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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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123.王妃を断罪するもの

 123.王妃を断罪するもの


 元世界からこの異世界に流れ込んでいた、不思議な光の力。

 それをこの世界において、初めて発見したのは王妃だった。


 ファンタジーな異世界にとって、

 最初はなんの性質も持たなかった()()は、

 ”これは自分のための正義の力だ”という王妃の強い思い込みによって、

 その性質が決定づけられたのだろう。


 つまり王妃が力の支配者(ルーラー)となり

 彼女が”不浄”と判断(ジャッジ)したものを”清める”ための

 彼女だけが使える”新たな光魔法”という”設定”を与えたのだ。


 それを使って聖女から王妃へとのし上がり、

 国王を従わせ、この国を支配していったのだ。

 それは王妃に望むままの力を与えた。


 そしてどんどん世界を自分好みに変えていくはずだった……のだが。


 でもそれは、元勇者(親父)たちが力の多くを

 北の大断層で抑え込んだため、

 王妃の計画は思うように進まなかったのだ。


 そして今、俺たちに追い詰められた王妃は

 躊躇(ちゅうちょ)することなく、

 さらに巨大な力を求め、元世界へと近づいていく。


「行くな! 危険だぞ!」

 王妃はこの”力”を理解していない。

 今までは”魔力”として()()()()使用していた。

 電波はエネルギーに変換できるから、出来ないことは無いのだ。

 しかしそれを今度は”情報”として取り込もうというのなら。


 ”超大量の情報”をいきなり得たら、どうなるか。

 緑板(スマホ)で”検索”すれば、得られる量も質も自分で選べる。

 しかし俺たちと違って緑板(スマホ)を持たない王妃は、

 そのまま脳内に吸収(ダウンロード)することになり……


 キヒヒヒヒヒヒヒ……

 奇怪な高笑いが聞こえてくる。

 下降していくにつれ、王妃の体がどんどん膨れ上がっていく。


 キーーーヒッヒッヒ……

 ……。


 王妃の笑い声と、下降がピタリと止まる。


 見れば羽だけを動かし空中停止しているが

 その体は内側から何かの圧力がかかったかのように、

 ボコボコと凹凸を繰り返している!


 ギャアアアアアアアア!

 突然ものすごい悲鳴をあげ、王妃が上昇してくる。


 その形相に一瞬ひるんだが、俺は彼女に向かって叫ぶ。

「馬鹿野郎! 体から力を放出しろ!」


 それでも彼女は、ため込んだ力を出さなかった。

 得たものを逃したくないのがミエミエだが

 顔中を涙と鼻水でだらだらにしているところを見るに、

 かなりの苦痛なのではないだろうか?


「痛あい……ぐるしい……助けてえ……」

 塔まで戻り、わずかに残った床下にしがみついた王妃が

 うめき声をあげながら俺たちを見上げる。


 甲虫のような腹部だけでなく、

 長い首の先にある頭部が膨れ上がっていた。

 それらは絶え間なくボコボコと変形し、

 体内に居る何かが暴れているかのようだった。


「誰かが私を責めるのぉ……馬鹿にして笑うのぉ」

「だから早く吐き出せって言ってんだろ!」

 俺の叫びは届かない。何故なら。


「黙って! 黙れえ! うるさいうるさいうるさい!

 醜いって言うなあ! 惨めだって? 不幸だって?

