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七条家の糸使い(旧タイトル:学年一の美少女は、夜の方が凄かった)  作者: 藍依青糸
こぼれ話

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変態千年馬鹿万年

おまけその③、最後はまさかのこの男。

時間は50話の直後くらいからです。

 白い男が、天をつないでいく。


「うーん! どうしてこうなった!」


 くっつけたそばから裂けていく天を、男は力にものを言わせてつなげていく。

 男は裁縫が苦手だった。もう千年も生きているのに一向に上手くなる気配がない。


「これはまずい! 転落人生とはこのことかな!はははぁ! 笑えてくるね!」


 笑ったそばからまた裂けた天を完全につなげるのに、相当な時間が必要だった。


「ふう。やっぱり裁縫は難しいね! それでも、今回はなにかコツを掴めた気がするよ!」


 実際には、力任せにくっつけただけであり、布をボンドで無理矢理くっつけたのと同じなので、裁縫のコツなど掴めたはずもなかった。


「まずいね! 和臣くんが戻らなかったら最悪だ!」


 男はぱちんっと指を鳴らして、地に降りる。

 天が落ちるということになって、無理矢理にでも線を引かせるつもりだった彼は、男の予想よりも美しく、滑らかに、男の胸を締め付けるように天に線を引いた。

 天に線を引いたことで、この世の理を変えた彼は。

 男が七百年待ち望んだ彼は、この世にいることを許されなくなったのだ。

 彼を引き込むため、大きな門が開いた。

 生きた彼を門に通すため、大量の霊が飛び出した。

 それらは山にいた術者達が消したようだったが、もう門は閉まってしまっていた。



「和臣っ!和臣!」


 彼の名前を呼ぶ子がいた。

 そして、白い男は、彼女の小指に繋がる糸を見た。


「うん。これは僕が悪いな。あそこで油断したのがいけなかった」


 線を引いた彼が、この世から何も干渉を受けないはずがなかった。それでも、千年を生きた男にとっても、あの世からの干渉とは少し予想外だった。

 あの時最高の気分になり、油断をしていなかったとは決して言えない男は、素直に自分の非を認めた。


「やあ。ちょっと手伝ってくれないかい?」


 しかし、男1人では彼は連れ戻せない。

 死ねない男が直接門をくぐって連れ戻す方法もあるにはあるが、それでは彼がこの世から外れてしまう。

 あくまでも、()との繋がりを辿って戻らなければならない。


「お前っ!」


「うーん。少し落ち着いてくれ。大丈夫、まだ間に合うさ」


「.......」


 射殺さんばかりの視線を受けても、男は門の中の彼のことしか頭になかった。

 あまりここで霊力を出されては、自分が門を開けない。その事だけが男にとっての問題だった。


「おやおや。力の出しすぎたね。少し引っ込めようか」


「っ!!」


「いいかい? 僕がもう一度門を開けよう。君は、和臣くんを呼べばいい」


「.......」


「信じてくれ。僕はこんな所で和臣くんを失うわけにはいかないんだ」


「.......嘘だったら殺す」


「はははぁ! それは素晴らしい! っと、急ごうか」


 男は手刀で、地を裂いた。

 そして、門が現れる。


「いいかい? 死ぬ気で呼びたまえ。彼がきちんとここに戻れるようにね」


「和臣! 戻ってきて!!」


「うん、呼び声は問題なさそうだ。じゃあ、開けようか」


 男は門を開けた。人には決して開けられない門。

 それを、人からはだいぶズレてしまった男は悠々と開く。


 そして。

 七百年ずっとずっと待って、やっと出会えた小さな子供が、門から走り出てきた。

 人に、戻ってきた。


「ふう。よかったよかった。じゃあ、僕は失礼するよ。さすがにここに居座るほど野暮じゃないからね! はははぁ!」


 男はぱちんっと指を鳴らしてその場から消える。


