光
深夜の山の中。
泥と枯れ葉の中でうずくまって、ガタガタと震えていた。先ほど、脱げた右足の靴がひとりでに捻じ切れたのを見て、ずっと視界の端に白い小さな子供が立っているのを見られなくて、震えを止められない。
和臣様を追ってこの山にやってきたのは、幹部の指示だった。彼がこの仕事から逃げ出さないか監視してこいと、命じられて。幹部たちはハナから、彼を自由にする気などなかった。そんなの、わかっていたはずなのに。
私は仕事をした。
彼はヌシを殺さないつもりだった。
私は仕事をした。
彼はヌシと約束をしようとした。
私は仕事をした。
彼はヌシと約束できなかった。
私は仕事をした。
彼はヌシに連れて行かれる。
私は仕事をした。
「【隠】!!」
彼は私を守った。
私は仕事をした。
ヌシは、私を見つけられなくなった。
彼は連れて行かれた。
ヌシは全てを壊した。
私は、生きたまま。
私は、仕事をして、いる。
暗闇の中。たった一つの光を希望にして。
「……助けて」
彼はもういない。私のせいでもういない。もうここに、光はささない。
泥を握った両手の先に、白い子供の足が見える。
「助けて……」
日向にいるべき彼女もここにはいない。いてほしくもない。私が彼女から光を奪ってしまった。
瞬きのない白い瞳に、顔を覗き込まれる。目が、あった。
「助けて!!」
子供の手がこちらへ伸びる。
その手に喉を捻られる前に。
「和臣様を、助けてください!!」
光ささない暗闇の中。
泥だらけの携帯電話は。
「はい、こちら総能管理部です。すぐに近くの支部より職員が向かいます。状況とお名前を教えてください」
真白く、光っていた。




