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七条家の糸使い(旧タイトル:学年一の美少女は、夜の方が凄かった)  作者: 藍依青糸
こぼれ話(4)

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猫日和(合法)

 

「.......どうして.......」


 終業式を終えて、昼前に校舎を出て。俺は身動きが取れないでいた。


「よっ! 和臣! お前何して.......うわっ、えぐいな!!」


「和臣それどうしたんだ?」


 田中と山田がやってきたが、全く動けない。


「俺が聞きたい.......」


「羨ましーな!! 俺好きなんだよ、」


 猫。

 と田中が言い終わる前に、飛び上がった1匹が顔面に張り付いた。


「ぎゃあああ!! 助けてえええ!!」


「え? 懐かれてるんじゃないのか?」


「違う!! 外に出た瞬間囲まれたんだ!! 集団リンチだ!!」


 足元に擦り寄る3匹の猫と、俺の頭によじ登った1匹。うにゃうにゃ怒っているもう1匹は、俺の腰に爪を立ててぶら下がっている。


「お前、何したんだ?」


「猫ー! 俺のとこにも来いよー! 撫でさせてくれ!」


 田中は見向きもされなかった。なぜ。


「.......俺何もしてない.......何もしてないのに.......」


「おいおい、猫ぐらいで泣くなよ.......」


 山田が頭の猫を剥がしてくれたが、バタバタと暴れてすぐ頭に戻ってきた。


「.......相当好かれてるぞ」


「猫ー! 猫太郎ー! 俺はー!?」


「.......初めは可愛かったけど.......もうなんか.......やだぁ.......帰りたい.......お腹空いた.......」


「.......走って帰ったらどうだ?」


「蹴っちゃうかもじゃん.......凄い寄ってくるから.......」


「猫次郎! 撫でさせて!!」


 もうどうでも良くなって、地面に腰をおろした。体育座りをすれば、1匹はまだ足に擦り寄っていて、2匹が足の上に乗ってきた。腰の1匹は肩に上がって、頭の1匹は相変わらず。


「俺ここで死ぬんだ.......猫と.......」


「猫三郎!! 俺の膝に来いよ!!」


 田中が隣りに座っても、猫達は見向きもしない。


「和臣マタタビキメてんの? 俺の方全然来ないんだけど」


「マタタビキメるってなんだよ。やってねぇよそんなモン」


 撫でればゴロゴロと喉を鳴らして、にゃうにゃうと甘えてくる。可愛いからって.......。


「和臣、田中。パン買ってきた、昼飯」


 いつの間にか走って購買に行っていた山田が戻ってくる。


「.......ありがとう.......最後の晩餐.......昼飯だけど.......」


「サンキュー山田! 俺カレーパンがいい!」


「元々カレーパンしか買ってない」


 俺達がパンを食べても、猫達は興味を示さなかった。俺の手にじゃれるだけ。


「.......本気で好かれてるな」


「脱法マタタビハーブか? ガンギマリじゃねぇか!」


「俺は清く正しく生きてんだよ! 合法七条ハーブだ!! ていうかなんもやってねぇ!」


 なーう、と猫が俺の口に肉球を押し付ける。くそ、俺は犬派.......俺は犬派なんだ.......。


「さて、帰るか」


「じゃあな猫四郎、猫五郎!」


「え? 待って俺は?」


「「おつかれー」」


 2人は本気で帰った。猫は相変わらず俺にスリスリゴロゴロ。


「 嘘でしょあいつら.......」


 もうお腹を見せて蕩けてしまっている猫達を撫でながら絶望する。友情なんて信じない、信じられるのは猫だけだ。


「.......お前たちなんでそんなに寄ってくるんだよ、俺何も持ってないよ.......」


 なぁーん。


 うっとり、と言った感じで、猫達は俺の上から動かない。本気で七条ハーブの効果か、ていうかなんだ七条ハーブって。


「さすがに5匹はなぁ.......姉貴がペットダメって言うし.......」


 さすがに帰ろうと思って立ち上がれば、やっぱり足にまとわりついて歩けない。


「.......俺が怒られるんだぞ、もう毛だらけなんだから.......あっ、重い.......」


 両手に3匹、肩と頭に1匹ずつ。猫にまみれて道を歩く。校門を出て角を曲がったところで。


「か、和臣.......」


「あっ! 葉月! 葉月あのさ!」


 買い物袋を提げた葉月は、慌てて携帯を取り出した。


「ちょ、ちょっと止まってちょうだい.......こっちを向いて.......」


「.......見世物じゃないんですよ」


 近づいて猫を見せようとすれば、葉月が半歩下がる。


「あれ、猫は?」


「こ、今年のベストショットよ.......お兄さんを呼ばなきゃ.......」


「.......猫は?」


 涙が出そうになったのを堪えて、猫を差し出す。

 ぎにゃおうっと腕の中の2匹が顔面に張り付いた。


「.......取って.......」


「待ってちょうだい。ベストショットを更新中なの」


「なんでこんなに.......帰りたいのに.......」


 頭の上で3匹が喧嘩を初めて、俺は泣いた。もう訳が分からない。なんで猫。


「ところで和臣。その猫達はどうしたの?」


「俺が聞きたい!! 俺が!! 聞きたい!!」


 にゃおん。

 するりと細い尻尾が首を撫でて、猫達が騒ぎ出す。

 みゃうみゃう、何か話しているようだった。


「.......和臣、もしかしてあなた.......」


「もしかして原因知ってる!? 葉月、助けて!!」


「脱法マタタビハーブ、やってるわね?」


「だから!! 合法七条ハーブ!! ていうかなんで知ってるの!!」


「冗談よ」


 葉月が俺の腕の猫を抱き上げようとしても、猫はすぐ戻ってきてしまう。


「まじでなんなんだ.......?」


「.......私も七条ハーブが欲しいわ」


「あげる.......俺もう帰りたいから.......」


 べしべしと頭の上から頬を叩かれる。肉球、良い。俺、猫、好き。俺、人間、シンジナイ。


「「あ」」


 (かど)を猫が曲がってきた。ツヤツヤの毛並みの三毛猫で、やけに大きく、尻尾が多い。


『これは失礼。さ、帰るよ』


 にゃおにゃん。


 俺を全力で蹴って猫達は走って行った。振り返りもせず、2本の尻尾の三毛猫に続いて角を曲がり消えていった。



「.......妖怪なのかしら?」


「.......ただの猫だろ。七条ハーブが効きすぎたんだ」


 家に帰れば、毛だらけの制服が見つかって姉に本気で怒られた。その後父が黙々と俺の制服にコロコロをかけて、うっすら笑っていた。


「父さん.......?」


「.......合法だからな」


 にゃおん。

和臣と葉月は犬派

父は猫派

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