「.......うん。よかった」


 久しく感じていなかった柔らかな感情を抱き、男は()に腰掛ける。

 彼が引いた線を撫で、神の隣に悠々と。

 友人の子供の無事も見届け、男は過去に目を閉じた。


 男は天才だった。

 誰よりも優れた術者であり、誰よりもズレた人だった。

 どんな術者も男には敵わず、どんな人も男の隣に立てなかった。

 男はそれをなんとも思っていなかったし、自分の好きなことさえ出来ればそれで良かった。

 彼は自由に、勝手に、気ままに、生きていた。

 そんな中。


「せいめーーーいっ!!!」


「あれ? 道満じゃないか! どうしたんだい? まだ花見の季節ではないよ?」


「なぜ貴様と花見などせねばならんのだ! そんなことではない!! 勝負だ! 晴明!」


「うーん。困ったなあ。僕はこれから散歩に行くつもりだったんだよ」


「散歩と私どっちが大事なんだーー!!」


「困ったなあ。うん、まだ桜も咲かないし、勝負しようか!」


「桜があったら散歩に行くのか.......」


「泣かないでくれたまえ。勝負はするからね!」


「.......お前、嫌い」


「ええ! 僕は君のこと好きだよ?」


「そう言って1回も私に負けないところも嫌いだ!」


「はははぁ! 今日はなんの勝負をしようか!」


「話を聞けーー!!」


 男に何度も何度も結果の分かっている勝負を持ちかける彼は、いつの間にか男の友人となっていた。

 彼はそれを認めなかったが。

 それから、時が経って。


「晴明、霊山を管理する家があるだろう?」


「ああ! あの9つの家だね!」


「そうだ。私は、もう1つ家を作ろうと思う」


「へえ! 京都にかい?」


「そうだ。そこで、だな」


「どうしたんだい? 花見に行くかい?」


「話を聞け!.......そうではなくてだな。お前と、私の子供達に、その家を任せようと思うのだ」


「へえ! .......ん?」


「ふはははは! やっとお前の驚く顔が見られたわ!」


「道満、残念だけどそれは出来ないよ。僕お嫁さんいないし」


「早くもらってこい」


「困ったなあ」


「私は! お前となら! この京都も! この先千年だって! 守れると思ってるんだ!」


 耳を真っ赤に染めて怒鳴る友人がおかしくて、男はつい返事をしてしまった。


「じゃあ、僕にお嫁さんができて、子供が出来たら。千年続く家を作ろうか!」


 酒を飲んだときですら見せない友人の笑顔を見て、男は少し本気で嫁を探す気になっていた。

 しかし。


「道満」


「晴明!! お前今までどこいってたんだ! お前の仕事だって私が.......どうした?」


 いつもと違う男の様子に、友人が気づかないはずがなかった。


「悪いね! お嫁さんの話だけど、なしにしてくれ!」


「.......何があった?」


「僕は自由に生きたいんだ! 桜だって自由に見たいのさ!」


「.......何があったと聞いている」


「.......少し、拾い食いをしてね。死ねなくなった」


「.......は?」


「はははぁ! まさか人魚があんなに美味しそうなんてね!」


「.......は?」


「煮物に焼き魚に、美味しく頂いてしまったよ! はははぁ!」


「.......この、バカーーー!!!」


 思いっきり頬を殴って、彼は男の前から消えた。

 それから、何十年と経っても、男は若いまま、気ままに桜を見ていた。


「うん! 今年の桜も綺麗だ!」


 男は全く懲りていなかった。

 彼にとって千年も1年も、桜が咲くのなら変わらなかった。


「晴明」


「あれ? 道満、道満じゃないか!!」


 黒かった髪は白く変わり、一回り小さくなった友人は、以前と同じ輝く瞳で男を見た。


「家を作った。私の子供が繋ぐ。千年でも、二千年でも! お前が生きている限り、私の子供も生きている!」


「道満?」


「私の子供が生きているなら、私もお前と共にある!

