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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第四章 最高の結末

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100.べリア救出作戦の成功と失敗

 100.べリア救出作戦の成功と失敗


 うーん、やっぱり難しいですね。

 思うようにいかないものです。


 私は今、冷たい床の上に寝っ転がったまま、

 遠ざかっていく聖騎士団員たちの足音を聞いています。


 先ほど引っ張られ、何本か髪が抜けた部分が痛みますが

 手を当てて癒すことはできません。


 何故なら……両手両足を拘束されているからです。

 頬を平手打ちされた時に口の中を切ったのか

 血の味が広がっています。

 私は思わずつぶやきました。


「……今はしょっぱいものより、甘いものが食べたいなあ」


 ************


 私はあの後、いろいろ準備を済ませて

 べリアさんが捕まっている”ヘーネスの酒場”へと向かいました。

(もちろん緑板(スマホ)で検索したのです)

 ここはあのグエル元・大司教が隠れた根城にしていた場所です。

 やはり王家も聖騎士団も、あの悪人とつながっているのでしょう。


 店の前には誰もいませんでした。

 見張りはいないのかな? と思ったら。


「やっぱり現れたな」

 急にドアが開いて、聖騎士団員の男が現れました。

 そしてぞろぞろ中から出てくると、私をぐるりと取り囲んだのです。


「上が言ったとおりだったな」

「”べリアを処刑する”と広めれば絶対に現れるって」

「俺たち運が良いな。コイツを捕まえれば昇進できるぞ」


 その会話を聞き、私は不思議に思いました。

 べリアさんと私、そんなに仲良しではなかったのですが。

 なんでそう思われたのでしょう?


