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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 緑の古王とプレイヤーズギルド

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五日目・朝 戦闘狂

 


 瓦礫と廃墟、植物が支配する街は、あまりにも静かだった。

 あれだけ溢れていたアンデッドモンスターの姿はどこにも見当たらず、まるで置いてけぼりを食らったかのように、時々瓦礫の陰や廃墟の中にぽつんとマミーや食屍鬼が居座っている。


 モンスター・スタンピードの原因が、あのリッチだったことは確かだろう。

 リッチを倒したことで、この街は悪夢から目覚めた。

 溢れていたモンスターは幻想の中へと消えて、この街に残されたモンスターは悪夢の残骸だ。


 俺たちは、忘れ去られた悪夢を見つけるたびに経験値へと変えて、足を進めていく。



 新しいスキルである【一閃】や【雷走】を、アンデッドモンスター相手に何度か使用してみたが、この街のモンスターは今の俺にとってあまりにも弱すぎる。

 スキルを使っても使わなくても俺の体感は変わらず、どちらで攻撃しても一撃でモンスターを葬ることが出来るその結果に、俺は新しいスキルの効果がよく分からずにいた。



 モンスターの系統が変わり始めたのは、しばらく経ってからだった。



 新宿通りを進んでいた俺たちは、廃墟の街を闊歩していた数匹の動物の姿に足を止めた。

 新宿の街では見かけなかった、四つ足の動物だ。

 俺たちは周囲を見渡して、割れた道路から生えた背の高い草木に身を隠す。



「ユウマさん、見えますか?」


 とミコトに問いかけられる。



 ここからあの動物までの距離は百メートルほどだ。

 俺は目を細めるようにして、その動物の姿を観察する。


 犬のような面構えに、灰色の毛並み。身体は原付ほどの体格で、少しばかり大きいがあの姿は間違いない。狼だ。ただ、普通の狼と違うところはその額に一角が生えていたことだろうか。

 現実ではありえないその特徴に、俺はその動物がモンスターであることを確認した。



「額に角が生えてる、狼型のモンスターだ」


 と俺は二人に伝えた。


「狼か。我も会うのは初めてじゃの」


 とクロエは俺の言葉に呟いた。



 その言葉に、俺は考え込む。

 この街に、いったいどれほどのモンスターが蔓延っているのか分からないが、東京に存在しているモンスターは数多いだろう。

 モンスターに縄張りの意識があることは、これまでの経験から考えて間違いない。

 だとすれば、俺たちはようやく極夜の残骸を抜けて、新たなモンスターが蔓延る場所に足を踏み入れたということになる。



 出現した一角狼は三匹。

 周囲に他のモンスターは今のところ見当たらない。

 初めてのモンスターだが、現れたその新しいモンスターに俺は心を躍らせて、哂う。



「殺るか」


 と俺は言った。



 あの狼がボスモンスターではないことは確かだろうが、新しいモンスターならばそいつを殺して経験値へと変えなくてはならない。

 極夜の街の、適正レベルは10だ。

 俺の今のレベルを考えても、新たなモンスターは積極的に狩ってレベルをあげた方が後々楽にはなる。



「いいよな?」


 と俺は二人に問いかける。



「まあ、こうなるような気がしていました。人間種族の命題……。〈幻想の否定〉、ですか。ユウマさんが戦闘狂(バトルジャンキー)の理由も、それが原因でしょうね」


 とミコトは大きくため息を吐き出して、武器を構えた。


「放っておくと一人で突っ走るでしょうし、一緒に戦いますよ」


 ミコトはそう言って苦笑をすると、クロエへと目を向ける。


「クロエさんはどうしますか?」

「もちろんじゃ。ちょうどいい、今日分の血液をここで調達することにしよう」


 とクロエは、ミコトの言葉にそう答えるとくくっと喉を鳴らした。



「クロエ、お前この天気でどのくらい動ける?」



 言って、俺は空を見上げる。

 分厚い曇天は、日の光を遮っている。街は昼間だというのに、これから雨が降り出しそうなぐらい薄暗い。クロエが日中でも、こうして動けているのはこの天気のおかげでもあった。



