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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 薄明の街と狂う世界

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四日目・夜 【回復】スキル3 / 適正レベル

「終わりました。いつでもできます」

「ありがとう」

「誰からしますか?」



 ミコトに声をかけられて、俺はクロエへと目を向けた。



「我は最後で良い。スキルがどのように発動するのか見たいしの」


 とクロエは遠慮するように言った。



 その言葉に俺とミコトは顔を見合わせる。


「それじゃあ、ユウマさんから」

「いいのか?」

「はい。ユウマさんを治療してから私も自分自身を治療します」


 ミコトはそう言うと、俺の胸へとその手を翳した。


「【回復(ヒール)】」



 その声と共に、ミコトの身体から溢れた光が俺を包んだ。

 身体のあちこちにあった打ち身の痣や細かな擦り傷が、光によって消えていく。

 やがて、光がおさまると俺の身体からは痣が消えて、小さな擦り傷だけが残っていた。



「あれ? 全部消えませんね」


 とミコトが言った。


「HPが全快してないからな。だからだろ」


 【回復】の回復量は30だ。俺の最大HPは68だから、全快するには5ほど足りていない。



「いつの間にそんなHPに……。これは、いち早く次の回復スキルを取得しないといけませんね」


 とミコトは呆れた顔をしながらも笑った。



 それから、ミコトは自分の胸へと手を当てると言葉を呟く。


「【回復】」



 その言葉と同時に、ミコトの身体を光が包み込んだ。

 その様子を眺めていると、クロエが静かに口を開いた。



「――本当に、回復スキルなのじゃな」

「ああ、そうだよ」


 と俺は光に包まれるミコトへと目を向けた。


「あの光と彼女は、俺たちがこの世界で絶対に失くしちゃいけないものだ」

「……それは、そうじゃの。回復スキルさえあれば、我らの生存確率は段違いじゃし」



 クロエはミコトから視線を外すと、俺へと目を向けた。

 その表情は、これまで見たどの彼女よりもはるかに真剣で、真剣に俺を見つめるその目からは、今、彼女が口にしている言葉のすべてが、本心であることを語っていた。



「お主、このスキルのことは他のプレイヤーに知られてはならぬよ。特に、この世界に追い詰められたプレイヤーにだけは知られてはならぬ。我が知っておる限りじゃと、この世界には回復薬は存在しとらん。ゆえに、このスキルは――回復スキルは貴重じゃ。知られれば、きっと……。ミコトは、他のプレイヤーに連れ去られるぞ」