 いくらだって花見に付き合ってやる! だから!」


 男に詰め寄って、胸ぐらを掴んだ彼は。


「.......心は人であれ。晴明」


 泣きそうな目で、男を見た。


「お前の体が、もう人ではないのは知っている!!

 お前が、もう人からは外れているとは分かっている!!

 神の領域にまで足をふみいれていることも感じていた!!」


 年老いた喉を震わせて、必死に伝えるのは。


「.......私は、共に生きられない。でも、お前には、私の友人には! 人でいて欲しい!!」


「.......道満」


「.......なんだ」


「人が、神になることはできると思うかい?」


「.......ああ」


「人が、黄泉に行っても帰って来れると思うかい?」


「.......ああ!!」


「人が、神との境界を変えることが、できると思うかい?」


「.......ああ!! 人間をなめるなっ!」


「そうか! では、待っていてくれ!」


「.......なにを?」


「僕が、人に戻るのをさ! 僕はもう人ではないけれど、神との境界をいじってしまえばいいのさ!

 そうすれば僕も君の所に行ける! このままだと僕は神になってしまうからね! それは避けたい!」


「.......そんな馬鹿な」


「確かに、境界をいじっただけでは僕の体は変わらないだろう。神になれないだけだ!」


「.......では、どうする?」


「考えるさ! だから、それまでは君の子供達と桜を見ているよ」


「.......お前、やはり変態だな。おい、晴明! 勝負だ! お前が来なかったら、私の勝ちだ!」


「はははぁ! 今回も僕の勝ちだね!」


「勝ってみろよ! 晴明!」


 それから、三百年。いつも通り友人の子供が繋いでいく家を、子供達が大事にしてくれている桜を、天に腰掛けて見ていた時。


「あ、境界って線じゃないか」


 気づいた。


「はははぁ! ということはだ!! 一条じゃなかったんだ!! 」


 空の上でくるくると回り出した男は、久しぶりに気持ちが昂ったのを感じた。


「七条!! 七条だったんだ!! 僕と神を区切ってくれるのは!!」


 それから、七百年。男は待った。

 自分を人に戻すための1歩を、線を引く者を。


 そして、出会った。

 小さな男の子に。



 男は目を開けて、今の地上を見る。

 まだ、友人の元には行けないけれど。


「はははぁ! もう少し君が見たいのさ! 和臣くん!」


 あと何回桜が見られるのか、男にも分からなかった。

晴明は道満の子供達には1度も会っていません。

ずっと上から見ていただけです。

なので、零の家の人達は、晴明の存在を忘れています。

ただ、桜はずっと大事にしています。


これまでの解説。(もしよろしければご覧ください)


晴明の初登場が、完全に悪役だったのは和臣に会えるということでテンションが上がりすぎて常人には分からない思考になったからです。

結構軽い感じで人を呪ったりとかします。変態なので。


70年前に晴明が現れたのは、なんだか暇だったので散歩をしていた所を発見されただけです。

5年前に現れたのは、和臣が術者として働き出したので、いつ誘おうかとふらふらしていたら、いきなり和臣が術者を辞めてしまって、がっかりしていたところです。


零様が晴明を悪しき物と言ったのは、晴明がどちらかと言うと邪神よりだからです。変態なので。



◆◇◆◇


今までお付き合いいただきありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。


最後のおまけに主人公がほぼ出ないことに今気づきました.......。

かわいそうなのでもしかしたら和臣くんの話を書くかもです。


ここまでお読みいただきありがとうございました!

それでは、またお会いできることを願って。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 晴明めっちゃいい友人もちましたね。ここまで気にかけてくれる友人なんて滅多にいませんよ。 晴明が道満に啖呵切ったときは格好良かったのに……。そのあとの変態行動のせいで評価が……。まあ、面白いか…
[良い点] 晴明が和臣に対して異常だと思えるまでに好意的?だった理由がわかってよかったと思います。やっぱり不老不死はロクでもないですね。 そりゃ悪役っぽくもなりますよ。 [気になる点] 晴明は笑っ…
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