表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七条家の糸使い(旧タイトル:学年一の美少女は、夜の方が凄かった)  作者: 藍依青糸
こぼれ話(4)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/304

Yes or No

「姉貴ー! タケ爺が豆大福くれたんだけど食べる? 清香はいらないって.......」


 姉の部屋の障子を開けると、時が止まった。


「「.......」」


 俺は黙って障子を閉めて、そっと目を閉じた。

 俺は疲れているのかもしれない。

 もう一度ゆっくり障子を開けた。


「.......お姉様」


「開けんなバカ!!」


 思い切りゴミ箱を投げつけられた。俺は目頭をゆっくり揉んで、頭の中を整理する。


「.......お姉様、何かご不満ですか? お疲れですか?.......それとも、趣味ですか?」


「んなわけないでしょ!! この、バカっ!」


 何故か高校の制服を着た姉は、セーラー服のリボンを投げ捨てながら叫ぶ。


「.......兄ちゃーん来てー!」


「兄さんを呼ぶんじゃない! 私は正気よ!」


「お、俺は.......別に、似合ってる、と、思う.......姉貴が好きなら、別に.......」


「目を見な! お姉ちゃんの目を見て言いな!」


「兄ちゃん来てー.......」


 本気で涙が出て、姉に無理やり部屋に引きずり込まれた。


「.......ご、ごめんなさい姉ちゃん.......お、俺が迷惑ばっかかけるから.......疲れて.......!!」


「違うって言ってるでしょ! 別に好きでこんなモノ着てんじゃないわよ!!」


 姉は思い切り靴下を床に叩きつけた。


「.......姉ちゃんごめんなさい.......ごめんなさい.......」


 何度か頭を叩かれても、俺は思考の渦から戻って来られなかった。

 何故姉は高校の制服を着ているのか。

 確か姉は高校を卒業してすぐ制服を捨てていたのではなかったか。

 そもそも姉は今何歳だ。

 もしかして本当にそういう趣味があるのか。

 それとも本当に俺がストレスを与えすぎたのか。


「ごめんなさい.......」


「本気で泣かないでよ.......」


 姉がティッシュ箱をくれたが、俺の涙も悲しみもこんな紙切れでは拭えない。


「な、なんで制服着てるの? お、俺のせい?」


「違うって言ってるでしょ。もう、バカね」


「.......ごめんなさい。父さんと兄貴には、俺から言っとく.......清香にも、伝えとくから.......楽しんで」


「もっと違うわバカ!!」


 ばしんっと叩かれる。椅子に足を組んで座って俺を見下す姉はいつも通りの表情だが、制服姿によってより心へのダメージが大きい。


「.......何してるの?」


「仕事よ! 私の母校からウチへ依頼が来たの! それで何故か制服まで送られてきたのよ!!」


「.......なんで?」


「知らないわよ! 送り返そうと思ったの! で、でも.......」


 着てみたくなったのか。


「似合ってるよ」


「.......はぁ。なんでこんな事したのかしら。自分がよく分からないわ.......1番嫌いな服なのに」


「え? 姉貴セーラー嫌いなの? 俺はブレザーより好きだけど。葉月にも出来ればセーラー着てほしいけど」


「ならあげるわよ、葉月ちゃんに着てもらいなさい。あ、清香が高校生になったらこれ着せようかしら」


 制服代も馬鹿にならないのよ、などとぶつぶつ言っている姉。

 姉はもう大人になったのに、制服を着ているだけで昔の姉を思い出した。


「あれ? 姉貴セーラー嫌いだっけ?」


「嫌い。好きじゃない」


「ふーん.......ところで仕事って?」


「とりあえず見回りよ。まだ確実に何かあるかは分からないって」


「へー、だからウチに依頼したのか」


「私のツテもあるしね」


 机に肘をついて、どこかを見ている姉。その横顔を見て。


「仕事っていつ?」


「明日の夜。真夜中の学校なんて、笑えてくるわ」


「ふーん」


 その後着替えた姉と豆大福を食べた。姉はいつも通り俺が大福の粉を落とした事を怒っていた。






 次の日の夜。川の近くの女子高で。


「.......なにしてんの」


「女子高って1回入ってみたかった」


「和臣に呼ばれてたまたま非番だった」


「和臣が騒がしかったのとウチへの依頼だった」


 俺、兄貴、父。全員が手袋に指環、札も腐るほど持って集合していた。姉と一緒に来ていた門下生は先程震えながら帰った。


「.......清香は?」


「葉月と映画見てる」


「今日は明恵さんが泊まりだ」


「式神は置いてきた。ほら、仕事しなさい。父さん達もついて行くから」


「はぁ.......こんなに人数いらないわよ。何もないかもしれないって言ったでしょ」


「「「暇だったから」」」


「.......バカ.......」


 姉について学校の中を歩く。俺の学校とは違って木造で、どこか古い匂いがした。


「兄貴、女子高っていい匂いすんじゃないの?」


「知るか。俺だって初めて入ったんだぞ」


「.......父さんは来たことある」


「「え!?」」


「全員うるさい! 静かにしな!」


 イライラし始めた姉に気を遣いつつ、廊下を進んでいく。どの教室もしんっと静まり返っていて、特に異常はなかった。


「やっぱり何もないわね。帰るよ」


「姉貴の教室ってどこだったの? 見てこーぜ」


「たしかA組だったろ」


「3階じゃなかったか?」


「.......皆どうしたのよ」


 本気で引いている姉を引っ張って、教室を覗きに行った。俺達ばかり騒いで、姉はつまらなそうだった。


「ほら、気が済んだなら帰るよ。兄さんも父さんも、あんまり和臣を甘やかさないで」


 ステンドグラスがついた階段を下りようとした時。

 りーーん、と音がした。


 姉が駆け出して、俺達もその後に続く。

 姉が勢い良く開け放ったのは、「音楽科準備室」と書かれた教室。


「女子はいつまでも好きね、こういうの」


「えぇ.......どうすんだよこれ」


 兄貴が財布から十円玉を取り出す。父はスタスタ教室に入っていった。


「2人は帰ってもいいぞ。夜だから気をつけて帰りなさい」


「やるわよ。私が受けた仕事だもの」


「じゃあ俺もやる.......1人じゃ帰れないし.......」


 全員椅子を持ってきて、1つの机を囲んで座る。

 机の上に放り出された紙の上に、兄貴が十円玉を置いて、全員で指を乗せる。


「これもう来てるから、初めからお帰りくださいって言うの?」


「まずこの教室に呼び戻すぞ。あ、和臣霊力引っ込めろ! 逃げるだろ!」


「孝臣、自分に札張ってるだろ。剥がしなさい、逃げる」


「皆がうるさいから逃げるのよ」


 静かになった教室で。


「「こっくりさん、こっくりさん。どうぞおいでください」」


 すっと十円玉が動く。可愛らしい文字で書かれた、「Yes」の方へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