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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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107.大魔獣を倒す……?

 107.大魔獣を倒す……?


 そんなわけで俺たちは出立した。

 第4軍は、最初に顔を合わせた時の様子が嘘みたいに

 これから遠足に行くかのような盛り上がりを見せていた。


 馬に乗る者は背筋を伸ばし、周囲を警戒しつつ進み

 馬車の屋根付き荷台に座る者は、

 薬や爆薬などのリストを改め

 各班に平等に割り振られるよう思案している。


 不機嫌に寝転がっているのは、フレディくらいのものだ。


 あの後、置いていかれそうになったフレディたち3人は

 顔を真っ赤にして俺たちの馬車を追いかけて来た。

「乗せろーーー! 俺たちも乗せてくれーーー!」

「俺たちを置いていくのは王命に反する行為だぞお!」


 大声で叫びながら必死に走る彼らを十分に堪能した後

 仕方なく馬車へと招いたのだ。


 しかし三人とも別の馬車に分けて乗せたため、

 ”王家のスパイ”である監視人だと素性がバレた今となっては

 疎外感ときまり悪さで居心地は最悪だろう。


 しかし、ぎこちなさは俺も一緒だ。

 みんなチロチロ見てくるだけで誰も何も言わない。

 俺も何と言って良いかわからずに挙動不審になってしまう。


 さっきまで俺がやったことは、彼らに報酬を約束し、

 他からの侮辱を抗議し”味方である”ことを示して、

 力や馬など任務を遂行しやすくなる物品を与え、

 報酬を与える実力があることを見せたのだ。


 しかしそれでは、彼らの命を預かる者としては不十分だ。

 俺は彼らを理解し、彼らも俺を知らなくてはならない、のだが。


 馬が駆ける音が響く中、一人の男が俺に語り掛けた。

「……学生の頃に聞きましたよ、先生から。

 殿下が在学中、池の魚を釣ったって話を」

 俺はあわてて顔を上げ、彼を見た。

 その温厚そうな風貌の兵士を見て、俺は思い出した。


 俺を殺せば任務は終了、という話が出た時に

 ”心根は真っ当な人間だった、と先生から聞いた”と

 かばってくれた者じゃないか。


「釣っても食えるような魚じゃなくてガッカリだったけどな」

 俺の言い訳を聞き、皆は笑うが、言い出した彼は首を横に振る。

「あの池は魚が増えすぎて、酸欠になりかけていたそうです。

 殿下の件をきっかけに見直され、真夏の渇水時が来る前に、

 多すぎる魚は近くの川に放流されたんですよね」


 なんだ、オチまで知っていたのか。

 俺は苦笑いを浮かべた。


「先生は言っていました。

 ”王家が殿下に課したのは汚れ役だ。

 あの方がそれを演じ切ろうとしているのは、

 他ならぬ我々のためだろう”、と。

 ”万が一、学校や学友が彼を誉め讃えるようなことがあれば

 我々も殿下と一緒に(つぶ)されるのだ”、って」


 さすがは名門校の教師。その通りだった。

 オリジナル・レオナルドは常に

 ”出来損ないのクズ王子”でいなくてはならなかったのだ。


 同情に満ちた視線でこちらを見る第4軍の兵たちに俺は笑いかける。

「まあ、”誰からも認められる優秀な人間でいろ”

