先生
Der schatten wird auch an Orten mit viel Licht starker.
光が明るいのなら、その分影も濃くなるものだ。
ハルを膝の上に乗せて、ベッドに腰掛けて葉月に頭を撫でられながら。
目の前の金髪美少女を、ぼーっと見ていた。
「ふふふ。聞いていないわね?」
「.......はっ! すいません、ハルが暖かくて.......」
「五条隊長寝てるわよ.......」
どうりで。
とりあえずみんなが離れているのが怖いので、無理やり全員をベッド周辺に集めた。花田さんと中田さんは俺の前に椅子を持ってきて座ってもらい、ゆかりんは隣りに座ってもらう。最後に俺が葉月のベッドに座って最強のフォーメーションが完成した。よし、みんな離れるなよ。大声で泣きわめいてやるからな。
「.........................仲間、はずれ.......か」
嘘でしょ一条さんも誘っていいの。でも金髪美少女に刀を向け続ける一条さんをどうしろと。
「ふふふ。いいわ、レッスンを始めましょう!」
くるりと振り返った金髪美少女は、カツンと靴を鳴らした。
「まず、あなた。悪魔と上へ登ったのは正解よ。知らなかったのなら、とても勘がいいわ」
「はぁ、どうも.......」
花田さんの着物を引っ張る。ぱしっと手を掴まれた。
「悪魔は上に行けないの。上は彼らの世界じゃないから。行けば罰を受けるのよ。反する者としてね」
中田さんの腕が伸びてきて、俺の手を掴む花田さんの手を叩き落とした。そのままするりと手を取られる。
「それに、今回は「階段」という概念が強かったのね。高さが無くても登ることに意味をつけられた」
ゆかりんが俺と中田さんの手をくすぐり始めた。中田さんの手からふにゃっと力が抜ける。
「まあ、堕ちてしまったから無駄なのだけど。銀の弾丸は撃ったからもう終わりだったけど、その後日本式の.......力強さを感じたわ」
葉月はずっと俺の頭を撫でている。
みんなが動いているのを確認して、また花田さんにちょっかいを出した。また手を掴まれる。
「今度はもっと、本来の姿を見せてほしいわ」
ぱたんっと本を閉じる音がした。金髪美少女が、にこりと笑ってこちらを見ていた。
「ふふふ。本来悪魔祓いは祓魔師の専門業務よ。私もあなた達も、非対応なの。.......それから、おそらくあなたは他人の契約に手を出せるのね? 」
「はぁ.......?」
ゆかりんに脇をくすぐられながら答える。みんな手のひらサイズぐらいになってくれないかな。あっちこっち見るのは忙しいんだ。
「今回、契約を切らなかったのは勘かしら? だとしたら、あなたは最高よ」
「えぇ.......」
この人なんだかちょっと危ない匂いがする。
「おそらく、今回の悪魔は契約の破棄について特殊なの。本来契約がなければ帰っていくはずの悪魔だけど、あの悪魔はきっと.......その条件で何かを残せるのよ、こっち側にね。契約破棄の条件を含めた契約を結んだのね」
膝の上でもぞっとハルが動いた。その瞬間葉月以外のみんなの動きが止まる。慌てて全員の手を叩いた。やめてくれ急に止まるの。
「ふふふ。こんなレッスンは初めてよ? 若い頃を思い出すわ」
「.......うるさぁい」
ハルがモゾモゾと動いて、俺の体の方を向いた。そのまま顔を押し付けて寝始めた。ガチ寝じゃないですか。
「ふふふ。本当なら、ブラックとホワイトの話をしたかったのだけど.......眠いのなら仕方ないわ。人である限り、睡眠は取らなければいけないもの」
ビクッと、倒れていた金髪美女が動いた。そして、数秒固まって。
「先生!? 先生講義をしてらっしゃいますか!? うそ〜聞いてないですよ〜!! 誰かノートを貸してください〜」
「ふふふ。誰もノートは取っていないみたいよ? それに、本当の講義はまた今度」
「ええ〜!!」
「...............................今度は、ない」
「あっ.......」
またバタンっと金髪美女が倒れた。そろそろ不憫になってくる。
「さあ、終わりにしましょうか! 悪魔の事は、祓魔師に聞くのが1番だものね。私がカビ臭い知識を読み上げても味気ないだけだわ」
金髪美少女は、コートの中に手を突っ込んで。
「そうそう、今回日本に来たのは、あなたにこれを渡しに来たからなの。この間は忘れてしまって。ふふふ、ごめんなさいね? これでも急いで来たのよ?」
一条さんに刀を向けられながら、金髪美少女は俺の手に何かを握らせた。それは。
どこかで見たような金細工の、鍵だった。
「サラマンダーの檻の鍵を渡し忘れていたの」
「え」
まて。あの檻に鍵があるのか。確かに今回トカゲは勝手に出てきたし、自分でランプに戻ったらしい。ということは。
「ふふふ。サラマンダーは随分あなたに懐いているわね。あなたと居たいから、大人しく檻に収まっていたんだもの」
ハルが持ったランプの中で、トカゲがくいっと首を傾げた。嘘だろお前。可愛い、可愛いじゃないか。大事にする。今まで逃げないでくれてありがとう。ハーゲンダッツ買おうな。
「じゃあ失礼するわ。.......そうね、最後に私から、質問だけさせて?」
紅く光る瞳は、俺と。
ハルと、一条さんを見ていた。
「陰陽の道理と、あなた達のホワイトには関係があるのかしら。.......ブラックは、ホワイトの為の影なのね?」
ガタンっと。
立ち上がったのは、ハルと俺。
「ふぅん。知らないって、可哀想ねぇ」
「俺達は陰陽師じゃない。陰と陽の概念を持ってくる理由はないな」
「...............................Secret」
ぶわっと、金髪美少女の頬が染まる。金のまつ毛が震えて、桃色の唇が歓喜に動く。
「Großartig!!」
その後金髪さん2人は、一条さんに引きずられて帰って行った。直接成田空港へ行くらしい。
それから、俺もハルと病室を出る前に。
「あ、皆さんに言っておくことがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「今日は全員入院。それと、これからは花田さんの指示に従うこと。じゃ!」
「「「「は?」」」」
全員が生きているのを確認して。
俺は、京都へ向かった。




