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七条家の糸使い(旧タイトル:学年一の美少女は、夜の方が凄かった)  作者: 藍依青糸
世の中にたえて桜のなかりせば

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どん!

 山が燃えていた。


 急いで窓に近づいて目を凝らす。どう見ても、山頂付近が燃えている。このままでは、すぐに大規模な山火事になってしまう。


「っ!!」

「あ、ちょ葉月!!」


 いくら和臣が優秀な術者でも、炎には勝てない。煙を吸っただけでも死んでしまう。


「中田さん! お願い、山まで連れていって! 火が!」

「はい?」


 駆け込んだ支部の駐車場では、中田さんと花田さんがバケツいっぱいの墨と筆を持って、車に術を書き込んでいる最中だった。

 事情を説明すれば、花田さんと中田さんが術を書く手を止めた。花田さんが、グッと筆を握り込んで拳を作る。


「……さすが隊長! ツイている!」


 花田さんが術を書くのを再開した。流れるように術を書くその顔には、うっすら笑みがあった。

 焦っていた心に、急にブレーキをかけられたみたいだった。花田さんはなぜ、喜んでいるのだろうか。火事で和臣が危ないと言うのに。


「水瀬さん、申し訳ありませんが、作戦変更です」

「ええ」

「あの規模のヌシがいる山で火事など、本来ならあり得ない! もしかしたら、隊長のサラマンダーの仕業かもしれません。いえ、十中八九そうでしょう。これはあのヌシにとって相当の厄介ごとのはずです。ただでさえ山火事は、ヌシにとって自分の世界の危機と言っても過言ではないのですから」


 花田さんがバケツに筆を放った。中田さんも筆を置く。目の前の車は、もうおどろおどろしいと言った方が良いほど墨まみれだった。よく見れば、車の中も札だらけで、少し不気味なぐらいだった。


「今なら人が山に入っても、気を回す余裕もないはずです。多少の盗みを働く人間がいても、サラマンダーの火を消す方が重要でしょうから」

「それって」

「はい。攻めるなら今でしょう」


 花田さんが運転席に座ろうとしたのを、中田さんが華麗な手捌きでいなし自分が座った。花田さんはすぐに助手席に座り直す。

 私と町田さんも、急いで後部座席に乗った。


「正直、酔わせたとてヌシと直接対峙するよりずっと確率が高い! 七条隊長の到着を待てないのは心残りですが、今このチャンスを逃すことはできません」


 監視役の人が後部座席に乗り込んだ。それをチラリと見た中田さんは、すぐに恍惚とした表情でエンジンをかけた。小さく揺れる車内で、花田さんが静かに口を開く。


「……みなさん。最後の確認です。今から零様の命にそむき、人では敵わぬヌシの世界に向かいます。それも山火事の起きている山です。おそらく死ぬ確率の方が高いでしょう。それでも、隊長を探しに行きますか?」

「うわ、改めて言われるとえっぐいわね」


 町田さんが疲れたような顔で肩を下げた。中田さんはやけに楽しそうにラジオのチャンネルを合わせている。

 私の強く握った拳を、監視役の人の手がふわりと包んだ。大丈夫、と言われた気がした。

 メガネを押さえた花田さんが、殊更静かに続ける。


「私は。副隊長として、みなさんを止めるべきです。総能所属、いえ、日本の術者としても、この行為は絶対にすべきではないとわかっています。それから、娘を持つ父としても、正直みなさんにはあんな場所に行ってほしはない」


 花田さんが、ふと言葉を止める。眉を寄せ、葛藤するように目を閉じて。

 すぐに、ギラリと光る瞳が、開かれた。


「ただ! 総能に、隊長に! (すく)われたことのある一人の男として言えば! 俺だって、助けに行きたい!!」


 車が震えるような大声。その声に動じるものなど、いなかった。


「だが、俺一人じゃ手が足りない! みんな、助けてくれるか!」

「「「了解!」」」


 副隊長への返事と共に中田さんがアクセルを踏んだ。監視役の人は、声も上げずに前だけ見ていた。

 燃える山は、もうすぐそこに迫っていた。


「みなさん、山に入り次第全力でこの車に存在隠しの術をかけ続けてください。見つからないに越した事はありませんから」


 山の近くの道。もうすぐ山に入るからと花田さんにそう言われ、全員が準備に入ろうとした、その時。


『んふっ!』



 金属の捻じ切れる音。視界のはじで、剥き出しになったエンジンが捩れ炎をあげたのが見えた。

 車にいた全員が、いつの間にか宙に投げ出されていた。


「なっ……!!」


 花田さんの驚愕の声。それはそうだ。だって、ここは山の外。そこに、なぜヌシがいる。なぜ、私たちはまだ何もしていないのに。なぜ、燃える自分の世界を放って外にいる。


『愚かだなあ、お前たち』


 白い子供が、楽しくてたまらないと口角を上げる。


『こうした方が面白いからに、決まっているだろう!!』



 そんな理由で世界の外に出てきたカミサマは、愚かで小さな人間たちを、ぱくんと召し上がってしまいました。

 残ったモノは引火したガソリンに全て燃やされてしまったので、カミサマは興味をなくして山にお帰りになったとさ。


 おしまい。




 え? あまりにもチープでつまらない物語だって? 仕方ないさ、僕は物語に興味なんてないし、ほとんどの人の終わり方は、大概つまらないんだからね! はははぁ!

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最後変態!
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