 なんて言われるよりマシだろ?」

 俺の強がりを、彼らは少しだけ笑ってくれた。


 しかしふと気が付いた。

 俺が通っていた学校は貴族のみが通える名門校なのだ。

 だとすれば、この話をした彼は。

 本来なら第4軍にいるような者ではないはず。


 俺の思惑に気が付いたのか、彼自身がつぶやいた。

「僕は家の爵位が廃止され、卒業できませんでした。

 伯爵家でしたが、行政の矛盾を指摘して王家の不興を買い、

 卒業まであと半年、という時に取りつぶされました」


 何という事だろう。

「それは……弁解の余地も無い」

 俺は申し訳なさのあまり、片手で顔を覆いうつむく。

 怒りと動揺を必死で押し隠す。

 俺だって王族だ。その俺になんて同情されたくないだろう。


 しかし彼は笑いながら俺に言った。

「殿下は無関係でしょう。僕ら家族はあの日以来、

 王家の言葉など信じなくなりましたから。

 だからレオナルド殿下の悪評を聞くたびに、

 懐疑的な思いでいっぱいでしたよ」


 俺は顔を上げ、彼に告げた。

「この国の爵位は、まもなく意味が無くなる。

 むしろこの国の貴族であったことを恥じる時は近い」

 これはキースも言っていた通りだ。

 期待に満ちた目でうなずいた彼に、俺は言葉を続ける。


「全てが終わり、自由と権利を手にしたなら

 君はもう一度学ぶ機会を得られるだろう。

 兵法を学ぶならロンデルシア国、

 経済学ならフリュンベルグ国の学校もお勧めだ。

 どこにでも行ける、どんな選択も出来る」


 いつだって人は学べる。生き直すことができる。

 彼はうんうんとうなずき、目に涙を溜めていた。


 俺は決意を新たにする。

 本人たちに自覚はなくとも、

 この国の貴族の未来はとてつもなく暗い。

 フランス革命のような血塗られたものにはしないつもりだが

 まさに”首を洗って待っていろ”という気持ちでいっぱいだった。


 俺は馬車を移動しつつ、休憩時には騎馬の者と食事し

 出来るだけ多くの人と対話することに努めた。


 正直、元・世界の就活で大失敗し

 何十通もの”お祈りメール”をもらった身としては

 自分の人間性を他人に晒すのはキツくて仕方なかった。

 それでもやらねばならないのだ。

 オリジナル・レオナルドのためにも。


 ”これからのご活躍をお祈り申し上げます”。

 期待には、答えるしかないだろう?


 ************


 歩けば三日以上かかる行程も、馬と馬車で進めば三分の一以下。

 だから俺たちは丸一日後には、

 この国最西の地であるパルダルに着いていた。


「まさか……もう着いたというのか」

 馬車でゴロゴロ寝ているだけだったフレディは

 外を眺めてショックを受けている。


 俺たちがぞろぞろと現地の村に入るのを

 パルダルの村人は最初驚きの表情で眺め、やがて。

「お願いします! 帰って下さい!」

 などと口々に叫んできた。


 第4軍は出鼻をくじかれたように困惑している。

 俺は軍に手をあげて停止させ、村人たちに向き合った。


「分かってるよ。ファヴニールはこの村では神様だからだろ?」

 事前に緑板(スマホ)でこの大魔獣について調べてきたのだ。

 ”現地では神として崇められ、大切にされている。

 村や人間を攻撃することは無く、

 邪悪な存在に対してのみ牙をむく”


 おそらく、異常な光魔法を行使する王妃を滅するために現れたのだろう。

 あいつ、自分が”邪悪な存在”だって自覚ないからな。


 俺の言葉を聞き、村人たちは次々とうなずき懇願する。

「討伐命令が出たと聞き、我々は悲嘆にくれています。

 どうか神には手を出さず、お帰り下さいませ!」


 そこにフレディが駆けこんで来て、村人を怒鳴りつけた。

「お前ら全員、バカなのか? 魔獣だぞ魔獣っ!

 何が神様だよ、そのうち全員食われんだよバーカ!」


 子どもか、お前は。

 俺は呆れて彼を片手で制する。

「お前に現地の交渉は任せていない。引いてくれ」

 目をむき不満で膨れ上がるフレディは

 俺の言葉を無視し、手に持った証書を広げた。


「お前らっ、これを見ろ! 王命だぞ!

