが、

 一人、特に激怒している男がいた。

 横にレティシアがいるところを見ると、おそらく彼女の父親だ。


 その男はドシドシと歩いてくると、俺の首元に刀を突き付け

 ものすごい大声で怒鳴り散らす。


「俺が娘の相手に、と決めたのは、

 あの男が”卓越した戦闘能力”を持つと称したからだ。

 シュニエンダールが公表している奴の戦歴は

 全て偽りだったと言うのか!」


 ……はい、その通りです。


 とは言えずに、俺は首をひねって答えた。

「まさか、そのようなことは。

 それについては、兄が戻り次第、

 本人に確認していただきたいと存じます」


 なにか言いかけた侯爵に俺はハッキリと告げた。

「俺はたいした属性を持っておりません。

 剣技は……まあ十人並みといったところでしょう。

 これは確かに、公表されている通りです」


「では、どのように魔獣と戦う?」

 顔を真っ赤にした侯爵を手で制し、

 その後ろから出てきた男が言った。


 黒々とした長い髭に太い眉、背負った巨大な刀。

 歴戦の武将、といった風体を持ち、

 皆が彼に一目置いているのがわかる。


「ダルカン大将軍……」

 侯爵が、彼の名をつぶやく。

 俺の右後ろで、ジェラルドが息を飲んだ。


 大将軍は優しい眼差して、彼を見てうなずく。

 すると侯爵に、落ち着きと冷静さが戻った。

 ……何という信頼の高さだ。


 ロンデルシアのダルカン大将軍。

 その武勲は数多に登り、名を知らぬ者はいないだろう。

 エリザベートの父がシュニエンダール(うちの国)の英雄なら、

 ロンデルシアでは彼がその地位に相当する。


 俺は彼に見下ろされながら答えた。

「戦い方は、魔獣によって変わります。

 ……今回の襲撃で、最も凶悪な魔獣は何でしょうか」


 ダルカン大将軍は目を見開いた。

 そして俺の顔をじっと見ながら答える。

「東の森に現れた”大蛇グローツラング”だ」


 ……ああ、知ってるよ。緑板(スマホ)で調査済みだ。


 俺は片膝を付き、大将軍に宣言する。

「承知しました。ではさっそく、

 大蛇グローツラングの元に向かいます」

 そう言って立ち上がる。


「待て! 軍は? どこに待機している?!」

 大将軍が驚いた声を出す。


 国王(おやじ)が俺に、軍なんて貸してくれるわけねえだろ。

 俺は両手を広げて左右を指し示す。

「これが、俺の軍です」


 右には軍服を着たジェラルド、

 左には神官衣のフィオナが立っている。

 静まり返るロンデルシア国の軍隊。


 誰かがつぶやいた。

「軍というより……パーティじゃないか」


 そこに、飛竜の影が横切った。

 バサバサと翼をはためかし、近くに着陸する。

「遅くなって申し訳ございません」

 そう言って戦闘服である黒衣をまとったエリザベートが降りてくる。


「あれは! ”ローマンエヤールの切り札”」

「”暗黒の魔女”か。なるほど、彼女がいるなら……」


 俺は彼らを振り返って言う。

「大蛇グローツラングに闇の魔力は効きません」


 そうなのだ。事前に緑板(スマホ)で調べて、

 ”最も手強い奴”を相手にすることにしたのは良いが

 運悪くそれは、闇の魔獣 大蛇グローツラングだったのだ。


「では、どうやって倒すつもりだ?」

 不思議そうな顔をする大将軍に、俺は笑顔で答える。

「それは現場で考えます」


 ************


 結局、俺たちには見張りが付いたようだ。

 馬で移動する俺たちの後方には、

 ダルカン大将軍とその部下たちがぞろぞろとついて来る。


 最初それを見つけた時、俺はつぶやいた。

「別の場所の討伐に行った方がいいんじゃねえの?」


 隣の馬でエリザベートが肩をすくめる。

「空から見たわ。ほとんどの場所は討伐済みだったの。

 どのみち彼は、このあとグローツラングを

 倒しに行くつもりだったのよ」


 俺たちが失敗、もしくは逃げ出したら、

 代わりに仕留めるつもりなのだろう。