「…………ああ、分かってる」



 俺はクロエの言葉に頷いた。

 それは、この世界に他のプレイヤーがいると分かった時から、心の中でずっと懸念していたことだった。


 俺の【曙光】は恨みや妬みを買うチートスキルだが、ミコトの【回復】は実用的なチートスキルだ。

 もしこれが知られれば、ミコトは回復薬の代わりにコキ使われることだろう。


 そんな話をしていると、ミコトの身体を覆っていた光は徐々に小さくなり、やがて消えた。

 光が消えた後には、傷一つなくなったミコトがそこに居た。



「これで、私のHPは満タンです」


 とミコトは言った。



 どうやら、俺たちの会話はミコトには聞こえていなかったらしい。

 ミコトはクロエに問いかける。



「次、クロエさんの番ですよ」

「おお、楽しみじゃ」


 と俺と会話をしていた真剣な顔はどこにいったのか、いつもの余裕がある表情をその顔に浮かべて、喉を鳴らすように笑った。



「それで、我はどうすればいい?」

「別に何もしなくて大丈夫ですよ。ただ、そこに立っていてくれれば」


 ミコトはそう言ってクロエの豊満な胸に手を当てると、


「【回復】」


 と三度目となるスキルを発動させた。



 その瞬間、ミコトの身体から溢れた光がクロエの身体を覆った。


「お、おぉ……。本当に、傷が消えていくのじゃ」


 と戸惑いながらもクロエは自分の腕を見ながら言った。



 光はしばらくクロエの身体を包んで、その身体の傷を癒すと次第に消えていく。

 やがて、完全に光が消えたことを確認すると、クロエは自分のスマホを取り出した。

 どうやらクロエは【回復】スキルの効果をステータスで確認したらしい。



「確かにHPが回復しとる」


 とクロエは【回復】の効果を噛みしめるように言った。



 眺めていたスマホから目をあげると、クロエはミコトへと頭を下げる。


「本当に助かるのじゃ。ミコト、ありがとう」

「そ、そんなに頭を下げないでください。私はただ、自分の出来ることをしただけですし……。それに、クロエさんのおかげで、あのモンスターの群れから私たちは逃げることが出来たんです。むしろ、お礼を言うのは私たちのほうです」


 とミコトはわたわたと両手を振りながら答えた。


「それに、クロエさんがお礼を言うのはまだ早いですよ。まだ夜は長いですから。ね、そうでしょ?」

「――ああ、そうじゃの」



 クロエはそう言うと、スマホの画面へと視線を落とした。



「今の時刻は午後七時十二分じゃ。夜明けまで、残り九時間ほどじゃが……。ボスモンスターがどこにおるのか見当もつかぬ」

「クロエ、お前ボスモンスターのこといろいろ知ってただろ。何か知らないのか?」



 俺はクロエに問いかけた。

 すると、クロエは首を横に振って答える。



「我が知っとるのは、あくまでストーリークエストが『ボスモンスターを討伐するまで発生しとる』ということだけじゃ。そして、そのボスモンスターが『その付近のモンスターよりも遥かに強い』ということだけ。……この推測も、我が他のプレイヤーから話を聞いて、仮説で出した結論じゃ。お主らこそ、何か知っとるんじゃないのか?」



 そう言って、クロエは俺たちの顔を見た。

 俺はクロエに向けて首を振る。



「俺たちは、これまで他のプレイヤーに出会っていない。このゲームに関する情報は、何もないんだよ」


 と俺は息を吐いた。



 もしかすれば、俺たちがこの世界でこのゲームを始めた付近にもプレイヤーは居たのかもしれないが、少なくとも俺たちは出会っちゃいない。もし、どこかで出会っていればクロエのように多くの情報を仕入れることが出来ただろう。



「出会っていない? お主ら、新宿に来るまでどこに居たんじゃ」

「俺は八王子」

「私は立川」


 とそれぞれ俺たちはクロエの言葉に答えた。



 その言葉に、クロエが怪訝な顔となる。


「はちおうじ? たちかわ? それは東京か?」

「東京だよ!! 23区以外は東京じゃない、みたいな言い方はやめろ!」



 元は日本に旅行しに来ていたクロエである。その言葉に悪気はないにしても、さすがにツッコミを入れざるを得なかった。



「クロエさん、東京は結構広いんですよ」


 と、ミコトがクロエにフォローを入れる。



 クロエは、


「そうじゃったか……。東京は意外と広いんじゃな」


 と小さく驚いていた。



 広くはない。土地面積で言えば日本の中でもワースト五位に入る狭さだ。

 ただ、ごく一部の地域が有名すぎるだけ。

 ……そんなことをクロエに言ったところで、意味がないだろう。

 脱線した話を元に戻すことにする。



「……とにかく。俺たちは他のプレイヤーに会ってもいないし、このゲームに関しては何もしらない。このゲームが、この現実にどこまで影響しているのかも分からない。ずっと手探りでここまで来たんだ。俺たちは本当に、何も分からないんだよ。……クロエ、お前は他のプレイヤーにいろいろと話を聞いてるんだろ? ボスモンスターの居場所とか聞いてないのか?」


「そんなの、聞いておったら苦労はしとらん」


 とクロエは俺の言葉に答えて、ため息を吐いた。



「他のプレイヤーから聞いたボスの強さも、居場所も、それぞれ聞いた話ごとに違う。ただ一つだけ分かっとるのは、みな一様に自力でボスモンスターを見つけとるということだけじゃ。……今回のクエストも、ボスモンスターの居場所は我らが自力で見つけるしかないじゃろうな」



