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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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109.絶対服従の誓約

 109.絶対服従の誓約


 再び王宮へ戻る私を、心配そうに皆が見ている。

 侍女たちはハンカチで目を押さえながら私に言った。

「あの方たちと親しくなってからのお嬢様は

 本当に楽しそうで、幸せそうでございました。

 きっと皆さまご無事でいらっしゃいますとも」


 私は胸がいっぱいになった。

 何を言っても否定的にとらえられ、

 相手を怖がらせるか、悲しませるかだった昔の私。

 しかし私の方も周囲の人を誤解していたことに気付いたのだ。


 以前はどんなドレスを着ようと髪型にしようと

 判で押したように全員が”お美しいです”としか言わないのを

 義理や社交辞令で言ってるのだろう、と思っていた。


 でも実際、奥に戻った彼女たちの様子をのぞいて見ると

「ああ、もう! ”美しい”以外出てこない私の語彙力が憎い!」

「仕方ありませんわ、あのお姿はまさに”美の化身”ですから」

「言葉を失う麗しさですもの。”美しい”と言うのがやっとですわ」

 と話し合っているのを聞き、羞恥で動けなくなってしまった。


 彼らがぎこちなく控えめな反応をするのは、

 私が不器用で傷つきやすいことを分かっているからだ。


 そして出立寸前、私を母が呼び止めた。

 母は私のほおに手を添えてつぶやく。

「今、心は張り裂けんばかりの不安と悲しみを抱えているだろう。

 でも私はそれを親として、少なからずも嬉しく思う」

 意外な言葉に私は目を見開いた。

 すると母は少し笑って、言葉を続ける。


「小さい頃からお前には、”愛されることを強く望むな”と

 言い含めて育ててきた」

 私はうなずく。両親からはなんと

 ”暗黒の魔女であるお前は、真に愛されることはない”

 などと何度も言われたのだ。


 母はその真意を語りだす。

「お前を愛するには、理由があまりにも多すぎる。

 美貌、家柄、才能、教養。どれか一つをとっても

 妻に迎えたいと思うには十分なほどだ。

 しかしエリザベート、お前はそのような理由で選ばれることを望むか?

 自分に対しメリットばかりを望むものよりも、

 こちらが”与えたい”と願う者と、添いたいと思わないか?

 少なくとも私と、お前の父はそうだった」


 そこで母はめずらしく照れたような顔をして横を向く。

 私はうなずいた。そしてレオナルドのことを想う。


「幸福の基準は決して愛されることだけではない。

 愛することは、こちらが選んだということだ。

 お前は選ばれるのではなく、常に選ぶ立場でいるべきなのだ」


 誰の顔色も窺う必要はなく、媚を売ることもない。

 莫大な力や美貌に惹かれて寄ってくる男ではなく、

 自分で相手を選び、自分で決定するのだ。


「そしてお前は幼い頃、第三王子を選んだ。

 成長しても、一度たりとも迷いはなかった。

 しかも殿下は心からお前を愛してくれた。

 力でも容姿でも家柄でもなく、不器用で真面目なお前を」


 母上の片目から涙が零れ落ちていく。

「しかもだ、あの無感情で生気のなかったお前に

 喜怒哀楽を見せるほど親しい友が出来たのだ。

 これが親として喜ばずにいられるだろうか」


 母はぎゅっと私を抱きしめて言う。

「彼らは必ず生きている。

 そして我が公爵は必ず救い出してくれるだろう」


 私はその時、父がこの場にいない理由を悟った。

 我が国最強の剣士であり魔術師は、

 全ての任務を他に任せ、私の仲間の救出に向かっているのだ。


 ************


 城に着くなり呼び出され、私は王の間へと向かった。

 そこには久しぶりに見る国王の姿と、

 彼を支えるように横に座った王妃、

 そして異常に目をギラギラと輝かせ、

 異常にテンションが高い王太子カーロスが立っていた。


「……おもてをあげよ、エリザベート」

 国王がけだるげにつぶやく。

 私はゆっくりと頭をあげ、目の前の彼らを見た。


「日々の警護、ご苦労である。しかし、まだ不十分だ」

 何かと思えば文句を言うために呼び付けたのか。


 私は平静を装い、棒読みで尋ねる。

「何か被害が出たとは聞いておりませんが?」

「当たり前です。被害が出てからでは遅いのですから」

 私の言葉に、王妃がバカにしたような顔で言い返す。


 私は心の中でため息をつき、彼らに答えた。

「承知しました。ではさらに警備を強化させましょう」


 しかし国王は口だけを動かし、告げたのだ。

「その必要はない。いま重要なのは、

 我々王族がさらに強大な力を持つことだ」


 私は薄笑いを浮かべて答える。

「陛下も皆様も、すでにお持ちではありませんか」


 すると横に立っていた王太子カーロスが割り込んでくる。

「まだまだだ! もっと得ねばならぬ。

 この国の魔力は全て、我々王族に捧げるべきなのだ!

