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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 薄明の街と狂う世界

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四日目・夜 活路を拓く

再びユウマ視点から。今回はちょっと長めです。

 


 ズキズキと痛みだす頭が、そろそろスキルの使用を中止しないとマズいことを教えてくれていた。



「くっ」


 唇を噛みしめながら、その痛みに耐える。

 横合いから飛び出してくるスケルトンドッグを殴って黙らせ、死角をつくように豪腕を振ってくるマミーを蹴り飛ばす。



 少しずつ。少しずつではあるが、活路は見えてきている。

 北通りを進み、新宿アイランドタワーはもうすぐ目の前だ。

 距離にすれば残り五十メートルといったところか。

 普段ならば時間の掛からないその距離も、今では果てしなく遠い距離のように感じる。



「ッ、ふっ!」



 正面から振り下ろされるスケルトンの棍棒を、身体を捻って躱す。

 躱したら、そのままスケルトンの肋骨の隙間から小太刀を突き刺し、赤石を砕く。

 ちらりと背後を振り返ると、ミコトが俺の討ち漏らしたゾンビにトドメを刺しているところだった。


 その後ろから、クロエがミコトを守るように近づくモンスターを殴り、蹴り、掌底を当てて吹き飛ばす。さらには、俺がバックアタックを受けないように背後に近づくモンスターへと素早く近づくと、横薙ぎにするように蹴り払って守ってくれる。


 必死に、俺が無理やりこじ開けた道が再び閉じないよう、守ってくれる二人の姿に俺の口元は自然と緩んだ。



「ユウマ! よそ見をしとる暇はないぞ!」


 そんなことを思っていると、クロエに声を掛けられた。


「あ、ああ。すまん」


 と再び意識を戦闘に集中させる。



 じりじりと、一匹のモンスターを倒すたびに一歩ずつ、確実に俺たちは前に進んでいく。

 モンスターの動きに変化が出たのはその時だった。



「クソ、厄介ナ」


 と一匹の食屍鬼がそう呟くと、地面に落ちていた棍棒――直前までスケルトンが持っていた武器だ――を拾い上げると、それを構えて俺に突撃してきたのだ。



「っ、お前らが拾った武器を使うのは無しだろ!」



 言いながら、俺は食屍鬼が振り下ろした棍棒を横から叩いて軌道を逸らす。

 棍棒を逸らされた食屍鬼は、その勢いにたたらを踏んだ。が、すぐに体勢を整えると、今度は下から突き上げるように、俺の顎を狙って棍棒を突き出してくる。



「――ッ!」



 顔を逸らしてその攻撃を避ける。

 ステータスも上がった今、反射速度も以前よりも上がっている。

 武器持ちといえど、その武器を振っているのは食屍鬼だ。武器を持ったことで一撃の重さは上がったかもしれないが、攻撃速度そのものが上がったわけではない。


 冷静に、確実に見切ればその攻撃を躱すことは出来る。

 だが、理屈ではそう分かっていても、俺の背筋には冷たい汗が流れていた。



(モンスターの攻撃パターンが変わった!? 食屍鬼(コイツら)は、今まで武器なんてものを持たなかったモンスターのはずだ。――まさか、こいつらにもある程度の知能があるのか?)



 もし、それが事実なのだとしたら。

 他の食屍鬼も武器を持つという考えに至るのだとしたら。


 今、この現状のパワーバランスはまた変わってしまう。

 俺やクロエはまだいい。だが、ミコトは武器を持った食屍鬼相手に無事で勝つことが出来るだろうか。



(いや、無理だ。ただでさえ食屍鬼は動きも速いし、腕力もある。そこらの木の根を削って作ったような粗悪品の棍棒と言えど、こいつらの腕力で振るわれたらミコトはひとたまりもない)



