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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 薄明の街と狂う世界

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四日目・夜 逃走の行先は



「っ、【集中強化】解除」



 すぐさまスキルを解除する。

 その瞬間、激しい頭痛が俺の意識を刈り取るように襲ってくる。



「ァ、あァっ!」


 痛みで声を漏らし、奥歯を強く噛みしめる。



「ユ――さん!」


 ミコトが俺の名前を呼んだような気がしたが、その声は上手く聞き取れなかった。



 耳元でドクドクと音を立てる心臓の鼓動がうるさい。

 鼓動に合わせるような痛みは激しく、俺の頭を締め付けてくる。

 痛みで、自然と目頭に涙が溢れてくる。

 気持ちが悪い。吐きそうだ。走るのだってもう、出来ない。




 頭が……。もう、破裂する――――。




 そんな時、俺の手を左右から引っ張られた。



「ユウマさん……。ごめんなさい、私が弱いばかりに」



 泣きそうな声でミコトが謝罪の言葉を口にした。

 右手を引っ張る小さな手が、俺の手を――まるで謝罪するようにぎゅっと握り締めてくる。



「ほれ、あとちょっとじゃ」



 優しく、けれどどこか余裕があるように、クロエがその言葉を言った。

 左手を引っ張る指の細い手が、俺の手を――俺の心を奮い立たせるように、力強く握りしめてくる。



「……ああ、そう、だな」



 俺は痛みで涙を溢しながらも、二人に向けて笑みを浮かべた。

 力を振り絞り、両足に力を込める。


 俺たちを見下ろすように、幽鬼のごとく佇む新宿アイランドタワーへと俺たちは駆け寄り、割れたガラス窓の入り口のドアからタワー内部へと入った。



「上、上に行く道はどこですか!?」


 ミコトがタワー内部のホールを見渡しながら声を張り上げた。


「――あっちじゃ! あっちにエスカレーターがある!!」



 クロエが奥のエスカレーターを見つけて、指を差す。

 俺は二人に手を引かれるまま停止し錆の浮いたエスカレーターを駆け上がり、二階へと辿り着く。


 新宿アイランドタワーの二階は、これまでに見たどの廃墟よりも荒れていた。

 天井が崩れて積み重なった瓦礫。ところどころ穴の空いたフロア床。

 左右に伸びる廊下と、そこから連なる四基のエレベーター。


 ミコトたちはそこからさらに、上へと続く階段を探すが――そこにはもう階段は存在していなかった。



「階段が、ない、じゃと!?」

「そんなっ!? エレベーターは――」

「電気が通っていない世界じゃぞ! エレベーターなんか、もはやただの鉄の箱じゃ!! 動くことなどあり得ぬ!!」

「それじゃあ、これからどうやって上に行くんですか!」


 言って、ミコトは階下に迫るモンスターの群れへと目を落とした。


「あと数十秒もすれば、また追いつかれます!」

「分かっとる!! じゃが、何も……。何も、無いのじゃ」


 唇を固く噛みしめて、クロエはそう言った。



 俺は頭痛が響く頭を持ちあげて、顔を歪めながら周囲へと目を向ける。

 瓦礫が積み上がり、床に穴が空いた二階の奥。そこには、ガラス窓と壁を突き破って、新宿アイランドタワーの中へと侵入した巨大な枝葉がある。超高層タワービルの半分を飲み込むようにそびえ立つ、あの巨大樹のものだ。


 その枝葉に絡みつくように、人間一人ぐらいなら十分に乗れるほどの太い蔦がタワーの中へと入りこんでいた。



「二人とも、アレを登ろう」


 と俺はタワーの中へ侵入してきていた枝葉を指さした。


「アレ? アレってまさか――」


 俺の視線の先を追いかけたミコトが言葉を失った。


「お主、あの枝を伝って、あの巨大な木を昇るつもりか? 正気で言っておるのか?」


 とクロエが顔を引きつらせる。



「もちろんだ。このままだと、俺たちは袋の鼠だぞ。ここから上に行くには、あれしかない」

「……それもそう、じゃな」


 クロエが硬い表情で、こくりと頷いた。


「私は……。いえ、私の居場所は、ユウマさんの隣です。ユウマさんが行くなら、私は行きます」


 とミコトが覚悟を決めたように頷く。



「――決まりだな。時間がない。早く行くぞ」


 俺の言葉に二人は頷きを返して、俺たちは巨大な枝葉へと駆けた。



 窓際にたどり着き、割れたガラス窓から顔を出す。

 窓の下には群れるアンデッドモンスターが続々と新宿アイランドタワーの中へと入ってくるのが見えた。

 耳を澄ませば、階下からエスカレーターを昇ってくるざわつきが、次第に大きくなってくるのが分かる。



「…………」


 上を見つめる。

 ビルの半分を飲み込むようにそびえたつ巨大な樹木は、その大きな枝葉を、タワービルの至る所に遠慮なく突き刺している。その樹木とタワーにとぐろを巻くように絡みついた茶色く木質化した太い蔦は、ビルの頂上――いや、樹木の頂上にまで続いているようだ。