「……全力の半分も出せればいいところじゃろうな。この天気でも、日の光は確実に降り注いでおる。当たれば肌が焼けるが、逆を言えば当たらなければどうにかなる。派手な動きは出来ぬが、戦えないこともない」


「それなら、俺のフォローに回ってくれ。ミコトはいつものようにスキルで援護を頼む」

「お主はどうする?」

「いつも通りだ」



 言って、俺は小太刀の鞘から刃を抜いた。

 腰を落として、小太刀を腰だめに構える。



「先行して、一匹でも多く、狩る」

「……まあ、聞かんでも分かってた言葉じゃな」


 クロエが俺の言葉を聞いて、盛大なため息を吐いた。



「フォローと援護は我らに任せろ。お主は早くモンスターを狩って……、その感情をどうにかしてこい。ただし、限界突破スキルは使うなよ?」


 その言葉に、俺は哂って頷く。



 待ち遠しい。早く新しい力を試したい――。

 早くあのモンスターを狩って、その存在をこの現実から跡形もなく消滅させてやりたい。



「行くぞ」



 俺は呟き、一気に一角狼へと駆けた。

 草木から飛び出した俺に、すぐさま一角狼たちが気付いた。



「アォオオオオオオン!!」



 一角狼たちが雄たけびを上げる。

 廃墟の街に響くその声に、俺は唇を噛みしめた。

 あの雄たけびは、周囲にいる仲間に獲物の存在を知らせる声だ。


 より多くのモンスターと戦えるのは嬉しいことだが、極夜の街の時のように囲まれれば面倒だ。その前に、こいつらを仕留める必要がある。


 そう判断した俺は、一角狼へと到達するとすぐさま小太刀を一番近くにいた奴へと振るった。

 一角狼はすぐさま回避行動を取るが、その動きよりも俺の刃が届く方が早い。



「――――ガァ」


 まるでバターでも切り裂くように、俺の刃は易々と一角狼の首を落とす。



 地面を濡らす血飛沫に、残された一角狼たちが慌てふためいた。

 その隙を逃すことなく、俺はすぐさま次の一角狼の首を狙いに行く。



「フッ」



 気合の声と共に、刃を振り抜く。

 真っすぐに振るわれた刃はその首を捉え、毛皮と肉を断ち切って――その首を落とすことなく、刃は首の中ほどで勢いが止まった。



「っ!?」



 先程とは違うその威力に、俺は大きく目を見開く。

 一角狼はすぐさまその場から飛び退ると、首元を真っ赤に濡らしながら怒りに燃えた目で俺を睨み付けた。



「ぐるるるるるる……」



 地面を揺らすような低い唸り声。

 剥きだした牙から垂れた涎が顎を伝って滴り落ちる。

 俺へと殺意を迸らせる一角狼たちを見据えながら、俺は一角狼の首を落とせなかった攻撃のことを冷静に考えていた。


 最初に一角狼の首を落とした一撃に比べて、二回目の攻撃は明らかに威力が落ちていた。

 その理由は、新しいスキル【一閃】によるものだろう。


【一閃】の効果は刀剣の一撃目、その威力向上だ。


 その一撃目が何に対してなのかは疑問だったが、今の攻撃であらかた予想が付く。


 ――おそらく。【一閃】の効果は、この世界に存在するすべての種族に対するファーストアタックの威力上昇、もしくは一度の戦闘で出会ったモンスターへのファーストアタックに対する威力向上。その、どちらかだろう。


 二回目の攻撃で一角狼の首を落とせなかったのは、威力が落ちたのではない。どちらかと言えば二回目の攻撃こそが今の俺、本来の攻撃力なのだろう。



(一角狼のDEFはそこそこ、【一閃】の効果があれば一撃……。なければ二撃で仕留められる相手、か)



 俺は冷静に一角狼の評価を下した。

 極夜の街で出会ったモンスターで一番強いのは食屍鬼だった。ソイツと比べれば強いが、それでも今の俺からすれば弱い。一撃で死なないところを見れば、新しく手に入れたスキルの効果を試すにはちょうどいい相手だろう。



