四日目・夜 新宿副都心八号線
二時間ほどの休憩を終えて、俺たちは校舎を抜け出して再び『極夜の街』へと足を踏み出した。
休憩をしている間に、校舎の周りにいたアンデッドモンスターは街へと流れたのか、数が少なくなっていた。
俺たちはそのモンスターに見つかることのないよう、ステータスで足音を殺してこっそりと街へと繰り出す。
「なるほどの。これが、お主らのステータススキル『無音移動』か。便利じゃの」
出発前に、俺はクロエにステータススキルである『無音移動』について教えていた。
クロエは最初こそ戸惑っていたが、やがてコツを掴んだのか音を立てることなく移動することが出来るようになっていた。
「もっとこれが早く出来るようになれば、楽じゃったのに」
とクロエが言う。
「まあ、これもクロエの言う『模倣』みたいなものだ。元は、忍者の歩行方法らしい。前に動画で見たその動きを、頭の中でイメージしながらやってみたら出来ただけだ」
と俺は言い返した。
「ニンジャ! お主、これはニンジャの移動なのか!?」
忍者の言葉に興奮したクロエが鼻息荒く言った。
俺は、そんなクロエに向けて頷く。
「あ、ああ。そうだけど」
やっぱり、外国人には忍者が人気なのだろうか。
クロエはしばらくの間、
「これがニンジャの走りっ! 我は今、ニンジャになっとる!」
と言いながら、前傾姿勢で左右の腕を後方へと伸ばして『無音移動』スキルで走っていた。
いや、危なくないか? その走り方……。
「ところで、お主らレベルが上がっておったのじゃろ? きちんとステータスは割り振っておるのだろうな?」
前傾姿勢で隣を走るクロエが、ふと思い出したかのようにそんなことを聞いてきた。
「ああ、問題ない」
と俺はクロエに頷きを返す。
古賀 ユウマ Lv:13 SP:30→0
HP:63/68→73/78
MP:18/18
STR:31→37
DEF:28→35
DEX:25→30
AGI:27→33
INT:19
VIT:30→35
LUK:56→58
所持スキル:未知の開拓者 曙光 夜目 集中強化 視覚強化 刀剣術
これが、俺の今のステータスだ。
出発前に、獲得したSPは全てステータスに変えた。残しておくべきかどうか悩んだが、このモンスター・スタンピードが発生しているこの街で、いざという時に割り振る余裕なんかないだろう。という判断だった。
割り振ったSPは、DEFに七つ、STRとAGIに六つ、DEXとVITに五つ、LUKに一つだ。
【曙光】の影響で大量にSPを獲得出来るからか、やはりレベルが一気に上がるとその分だけステータスも大幅に上昇する。
校舎で休憩をする前よりも、はるかに身体に力が漲るのを感じた。
「ミコト。お主、MPは回復しとるのか?」
とクロエは後ろを走るミコトに問いかけた。
「はい、ゆっくり休めましたし、もう大丈夫です」
とミコトはしっかりと頷く。
その言葉に、俺は出発前に見せてもらったミコトのステータスを思い返した。
柊 ミコト Lv:12 SP:15→0
HP:40/40
MP:0/48→63/63
STR:15→17
DEF:17→18
DEX:16→19
AGI:19→21
INT:48→63
VIT:17
LUK:29→30
所持スキル:天の贈り物 回復 遅延 槍術
ミコトは俺たちに【回復】を使うために、INTに割り振ったSPは六つだったようだ。
伸びやすいステータスは、一回のSPの割り振りで二つないし三つはステータスの数値が上昇する。
どうやらミコトはSPをINTに割り振った際に、二つではなく三つ上昇するパターンを引いたようで、
「SPの割り振りでクリティカルが出たおかげで、割と少ないSPでINTを上げることが出来ました」
と言っていた。
残った九回分のSPの割り振りを、ミコトはDEXに三つ、STRとAGIに二つ、DEFとLUKに一つずつ割り振ったようだ。
新宿駅西口の高層ビル地帯へと俺たちは向かう。
近づくごとに多くなるアンデッドモンスターに、俺たちは囲まれないよう慎重に建物の陰に隠れながら進む。
とは言っても、数万のアンデッドモンスターが集まるこの場所だ。さらに言えば、高層ビル群が立ち並ぶここは建物の数が少なく道幅も広い。
