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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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120.因縁の相手との決着

 120.因縁の相手との決着


 今日こそこの国の、歪んだ独裁体制を終わらせる。

 それにはまず、”未知の光魔法”を使って人の命を脅かす王妃、

 つまり裏ボスを倒さなくてはならないのだ。


 彼女は”ボス戦の手本”のように、

 その姿を醜いものへと変えていた。


 その姿はまるで”長い首を持ち、羽の生えた蜘蛛”だ。

 まだら模様の羽をばたつかせながら、

 楕円形の胴体から生えた8本の足は、

 それぞれがせわしなく蠢いている。


 長い首の先についた頭部には、

 彼女の顔がそのままついていた。

 それがなければ誰にもこの魔物が王妃だったとは思わないだろう。


 先ほど放ったエリザベートの魔法攻撃は

 逃げる貴族を狙っていた王妃の足にみごと直撃したが

 しばらくすると根元から、新しいものが再生していった。

 うーん、これではエンドレスだな。


 ギエエエエエエ!


 王妃は両眼から血を滴らせ、

 怪鳥のような声をあげて嗤っていた。


 上空から伸びた一筋の光が、その奇怪な体を包み込んだ。

 真っ白なその体はみるみる膨れ上がり、さらに巨大化していく。

 彼女の体に、どこからか力が流れ込んでいることがわかる。


 ファルファーサたちは臆することなく、

 その周りを吠えながら走り回っている。

 王妃が折れ曲がった足を動かすたびに手足で噛みつき、

 移動するのを防いでいてくれた。


 その隙に貴族たちが悲鳴をあげ、慌てふためいて逃げる中、

 フィオナがポツンと呑気なことをつぶやいた。

「大晦日の演歌歌手さんみたいな変化っぷりですね」

「俺としてはボス戦の”第二形態”を思い出すけどな」


 そこに、王太子が血相を変えて走ってくるのが見えた。

「クソっー! おい! エリザベートっ!

 お前はこっちに来て、俺を守るのだー! 

 ”絶対服従する”と約束したじゃないかあ!」


 母親が自分の父親である国王を殺しただけでなく、

 恐ろしい姿の魔物へと変化し、貴族を次々と殺していく……。


 それを目の当たりにし、

 エリザベートを”この場で最も強い”と判断して

 自分を守るように命じたのだろう。


 エリザベートは王太子に冷たく言い放った。

「誓う約束したのは国王に対して、ですわ。

 ……戦えないのでしたら邪魔なので

 どこかで隠れていてください」


 突き放すような答えに、王太子は顔を真っ赤にし、

 あろうことかエリザベートの腕を掴もうとしたのだ。

 おい! 戦闘中だぞ!


 バキッ!


 俺が止める間もなく、すばやくエリザベートが彼に向きなおって。

 右手のこぶしで彼をぶん殴ったのだ。

 王太子は顔面にそれを食らい、

 大きく後ろに吹っ飛んでいく。


 腕で殴ったような軽いパンチではなく、

 腰の入った見事なストレートだった。

 長い黒髪をうねらせ、表情はすました貴婦人のままで。

 目も眩むほどの美しき暴行(バイオレンス)


