猫日和(合法)
「.......どうして.......」
終業式を終えて、昼前に校舎を出て。俺は身動きが取れないでいた。
「よっ! 和臣! お前何して.......うわっ、えぐいな!!」
「和臣それどうしたんだ?」
田中と山田がやってきたが、全く動けない。
「俺が聞きたい.......」
「羨ましーな!! 俺好きなんだよ、」
猫。
と田中が言い終わる前に、飛び上がった1匹が顔面に張り付いた。
「ぎゃあああ!! 助けてえええ!!」
「え? 懐かれてるんじゃないのか?」
「違う!! 外に出た瞬間囲まれたんだ!! 集団リンチだ!!」
足元に擦り寄る3匹の猫と、俺の頭によじ登った1匹。うにゃうにゃ怒っているもう1匹は、俺の腰に爪を立ててぶら下がっている。
「お前、何したんだ?」
「猫ー! 俺のとこにも来いよー! 撫でさせてくれ!」
田中は見向きもされなかった。なぜ。
「.......俺何もしてない.......何もしてないのに.......」
「おいおい、猫ぐらいで泣くなよ.......」
山田が頭の猫を剥がしてくれたが、バタバタと暴れてすぐ頭に戻ってきた。
「.......相当好かれてるぞ」
「猫ー! 猫太郎ー! 俺はー!?」
「.......初めは可愛かったけど.......もうなんか.......やだぁ.......帰りたい.......お腹空いた.......」
「.......走って帰ったらどうだ?」
「蹴っちゃうかもじゃん.......凄い寄ってくるから.......」
「猫次郎! 撫でさせて!!」
もうどうでも良くなって、地面に腰をおろした。体育座りをすれば、1匹はまだ足に擦り寄っていて、2匹が足の上に乗ってきた。腰の1匹は肩に上がって、頭の1匹は相変わらず。
「俺ここで死ぬんだ.......猫と.......」
「猫三郎!! 俺の膝に来いよ!!」
田中が隣りに座っても、猫達は見向きもしない。
「和臣マタタビキメてんの? 俺の方全然来ないんだけど」
「マタタビキメるってなんだよ。やってねぇよそんなモン」
撫でればゴロゴロと喉を鳴らして、にゃうにゃうと甘えてくる。可愛いからって.......。
「和臣、田中。パン買ってきた、昼飯」
いつの間にか走って購買に行っていた山田が戻ってくる。
「.......ありがとう.......最後の晩餐.......昼飯だけど.......」
「サンキュー山田! 俺カレーパンがいい!」
「元々カレーパンしか買ってない」
俺達がパンを食べても、猫達は興味を示さなかった。俺の手にじゃれるだけ。
「.......本気で好かれてるな」
「脱法マタタビハーブか? ガンギマリじゃねぇか!」
「俺は清く正しく生きてんだよ! 合法七条ハーブだ!! ていうかなんもやってねぇ!」
なーう、と猫が俺の口に肉球を押し付ける。くそ、俺は犬派.......俺は犬派なんだ.......。
「さて、帰るか」
「じゃあな猫四郎、猫五郎!」
「え? 待って俺は?」
「「おつかれー」」
2人は本気で帰った。猫は相変わらず俺にスリスリゴロゴロ。
「 嘘でしょあいつら.......」
もうお腹を見せて蕩けてしまっている猫達を撫でながら絶望する。友情なんて信じない、信じられるのは猫だけだ。
「.......お前たちなんでそんなに寄ってくるんだよ、俺何も持ってないよ.......」
なぁーん。
うっとり、と言った感じで、猫達は俺の上から動かない。本気で七条ハーブの効果か、ていうかなんだ七条ハーブって。
「さすがに5匹はなぁ.......姉貴がペットダメって言うし.......」
さすがに帰ろうと思って立ち上がれば、やっぱり足にまとわりついて歩けない。
「.......俺が怒られるんだぞ、もう毛だらけなんだから.......あっ、重い.......」
両手に3匹、肩と頭に1匹ずつ。猫にまみれて道を歩く。校門を出て角を曲がったところで。
「か、和臣.......」
「あっ! 葉月! 葉月あのさ!」
買い物袋を提げた葉月は、慌てて携帯を取り出した。
「ちょ、ちょっと止まってちょうだい.......こっちを向いて.......」
「.......見世物じゃないんですよ」
近づいて猫を見せようとすれば、葉月が半歩下がる。
「あれ、猫は?」
「こ、今年のベストショットよ.......お兄さんを呼ばなきゃ.......」
「.......猫は?」
涙が出そうになったのを堪えて、猫を差し出す。
ぎにゃおうっと腕の中の2匹が顔面に張り付いた。
「.......取って.......」
「待ってちょうだい。ベストショットを更新中なの」
「なんでこんなに.......帰りたいのに.......」
頭の上で3匹が喧嘩を初めて、俺は泣いた。もう訳が分からない。なんで猫。
「ところで和臣。その猫達はどうしたの?」
「俺が聞きたい!! 俺が!! 聞きたい!!」
にゃおん。
するりと細い尻尾が首を撫でて、猫達が騒ぎ出す。
みゃうみゃう、何か話しているようだった。
「.......和臣、もしかしてあなた.......」
「もしかして原因知ってる!? 葉月、助けて!!」
「脱法マタタビハーブ、やってるわね?」
「だから!! 合法七条ハーブ!! ていうかなんで知ってるの!!」
「冗談よ」
葉月が俺の腕の猫を抱き上げようとしても、猫はすぐ戻ってきてしまう。
「まじでなんなんだ.......?」
「.......私も七条ハーブが欲しいわ」
「あげる.......俺もう帰りたいから.......」
べしべしと頭の上から頬を叩かれる。肉球、良い。俺、猫、好き。俺、人間、シンジナイ。
「「あ」」
角を猫が曲がってきた。ツヤツヤの毛並みの三毛猫で、やけに大きく、尻尾が多い。
『これは失礼。さ、帰るよ』
にゃおにゃん。
俺を全力で蹴って猫達は走って行った。振り返りもせず、2本の尻尾の三毛猫に続いて角を曲がり消えていった。
「.......妖怪なのかしら?」
「.......ただの猫だろ。七条ハーブが効きすぎたんだ」
家に帰れば、毛だらけの制服が見つかって姉に本気で怒られた。その後父が黙々と俺の制服にコロコロをかけて、うっすら笑っていた。
「父さん.......?」
「.......合法だからな」
にゃおん。
和臣と葉月は犬派
父は猫派