 嫌あ! 聞きたくない! もう何も見たくなぁい!」


 彼女は前足の2本で両目をつぶし、

 その後ろの2本を耳に突き刺した。

 そんなことをしても無駄なのに。


 たくさんの情報の声は、

 王妃の内側から”見せたり聞かせたり”しているのだから。


 むやみやたらと検索を繰り返し、

 グロ画像や不快な文章にぶつかることもある。

 王妃も自分に関する情報を集めようとして、

 知りたくも無かった悪口や嘲笑の言葉を得てしまったのだろう。


 王妃は血まみれの頭部をぶんぶん振り回しながら、

 塔の横に付いた小さなドアに向かっていく。

 人間だったら容易に通れただろうが、

 デカい白蜘蛛となった今の王妃には絶対に無理だろう。


 すると王妃は壁に体当たりし、壁ごと破壊した。

 そしてずるずると外に這い出ていく。


 俺たちは慎重に壁をつたい、残り僅かな瓦礫を蹴って

 その出口まで向かっていく。


 途中、元世界の夜景が目に入った。

 全員がそれを見ていたが、すぐに目をあわせてうなづく。

「……後にしよう。どのみち、この体のままでは戻れない」

 この体はあの世界では異質なものだから。


 俺たちが外に出ると、そこは深い森が広がっていた。

 ”祈りの塔”の背後には暗い森が広がっていたのだ。

「……結界が張られているわ」

 エリザベートが片手をかざしてつぶやく。


 天才魔導士なら王妃の魔法を解呪できるのだろうが、

 今はキースを呼んでいる時間は無い。


「とりあえず”祝福”でしょうか」

「万能薬みたいに使うな……とはいえ効きそうではあるな」

 フィオナが試そうとした、その時。


 ブゥン、という音がして、結界が解かれたのだ。

「……来るなら来い! ってことでしょうか」

 フィオナはそう言うが、

 王妃(アイツ)にそこまで余裕は無かったような。


「今は傷を癒し、このまま(のが)れたいはずですが」

 ジェラルドも首をひねって言う。


「それなのに結界を解いた、ということは……

 ねえ、そもそも何のための結界だったのかしら」

 エリザベートの問いの答えは、すぐに向こうからやって来た。


 森の奥から点々と光るものが近づいてくる。

 それが魔獣だと全員が気が付くが。


「……何ですか、あれは」

 フィオナが震える声でつぶやく。


 それはさまざまな魔獣が混ざり合ったキメラだった。

 いくつかの魔獣がアンバランスな状態で混ざり合う様は

 不快さでめまいを覚えるほどグロテスクだった。


 それが近づくにつれ、俺たちはさらなる衝撃を受けることになる。

「全部に、人の頭がついています」

 フィオナが痛ましげにつぶやく。


「ああ、あれが王妃のしでかした最悪の罪か。

 魔獣をキメラ化することで、攻撃力をあげたり

 弱点を無くすだけでは不十分だから……」


 俺の言葉に、ジェラルドがうなずく。

「ええ、コントロールできなければ意味がありません。

 任務をこなすには、ある程度の知性が必要ですから」


 実際、キメラ魔獣たちは俺たちの姿を見ても、

 フラフラ飛んだり、地面にじっと縮こまったりしている。


 知性はほとんどないようで、

 攻撃性に関しては魔獣以下だった。

 これでは兵として戦わせることは無理だろう。


「……失敗してくれて良かったわ」

 エリザベートが怒りに震えながらつぶやく。

 俺は彼女の真意をかみしめ、うなずくが。


「……し、っぱいなんて……してないわ。

 さあ……わ、私の作品の……最初の餌食(えじき)になりなさいっ」

 森の奥から、息も絶え絶えな王妃の声がする。


 見ればキメラ魔獣のはるか後方に、

 膨れ上がり血まみれの姿の王妃が立っていた。


 そして2本の足を上げ、聞き慣れてきた奇声をあげたのだ。

 キエエエエエエエ……


 王妃の体から、キメラ魔獣に白い光が流れ込んでいく。

 すると人間の頭部の、その目に力が宿っていった。

 ……まさか、彼らに知力を与えているのか?!


 俺はこれまで一番の恐怖を感じて叫んだ

「止めろ! これ以上残酷なことをするなー!」

 しかし、勝ち誇った表情の王妃には届かなかった。


 それぞれのキメラ魔獣はブブブ……と震えた後。


 その体の横や上に付着した人間の頭部から

 人間の声で叫び出したのだ。


 うわあああ……!

 いやああああああ……!


