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七条家の糸使い(旧タイトル:学年一の美少女は、夜の方が凄かった)  作者: 藍依青糸
こぼれ話(4)

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恐ろしき都会

 真夜中。コンクリートジャングル東京の、高くも低くもないビルの屋上に、葉月と素晴らしい袴姿のゆかりんが立っている。


「町田さん、明日はお仕事かしら?」


「明日はオフよ。美味しいケーキのお店があるらしいんだけど、どう?」


「いいわね、楽しみだわ」


 おそらくこんな会話だろう。

 俺は目から双眼鏡を外した。2人とは別のビルの屋上に立ちながら携帯を取り出す。


「えー。こちら和臣、今の所問題ありません。どうぞ」


「.......こちら非番の日になぜか駆り出された兄ちゃんだ。問題あるわけないだろ、どうぞ」


「バカ兄貴! 問題が起きてからじゃ遅いんだよ! やる気出せ! どうぞ!」


「.......お前なんで急に.......あと携帯だからどうぞとか言わなくても.......」


「雰囲気は大事だからな。あっ、今サラリーマンらしき男がビル下を歩いてます! 注意お願いします、どうぞ!」


「普通のサラリーマンだろ.......お前、本気でどうした.......どうぞ」


 サラリーマンに警戒しつつ双眼鏡を覗く。2人は楽しそうに会話していた。

 先程雰囲気作りのために買ったサングラスは、夜になって周りが見えなくなったので仕舞った。


「あっ、サラリーマン帰りましたどうぞ!」


「.......お前そんなに心配ならもう堂々とついて行けよ」


「ばっか。これだから兄貴は.......どうぞ」


「お前、こんなことに付き合ってやってやるの俺くらいだからな!? 今回に限っては俺も甘やかしすぎだと思ってるからな!? どうぞ!?」


「静かに! 気づかれたらどうすんだ!どうぞ!」


「.......もう、お前.......ほんとにもう.......」


 今日、なぜ東京のビルの上でコソコソしているかと言うと。


「.......あの2人だけで仕事.......大丈夫か?」


「お前、葉月ちゃんの実力自慢してたじゃないか。問題ないだろ」


「葉月はめちゃくちゃ強いし、ゆかりんもめちゃくちゃ強い。だけどな、それは問題じゃないんだ」


「.......」


「こんな都会の夜に女の子2人はまずいだろ!? 何考えてんだ!!」


「.......お前.......我が弟ながら.......」


「くそ、妖怪なんてもうどうでもいい!俺が退治する!」


「過剰戦力だろ.......隊長が出るまでもないからあの子達に仕事が来たんだろ? お前が来たら意味無いじゃないか」


「そんなこと分かってんだよ! あの二人強いから妖怪なら問題ないだろうよ! でも問題なのは都会だろ!? 早く帰った方がいいよ!」


「.......お前、また変な漫画読んだな?」


「ど、どうしよう!? ゆかりんはゲスな芸能プロダクション社長に捕まったり.......葉月はヤクザの若頭に惚れられるかもしれない!!」


「何読んだんだ.......」


 恐ろしい。昼間の何も知らなかった俺に戻りたい。

 今回、2人の仕事自体は大したことは無い。大きめの一反木綿が出たから退治してこいという仕事。あの2人なら目をつぶってでもこなせるだろう。ただ、東京という場所がまずい。恐ろしいのは都会。


「あっ、変な男を発見! 警戒お願いします、どうぞ!」


「.......」


 兄貴には申し訳ないが、俺が1人で東京に来れる訳がなかった。たまたま兄貴が非番で良かった。今度ラーメン奢ろう。


「げっ、今一反木綿も来ました、どうぞ!」


「.......お前手出すなよ、あの子達の仕事なんだから。どうぞ」


「一反木綿なんかよりあの男の方が怪しい。目を離したらまずい気がする。どうぞ」


「.......俺の弟バカだ.......」


 双眼鏡でビルの下をうろつく男を見る。絶対に不審者だ。葉月とゆかりんの気配を感じてやってきたに違いない。


「.......兄貴、都会で警察呼んでも無視されるって本当?」


「嘘だバカ.......」


 ばきゃんっと音がして頭上の一反木綿に穴があく。中々立派なサイズで、まだふわふわ浮いている。


「あ、変質者増えた! 兄貴、3人になった! どうぞ!」


「落ち着け.......どうぞ」


 ビシッと札が張り付いて、一反木綿が落ちる。2人の術が大きな布を塵にしていく。さすが俺の弟子と天才アイドル。


「.......ほら、2人とももう帰るみたいだぞ」


「まずい! まだ下に社長と若頭とホストが!兄貴、時間稼いでくれ!」


「どう見てもただのおっさんだろ!?」


 ビルを駆け下りる。一気に1階まで降りて、危険人物達を排除しようと道路に出る。


「まずい、道間違えたか!?」


 もうどこがどこだか分からない。ただ、このままだと2人がホストに骨抜きにされてグズグズの関係に.......。


「僕、こんな時間に1人でなぁにしてるんだい?」


「あっ、社長と若頭」


「「は?」」


 先程の変質者だった。近くで見れば2人とも小太りのおじさんで、両方ゲス社長と言った感じだった。


「あのですね。確かにあの2人は可愛いですけど、清く正しく美しく生きてるんで.......社長の事務所には入りません」


「「2人?」」


「ああ、勘違いならいいんです。お仕事お疲れ様です、では!」


 考えすぎか。そうだよな、現実にゲス社長が2人もいる訳ないし、葉月達の気配だけでやってくる訳もない。冷静になれ俺。ゆかりん達に気づかれないうちにさっさと帰ろう。


「ぼくー、中学生?」


「失敬な! 高校生です!」


「ああ、やっぱりね。男子高校生.......」


「ん?」


 社長達が近づいてくる。嫌な汗が止まらない。


「お仕事お疲れ様って、ありがとうね。君、いい子だね」


「おじさん達疲れててさ.......」


 あ、これ本物の変質者だ。嘘だろ俺男だぞ。

 とりあえず走って逃げようとしたところで、後ろから羽交い締めにされる。


「げ、ホスト!!」


「ホスト? おじさんの事かな?」


 3人目の変質者に押さえられた。都会こわっ。


「こ、こんな所に女子2人だけ送ったのか.......総能狂ってる.......」


「君、全然焦らないね? もしかして.......OKな感じ?」


「完全NGな感じです」


「生意気なタイプか.......いいな」


 ドン引きだぞおっさん。逃げ出そうと腕に力を込めた時。バキッと音がした。


「.......潰すわ」


「七条和臣、あんたなにしてんの.......」


 社長に拳をふり抜いた葉月と、もう1人の社長の股間を蹴り上げたゆかりん。ひゅっとなった。


「あ、2人とも.......き、奇遇だな! こんな都会で会うなんて!」


「「焦りなさいよ」」


 焦ってるよ。葉月の目が怖いから。

 ぐいっと後ろのホストに引っ張られた。踵が浮く。

 ばぎゃっと音がして。


「.......死ね」


 見たこともない程無表情の兄貴がいた。これは本気で怖い。

 それから、兄貴が変質者3人にそれぞれ一発プレゼントして、警察に引きずって行った。帰りの車で葉月とゆかりんに都会の何たるかを教えこまれ、兄貴に知らない人と話すなとめちゃくちゃ長い説教をされた。


 俺1人での東京の仕事はこれ以降来なくなった。


※あの3人は別に社長でも若頭でもホストでもありません。

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