 いや魔力だけじゃない! 全部だ全部っ!」


 顔を上気させ、鼻の穴を広げ、唾を飛ばしながら叫ぶ。

 なんでこの男は、こんなに興奮し、嬉しそうなのだろう。

 不快さとおぞましさ、そして嫌な予感に鳥肌が立った。


 そんな王太子をなだめるように、王妃が笑顔で言う。

 吊り上がった目を三日月のように尖らせて。

「まあまあカーロス、落ち着きなさい。

 もう少しで全て貴方のものになるのだから。

 全てが貴方の支配下となり、言うがままよ?」


 そして歯茎をみせて醜悪な笑顔をこちらに晒し、ヒヒッと笑った。

 私は思わず恐怖で硬直してしまう。

 彼らは何の話をしているのだろう……まさか?


 国王は微動だにしないまま、口だけを動かして言った。

「元聖女べリアが逃走した。それを手助けした者がいる。

 明らかになり次第、その者達は厳しい処罰を受けるだろう」

 私はフィオナやディランを思い出す。

 シュバイツ公爵家は無事なのだろうか。


「レオナルドは大魔獣ファヴニールの攻撃により死んだ。

 したがって公爵家との婚約は無効となった」

「まだ分かりません! 捜索中でございます!」

 私は必死で言い返す。勝手に殺さないで、という思いと

 婚約を無効にされるのは絶対に阻止したかったから。


 国王は私を無視して続ける。

 視線はどこを見ているのかわからないまま、

 あやつり人形のようにただただ言葉を発していた。


「ローマンエヤール公爵家の兵であるジェラルドが

 聖騎士団に対して攻撃を行った。

 それは我々王族に対する反逆ととらえる」

 確かに聖騎士団は王族のものだけど。


 私は焦りを抑えつつ返答する。

「それは誤った情報でございます。

 あの地で何があったか、証拠を提示し……」


「おだまりなさい! この無礼者が!

 反論することこそ、お前の家が王家に対し

 謀反を企てている証拠です」

 王妃がいきなり叫び、私の言葉をさえぎった。


 とんでもない因縁をつけられ、私は思わず絶句する。

 そして国王が初めて動いた。

 腕に大事そうに抱えていた弓をガラン、と床に落として。


「もしローマンエヤール公爵家が反意を抱かず

 絶対の忠誠を誓う、と言うのであれば……。

 エリザベートよ、お前は儂に対し”神に対する誓約”を行え。

 我の命に全て応じる、という”絶対服従の誓約”を」


 私は恐怖のあまり凍り付いてしまう。

 ”絶対服従の誓約”ですって?


 そんなことをすれば、私は彼らに対し攻撃できないどころか、

 どんな理不尽な命令にも従わざるを得なくなってしまうのだ。


 なぜなら”神に対する誓約”の強制力は絶対的だから。

 自分の意志とは関係なく、おのずと従ってしまう。

 もしも無理やりそれに反すれば、命を失う恐れすらある。


「お待ちください! この国は宗教を禁じ、

 ”聖女王”のみを奉ると定めたのではないのですか?!」


 私の叫びを、王妃は一笑し言い返す。

「ええ、だから聖女王に対する誓約、というべきかしらね。

 本当は私に誓わせたいけど、

 平民出の私には、公爵家に対する命令権がないのよねえ」

 王妃は忌々しい、という顔でつぶやく。


 私は察した。”聖女王”宣言したわりに動きがないのは

 信仰対象としての”聖女王”にはなれても、

 国家権力を持つ”女王”にはなれなかったのだ。


 しかし儀式としては、まったく変わりないのだろう。

 その効力だけをずる賢く利用するつもりなのだ!