「……そのことについて、一つ意見があるんですが」


 クロエとボスモンスターのことについて話をしていると、ふいにミコトが小さく手を挙げた。


「どうした?」


 と俺はミコトに話を振る。



 ミコトは俺たちの顔を見渡すと、口を開いた。


「ずっと考えていたことなんですけど。このクエストって、モンスターが多く発生するクエストですよね? ボスモンスターを見つけてクエストのクリアを目指すことも大切ですけど、まずはレベルを上げることも大切じゃないですか?」


「それは……。レベリングってことだよな?」

「そうです」


 とミコトは頷いた。


「レベルが上がれば、それだけ強くなります。ボスモンスターは強敵なんですよね? その強さが分からない以上、出来る限りレベルを上げておくべきかと。……それに、レベルアップは楽しいですよ?」



 ミコトはレベルアップ狂だ。

 最後の一言は、おそらく個人的な意見だろうが、それでもミコトの言葉は一理ある。



「レベリングか……」



 呟き、俺は考え込んだ。

 確かにミコトの言う通り、ボスモンスターの強さが分からない以上、レベリングは必要だ。

 ボスに挑む前に、出来る限りレベルを上げておきたい。


 クロエが語るには、このクエストは夜になればアンデッドモンスターが湧き出し、朝日とともに湧き出したアンデッドモンスターは消えるらしい。

 そのクエストの性質は、夜になればモンスターが溢れて危険だが、朝になればひとまずの安全が確保されるということだ。


 それはつまり、このクエストはレベリングに適しているということ。

 このクエストを上手く利用をすれば、俺たちのレベルは大きく上がるだろう。



「……でも」


 と俺は言った。


「俺たちはストーリークエストを受けてしまっている。だったら、レベリングよりも何よりも。まずは、そのクリアを優先させるべきだ」

「それは、なぜですか? ボスモンスターは強敵なんですよ? レベルを上げて、安全マージンは取るべきです」

「それはそうなんだけど」



 俺は眉間に皺を寄せた。

 ミコトの言うことは正論だ。これから先のことを考えれば、より慎重にレベルを上げて生存率を高めたほうがいい。



「そう、なんだけどさ」


 と俺は口ごもる。



 理屈では分かっている。理性でも理解している。

 俺は一度、ホブゴブリンを相手に死にそうな目に合った。

 あの感情を、恐怖を、絶望を、俺は一生忘れることが出来ないだろう。


 それなのにも関わらず、なぜかは分からないがストーリークエストを受けてからずっと……。レベリングより何よりも、そのストーリークエストのクリアを優先するべきだ、という考えが離れないのだ。

 いや、もっと言えばだ。ストーリークエストが開始されたことを知らせるアナウンスを聞いてから〝レベリングよりも何よりも、そこにいる強敵を倒せ〟という観念が大きくなっている。


 ホブゴブリンの時には気が付かなかったその意識は、クエスト開始のアナウンスを聞いてから、時間が経つにつれて大きくなっていく。

 レベリングをして安全マージンを取った方がいいのは分かっているはずなのに、それを本能が拒むかのように、気が付けば強敵を倒してストーリークエストをクリアすることに意識が向いてしまうのだ。



「ユウマさん?」



 俺の様子がおかしいことに気が付いたのか。

 ミコトが首を傾げた。



「何でもない」


 と俺は取り繕った。



 死にそうな目に合っておきながら、レベリングを拒否して強敵に挑もうとしているなんて、破滅願望も良いところだ。

 命を救ってくれたミコトには、こんなこと口が裂けても言えるはずがなかった。



「レベリングのぅ……」


 そんなことを考えていると、ミコトの言葉に反応を示したクロエが呟いた。


「確かにそれは必要じゃが、このストーリークエスト中は、期待するほどあまりレベルが上がらんぞ」

「どういうことですか?」


 とミコトがクロエの言葉に言った。



 クロエは言葉を続ける。


「この街に出てくるモンスターで、とりわけ強いモンスターは食屍鬼じゃ。そのモンスターでも、プレイヤーのレベルが10もあれば、よほどおかしなステータス割り振りをしていなければ勝てる相手。言ってしまえば、この街のモンスターを倒す適正プレイヤーレベルは10前後ということになる」

