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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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101.守ってあげたい 

 101.守ってあげたい


「君が……無事で良かった」

 美しい銀髪がぼさぼさになったまま、

 ディラン様は藍色の目に安堵の色を浮かべています。


「……本当に申し訳ございませんでした」

 拘束具を解かれ、自由になった私が最初にしたことは、

 その場に平伏し、謝ることでした。


 敵が階段を降りてきた! と思った私は

 出会い頭に暴風でぶっ飛ばしてやろう! と、

 ”癒しの風”のハイパーエクストラ版をお見舞いしたのです。


 そのため、部屋に飛び込んで来たディラン様は

 そのまま後方に吹き飛ばされていってしまいました。


 彼はすぐ受け身を取ったため大事には至りませんでしたが

 しばらくは申し訳なさで、私は顔があげられませんでした。

 せっかく助けに来てくださったというのに……。


「いいから顔をあげてくれ。

 さっきの技はすごいな、あんなことが出来るなんて」


 ディラン様はまだ、私がガウールで

 膨大な聖女の力を得たことを知らないのです。

 私は慌てて言いました。

「敵が大勢来たと思ったんです……火事場の馬鹿力でしょうか」


 なんとか誤魔化す私に、

 そうなのか……とつぶやいたディラン様は

 急に悲しそうな顔になり、

 いきなりギュッ! と私を抱きしめました。

「そんなに恐ろしい思いをしたのか。可哀想に!

 ……もう、大丈夫だ! フィオナ」


 ディラン様の胸の中で、

 私は固まっていました。

 かなりの間、べリアさんはお風呂に入っていなかったようでした。

 そのべたつきや匂いが、一緒に脱出しようとして

 必死にすがりついた私にも付いているはずですから。


 無理やり身を引きはがし、ディラン様に叫びました。

「あのっ、私、いろいろ汚れているので」

 彼は”ん?”という顔で首を傾けた後、

 私の頭をなでながら、優しく言いました。

「そんなことはない。フィオナはいつでも綺麗だよ」


 私の顔は赤くなり、何も言葉は出ません。

 すっかり困ってしまいました。

 さっき聖騎士団に捕まった時よりピンチな気持ちがします。


 ……実は私は異世界転移前の元・世界にいたころ、

 それはもう立派な”ダメ男の飼育員”だったのです。

 その経験則から、付き合う前にやたら甘い言葉を並べる(ヤツ)

 かなりの高確率で”ダメ男”に()()する可能性が高い、と知っています。


 ディラン様は、老舗和菓子屋の激甘羊羹(ようかん)よりも甘い言葉を連発するため

 おそらく私至上最高の”ダメ男”になることが予想され、恐ろしいのです。


 でも。この人……


 私はディラン様を見ました。

 銀色の髪に紺色の瞳。整った顔に抜群のスタイル。

 ”完璧貴公子”と貴族の間でも評判だった方。

 それにシュバイツ公爵家のご嫡男という肩書もあってもう無敵……

 あれ? シュバイツ公爵家……


 私は急に我に返って叫んだ。

「ディラン様、この場にいてはいけません!

 ここは聖騎士団が元・聖女を収監していた場所です!」

「……知っているよ」

 ディラン様は穏やかに微笑んで言いました。


 私は焦りました。このままだと彼は……シュバイツ公爵家は。

「私は元・聖女を逃しました。

 この国は他国に非難され、

 王族は強く抗議されることになるでしょう」


「ああ、そうだね。この国が”政教分離の原則”に反してるのは

 前々から各国の教会から注意や指導を受けていたから

 今回の件はかなりの騒動になるだろうね」

 まるで他国の出来事のように、淡々と語るディラン様。


 王子いわく、国家と宗教は完全に分離され、

 国家が宗教に干渉しないことが大原則なのだそうです。

 このままだと、世界の教会とこの国は

 激しく対立することになってしまうでしょう。


 私はディラン様に言いました。

「私も他国とともに、この国の教会の不正を明らかにし

 その罪を追及するつもりです。

 だから、彼女を逃がしたんです。

 あなたがそれに加担しているとなると……

 あなたは、シュバイツ公爵家は、

 王族に反したことになってしまいます!」


 シュバイツ公爵家は建国以来、

 ずっと王家を支えてきた、名門中の名門です。

 それだけではなく教会と王家の仲介役として

 時おり嫡男の妻として聖女を迎えることもあるような

 選ばれし高貴な家柄なのに。


 ディラン様はちょっと驚いた顔をして私に言った。

「心配してくれるのかい? 嬉しいな!」

「ディラン様! 今ならまだ……」

 軽い調子で私の言葉をいなす彼にすがって叫びました。


 このままだと、彼を巻き込んでしまいます。

 教会との、そして王族との戦いに。


 それなのに、ディラン様は何故か悪戯な笑みを浮かべて。

「今ならまだ……そう思うかい?

 残念ながら、手遅れだ」


 バタバタと騒がしかった上から、誰かが降りてくる音が聞こえます。

 それはシュバイツ公爵家の私兵さんでした。


 彼は入り口で敬礼し、ディラン様に向かって叫びました。

「あの聖騎士団を確保しました。

 そのまま公爵家へと連行します」

 ディラン様は振り返って言った。

「ああ、急いで。警護は厳重にするように」

 小気味良い返事をした後、慌ただしく戻っていく私兵さん。


 私はあぜんとディラン様を見ました。

 ふたたび私に視線を戻した彼は、

 衝撃的なことを宣言したのです。

「シュバイツ公爵家は今回の件を、

 ”政教分離の原則”に反する上に、神の教えにも背くとし

 王族および教会の上位聖職者を糾弾する運びとなったんだ」


 そ、それって! 宗教改革? いや、違いますね。

 政変? それともクーデター? でもないし。


 ああっ、なんだろう、”シュバイツ公爵家の乱”とか?