 今、武器を拾った食屍鬼は一匹。武器を持った食屍鬼の姿は、俺に押し寄せるモンスターの陰になっているのか、他の食屍鬼が気付いた様子はない。

 であれば、俺がやるべきことはただ一つ。



 迅速に、確実に、その食屍鬼の様子に他の食屍鬼が気付く前に――――殺す。



「っ!」



 息を短く吐いて、俺は武器持ちの食屍鬼へと接近した。

 武器持ちの食屍鬼は俺に気が付くと、すぐさまその手に持った棍棒を構えて、俺の頭を刈り取るように振ってくる。

 俺はその棍棒の動きを見切って、身体を前に倒して躱す。


 ――すると、目の前に黒い影が飛び出した。


 すぐさまそれが、その食屍鬼の繰り出した膝だということに気が付いた。



「ぁあッ」



 声を出して、無理やり背筋を使って倒した身体を持ち上げる。

 俺の顔面を捉えたはずの食屍鬼の膝蹴りが空を切った。攻撃を外した食屍鬼の顔が、忌々しそうに歪む。



「ッ! 小癪ナ!!」

「どっちが、だよ!」



 言い返しながら、俺は手に持つ小太刀を突き出した。

 急所である首や頭ではなく、面の広い身体を狙って突き出したその刃は、俺の攻撃を見切ったのか。刃の軌道上に棍棒を構えた食屍鬼によって防がれる。



「っそ!」


 小太刀は棍棒を貫通し突き刺さったが、食屍鬼を突き刺すまでには至らなかった。

 俺は奥歯を噛みしめ小太刀を引き抜くと、今度はその食屍鬼の足をへし折る勢いでローキックを繰り出す。


「グアッ」


 ゴキリと嫌な音が響いて、食屍鬼の大腿骨を砕いたのが感触で分かった。

 痛みで苦悶の表情を浮かべて、食屍鬼が膝を折る。

 その隙を逃さず、俺は小太刀を食屍鬼の首に向けて振り――。


「ぐっ!」


 下ろそうとして、【集中強化】による反動の痛みで一瞬だけ、動きが止まった。

 コンマ数秒。

 たったそれだけの時間だったが、激しい戦闘中はその短い時間で攻守は入れ替わる。



「馬鹿ガ」


 と食屍鬼がニヤリと笑った。



 手に持った棍棒を素早く振りかざし、膝をついた態勢で俺の太腿に向けて棍棒を振る。


「ぐあっ!」


 衝撃と共に、ミシリと骨にヒビが入る音が聞こえた。右足に痛みが電流となって走る。



 思わず身体をふらつかせると、その食屍鬼はもうすでに追撃の構えを取っていた。


「食ラエ」


 ふらつかせた頭に、食屍鬼の振った棍棒が叩きこまれる。


「がっ――」


 数瞬、視界が暗転する。



 奥歯を噛みしめて、途切れた意識を浮上させると、正面にはもう棍棒を振りかざした食屍鬼がいた。


「コレデ終ワリダ」

「ッ! 【遅延(ディレイ)】!! 5秒(ファイブセコンド)!!」



 食屍鬼の言葉と、ミコトが叫んだその声はほぼ同時だった。



「クロエさん!」


 そして、ミコトはすぐさま彼女の背後にいた少女の名前を叫ぶ。



「――ああ、分かっとる!!」



 ミコトの呼びかけに応じるように、クロエが俺の正面へと飛び出してきた。

 クロエは、【遅延】の効果で動きが鈍る食屍鬼へと素早く接近すると、その首を両手で持った。



「ふっ、んッ!」


 クロエが食屍鬼の首を回し――ゴキリという嫌な音を響かせて、食屍鬼の首が捻じれた。


「――――ガ」


 食屍鬼は短く断末魔を吐き出すと、身体を痙攣させて地面へと倒れる。




「お主、大丈夫か!?」


 クロエが周囲へと警戒の眼差しを向けながら、声を上げた。


「HPはどうなっとる!?」

「確認する暇なんか、ねぇ、よ」


 痛みで脂汗を流しながら俺はクロエに言い返した。