 王子たちから引き離した私をおびき出し、

 捕まえるための罠だとは思っていましたが。


 私の心を読んだかのように、一人の男が言いました。

「自分の代わりに死なれちゃ、一生後ろめたいもんなあ?」

「腐っても元・聖女だしな。こうしてちゃーんと救いに来たって訳か」


 つまり最初の”あらすじ”にあった”私を生贄にする”という計画、

 あれはすでに秘密の作戦などではなく、

 この国の正式な施策なのでしょう。


「それにしてもまさか、のこのこ出向いてくるとはなあ」

 その通りでした。

 私は結局、何のプランも浮かばなかったのです。

 だから()()()で行くことにしました。

 ”直接、乗り込んでみる”という作戦です。


 彼らは私を拘束し、建物の中に引き入れました。

 先に進めと小突かれつつ、私は彼らに尋ねました。

「あの、べリアさんはすでに聖なる力を失ったと言うのは本当ですか?」


 彼らはニヤニヤし、うなずきながら言いました。

「もうスッカラカンだよ。お前も同じ目に……

 あ、そうか、元からスッカラカンかあ!」

 全員がドッと笑いました。


 そして階段をどんどん降り、

 最奥の部屋へとたどり着きました。


 薄暗い部屋の中、私は()()()、震えた声で言いました。

「嫌です……べリアさんに会うのは怖いです。

 身がすくんで、動けなくなりそうです」


「おおそうか、それは都合がいいな。

 大人しくしてくれたほうが、この先が楽だからな」

「そうだよ、せっかくだから会わせてみようぜ。

 あれを見れば、コイツも観念するだろうさ」


 よしよし。私の心に”計画通り……ニヤリ”が浮かびました。

 会いたくないと言えば、会わせようとする。

 それがこの国の、聖騎士団の性格ですから。


 彼らは嗤いながら、奥の牢屋に近づきました。

 そしてポケットから、重そうな鍵を取り出し。


 ギギギギギ……


 錆びついた音をさせて、扉を開きました。


 暗くてよく見えませんが、べリアさんは出てこようとはせず、

 鉄柵をつかんで、何かブツブツ言っています。

 デイブさんが中に入り、彼女の腕をつかみ、

 牢屋の入口へとひっぱってきました。


 彼女はバランスを崩し、よろけて入り口付近に倒れ込んでしまいました。

「べ、べリアさん!」

 私が彼女を案じて駆け寄るのを、

 聖騎士団の男たちは冷たい笑みを浮かべ見ています。


「大丈夫ですか? こ、こんなにやつれて……」

 そう言いながら私は、この部屋の入り口を見ました。

 うん、ドアは開いていますね。


 そして視線を彼女に戻し、彼女に小箱を握らせました。

 そのまま彼女に覆いかぶさるようにつかまりました。

 いっけん、彼女にすがって泣いているように見えるでしょう。


「な? お前もじきに同じ目にあうんだぜ?」

 脅すような、からかうような口調で男が言います。


 私は無言で、そのままじっとしています

「どうした? 何で動かない?」

 一人の男がイライラした声で言いながら、

 私に向かって手を伸ばした時。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「な? なんだ?」

 彼らが入り口を振り返った時には、もう遅いのでした。


 この店の入り口から、店内、廊下、そして階段。

 牢屋の前まで流れ込んできたのは、

 闇魔法”戒めの鎖(バインド・チェーン)”です。


 その鎖の先は小箱を抱えたべリアさんをぐるりと包み込むと、

 今度はいきなり、ものすごい勢いで彼女を引き出していきました。

 ポーン! と弾けるように引っ張られ、

 ピュー! と階段を放り上げられていきます。


 元世界のテレビで見た、カツオの一本釣りならぬ

 まさかの”聖女・一本釣り”です。


 ほんの一瞬でした。

 彼らはあっけにとられたまま、

 引っ張られ飛んでいく彼女を見ていることしかできません。


 しかし。

 私は大きな失敗をしてしまったのです。


 その驚きの吸引力に加え、

 べリアさんがぬるぬるしていたという誤算もあり、

 私は必死に彼女にしがみつきましたが、

 階段をあがったところでとうとう振り落とされ、

 そのまま下へと転がり落ちてしまったのです!


 我に返った彼らは気が狂ったように叫び、

 階段下でうめいている私の胸倉をつかみ、

 思い切り頬を平手で殴った後、

 階段を駆け上がっていきました。


「逃げるつもりだ! 国境検問所に急げえええ!」


 床に転がった私に、一番偉そうな男が蹴りを入れながら

「絶対に取り戻せ! 俺たち殺されるぞお!」

 と叫び、団員たちを追いかけていきます。


「てめえええ! 後でなぶり殺しにしてやるからなあ!」

 彼はそう叫んで力いっぱいドアを閉め、去って行きました。


 ************


 そんなわけで私は今、ここに放置されています。

 とりあえずべリアさんを逃がすことには成功しました。


 彼女は今ごろ国境をめざし、大急ぎで運ばれているはずです。


 私はあらかじめ、協力者へ連絡を取っておきました。

 ローマンエヤール公爵(エリザベートさんパパ)に、

 何かあったらその人を頼るように言われていたのです。


 他国の聖職者を国内から締め出している今、

 頼れるのは公爵家の人だけです。

 しかも聖騎士団に見つからないように動けるのは2人だけでした。

 魔導士さんと、兵士さん。


 だから魔導士さんが小箱を”目標点”として”戒めの鎖(バインド・チェーン)”を行使し

 引き出した彼女はそのまんま袋に入れ、

 早馬で出国させる手はずにしたのです。

 本来は私も一緒にここを出る予定だったのですが……


 聖騎士団員たちは大慌てで追いかけましたが、

 国境検問所から出国する、と思い込んでいるようでしたので

 追いつき捕まってしまうことはないでしょう。


 ローマンエヤール公爵家はとっくに、

 裏のルートを作っているそうですから。


 彼女が他国に保護されれば、”生きた証拠”として

 この国がしたことが世界に明るみに出ます。


 私は床からゆっくりと起き上がり、つぶやきました。

「……お腹、すいたなあ」


 痛み? そんなものはすぐに”治癒(ヒール)”したので消えています。

 人間のクセで、痛いところに手を当てたい気持ちはありましたが、

 そんなことをしなくても、

 内側から出る力で傷や痛みを無くすことは可能なのです。


 でも、拘束具を外すことはできません。


 このまま彼らに捕まるのも悪くないかもしれない。

 ”食べ残しが入ったまま放置された弁当箱”みたいな

 腐りきったこの国の偉い人たちを

 最後にぶっ飛ばしてやるのも良いかもしれません。


 後は、王子がやってくれるでしょう。


 王子が生まれた時に受けた天啓は

 ”この者が国を去れば、シュニエンダールは滅び、

 この者が国に留まれば、シュニエンダールは破壊される”でした。


 もうじき、この国は破壊されるのでしょう。

 それはもう、木っ端みじんに。


 王子。エリザベートさん。ジェラルドさん。

 仲間を思い出し、私は思わず笑顔になりました。


 異世界に来れて良かった。

 みんなに会えて、本当に楽しかった。

 この世界での日々が走馬灯のように……


 流れることはありませんでした。


 何故なら感傷に浸る間もなく、上が騒がしくなったのです。

 彼らが戻ってきたのかもしれません。

 大勢の、仲間を引き連れて。


 私は覚悟し、ドアを睨みつけます。

 できるだけ大暴れしてやる。

 縛られていたって、聖なる力は使えるんだから。

(階段を転がり落ちたショックと痛みで、

 彼らからの防御は間に合いませんでしたが)


 誰かが早足で階段を駆け下りてくる足音がします。

 そして一瞬の間を置き、扉が勢いよく開きました。


 ……それが敵ではなく、

 助けに来てくれたディラン様だと気付いたのは、

 私が全身から”癒しの暴風”をぶちかました後だったのです。



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