四日目・夜 約束の五分間
「ミコト、援護頼んだ!」
そう呟くと俺は小太刀を構えて、地面を蹴り出して後ろから迫るモンスターの群れへと突っ込んだ。
一番先頭に居たマミーの身体を小太刀で切り裂き、そのまま反転して回し蹴りを叩きこむ。その勢いを殺さず、今度は左手に居たスケルトンの肋骨を拳で割って、その奥の赤石を掴み、握力で砕く。
スケルトンが崩れ落ちて、その奥に現れたゾンビの身体に向けて小太刀を突き刺す。突き刺した小太刀から手を放して、後ろから迫りくるマミーの身体に肘を入れて、折れて低くなった顔に裏拳を入れて顔の骨を砕く。
食屍鬼が横から放った拳をしゃがんで避けて、そのまま足払いをかけて体勢を崩す。体勢を崩した食屍鬼に、立ち上がりざまに膝蹴りを入れて吹き飛ばす。立ち上がるとダッシュで小太刀を突き刺したままのゾンビへと近づき、身体に突き刺さった小太刀を力で引き抜き、そのまま首を飛ばした。
群れの隙間から飛び出してきたスケルトンドッグの噛み付きを、俺は首を反らして躱すと、その身体へとアッパー気味に拳を入れて骨もろとも赤石を粉砕する。
「ユウマさん!」
ミコトの声が響き、俺はハッとして頭を下げた。
その刹那、俺の頭があった場所をマミーの拳が重たい風切り音を出して通り過ぎた。
「ッぶねぇ、な!」
言いながら、俺は小太刀を振ってマミーの身体を横薙ぎに斬りつける。
その勢いを殺さず、小太刀を両手で持つと身体を捻って逆袈裟に身体を斬りつけ、身体ごとマミーへとぶつかって姿勢を崩すとその首に目掛けて小太刀を払った。
「助かった!」
と危険を教えてくれたミコトへと目を向けた。
すると、ミコトの背後に校舎から出てきた食屍鬼が駆け寄ってくるのが見えた。
「ッ」
すぐさま俺はミコトに近づき、駆け寄ってくる食屍鬼に向けて腰を回して蹴りを叩きこむ。
「っ、ありがとうございます!」
「お互い様、だろ!」
ミコトの言葉に言い返しながら、俺はさらに追い打ちをかけて食屍鬼の息の根を止めた。
その瞬間、俺の横には影が近寄る。
ゾンビだ。それも、一匹ではない。七匹ほどのゾンビが、俺を押しつぶそうと――あるいは俺に食らいつこうと、それぞれが一斉に俺へと覆いかぶさってきた。
「ッ、【遅延】! 一秒!!」
反射的に発せられたであろうミコトの声とともに、俺との距離が最も近かった一匹のゾンビの動きが鈍る。
その隙を逃すことなく、俺は地面を蹴ってその場から離れた。
次の瞬間には鈍っていたゾンビの動きが元に戻り、覆いかぶさろうとした俺がその場に居ないことに、たたらを踏む。
俺はたたらを踏んだゾンビに向けて小太刀を払い、その首を落とすと、残る六匹から逃げるようにミコトの傍へと戻った。
「大丈夫でしたか!?」
「ああ、怪我もない。だが、さすがにキツイな」
倒しても倒してもキリがない。
次々と押し寄せてくるモンスターに、じりじりと俺たちは追い詰められていく。
そして、いつしか俺たちは背中を合わせて互いに迫りくるモンスターを必死に撃退することしかできなくなっていた。
「ッ、ふ!」
気合の言葉と共にミコトの槍が迫るマミーの額を貫く。
「ぉらァ!」
言葉を吐き出しながら、迫りくるスケルトンの赤石を俺は肋骨の隙間から小太刀で突き刺す。
「【遅延】! 一秒!」
ミコトは自分が対処できない攻撃に合わせて、適宜に【遅延】を使っていた。瞬間的に遅くなる攻撃を見切り、槍で受け止め、受け流し、反撃の隙を見つけては槍を突き刺す。