 逆らうならその場で拘束してや……」

 彼は”最後まで言えない”呪いにかかっているようだ。

 フレディは俺の裏拳で後ろにふっとび転がった。


 地面に落ちた証書を拾い上げ、俺は声高にそれを読み上げた。

「えーと、”大魔獣ファヴニールを倒し、パルダルの地に

 安息をもたらすまで、第4軍は絶対に戻ってきてはならない”、か」

「そうだ! お前……殿下だって逆らえば重罪だぞ!」

 他の監視人に支えられ、鼻を押さえたフレディが叫ぶ。


 俺は彼ではなく、村人に向かって宣言する。

「安心してくれ。君たちが心配するようなことにはならない」

「ええっ!? で、でも」


 俺は言葉を重ねる。

「このままだと村にとっても良くないだろう?」

 大魔獣ファヴニール出現は直接的な被害がなくとも、

 その存在を恐れた他の地域からの物流が絶たれてしまうのだ。


 困惑し、顔を見合わせる村人たち。

 そこに、一人の若者が駆けてくる。

「ご来降されました! シヤン山の辺りです!」


 俺たちは一斉に駆け出した。

 彼らの”神様”を参拝するために。


 ************


「あれが……大魔獣ファヴニール!」

 兵の誰かがつぶやいた。

 そうは言っても、魔獣の全身が見えているわけではない。

 森の上から竜のような頭部と首が見えるだけだ。


 デカい。とてつもなく巨大な魔獣だった。


 真っ黒だが、その表面は薄く透明な物質で覆われているらしく

 偏光し虹色の輝きを映し出している。

 動くたびにその光模様が変化し、その姿は”美しい”の一言に尽きた。

 真っ赤な目は内側で炎が揺らめくように光り、

 どこか知性を感じさせている。


 俺はその大魔獣を見て、

 はるか遠くで独り闘う婚約者(エリザベート)を思い出した。

 ……と彼女が聞いたら怒るかもしれないが。


「まずは挨拶させてくれ。全員、その場で待機!」

 お待ちください護衛を! という声に片手で手を振り

 俺はゆっくりとファヴニールの近くに歩みを進めた。


 背後で心配する声が飛び交う中、一人だけ

「パクっ! と食われたら良いのに。そうすれば俺たち……」

 というフレディの声も聞こえるが、相変わらず最後まで言えてない。

 おそらく誰かが封じたのだろう。

 後で”特別功績賞”でもあげないとな。


 俺は隊から十分に離れ、木々に隠れた。

 ポケットから緑板(スマホ)を取り出し、すばやく設定する。

 やがて緑板(スマホ)からは龍の鳴き声が流れ出す。

 ……どうだ? 通じるか?

 これはこの魔獣にとって、”挨拶”に該当する鳴き声なのだが。


 しばしの間の後、大魔獣ファヴニールはゆっくりとこちらを向く。

 そして短くひと鳴きした。

 緑板を確認すると……

 そこには、”汝は誰ぞ”と出ている。


 やった。緑板(スマホ)の通訳機能は成立したぞ。

 俺は思わず笑みがこぼれる。

 事前に調べたとおり、

 やはりこの大魔獣は高い知性を有しているようだ。


 俺は交渉すべく、木陰から大魔獣の前に飛び出した。

 そして緑板(スマホ)に交渉内容を入力し始めると……


 グゴオオオオオオオオ!

 ものすごい音を響かせ、ファヴニールがうなった。

 そして俺の目の前まで顔を近づけてくるではないか!


 え? まじか?

 フレディの願い通り、パクっといかれるとか?

 さすがに焦って後退していると、

 ファヴニールが何か長めの言葉をつぶやいた。


 ゴウルグリュングリュドグルルルル?


 俺は大急ぎで手に持った緑板(スマホ)を見た。

 大魔獣は今、何と言ったのだ?


「うわああああ! 嘘だろっ!?」

 画面に出たその翻訳を見て、俺が絶叫するのと同時に、

 大魔獣ファヴニールが俺に向かって突進してきたのだ。



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