 俺はエリザベートに親指を立てた。

 彼女は少し照れて、小さく肩をすくめる。


「止めろ! 来るなあ! 俺は大司教だぞ!」

 魔物の姿に変わりかけた元・聖職者たちに、

 剣を構えたディランが低い声で告げる。

「……姿だけでなく、心まで魔族になったようだな。

 お前たちのしてきたことは、人間のすることじゃない」


 彼らは教会の名のもとに、貧しい者から金品を取り立て

 自分たちの私腹を肥やしていったのだ。

 それだけではない。

 信心につけこみ、その身を汚された何人かの娘が

 自らその命を絶ったことまで明らかになったのだ。


「何かおかしい、怪しいと思いつつ

 それを放置してきた我がシュバイツ公爵家の責任でもある。

 必ずやこの国の教会を正して見せよう!」

 そう言って、彼は斬りかかっていく。


 元・聖職者たちの攻撃は魔獣と同じようなものだった。

 毒を吹きかけ、長い爪を振り回してくる。

 彼は傷を負いながらも、彼らを罰するため向かっていく。


「やめて! どうしてなの?」

 出入り口付近で、貴族の女性の哀願するような叫び声が聞こえた。


 見れば、アンデットのような顔をした聖騎士団が、

 闘技場から逃げ出す貴族たちを襲っているのが見えた。


 しかし聖騎士団のほとんどが、貴族の子弟なのだ。

 王妃の魔力に操られた彼らは、自分の家族が相手でも

 攻撃を止められないでいるのだ。


 それに気づいたフィオナが叫ぶ。

「皆さんに今度こそ! ”祝福”を贈ります!」


 ”祝福”は、王妃の魔力を唯一解呪できる、

 フィオナだけが持つ、”聖なる力”だ。


 フィオナが錫杖を大きくかかげる。

「やぁめぇろぉーーーっ!」

 上から王妃の怒号が聞こえ、させまいと二本の足から

 真っ白な光線をフィオナに向けて放った。

 しかしそれを、キースがすかさず闇魔法”ダークウォール”で弾く。


 王妃はすかさず他の足を振り上げたが、

 それは木っ端みじんに切り裂かれ、燃え尽きて灰となる。


 ローマンエヤール公爵夫人の”炎廻斬”だ。

 パワーは公爵に及ばずとも、その素早さはこの国随一だろう。

 その他の足も次々と粉々になり、辺りに粉塵が舞う。


 王妃の攻撃にわずかな隙が出来た、その瞬間。


「……全ての人に”祝福”を!」

 フィオナが発動した。

 淡い光の波動が全体へと広がっていく。


 そして優しい風が吹き、半透明の花びらがまき散らされる。

 サラサラ……フワフワ……


 降りしきる満開の桜の花びらのように舞い広がり、

 視界が遮られるほど、この場を満たしていった。


 ギャアアアアアアアア!

 王妃が悲鳴をあげ、もだえ苦しんでいる。


 元・聖職者たちは、それをぼうぜんと眺めていたが

 自分自身の体が徐々に人間へと戻っていくのを見て

 やがてゆっくりと両ひざを床に着いた。


「……神よ……聖女よ」


 彼らの魔獣のような長い爪のある手を組み合わせ

 涙をこぼして祈りの形を取る。

 おそらく同時に、人の心も取り戻してきたのだ。


 地に伏し号泣する者、頭をかきむしる者、叫び続ける者。

 そんな彼らをディランは、

 怒りと悲しみが混ざった眼差しで見下ろしている。


「我らは……なんということを……」

 彼らはかすれた声で吐き出すようにつぶやく。


 ”祝福”を受け、その奇跡を目の当たりにし、

 彼らの中に戻って来た聖職者としての”良心”に

 厳しく責め苛まれているようだった。

 それはどんな刑罰を受けるより、彼らを苦しめるだろう。


 ”祝福”の花びらが少しずつ薄れていく頃。


 肩を上下させ荒い息をし、立ち止まる聖騎士団が見えた。

 彼らの呪縛は解けたのだろう。

 攻撃を止めた聖騎士団員たちは顔を見合わせ、

 ほっとしたようにその場にしゃがみ込む。


「おい!」

 聖騎士団の団長の声が響いた。

 彼は右手を怪我しており、左手で剣を持っている。


「……お前たち。何をしている。

 王妃様は俺たちに、”歯向かう者は全て殺せ”と命じたのだぞ」

「ですが!」

「こんなのおかしいですよ、団長!」

 次々と不満の声をあげる団員たち。


 聖騎士団長はフッと笑った後、そうか……とつぶやき。

 いきなり剣をふりあげて、近くにいた団員に斬りつけたのだ。

「うわあ! 団長?!」


 ……しかし、その団員は無事だった。


 彼の目の前にはジェラルドが入り込み、

 団長と剣を交えている。


「……邪魔をするな。聖騎士団の任務を放棄する者を処罰するだけだ」

「貴方にはもう、その権限はありません。

 貴方はすでに騎士団長ではなく、ただの罪人です」


 ジェラルドと戦っても勝ち目はないと悟ったのか

 聖騎士団長は勢いよく後方に飛んだ。

 そして皮肉な笑みを浮かべて言う。


「お前を殺そうとした奴を守るとは、お優しいじゃないか。

 ”騎士の称号”をお持ちの方は、

 聖騎士団なぞ相手にならないってことか。

 ……俺たちを馬鹿にし、見下してるんだろ!」


 優しいジェラルドはそれを否定するかな、と思いきや。

「そうですね……コネと金銭で入団した貴族の集まりであり、

 剣の実力も、(こころざし)すら持たない、

 残念な集団だと思っています」


「うるせえええ! 平民のお前に何がわかる!

 貴族にはな、貴族のプライドがあるんだよっ!

