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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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122.情報は力、情報は毒

 122.情報は力、情報は毒


 ここに来る前、正気にかえった大司教が俺たちに言ったのだ。

 ”王妃の力の源は、異世界からもたらされる未知の力”、だと。

 それがまさか、自分たちのいた元世界のことだとは。


「……この世界とあちら側は繋がっていたのか」

 呆然と夜景を見つめる俺たち。


「ふふっ、どうかしら? 

 あんなに美しい世界なんて、初めてみたでしょう?」

 もはや抜け落ちた床には立っていられず

 王妃は羽をばたつかせて飛んでいた。

 そしてウットリと目を細めながら、

 トウキョウの夜景を見下ろして言う。


「あれこそが、清らかに光り輝く”正義の世界”よ!

 ()()()()()、無限の力を与えてくれるの!」

 そう言いながら、王妃は夜景に手を伸ばす。

 すると白い光がするすると王妃の中に流れ込み、

 エリザベートの魔法で焼かれた彼女の傷を癒していく。


「……残念だが、あれは”正義の世界”じゃねえ」

 ひきつりながら俺は言うが、

 王妃はもちろん受け入れなかった。

「お前たちに何が分かるというの!

 素晴らしい力に満ちた、美しい世界なのよ!」


 最初は小さな亀裂だったのだろう。

 地面の隙間から見えるあの世界を、

 異世界の王妃が見た時、

 それはとてつもなく美しく思えたに違いない。


 王妃は俺の顔を見ながら言う。

「勇者があの女を選んで……私は心から力を欲した。

 間違いを(ただ)すには、もっと力が必要だったのよ。

 あの素晴らしい世界は、そんな私の願いにこたえてくれたわ!」


 俺はゆっくりと、彼女に告げる。

「いいか、よく聞け。さっきお前は俺に

 ”自分の知っているレオナルドはどこに行った”と聞いたよな?

 実は、その通りだ。俺は彼の体に転移した別人だ」


 王妃は眉をひそめる。

「テンイですって? ……魂が乗り移ったということ?」

「その辺は俺たちにもよく分からない。

 ただ、これだけは言える。

 あの世界はお前が思っているような世界じゃない。

 その力もたぶん、”正義の力”なんて綺麗なもんじゃねえ」


「どうしてわかるのよっ!」

 睨みつけてくる王妃に、俺は赤い鉄塔を指さして。

「あれは東京タワー。あそこの橋はレインボーブリッジ。

 光のラインはな、道なんだよ。首都高ってやつ」


 俺の指し示した方向を、驚いた顔で見ている王妃。

「何で知っているかって? 当然だろ。

 俺たちは、あの世界から来たからだよ」

 王妃は目を見開いた。

「お前たちなぞが……」

 そう言いかけるが、否定できない。


「……この数カ月、何一つ思い通りにはいかなかった。

 それもこれも、全てお前たちのせいだった」

 信じられないものを見る目で、俺たちをみつめる王妃。


「だろ? こっちは最初から全部お見通しだったからなあ。

 俺に王家の罪を着せて国民に殺させること。

 エリザベートを魔女だとつるし上げて処刑すること」

 エリザベートの脅威的な魔力は、

 王家の不安材料だったのだ。


「軍の不正や怠慢に対し、国民が限界だったのを察知し

 自分たちより秀でる者に冤罪をかけ、見せしめに殺すこと」

 ……ジェラルドのはホント、やっかみだよな。

 プライドだけは高い貴族たちは、

 自分たちより強い平民など許せなかったのだろう。


 ショックを受ける王妃に、俺は言葉を続ける。

「ロンダルシア襲撃も”勇者の剣”のこともバレバレだった。

 グエルのことだって、俺が全部知ってて驚いたろ?

 国王が魔属性というのも、もちろん分かっていたさ」


 たのむ、もう観念してくれ。

 そう思いながら俺は説得を続ける。

「まあ、カデルタウンの時はいきなりだったからな。

 ……でも、もう元に戻したぜ? ”真の聖女”の力でな」


「聖女は私よ! 最も力がある聖女なのよ!」

 王妃がすかさず言い返す。

 どうやらそこは譲れないらしい。


「力のある、なしじゃねえよ。その力を何に使うか、だろ?