「良いから確認するのじゃ! ここは我が持たせる! 残りHPが少ないならば、すぐさまミコトに回復してもらうんじゃ!」

「だから、そんな暇、ねぇって」



 周囲のモンスターは一向に数が減る様子はない。

 むしろ、この戦闘音を聞きつけて次々と増えている。

 立ち止まっている暇なんかないだろう。

 今は一刻も早くこの群れを突っ切り、目的地へと向かうべきだ。



「大丈夫、だ」



 言葉を途切れさせながら、俺は言った。

 その瞬間、クロエが目を吊り上げながら大声を上げた。



「馬鹿者!! 自分の残りHPも分からないまま、この群れを突っ切れるか! まだボスモンスターさえも見つけておらぬのじゃぞ!? 意地を張ってどうするのじゃ!!」



 叱りつけるようなその声に、俺は唇を噛みしめた。

 確かにそうだ。俺たちの目的は、この群れを突っ切ることじゃない。

 俺たちはまだ、この夜を終わらせる勝利条件を満たしていないのだ。

 ここは無理をするところじゃない。冷静になるべきだ。



「ふー……」



 息を吐いて、戦闘で高ぶった心を無理やり沈める。

 そうして、少しばかり冷静さを取り戻してクロエに声を掛ける。



「三十秒、耐えてくれ」

「ふんっ、誰に言うておる。我は吸血鬼ぞ。こんなアンデッドモンスター、我の敵ではないわ」


 とクロエは鼻を鳴らして歯を剥き出しにして笑った。



「【身体変化】」


 八歳の身体から身体を大きくして――。

 成長した姿となって、クロエは正面を見据えた。



「夜を支配するのは貴様らじゃない。この(吸血鬼)じゃ!!」


 クロエが声を上げて、俺と交代をするようにその群れへと突っ込んだ。



 俺はその声を聞きながら、すぐさまスマホを取り出してステータス画面を開く。




 古賀 ユウマ  Lv:13 SP:0

 HP:58/78

 MP:18/18

 STR:37

 DEF:35

 DEX:30

 AGI:33

 INT:19

 VIT:35

 LUK:58

 所持スキル:未知の開拓者 曙光 夜目 集中強化 視覚強化 刀剣術




 減ったHPは20。全体の約四分の一が減っていた。

 残りHPはまだ58だ。上昇したステータスの影響で、一撃を食らってもそこまで大きなHPの減少もなくなっている。まだ戦えないこともない。だが――。



「ミコト! 【回復】してくれ!」



 俺はミコトに声を上げた。

 クロエの言う通り、俺が倒れるわけにはいかない。

 ボスモンスターだって見つけていない。

 この世界に残機はないのだ。

 HPが0になれば、このクソゲーはそこであっけなく終わりを迎える。

 命を蘇らせる復活の呪文なんて存在していない。



「――はい!!」



 俺の声に応えるように、ミコトがすぐさま駆け寄ってきてくれる。

 そして、そのまま俺の背中に両手を当てると、



「【回復】!」


 と呟いて、俺の身体を光で覆った。



 光に包まれ、見つめる先で俺のステータス画面にあるHPが急速に回復していく。


「っ、ぐ……」


 ズキリと頭が痛みで悲鳴を上げた。



 ステータス画面ではHPはもうすべて回復している。

 食屍鬼によって殴られた頭の痛みは、もう消えているはずだ。

 それなのに、今しがた襲ったその痛みは……。


 その意味を考え、俺は一つの可能性に思い当たった。


(……まさか。【集中強化】を使用している間は――その反動の痛みは、いくら【回復】を使おうが痛みは治まらないのか?)