 遠い将来、子どもが必死に暗記するような、

 歴史的な出来事ではありませんか?


 驚きで声が出ない私に、ディラン様は自分の上着をかけながら

 柔らかい笑顔をみせて言いました。

「この国がおかしいことなんて、

 誰もがとっくに分かっていたことだよ。

 いつか破綻すると思っていたからこそ、

 何に対しても本気になれなかったんだ、僕は」


 そして急に厳しい顔になり。

「でも、君が現れた。どんなに力が無くても、

 そのことを人に見下され、貶められても。

 君は一度も目的を見誤ることはなかった。

 ”人のために祈り、できることをする”という目的を」


 戸惑い、さらに言葉が出てこない私に

 彼はいきなり問いかけました。

「”聖なる力”と”光魔法”の違いがわかるかい?」

 私は少し驚きましたが、知っていることを述べました。

「”聖なる力”とは、癒しと安らぎの力で……

 ”光魔法”は……治癒や回復呪文もあるけど攻撃もできますから」


 ディラン様はうなずく。

「そうだよ。あれは”火炎魔法"や”闇魔法”と同じように

 れっきとした呪法の一種だ。

 それを行使するのは個人の才能に過ぎない。

 しかし”聖なる力”はそうじゃない」


 私は自然と言葉が出てきました。

「”神による選ばれた者のみが使える力ではなく、

 誰もが使える力です。誰しも奇跡は起こせるのです”」


 それを聞いてディラン様は目を見開きました。

 私の両肩をつかんで絶句しています。


 そうですよね、私が、私ごときが。


「私が幼いころにお会いした、女神さまのお言葉です」

 これを人に話すのは初めてでした。


 王子やエリザベートさん、ジェラルドさんにも言ってなかったのです。

 でも王子のお母様にお会いした時、

 メアリーがサクッと”女神さまに会ったことがある”と話すのを見て

 ”あれ? これって人に話しても良いんだ”と思ったのでした。


 ディラン様は頬を紅潮させてつぶやきました。

「その文言は、わが公爵家に伝わる聖伝に書かれている女神の言葉だ。

 これを知っているのは正当な後継者のみ。姉上だって知らないのに」


 そして感極まる様子でつぶやいたのです。

「君は……本物の聖女だったのか!」

 私はあわてて首を横に振りました。

「その割にたいした力はありませんでしたから」


 ディラン様は悲し気に言いました。

「力の有無か……聖女べリアが断罪された話は聞いただろう?

 その時、”禁忌の印のついた妖魔”が使われたんだ。

 あれはね、実はどこにでもいるものなんだよ」


 私はショックを受けつつ、

 キースさんが言った通りだと知りました。

 うなずく私に、ディラン様は話を続けます。

「やはり、気付いていたのか。

 ”禁忌の印”のついた妖魔はどこにでもいる、と。

 ではどうして国内では見つからなかったんだと思うかい?」


 わからなくて考え込む私。

 しかしその時。


 大人数が駆け下りてくる音が聞こえ、

 入り口から多数の聖騎士団員がどっと押し寄せてきました。

 全員が目を血走らせ、息を切らせています。


「べリアをどこにやった!」


 ものすごい形相で剣を構える彼らを見据えたまま

 ディラン様は私に言いました。

「君が聖女でなくても。力など無くても。

 そしてもはや僕の婚約者ではないとしても……

 君のために戦わせてくれ。

 君を守り、君が望む世界にするために」


 私は思いました。ディラン様はのちのち、

 史上最高の”ダメ男”になってしまうかもしれません。

 それでも。


 私も、この人を守ってあげたい。


 私は聖騎士団に向きなおり、

 ”癒しの大暴風”をぶちかましてやる! と構えたその時。


 法衣をまとった、かつて高位の聖職者だったと思われる男が

 聖騎士団たちの後ろからゆっくりと現れたのです。

 そしてとんでもないことを言いだしました。


「こやつらを捕らえよ。

 我が力を、その身に分け与えてやろう」

 そういってかかげた手のひらから、

 聖騎士団へと邪悪な力を注いでいきます。


 聖騎士団員たちの姿が、

 みるみる化け物に変わっていくではありませんか。


 魔属性。

 それって”分け与える”ことが出来るものなのか。


「馬鹿が伝染るというのは本当だな」

 私の横でディラン様が毒を吐きます。

 それを聞いた聖職者風の魔族は、フン、と鼻で笑った後。


「しゃべれれば良い。手足は食ってもかまわん」

 そう言いながら、両手を上に上げ、さらに魔力を解放しました。

 ダメです! そんなことしたら!


「うわっ! なんだ?」

 ディラン様の胸元が強い光を放っています


 ああ、やはり持っていてくれたんですね。

 私があげたお守りは、実はかなりの力を込めたものでした。

 それが、あの巨大な魔力に反応してしまったのでしょう。


「これは、フィオナのお守り?!

 ちょっと待て、これって……」

 取り出したお守りを手に、ディラン様が叫びますが。


 お守りは、爆発するような光を放ち……。


 私たちを取り囲んだ全ての魔属性を持つ者たちを、

 爆音とともに吹き飛ばしたのでした。

 ……壁や天井など、全てを破壊しながら。



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