「さあ、さっさと始めるぞ! 用意せよ!」

 硬直する私を無視し、王太子が耳障りな声で叫んだ。

 侍従たちが御神体や神具を運び入れてくる。


 そして国王に向きなおり、興奮気味に迫って言う。

「父上! 約束通り、真っ先に命じてくださいっ!

 ”エリザベートは王太子の命令を全て聞き入れよ”と!」

 私は絶望と怒りで視界が真っ暗になった。

 握りこぶしが震えてくる。


 国王はそれに対し返事もしない。

 王妃がその身から、大量に付けた魔道具を一つずつ外しており

 その成すがままになっている。


 私は気付いた。魔道具を付けたままだと、

 全ての魔術を退けるため、”神に対する誓約”を受けられないのだ。

 逆を言えばこれを外させないと、

 国王が実は魔族であることを暴くことはできない。


 王妃がせっせと動きながら、薄笑みを浮かべてつぶやいた。

「でもねえ、貴女のような、

 (しつけ)のなっていない娘を王太子妃にはできないわ。

 だからね、カーロスの(めかけ)にしてあげましょう」


 その言葉に、私は思い出した。

 この女はかつて、レオナルドの母君の事も、

 国王に対し”妾にしろ”と命じたのだった。

 私の事も、側妃にすらなれず、

 ただただ(もてあそ)ばれるだけの存在にしたいのだろう。


 私は思わず笑った。王妃は眉をひそめる。

「永きに渡り王家を支えた我が公爵家の娘を”妾”に、ですか。

 さて、父はどう思うでしょうか」

「……そ、そんなの貴女が()()んだから……」

 この国最強の戦士を思い出したのか、王妃の勢いが止まる。


 私はそれを鼻で笑い、はっきりと彼らを見据えて言い返す。

「父はわが国で最も魔術に長ける者です。

 私が誓約によって縛られていることなぞ一目(ひとめ)で気づくでしょう。

 いわれなき疑いを晴らす間もなく、

 娘がそのような扱いを受けたとあれば、それはもう激怒するでしょうね」


 押し黙った王妃の代わりに、王太子が怒鳴ってくる。

「お、お前に()めさせれば大丈夫だろう?!

 ”お父様、やめて”と懇願すれば……」

「ローマンエヤール公爵家を侮辱なさるおつもりですか?

 そのような偽りの懇願なぞ、なんの意味も成しません。

 父は私を剣で切り捨ててでも、その”正義”を貫くでしょう」


 王太子は恐怖で顔を歪ませる。

 彼はレオナルドを水魔法のイタズラで殺しかけた時に、

 本気で怒る父を目の当たりにしているのだ。

 おそらくトラウマになっているくらい、恐ろしいのだ。


 私は王妃に向かって厳しく糾弾する。

「あまりにも()()です。この決定には”()()”がありません。

 証拠不十分、しかも議会も貴族会の決議もなされず処罰を与えたなど

 ()()()()()()()()()()()です」


 正義がこちらにある、という主張に、王妃は顔を歪めた。

 彼女はいつでも”自分の判断は正しい”と思っているのだから。

 しかし論理的に反論できず、ただ睨みつけてくるのみだ。

 私も視線を合わせたまま、一歩も引くつもりはない。


 こうなったらこの件を、王家断罪の理由にするしかない。

 建国以来、王家を支え続けた公爵家に対し、

 何の証拠もなく意味不明な言いがかりを付け、

 議決などの決まりを背いて断罪しようとした、ということを。


 にらみ合う私たち。


 しかしその沈黙を破ったのは、

 ほとんど魔道具が外された国王が

 椅子から落ちた”ドサリ”という音だった。


 どうやら床に落ちた弓を拾おうとしたらしく、

 床に横たわったまま、片手に弓を握っている。

 ……レオナルドの母上、ブリュンヒルデ様の弓だ。

 傀儡(かいらい)のようになっても、彼にとっては大事なものなのか。


「国王様っ!」

「大変だ! 医師を呼べっ!」

 大慌てで駆け寄る侍従たちに反し、

 王妃は手を貸そうともせず、冷たい目で国王を見下ろしていた。


 侍従たちに運ばれていく国王。

 王妃が何か言おうとする前に、私は彼らに告げた。

「いったん戻り、両親に報告しますわ」


 彼らは私を引き留めなかった。


 とりあえず窮地を脱したが、頭の中は恐怖と怒りが渦巻き、

 王宮の長い廊下が、まるで延々と続く迷路のように思えた。


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