「【雷走】」



 呟き、俺はスキルを発動させて――すぐさま怪我を負った一角狼へと駆けた。

 その一角狼は、近づく俺にすぐさま迎撃の態勢を取るが、その体勢を整えるよりも、俺が一角狼の元へと辿り着くほうが早かった。



「――っ」



 血に濡れたその首を落とすように、小太刀を持つ右手を振りかざす。

 一角狼が迎撃態勢を整えるよりも速く――。まるで、ミコトが【遅延】を使った後のように動きが鈍くなった相手の首を、俺は切り落とした。



「グルル―――?」



 唸り声を上げていた一角狼の首が、その憎しみを俺に向けた表情のまま、胴体から離れて地面へと落ちる。

 吹き出る血飛沫をステップで躱しながら、俺は空気へと溶け行く一角狼を見て口元を吊り上げた。



「スキル解除」



 呟き、【雷走】を解除する。

 地面に落ちた首と、空気へと溶け行くその身体を見て俺は【雷走】の評価を行う。



(AGI上昇、か。敏捷性を上げるスキルは単純だが強力だな。まるで、相手の動きが遅くなった――。いや、俺が速く動けるようになったことで、相手の動きが遅く感じた)



 毎秒MPを1消費するという制限はあるが、ここぞという時に使えば効果は大きいだろう。

 そして、その特性上ミコトの【遅延】と同じように、時間を区切って発動することも可能なはずだ。



(残り、試していないスキルは【瞬間筋力増大】だけだが……。これを使えば、確実に筋肉が千切れるだろうしな)



 使えば確実に一撃で一角狼を葬れるだろうが、後々のデメリットが大きい。

 それに、限界突破スキルは使わないと約束している。

 コイツを使うのは、追い込まれた時だけだ。



 そんなことを考えていると、残った一角狼に回り込んでいたクロエが飛び掛かるのが見えた。


「ふっ!」


 息を吐いて、クロエが一角狼へと殴りかかる。

 一角狼はすぐさま飛び出してきたクロエに気が付き、その長い角をクロエへと向けた。


「ガウァッ!」


 まるで、その角でクロエを貫くように、一角狼がクロエへと体当たりをする。


「チッ」


 舌打ちをして、クロエはその突撃を躱す。

 だが、一角狼はすぐさま体勢を整えると、その角をクロエへとまた向けた。



「くっ、厄介な」


 忌々しそうに呟き、クロエはその角を掴み――。


「ふっ、ん!」


 勢いよく、その角をへし折った。



「ギャインッ!」



 角をへし折られて、一角狼が僅かに怯む。

 その瞬間に、ミコトの言葉スキルが一角狼へと告げられた。



「【遅延(ディレイ)】、二秒(ツーセコンド)