 森を進む中、たまに魔獣が現れるが、

 ジェラルドやエリザベートの敵ではなかった。


 しかし、ジェラルドの様子が何やらおかしい。

「どうした? ジェラルド」

 彼は不思議そうに、倒したばかりの妖魔グールを見ている。


「前回、デスワームを倒したのが

 ジェラルド(この体)に転移して初めての戦闘でした。

 戦ってみて、すごい! と自分で思ったんです。

 (ジェラルド)がこれまで努力を重ねてきた記憶があるので、

 なるほど流石(さすが)だ! と納得したのですが」


 俺たちはうなずく。しかしジェラルドは首をかしげる。

「でも、あの後、何度か剣をふるいましたが、

 あの時ほどの動きは出来ないのです」


 俺は申し訳なくなり詫びた。

「悪いな。俺の護衛じゃ腕が鈍るかもしれないな」

 ジェラルドは慌てて首を横に振った。


「いいえ、とんでもない! 鍛錬のメニューは変えてません。

 みんなとの会合の時間以外は全て、

 軍の練習場をお借りして訓練してますから」

「それじゃ、一体……」

 フィオナが言いかけた時、それをジェラルドが制する。


 俺たちは制止し、瞳だけを動かした。

 大地が揺れている。……何かが接近しているのだ。


 俺たちは馬を降り、身構えようとした時、

 ジェラルドが俺に早口で叫んだ。

「王子! 私にまた補助魔法をお願いします!

 ()()()と同じ種類と数値で!」

「お? おう!」


 理由を聞く間もなく、俺はすぐに彼の背に手を当てた。

 デスワームを倒した時と同じ、

 補助魔法の最大値である”レベル9”の力で

 彼の素早さと攻撃力を上げる!


 彼の体が発光するのと同時に、

 木々の間から、化け物ゴリラみたいな魔猿ヨーワが

 鋭い爪を振り上げながら飛び出してきたのだ!


 ジェラルドはその真横に跳躍し、光の速さで剣を振る。

 地面にバサリと、魔猿の両腕と、毒針の付いた尾が落ちる。


 ギャーーー!


 そしてとどめに首を落とし、すばやく頭部を蹴り上げた。

 魔猿ヨーワは首を落とされても数分は生きているため、

 噛みついてくることがあるからだ。


 あまりにも素晴らしい剣技だった。

 さっきまでも充分にすごかったが、今のはレベルが違う。


 ジェラルドは剣を振って血を落とし、鞘にしまった。

 そして俺たちの元に戻ってきて言ったのだ。


「今回の件でハッキリしました。

 あなたの能力は卓越したものです!」


「え? 俺の補助魔法が?

 あんな小さな数字だぜ?」


 ジェラルドはじっと俺を見ている。俺はつぶやく。

「……小さな、数字?」


 俺とジェラルドは同時に叫んだ。

()()か!」


 エリザベートとフィオナがぽかん、としている。

 俺は彼女たちに言った。

「俺の数字は、累乗の指数だったんだよ!」


 フィオナが思い切り顔をゆがめて言う。

「それ、高校で文系選択でも習います?」

「落ち着け……中1で習うぞ」


 俺は地面に”2”と描き、その右肩にちょこんと小さく”3”を描いた。

「これが2の3乗」

「ああ、なんだ! 2×2×2かあ! なあんだ~」

 フィオナが安心した声を出す。安心したのは俺のほうだ。


 エリザベートは目を輝かせて言う。

「……じゃあ私の魔力に”9”なんて設定したら!」


 その時、ジェラルドが手を挙げた。

 何か、聞こえてくる。


 シュル……シュルシュル……

 バキバキバキ……

 地を這う音。樹木が倒される音。……この音は。


 大蛇グローツラングの移動音だ。

 木々をなぎ倒しながらこちらに向かってきている。

 魔猿ヨーワはこれから逃げてきたのだ。


 微動だに出来ない俺たちの前の大木が

 メキメキメキ……と倒され、その横から。


 頭の横幅が2mはある、超・巨大な蛇が顔を出した。

 真っ赤な舌をのぞかせながら。


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