「なんて酷い……」

 俺は顔を歪めた。他の三人も嗚咽をもらす。


 エリザベートが”失敗して良かった”と言ったのは、

 もし彼らに知性があったら、

 自分の現状には耐えられないはずだから。


 魔物へと姿を変えられ、もう元の生活には戻れない。

 その絶望たるや、気が狂わんばかりだろう。


 王妃には、それが分からないのだ。

 意気揚々と大声で彼らに命じた。

「さあ! あいつらを殺すのよ!」


 人間の頭部はその声を聞き、

 涙を流した血走った目で俺たちを見た。


 俺は彼らに言う。

「ああ、来いよ。大丈夫だ、すぐに終わらせてやる」

 俺の横でエリザベートがうなずき、片手を構えた。

 ジェラルドが一礼した後、剣を構える。


 フィオナは大泣きしながらも、

「まずは眠らせますね、その方がきっと怖くありません」

 と言い、錫杖をふりあげる。


 が、しかし。

 彼らはこちらに来なかった。


 全てのキメラ魔獣は次々と、

 王妃に向かって突進していったのだ。


「覚えてるぞ! お前のせいだあ!」

「よくも! よくもこんな体に!」

「絶対にゆるさねえ!」

 口々(くちぐち)に怒りと恨みの言葉を叫びながら移動していく。


 そうか。

 ……そりゃ、そうだよな。


 彼らには王妃に殺された記憶があるのだ。

 見知らぬ俺たちより、憎いのは王妃だろう。


「ちょっと! こっちに来るんじゃないわ!

 あの4人を始末なさい! この愚か者……ぎゃあああ」


 キメラ化したことで強くなった牙が、王妃に突き刺さる。

 より長く鋭くなった爪が、白い腹部を切り裂いた。

 すでに満身創痍だった王妃に反撃できるほどの力は残っていない。 


 ギャアアアアアア……!


 力を吸いこみ巨大化した王妃の体が見えないほどに

 全てのキメラ魔獣が群がっている。

 それぞれが必死に復讐を果たしているのだ。


 王妃を断罪したのは、王妃自身の”身勝手さ”だ。

 自分の事しか考えないことが、彼女自身を滅ぼしたのだ。


 すでに王妃の悲鳴は聞こえない。

 代わりに彼らの号泣が聞こえてくる。


 俺はフィオナに視線を向けると、彼女はうなずき

 再び錫杖をふりあげた。

 ”眠りの霧”が彼らを包んでいく。


 彼らはすぐに動かなくなった。

 俺とジェラルドは前に進み、

 その中央で横たわる王妃の残骸を回収する。


 魔獣に少しでも応戦すべく使い切ったのか、

 体内の”力”も抜けきり、何の魔力も残されていない王妃は

 すでに人間の姿に戻っていた。


「……自分だけ、ズルいだろ」

 俺はそう言って、王妃の体を別の場所へと移動させていく。


 キメラ魔獣にされた人々は

 こんな奴と一緒に火葬されたくないだろう、そう思ったのだ。


 そして俺たちは、眠り続けるキメラ魔獣たちの前に立つ。

 元世界の作法ではあるが、4人で冥福を祈る。


 エリザベートが片手を出して構える。

 俺は彼女の背に手を当て、補助魔法で最大の攻撃力にする。


 そして森ごと焼き尽くすかのような”インフェルノ”が放たれた。


 キメラとはいえ、元は魔獣の体から作られたものだ。

 全てがあっという間に灰になり、空に舞っていく。


 それに混ざって、花びらが舞っているのに気づく。

 気が付くとフィオナが”祝福”を贈っていたのだ。

「安らかに眠れますように。

 そして次はいっぱい幸せになりますように」

 フィオナがつぶやく。


 上空へと昇っていく灰と花びらを見上げながら、

 俺たち4人は感じていたのだ。


 ”祈りの塔”の床に広がる”元世界”に向かって

 砂時計の砂が少しずつ零れ落ちるように

 この体の中から何かが流れ出て行くことを。


 俺たちは、少しずつ元世界へと還り始めたのだ。


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