隠れながら進むのにも限界があり、俺たちはすぐにアンデッドモンスターに見つかった。
「マズいな」
と俺は何匹目になるか分からないゾンビを小太刀で斬りつけて言葉を漏らした。
モンスターに囲まれないよう立ち位置を変えながらモンスターを倒していた俺たちだが、気が付けば新宿副都心八号線のど真ん中にいた。
俺たちの目の前には、ガラスが割れてその身体を覆う鉄骨の繭が剥がれ落ちたコクーンタワーと、その高いビルの全体に蔦を絡ませた新宿センタービルが立ち並んでおり、隠れる場所も見当たらない。
道路幅が広いおかげで囲まれてもすぐに抜け出せているが、始まった戦闘音に反応した周囲のアンデッドモンスターがこの場所へと集まりつつある。
このままでは、俺たちがアンデッドモンスターに囲まれるのは時間の問題だった。
「ユウマよ、どうするのじゃ!? 早いところビルに行かねば、我らはまたアンデッドモンスターに囲まれるぞ! ここは先ほどよりもモンスターの数が多い!! 下手に囲まれでもすれば、我らは死ぬぞ!!」
叫びながら、クロエは横から迫ってきた食屍鬼を蹴り飛ばす。着地をすると、すぐさま正面に居たスケルトンへと拳を叩きこんで骨ごと赤石を砕いた。
「――っ、ユウマさん! あのビルなら上まで登れるんじゃないですか!?」
そう言って、ミコトが指を差したのは身体の半分を苔と巨大な樹木と木質化した茶色い蔦に覆われて、それでもなお立ち尽くす新宿アイランドタワーだった。
「ッ、とにかく行ってみよう! 俺が先頭で突っ走る!! ミコトは俺の後ろに、クロエは一番後ろから守ってくれ!!」
「はい!」
「了解じゃ!」
二人の声を聞き、俺は小太刀を構えて北通りへと――――数百のアンデッドモンスターがいるその場所へと突っ込んだ。
「そこをッ!! どけぇええええええええええ!!」
声をあげながら、俺は真っ先に襲い掛かってくる食屍鬼へと小太刀を振う。
上昇したSTRは、いとも容易くその首を斬り飛ばす。
食屍鬼の首が飛んだことを確認して、俺は左右の足を入れ替えるように身体を回転させると――刃をすぐさま切り返し、上段から横薙ぎにその刃を振り払って、周囲にいるゾンビを斬りつける。
斬りつけた勢いをそのままに、左足を軸に腰を回して、その奥から迫るマミーの腰骨をへし折るように全力で蹴りつけた。
「ッ、あぁッ!!」
足を振り抜くと、骨を砕き肉が潰れる感触が足を通して伝わってきた。
「――――!!」
蹴りつけられた衝撃で声も出せないまま、マミーは周囲を巻き込んで吹き飛んでいく。
ぽっかりと出来た隙間に俺は身体を滑り込ませると、すぐさま地面へと沈みこませるように腰を落として、左手を腰だめに溜めた。
――――頭の中でイメージする。
それは、これまでに見たクロエの攻撃。
相手を殴るのではなく、衝撃を一点に与えて吹き飛ばすその技術。
「っりゃあ!」
頭の中のイメージを力に変えて、その動きを模倣する。
腰に構えた掌底で相手を貫くように、一歩踏み出した足に体重を移動して、身体中の力を掌底に乗せる。
「グガッ」
俺が繰り出した掌底は、まっすぐに食屍鬼の腹へと打ち込まれた。
食屍鬼の身体が折れ曲がり、体重と力によって後押しされた衝撃は、食屍鬼の身体を吹き飛ばす。
食屍鬼は数匹のゾンビを巻き込んで地面を転がると、巻き込まれたゾンビとともに空気へと溶けて消えた。
食屍鬼とその周囲にいたゾンビを吹き飛ばしたおかげで、俺の周囲にはぽっかりとした穴が出来上がった。
俺は落としていた腰を上げて、肩を動かし首を鳴らす。
身体の調子は悪くない。
むしろステータスが上昇した影響からか絶好調だ。
数百というアンデッドモンスターに襲われるこの状況でも、今の俺はそう簡単にやられる気がしなかった。
小太刀を構えて、俺の前に塞がるモンスターへと視線を向ける。
「ふー……」
息を吐いて、
「【集中強化】」
その言葉を呟く。
途端に、世界が切り替わる。
時間の感覚が狂う。
極度の集中で戦闘に必要なもの以外がすべて消えたその世界で、俺は唇を吊り上げる。
「さあ、行こうか」
そう呟くと同時に、俺は地面を蹴って駆け出していた。