「適正プレイヤーレベルを超えて、そのモンスターを倒すとどうなる?」


 俺はクロエに問いかけた。


「獲得する経験値の量が分からぬから、断定は出来ぬが……。体感じゃと、適正レベルから離れれば離れるだけ、獲得する経験値が少なくなっとるような気がするの」


 とクロエはため息混じりに俺の言葉に答えた。



「それはつまり、ある程度までレベルが上がってしまうと、どんなにモンスターを倒しても経験値がほとんど入らずレベルが上がりにくくなる。そういうことか」


 クロエは俺の言葉に頷いた。


「そういうことじゃ。おそらくじゃが、このゲーム……。モンスター討伐の適正レベルを超えた場合、そのモンスターを倒した際に得られる経験値が極端に低くなるよう設定されておる。昨日の夜、このモンスターが溢れた街を散々駆け回って、数えるのも馬鹿らしくなるぐらい、本当に気が遠くなるような数のモンスターを倒して、一晩で上がったレベルはたったの3じゃった」


「……一定の場所でのレベリング禁止の仕様ってわけか」


 言って、俺はため息を吐き出す。



 ボスモンスターはその場所での適正レベルを超えた強さをしていて、それに勝とうとレベリングをしようにも一定のレベルを超えれば周囲モンスターを倒してもレベルが上がらない。

 早い話がこのゲームでは、そのボスモンスターを軽々倒せるレベルまでレベリングをして、ボスモンスターへ挑むことは出来ない。そういうことだ。



「そういうのばっかりだな、このゲーム」


 と俺は言葉を吐き捨てた。



 俺には【曙光】のスキルがあるから、ある程度はその仕様の影響も和らぐだろうが、それもどこまで有効なのか分からない。



 間違いのないクソゲー仕様に、もはや怒りを通り越して呆れがやってくる。



「レベリングすらまともに出来ぬから、ボスモンスターの討伐には必然的に複数人で挑むのじゃよ」


 とクロエは言った。



「その馬鹿げた仕様のおかげで、このゲームにはまともにレベル上げすら出来ておらんプレイヤーが多い。……我は種族の特徴で、夜には強いからの。この四日間、夜に集中してレベルを上げて、ようやくそこそこのレベルとステータスになったと自負しておる。じゃが、我みたいに狂ったようにレベルを上げるプレイヤーなど知れておるじゃろうな。何せ、モンスターと戦えば怪我を負うリスクもある。回復薬なんぞ存在しとる世界ではないのじゃ。ミコトのように回復スキルもなければ、普通のプレイヤーじゃったら慎重に時間を掛けてモンスターを狩り、レベルをあげるじゃろ」



 そう言って、クロエは俺の方へと目を向ける。


「……じゃから、お主のように最弱種族の『人間』が、どうしてそこまで強いのか、非常に気になるがの?」

「…………探りを入れるのは、同盟違反だ」


 俺はクロエの言葉にそう言い返す。



 クロエは面白くなさそうに一度鼻を鳴らすと、


「まあ、よい」


 と言ってから話を元に戻した。



「まあ、そんなわけでの。お主らのレベルが10を超えているなら、このクエスト中にレベリングをしても、期待するほどレベルは上がらんぞ。どうしても、というなら付き合うが」



 そう言って、クロエは俺たちの顔――特にミコトの顔を中心に眺めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 共闘によって育まれる信頼と友情って感じがいいですな [気になる点] 吸血鬼(アンデッド)をヒール(聖魔法)で回復する天使… [一言] この小説だと回復できてるけど、他作品のゲームや世界観仕…
[良い点] 読みやすい [気になる点] 設定的に、まだ皆この世界に入ってたったの一週間さえ経ってないのに まるでこの世界の設定を良く知ってるかのように話すくだりで違和感をどうしても感じます
[気になる点] 主人公のステータスはアップしてさせないのですか?
2020/07/30 22:10 退会済み
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