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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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125.オリジナルの復活

 125.オリジナルの復活


 ローマンエヤール公爵家の飛竜隊は降りてくると

 開口一番に俺たちに告げた。

「公爵様がお戻りになりました!」


 一昨日、この国の北方に”巨人キュクロープス”が

 昨日は北東の海に”大海獣リヴァイアサン”が出現との報を受け

 被害が出る前に、と単身で向かったそうだが。


 わずか1日で、その両方を倒してくるとは。

 さすがはこの国一番の強者だ。


 王妃の力が”強大な未知のもの”であり、

 全国民を人質に取られている以上

 公爵家は王家に手が出せなかったわけだが、

 それが無ければ、王族もグエルなど教会の幹部も

 彼とエリザベートで瞬殺できたのではないかと思ってしまう。


 まあ、確たる証拠ひとつも提示できぬまま、

 ただ総攻撃で公爵家が王族を滅ぼしたとなれば、

 国民からも他国からも不信感を持たれ、

 非難を浴びることは間違いないのだが。


 エリザベートは笑顔で彼らに命じた。

「では王妃を父の元に連れて行ってちょうだい」


 彼らは一礼し、王妃を縄と魔法で捕縛した。

 そして彼女を飛竜に乗せ、先に戻っていく。


 俺たちは他の飛竜に乗り、”祈りの塔”を見下ろした。

 眼下には塔と闘技場の間に大魔獣ファヴニールが陣取り、

 口から黒炎をちらつかせているのが見えた。


 ファルファーサたちもその周囲を駆けずり回り、

 第2軍の兵をかく乱している。


 俺が闘技場に着いた時、

 第2軍がその周りを包囲しているのを見つけたのだ。

 エリザベートや公爵家が何らかの理由で抵抗した時に

 武力で押さえつけるためだろう。


 だから俺が大魔獣とファルたちに頼んだのだ。

 ”第2軍が動いたら、奴らを制圧してくれ”、と。

 彼らのおかげで、第二軍は混乱するばかりで何も出来なかったようだ。


 街中ではところどころ煙があがっている。

 建物や橋の倒壊など、たいした被害が出ていないのは

 キースのおかげだろう。


 街ではシュバイツ公爵家のディランが指揮を取り

 チュリーナ国など他国の聖職者たちと共に

 この国の魔属性に侵された教会の幹部を

 一斉に捕縛、または討伐している。


 王宮ではローマンエヤール公爵家の指揮のもと

 大臣や宰相など、主だった者たちが次々と捕らえられていった。


 彼らも王妃が異常と知りつつ、

 自分たちの利益になるなら、と媚を売り、

 私腹を肥やし、国民を苦しめてきた罪人だ。


 飛竜の上で、俺は思わずつぶやく。

「こりゃ王宮で働く人を、民間から募集しないといけないな」

 エリザベートもうなずく。

「ええ、そうね。きっと優秀な人がいるわ。

 魔獣討伐で得た希少な品々を見て、

 ”子どもが森で拾ってくるようなもの”なんて判定しない方よね」


 そうだ。下らねえ私情で

 国益を損なうようなことがあっちゃ困るからな。


 そうして俺たちは笑い合い、王宮で指揮を執る

 ローマンエヤール公爵の元へと向かったのだ。


 ***********


 あれから一週間たった。

 後始末に追われ、毎日が嵐のように過ぎていく。


「で、どんな感じだ?」

 俺はみんなに尋ねる。

 あれから休む間も無く時間が過ぎていき

 俺たち4人が集まれたのは、なんと三日後の夕食時だった。


 ジェラルドが嬉しそうに言う。

「聞いてください。()()()()()が出てたんです」

 彼が軍の混乱を収めるために必死に走り回っている最中、

 かつての仲間たちに声をかけられたそうだ。


「ジェラルド! 無事で良かった!」

「聞いたぞ! 俺たちの家族を助けてくれたんだってな!」

「……オリバー! みんなも!」

 王妃が彼らの家族を人質にし、ジェラルド暗殺を命じたのだ。

 しかし彼とキースが”死”を偽装することにより、

 彼らを救うことができ、王妃の目論見は失敗に終わった。


「……ごめん、本当にすまなかった」

「どんなに詫びても許されない。俺たちはあの時……」

 謝罪する彼らに対し、ジェラルドが”気にするな”と言おうとしたら。

 口が勝手に動いたんだそうだ。


「約束しただろう? ()びたり(なげ)くのではなく、

 ”任務の失敗は、任務で取り返す”、と」

 それはオリジナル・ジェラルドがかつて、

 訓練に明け暮れていた頃に仲間と交わした約束だった。


「そして、()()は再び手を取り合ったんです。

 力を合わせ、一緒にこの国を守っていこう、って」

 すごく嬉しそうに、安心したように転移者が笑う。


「良かったですね! ()()()()も、いろんな人と話せたんです!」

 彼女もまた、街の教会を回るうちに、

 いろんな人にお礼を言われたり、無事を喜ばれたそうだ。

「イザベル伯爵夫人……ディラン様のお姉様がね、

 私に謝ってくれたんです。

 ”わ、悪かったわね”、みたいな感じに、ツンデレの極みで」


 ”扇で顔をパタパタするのが仕事”、みたいなあの女が、

 教会の立て直しのために必死に働いているとは聞いていたが。


「なんとべリアさんも、私にお礼のお手紙をくれました」

 (あやま)ったら死ぬ病気の人でも、お礼は言えるのか。

 元・聖女として断罪され、力を絞り取られた彼女。

 今後はチュリーナで修行のし(なお)しをするらしい。


()()()()はいろんな人と、ビクビクせず、

 ”自分の言葉”で話すことができるようになったんです!」

 ドヤ顔で報告するフィオナを俺はからかう。

「また自分を名前呼びする痛い奴になってるぞ」


 俺のツッコミに、フィオナは一瞬つまった後。

「……いいんです。ディラン様は

 どんなフィオナでも良いって言ってくれましたから」


 今回ディランは、シュバイツ公爵家(彼の家)