 このご時世、何の肩書きもない貴族なんて

 みっともなくて価値がないんだよ!」


 そう言って彼は剣を投げ出し、左手をあげた。

 その手には魔石が握られており、何かの力を発しているようだ。


 すると団員の数人が、腕を抑えて苦しみ出した。

 それを見たジェラルドが眉をひそめる。

「……また人質作戦ですか。

 あなたはそうやって生きることに抵抗はないんですか」

「馬鹿野郎、勝てばいいんだよ勝てば……うわっ!」


 彼の手の中で魔石が爆発したのだ。

 血まみれの左手を抑え、聖騎士団長はうずくまった。

 見れはエリザベートが片手を構え、彼を睨んでいた。

 魔弾で粉砕したのだろう。


 俺は聖騎士団長に言う。

「勝てば良いと思ってる奴は、負けたら終わりなんだよ。

 でもな、勝ち負けではなく

 ”自分がどう思うか、どうしたいか”で判断する奴は

 無限に挑戦できるんだ、絶対に負けねえ」


 こんな時代だから。金が、才能が、チャンスがないから。

 そんな言い訳、結局は何の役にも立たないのだ。


「聖騎士団は、今日この時をもって解団とする」

 俺が国王として彼らに告げると、

 聖騎士団長は床に崩れ落ちていった。


 教会と聖騎士団。

 フィオナとジェラルドの、因縁の相手と決着がついたのだ。

 しかし、その隙に。


 キイイイイ……


 王妃が、床に転がっていた王太子を足で素早くからめ捕り、

 羽をばたつかせて飛んでいく。


 しまった!


 俺は大魔獣ファヴニールに視線を送る。

 彼女はうなずき、その大きな頭部を動かし

 飛び出てきた王妃に食らいつこうと口を開けて迫った。


 その瞬間、王妃は王太子を、大魔獣に向けて投げたのだ。

 ファヴニールは開いた口へと飛び込んで来た王太子をくわえる。

 噛み切らないように、慎重に。


 王妃はこの大魔獣が、

 人間を絶対に傷つけないことを知っていて、盾にしたのだ!

 それも、我が子を!


 つまり”人を愛し、守ろうとする、

 現地でも神と崇められる心優しき大魔獣”を

 俺に”討伐せよ”と命じたことになる。


 どっちが正義なんだよ。本当に自覚、無いんだな。


 ファヴニールが前足を伸ばし王妃を捕らえようとするが、

 ギリギリのところでそれをかわし、

 王妃は飛び去っていった。


「くそっ! 追いかけるぞ!」

「どこに行ったんでしょう……」

 俺の叫びに、フィオナが不安げにつぶやく。

 するとキースが言ったのだ。


「”祈りの塔”だよ。あの場に王妃の秘密が隠されているはずだ。

 あの塔はね、あいつが王妃となった時に建てられたんだ」


 公爵家すら立ち入ることのできない、”祈りの塔”。

 それは王城から少し離れた場所にある、

 魔力で厳重に守られた、立ち入り厳禁の区域だった。


 ファヴニールが、くわえた王太子を降ろしに首を下げてくる。

 俺たちは代わりに、その頭部に乗せてもらうことにする。


 次々と乗り込む俺たちに、

 ローマンエヤール公爵夫人が叫んだ。

「我々は軍を率いて包囲する!

 ……周囲の人民は出来る限り避難させておく」

 思う存分、やって良い。そう言ってくれるのだ。


「お待ちください、レオナルド……陛下」

 その時、元・聖職者が俺を呼び止めた。

 彼は人間の姿を取り戻してはいたが

 その目は落ちくぼみ、一気に老け込んでいた。


「”祈りの塔”には、”正義の泉”があると聞きました。

 それは王妃様に、無限の力を与えてくれる、と」


 そこが”電源”か。だから王妃は思う存分、

 あのイカれた光魔法を駆使することができたのか。


 俺とエリザベート、ジェラルドとフィオナが乗り込む。

 ファルファーサたちが大きくジャンプし、

 大魔獣の首にしがみつく。


 ゆっくりと首を上昇させる大魔獣。

 遠ざかる地面から、ふたたび大司教の叫び声が聞こえる。


「あの力は、()()()()()もたらされるものです!

 我々の知らない、未知の世界の力なのです!

 どうか、お気を付けください!」


 俺は片手をあげて彼に応える。

 しかし顔を上げ、ふと気づいたのだ。


 この異世界にとっての、異世界だと?

 それじゃあ、まるで。


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