 この痛みが、脳が悲鳴を上げる痛みだとして。

 いくらその痛みを和らげるために癒しの光を浴びたところで、再度負荷が掛かれば痛みはぶり返す。

 痛みを取り除いても、その原因を取り除かねば何度でも痛みは襲ってくる。



 ズキズキと痛む頭を思わず手で押さえると、治まりつつある光の中で、ミコトの心配そうな声が後ろから掛かった。


「ユウマさん? まだHPが回復しませんか?」

「いや……。大丈夫。おかげでHPも全部回復したよ」

「本当ですか? それにしては今、痛みを耐えていたような……」

「気のせいだ。ありがとう、ミコト」



 そう言って、俺は背後を振り返ると口元に笑みを湛えた。

 ミコトは心配そうに俺を見ていたが、ここで無駄に会話をする余裕がないことを分かっているのだろう。

 気遣うような視線を向けると、こくりと小さな頷きを返した。



「討ち漏らしと、ユウマさんの後ろは私に任せてください。ユウマさんは、ただ前だけを向いて進んでください」

「分かった。ありがとう」



 俺たちはお互いに目を合わせて、小さな頷きを交わす。

 それから、俺は再び正面を見据えた。

 そこにはモンスターの群れの中で暴れるクロエの姿がある。



「ふー……」


 短く息を吐いて、


「ふっ!」


 とクロエの元へとダッシュした。



 群れの中へと全力で駆け寄り、そのまま地面を蹴って跳び蹴りをゾンビに向けて繰り出す。

 一撃でその命を刈り取り、地面に着地してクロエへと目を向けた。



「すまん、助かった」

「なんじゃ、早かったの」


 とクロエが歯を剥いて笑った。



 その口元にはべったりと真っ赤な血が付いている。どうやら、暴れながらモンスターから血を奪い飲んでいたらしい。

 クロエは口元を乱暴に拭うと、俺の隣に立つ。



「お主、限界突破(ブースト)スキルを今も使っとるじゃろ?」

「……ああ」

「――反動に耐えられるのは、持ってどのくらいじゃ」

「あと、二分。よくて三分だ。時間が経つにつれて、頭痛が酷くなってきやがる」

「限界突破スキルは諸刃の剣じゃ。いますぐに使用をやめろ……と、言いたいところじゃが、お主がそのスキルを使うことを止めれば、我らはすぐさま囲まれるじゃろうな」


 クロエは、俺の言葉にそう呟くと、真剣な表情となって前を見据えた。




「…………一分じゃ。一分の間に、二人で穴を開けるぞ」



 そう言い放つとクロエは真っ先に駆け出した。

 瞬時に目の前のスケルトンへと近づくと、その身体に拳を叩きこんで骨を粉砕する。弱点の赤石を砕くと、そのままその後ろに控えるマミーへと接近する。



「邪魔、じゃ!!」


 クロエは叫び声をあげると、肩幅ほど足を開き、軽く膝でしゃがんだ。

 そのままくるりとクロエは半回転して、背中からマミーへと体当たりするように足を踏み出す。

 それは中国武術、太極拳の技の一つ。

 ――鉄山靠。


 クロエの踏み込みの力と衝撃は、背中を通してマミーに伝わる。


「ガッ――――」


 とマミーは息を吐き出すと、衝撃に耐え切れず背後へと吹き飛んだ。



 わずかに崩れるその壁を、俺は見逃さない。


「っ!」


 息を吐いて両足に力を込めると、その崩れた壁に穴を穿つように、すぐさまその中へと駆けこむ。


「あぁッ!」


 声を上げて、手に持つ小太刀を、その空いた穴を塞ぐように襲い掛かってくる食屍鬼へと向ける。

 袈裟斬りで小太刀を振い、食屍鬼の身体から血が噴き出る。

 その血を避けることなく浴びるように、俺はさらにその奥へと足を踏み出す。

 意識を失い崩れる食屍鬼を蹴り飛ばして、その後ろに立つゾンビの首を小太刀で刎ね飛ばす。



「ふ、んっ!」



 ゾンビの首を刎ね飛ばすと、クロエが横から飛び出してきて、周囲のモンスターを横薙ぎに蹴りつけた。

 骨を折る音を響かせながら、食屍鬼がうめき声を出して倒れる。

 俺は倒れた食屍鬼へと小太刀でトドメを刺す。

 クロエが殴り、俺が斬りつける。俺が斬りつけ、クロエが蹴り飛ばす。



 まるでダンスを踊るように、お互いがお互いのモンスターに一撃とトドメを刺しながら、俺たちは周囲のモンスターを狩っていく。



 ――そして、ついに。俺たちの攻撃はその厚い壁を穿ち、穴を開けた。



「開けた!」


 横から迫る食屍鬼を殴りながら、俺は声を上げた。


「全力でここを守る! クロエはミコトの援護を!!」

「うむ、分かったのじゃ!」



 俺の言葉に同意し、クロエは相対していたゾンビの顔へと乱打を叩きこんで地面へと沈めると、後ろから付いてくるミコトの元へと駆け寄った。



「ぐッ!」



 これまでで一番激しい頭痛が襲う。

 顔を歪めて、それでも俺は周囲のモンスターへと目を向ける。



「うぅぁッ、っ!」



 痛みで唸り声をあげながら、俺は手に持つ小太刀を振った。

 ここで攻撃の手を止めるわけにはいかない。ようやく手に入れた活路だ。道を閉ざすわけにはいかない。


 ――気合を入れろ。ここが正念場だ。あいつらが通るまで、この穴を死守しろ!


 小太刀を振い、拳で殴って、蹴りを入れて吹き飛ばす。

 ただ、がむしゃらに。生きるための活路を俺は開き続ける。



「ユウマさん! ありがとうございます!!」


 追いついたミコトが、すぐさま俺の開く道を駆け抜けた。


「よく耐えた、お主も行くぞ!」



 そう言って、クロエが俺の横を駆け抜けていく。

 俺は一度、周囲のモンスターへ小太刀を振って隙を作ると、すぐさま身体を反転して二人の後ろを追いかけた。


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[気になる点] テツザンコウは太極拳っぽい八極拳の技ですよね? ぽいだけですよね?
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