 爵位をはく奪される恐れもあったにもかかわらず

 フィオナを守り、教会の不正を排除する行動を選んだのだ。


「”形だけの溺愛”ではなかったわね、フィオナ」

 エリザベートとフィオナが目を合わせ、微笑みあう。


 俺も彼らに、今日の出来事を報告する。

「俺は王族として、他国を始め

 多くの貴族や国民代表から尋問を受けたんだ」


 それは正直、キツイものだった。

 俺が王家の罪になんら関与していないのは明らかだが

 だからといって許されるわけではないのだ。


 事実関係の経緯や説明をしなくてはならないし、

 王族として、彼らの”怒り”を受け取る必要があった。


「いったいどうしてこのような事態になったのですか?」

「なぜ気が付かなかったのでしょうか」

「もっと早くに阻止する手立ては本当に無かったのですか?」

 矢継ぎ早に向けられる彼らの非難や抗議に

 俺はひとつひとつ向かい合おうと……したのだが。


 いきなり誰かに引っ張られるように()()()()()()()のだ。

「今回の件、知る限りのことは全て白日の下にさらし、

 不明な部分はあらゆる手段をもって解明することを約束する」


 語っているのはオリジナル・レオナルドだった。

 彼の意識が、”責められるのは俺だ、お前じゃねえ”

 そう俺に告げていた。


「だから、全部まかせたんだよ。

 だってこの先は、この混乱した国を

 本人が解決し、治めていくんだからな」


「本人たち、でしょ?」

 エリザベートが俺をつつき、ジェラルドもうなずいて言う。

「もちろん。僕たちもお力添えさせていただきます」


「私たちだけじゃないですね、もう。

 たくさんの人が、王子の味方です!」

 フィオナが言う通りだ。

 俺たちはもう孤独ではないし、絶望もしていない。


 が、しかし。

 エリザベートは困ったように言う。

「でも……()()は全然出てこないの」


 俺たち三人も困惑してしまう。

 オリジナル・エリザベートの気配がないとは。

 レオナルドが危険にさらされるたびに、

 あんなにちょくちょく出て来ていたのになあ。


「それに、うちの両親に問い詰められてしまって……」

 ローマンエヤール公爵夫妻に?!

 俺は一気に血の気が下がる。

 もしかして、俺の求婚が問題だったか?


 言いにくそうにうつむき加減で話していたエリザベートは

 思い切ったように顔をあげて俺に言う。

「あなた、王命を出すフリをして、紙に書いたでしょ?」

 一瞬何か分からなかったが、すぐに思い至る。


 ”俺がこのシュニエンダールの王となる”と宣言した後、

 それに反対する貴族を抑えるため、

 この国の筆頭公爵家であるローマンエヤール公爵家と

 ”暗黒の魔女”エリザベートが

 俺への服従の意思を表明したのだ。 


 その時に俺がさらっと紙に書いて命じたのは、

 ”我が命に従い戦え!”、なんて物騒なもんじゃなく、

 レオナルドがエリザベートに真に望むこと、

 つまり”笑ってほしい”だったのだ。


 だから俺は書いた。

 ”笑ってもっとBaby”、と。

 レオナルドはエリザベートを、

 幼い頃から”エリー”と呼んでいたから。


「あれが、どうかしたか?」

 俺の問いに、エリザベートは口をとがらせて抗議する。

「あれは、無理よ。うちの両親だけじゃない。

 この世界の人には通じないわ」

 あの紙を円卓にのせ、公爵家夫妻だけでなく識者までが

 この文の意味するところを解明せんと集まっていたそうだ。


 ”これはどういう意味か分かるか”と問われ、

 エリザベートは恥ずかしさと笑いをこらえながら

 ”……歌詞です。彼はふざけただけだと思います”と答えたそうだ。


「交際相手の親にラブレター読まれるくらいキツイですね」

 フィオナが赤くなった俺を見ながらつぶやく。

 とりなすようにジェラルドが言う。


「あの歌詞を選んだのは()()だが、

 それは彼の気持ちにピッタリだったからでしょう?」

 俺は照れ笑いでうなずいた後。


 ふと思い出し、エリザベートに告げた。

「……あの曲、イントロから聞かせてやれよ。

 親世代で有名な曲だし、

 記憶を頼りに脳内で再生できねえか?」

 エリザベートは首をかしげた後、

 ……できるかも、とつぶやく。


「えっイントロ? あれって、何て言ってるんですか?

 すごく知ってる曲だけど、聞き流してました」

 フィオナが不思議そうに尋ねる。

 俺は、あの部分の和訳を教えた。


 ”戻っておいて。

 ため息をつくことはないんだよ。

 もう、誰も君を邪魔する者はいないのだから”


 しばしの後。


 エリザベートの目から涙が零れ落ちる。

 それはオリジナル・エリザベート……

 ”エリー”の流した涙だった。


 彼女は俺を見て、そして、ぎこちなく笑った。


 そうしてオリジナルの4人は徐々に、体に戻り始めた。

 俺たちの意識と引き換えに。


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