「――っ」


 先の見えないその高さに、思わず唾を飲み込む。

 隣へと目を向けると、同じことを考えていたのか表情を硬くした二人の顔がある。



「…………行こう」


 そう言って、俺は息を吐く。



 巨大樹の枝葉は俺たち三人がまとめて乗っても折れることがない、と思えるほど太い。

 俺は枝に絡みつく太い蔦を足掛かりに、その枝葉の上に立つ。


「大丈夫だ!」


 俺の呼びかけに、二人が顔を見合わせた。



「ミコト、お主から先に行け。我は後ろを警戒しておく」

「分かりました」


 こくり、とミコトは頷いた。

 ミコトは一度、その巨大な枝葉を見つめると、やがて覚悟をするように唇を固く結んで太い蔦を足掛かりに上り始めた。



「ぅ、くっ」


 ステータスの差があるからか、筋力値の足りないミコトが苦悶の表情を浮かべる。

 俺は手を伸ばすと、ミコトの手を取って引き上げた。



「あ、ありがとうございます」


 枝葉の上で、両手をついて座り込んだミコトがお礼の言葉を口にした。


「大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です」


 とミコトは立ち上がる。



 そして後ろを振り返り、


「クロエさん、登りました!」


 とクロエに向けて手を差し出す。



 クロエは、差し出したミコトの手に少しばかり目を丸くすると、


「…………今、行くのじゃ」


 と小さな笑みを口元に浮かべて、蔦に足を掛けて昇るとその手を握った。




「よし、行くぞ」


 俺はクロエが無事に登り切ったことを確認して声を掛ける。

 階下に響くざわめきは大きくなり、もうすぐそこまで迫っていた。


「うむ!」

「はい!」



 二人の頷きを確認して、俺は枝葉を伝って新宿アイランドタワーの外へと出る。

 枝葉は巨大な樹木へと続き、その樹木の身体には直径がおよそ三メートルにも及ぶ木質化した太い蔦が絡みついている。


 俺は蔦の強度を確かめるよう、全力で引っ張ってみた。


「ふっ、ッ!」


 俺の今のSTRは30を超えて、40に近い。

 全力で殴れば、この街のモンスターが吹き飛ぶ筋力だ。

 その筋力でも、ビルと樹木に絡みつく蔦は千切れることがなかった。これなら、俺たちが蔦の上を伝いながら歩いても大丈夫だろう。



「くっ、ぅ」


 思い出したかのように、頭に響くスキルの反動の痛みに顔を顰めながら、俺は絡みつく蔦の上に足を置くと、恐る恐る足を踏み出す。


 ミシリ、という音を立てて蔦が揺れる。

 だが、蔦は俺の体重を支え切るとやがて揺れが収まった。



「ふー…………」



 長い、長い安堵の息を吐き出す。

 ゆっくりと、だが確実に。

 俺はビルの頂上を目指して足を進め始める。



「こ、これは……。け、結構怖い、ですね」


 震える声が聞こえた。



 背後を振り返ると、真っ青な顔をしたミコトが、樹木に張り付くようにして横歩きで俺の後を追いかけてくるところだった。手に持つ直槍が身体よりも大きいからか、張り付くのにも苦労をしているように見える。

 俺は小太刀をバックパックに突っ込むように入れて、ミコトの手から直槍を受け取ると、ミコトが歩きやすいようにその槍を預かる。



「あ、ありがとうございます」

「気にするな。それより、落ちないことだけを気にしろ」

「はい……。分かりました」


 こくり、とミコトが小さな頷きを返した。



 ミコトの後ろへと目を向けると、いつの間にか小さな姿へとなったクロエが、平然と蔦の上を歩いてきている。


「なんじゃ?」


 俺の視線に気が付き、クロエが首を傾げた。


「……いや、怖くないんだなって思って」

「馬鹿なことを言うな。怖いものは怖い。じゃがの、今は先に進まねばならぬ」


 そう言って、クロエは俺の目を見据える。


「それよりも、お主は平気なのか? 相当、限界突破スキルの反動が出ておったようじゃが」

「ああ、少しずつだけど。頭痛も治まりつつある。心配するな」


 俺がそう言うと、クロエはジッと俺の顔を見つめて、


「それなら、よい。本当は使わぬほうが良いスキルじゃが、状況が状況じゃったしな。無理だけはするな」


 と言って視線を外した。



 俺はクロエの言葉に頷きを返して、頭上を見上げる。

 新宿アイランドタワーの高さは約190メートルだ。

 到達するまで、どれぐらいの時間が掛かるか分からないが、それでもきっと、頂上へと辿り着く頃には頭痛も治まっているはずだ。


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