 一瞬の隙だったはずのそれは、その言葉によって大きな隙へと変わる。

 クロエは、ミコトのスキルが発動されたのを聞いて、すぐに勝利の笑みを口元に浮かべた。



「まずは、その機動力が邪魔じゃの」


 言って、クロエは一角狼の右の前足を掴むと――まるで、小枝でも折るかのように躊躇なくへし折った。



「ガッ、ギャイン!」


 痛みで一角狼が悲鳴を上げた。



 その悲痛な叫び声を無視して、クロエはさらにその前足を捻る。

 へし折れた右の前足はバキバキと音を立てながら残りの骨と肉が捻じれて、ついにその前足は胴体と引き離される。


 途端に捻じれた断面から零れ出る血を、クロエはまるで大切なものであるかのように片手で受け止めて、その手のひらに溜まった血液へと口をつけた。


「――んく、っ、ああ……。美味い」


 手のひらに溜まった血をすべて飲み干して、クロエは真っ赤に染まった口元を恍惚の表情で緩める。



 それから、片手に持った引きちぎったばかりの前足を掲げると、


「いただきます」


 とそう言って、その断面へと吸い付いた。



 じゅるじゅると音を立てながらクロエの青白い喉が動いて、その前足に残された血を嚥下していく。



「ぐるるるううぅぅ……」



 一角狼は殺意の迸る目をクロエへと向けて、立ち上がろうと全身に力を入れるが――――すぐさま地面へと転がった。

 右の前足を失い、立ち上がることが出来ないのだ。



 クロエはその様子を確認すると、すべての血を飲み切った前足を用なしとばかりに放り捨てて、俺へと視線を向けた。


「ユウマよ、コイツの腹を裂いてくれぬか?」

「腹を? どうしてだ」



 息の根を止めるのならば、腹ではなく首を落とした方が早い。

 そう考えて、眉根に皺を寄せるとクロエがくくっと喉を鳴らした。



「腹を裂いた方が、死なずに血を多く摂ることができるじゃろ」



 ……なるほど。そういうことか。

 それならば、反対する理由がない。

 俺は小太刀を構えてゆっくりと一角狼へと近づき、刃を腹へと突き立てて引き裂いた。



「ガ――――」



 短く声を出して、一角狼が震える。

 致命的一撃だ。もはや助かる見込みもない。

 引き裂いた腹からあふれ出る血と臓物へと目を向けて、俺は短く鼻を鳴らした。



「クロエ、これでいいのか?」

「ああ、十分じゃ」



 俺の言葉に答えた時にはもうすでに、クロエは自分のバックパックから空のペットボトルを取り出しているところだった。

 うきうきとした様子で、クロエは空のペットボトルを地面へと置くと、一角狼を持ち上げて血をペットボトルの中へと垂らし始める。


 倒せば空気へと溶けるはずのモンスターから、今までどうやって血を集めているのかと思っていたが、どうやら血抜きの要領で血を集めていたようだ。


 びくびくと痙攣をしながら血を垂らし続ける一角狼を眺めていると、離れたところから俺たちを援護していたミコトが近づいてきた。



「お疲れ様です」

「ああ、ミコトもお疲れ様。【遅延】ありがとう」

「とんでもないです」


 とミコトはそう言ってから、クロエへと視線を向けた。



「…………楽しそう、ですね」



 鼻歌を歌いながら、瀕死の一角狼を掲げてペットボトルへと血を詰めていくクロエのその様子に、ミコトは顔を引きつらせながら言った。



「まあ、言ってしまえば今日の食事を確保してる時だからな」


 と俺はそう答えて、周囲を見渡す。



 先程の一角狼の遠吠えに、周囲の瓦礫や廃墟の間から他の一角狼が姿を見せ始めていた。

 数は八匹。そのどれもが、仲間をやられた影響からか牙を剥きだし、俺たちに殺意の込めた瞳をぶつけている。



「囲まれましたね」


 とミコトが呟いた。



「ああ……。でも、悲観するような状況じゃない」


 と俺は言う。


「極夜の街に比べれば、これぐらい何ともない」



 俺の言葉に、ミコトはくすっと口元を緩ませた。


「そうですね。昨夜に比べれば、これぐらいなんともないです」


 ミコトはそう言うと、手元の直槍をくるりと回転させて構え直した。



 その姿に俺は小さく笑うと、未だ血を搾り取っているクロエへと視線を向ける。


「クロエ! 敵だぞ!!」


「む? そうか」


 クロエは掲げていた一角狼を投げ捨てると、半分ほど血の溜まったペットボトルをバックパックの中へと仕舞った。



「ちょうど良かったのじゃ。この際、搾り取れるだけ血を頂くとしよう」



 クロエはそう言うと、血で染まった唇を舐めて獰猛な笑みを浮かべた。

 その笑みを見て、俺も小太刀を構える。



「それじゃあ、俺たちの経験値にでもなってもらうとするか」



 呟き、俺も哂う。

 食屍鬼よりも強いこいつらは、経験値の量も多いに違いない。



 こいつらを倒していれば江東区に辿り着く頃には、確実にレベルが上がっているだろう。



前話では多くの評価ありがとうございました。

執筆の励みになります!!

本当にいつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 強くなればなるほどクソゲーシステムに取り込まれる。かなり怖い話になってきましたが、それがまた楽しいです
[一言] モンスターだけども生物を経験値扱いしたり、食料として生き血を抜いてることに平然としてるのが怖いですね。 生き抜くために仕方なく感が減ってるのは環境への慣れなのか、種族がそうさせてるのか。
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