 フィオナは救ったが、お前は人を苦しめただけだ。

 愛し合うものを引き裂き、王妃の特権を生かし贅沢三昧。

 国民に圧政を強いて税金を巻き上げ、

 まったくやりたい放題だったじゃねえか」


 なおも反論しようとする王妃に俺は言う。

「もう充分だろ、終わりにしようぜ。

 俺たちはあの世界の者だ。

 あの力を十分に、お前以上に使いこなせる」


 王妃は怒鳴り返してくる。

「嘘をつくな! お前たちにあの力が使えるものか!」


 俺は緑板を取り出す。力の正体に気付いたのだ。

「攻撃魔法としてはな。

 俺たちはあの力を、”情報”や”知識”として使ったんだ」

 王妃は目を見開いて俺を見上げる。

 その目には動揺と、迷いが生じていた。


「もしご自分が正しいと仰るなら、

 きちんと裁判を受けられてはいかがですか?」

 ジェラルドの説得を、王妃は鼻で笑って答えた。

「駄目よ。私以外みんな愚かなんですもの。

 常識も道徳もないのだから、

 私の()()には誰も耳を傾けないわ」


「私の”祝福”がある限り、貴女の力は意味のないものとなります。

 せめて最後に全ての罪を明らかにし、

 国民と世界のためになることをしていただけませんか?」

 フィオナが悲し気に言うが。


 王妃はニヤリと笑って答える。

「意味がない、ですって?……私にはまだ”正義の世界”があるわ。

 ”力”だけでなく、いろんな”情報”も与えてくれるなんて……

 あの美しい世界から、もっとたくさん引き出してやるわ!」


 ヤバイ。さっきの動揺したように見えたのは、

 力は情報も与えてくれる、ということを知ったからか。


 俺は首を横に振る。

「ぱっと見、綺麗だろ? でも違うんだよ。

 あそこはお前の嫌いな混沌カオスで、無秩序の極みだよ。

 光ってのは強すぎると、汚いものを目隠しするからな」

 ……まあ、ホタルには失礼な話だが。


「あの世界に行って、たくさんの知識を得るんだわ。

 そして()()()()を完成させるの。

 そのために、たくさんの”頭”を集めたんですもの」

 王妃の言葉に、フィオナが身震いしてつぶやいた。


「さっきの遺体にみんな頭が無かったのは……」

 王妃はニヤリと笑う。

「身体のほうは、魔獣のエサにするために”生かして”おいたのよ。

 でも頭はちゃあんと使ってあげたわ。

 もう少しで完成するのよ、知性を持った”服従する魔獣”が」


 王妃がそんなことを求めていたとは。

 だから俺が大魔獣ファヴニールの動きを操作したのを見た時

 真相そっちのけで、あれほど驚愕していたのか。


 俺はあることに気付き、王妃に問いただす。

「……もしかしてお前、人間の頭を移植した魔獣に、

 その人間の体を食わせていたのか?」

 魔獣と化した上に、自分の体を食わせるとは。


 俺の質問に、王妃は何が悪いのか? と言う風に答える。

「放っておいても腐るだけなんだからいいじゃない。

 ()()()()()より……人間の兵などに頼らなくて済むのよ

 素晴らしい発明でしょう」

 そう言って王妃は満足げな笑みを浮かべる。


 エリザベートが目を赤く光らせ、怒りの声をあげる。

「そんなもののために、叔父様に命をかけさせたのね。

 絶対に許さない……」


「どうせ失敗したくせに。

 しかも、死を偽装して逃げたじゃない。

 だから私が苦労することになったのよ」

 不服そうに王妃が言う。


 しかし目下に広がる元世界の夜景を眺め、彼女は笑った。

「でも、それも終わりね。

 あそこに行けば、私は”完璧”になれるわ」

「そんなわけあるか!」

 俺の叫びを無視して、彼女は体を下向きに回転させ。


「嘘をおっしゃい。あの力は”情報”や”知識”なのでしょう?

 私もお前たちのようになれるわ。いいえ、お前たち以上に。

 知りたいことをすぐに知ることが出来き、

 強力な光魔法を駆使できる”全知全能”に」

「違う! やめろ!」


 俺は全力で否定する。”情報”はそんなもんじゃねえ。

 検索には技術(テクニック)がいるし、情報の取捨選択はもっと重要だ。


 検索キーワードの選択によって、時には勘違いを起こすこともある。

 俺たちが、キースが母上を殺したと思い込んだように。


 検索結果のフィルタリングも、情報の信頼性や偏りの確認など

 そのまま信じるには危険なものまでいろいろあるのだ。

 下手をすれば俺たちがガウールで食らった

 ”知ると同時に呪われる”みたいなデメリットもあるのだ。


「行くな! お前にとって単なるエネルギーだが

 あの場にあるのは、それだけじゃねえぞ!」

「え? どういうことです?」

 フィオナが首をかしげる。


 俺は自分の推測を手短に伝える。

「あの力は、この異世界では白い光として具現化しているが

 おそらく元世界における”電波”だ。

 現実世界でも電波をエネルギーに変換する技術はあるが

 王妃は自身の魔力によって、それを成し遂げたんだろ」


 ああ、という表情でエリザベートがうなずく。

「この世界であの力に最初に接触したのが王妃だったから

 彼女がこれの特性を決める支配者(ルーラー)となったのね」

 そして思い込みの強い彼女はこれを、

 ”浄化するための新たな光魔法”だと信じ、定めたのだ。


 まさか元世界の膨大に膨れ上がった電波が、

 異世界にまで影響を与えていたとは。


「でも僕たちはあれを”(エネルギー)”として、ではなく、

 緑板(スマホ)に取り込み、”情報”として利用してたんですね」

「そうだ、だから……」


 俺たちは緑板(スマホ)を通して情報を取り込んでいたのだ。

 緑板(スマホ)を持たずに直接脳内に流れ込ませるなど

 世界に漂う莫大な情報量を考えたらあり得ない行為だろう。


 しかし王妃は酔いしれた表情で、夜景を見下ろし言う。

「そして私は全てを浄化する、

 ”聖なる全知全能の女王”として君臨するんだわ!

 本物の、聖女王になるのよおおお!」

「ダメだ! 行くな!」


 俺の叫びを無視し、彼女は嬉々として叫び、

 元・世界に向かって急降下を始める。


 そして昆虫めいた真っ白な王妃の体は、

 吸い込まれるように夜景へと向かっていったのだ。


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