それでも対処できなくなれば、俺が一時的に立ち位置を変えて迫るモンスターを切り裂いていく。
けれどその立ち回りも長くは続かない。
だが、俺たちは死ぬわけにはいかなかった。
クロエと約束した五分間。モンスターと戦闘を始めて、今がどれほどの時間が経過したのかが分からない。
俺たちは生きることを止めてはいけない。
約束の時間が来るまで、俺とミコトは、何度も、何度も、同じことを繰り返す。
切って、突いて、切り裂いて、蹴って、斬りつけて、蹴り飛ばして、振って、殴って、払って、殴り飛ばす。
何十、何百と同じ動作を繰り返す。
いったい、どれほどの間そうしていたのか分からない。
もしかすれば一分だったのかもしれないし、三分は経っていたかもしれない。
確実な致命傷だけを避けて、身体に無数の打ち身や傷を作りながらモンスターを屠っていると、ミコトが【遅延】スキルを発動しなくなったことに気が付いた。
「ミコト! 【遅延】は!?」
「もう、MPがないみたいです! スキルを使っても、何も発動しません!!」
俺と同じ様に身体に無数の打ち身や傷を作ったミコトは、マミーが振るった拳を避けて、槍で喉を潰し、その身体を蹴りつけた。
ミコトは俺よりもステータスが低い。それに、ステータスのビルドも中衛型で、こういった乱戦にはまず向いていないのだ。
そんなミコトでも、【遅延】スキルがあったから何とかこれまで立ち回ることが出来ていた。
だが【遅延】が無くなればその立ち回りも途端に危うくなる。
食屍鬼の放つ蹴りがミコトの腕に直撃し、スケルトンの持つ棍棒がミコトの頭を掠める。
それでも、彼女は諦めることなく必死に俺の背中を守ってくれている。
小さなその身体を奮い立たせている。
生きるために、自らの持つすべての力を出し切りながら、ミコトは不利な状況でもモンスターを倒していく。
「っ、そ!」
横合いから俺に飛びついてきたスケルトンドッグを避けながら、俺は毒づいた。
【集中強化】の反動が出始めている。脳みそを直接バットで殴られているかのように、激しい頭痛が襲ってくる。
耳元でドクドクと自分の心臓が鳴る音が大きく聞こえる。
これ以上の【集中強化】は危険だ。
けれど、ここでスキルの発動を切ってしまえば、辛うじて保てているこの均衡が崩れてしまう。
そうなればきっと、俺もミコトもただでは済まない。
「まだ、だ!」
まだ、スキルの発動を止めるわけにはいかない。
俺が頑張らなければ、彼女は確実に攻撃を食らう。
そうなれば、俺は彼女と交わした『彼女を助ける』という約束も守れなくなってしまう。
「ぁあああああああ!!」
ここが頑張り時だ、気合を入れろ。
必ず、助けは来る。クロエは助けてくれる。それを、信じろ!!
「うおおおおおおおおおおお!!」
声を出して、小太刀の柄を両手で握り締める。
【集中強化】の反動を、奥歯を噛みしめて耐えながら、ただひたすらに目の前のモンスターを切り伏せていく。
瞬間、背後に迫るモンスターの気配を感じた。
「ミコト、伏せろ!」
「ッ!? はい!!」
俺の声に即座に反応したミコトが、食屍鬼との戦いの最中だっただろうに、何のためらいもなくしゃがみ込んだ。
ミコトの目の前には接近を許したのか食屍鬼が拳を振り上げていて――俺は、その食屍鬼に向けて振り向きざまに小太刀を振う。
「ガフッ」
喉を切り裂かれた食屍鬼の首と口元から血を噴き出し、地面を赤く濡らした。
「ありがとうございます」
吐き出した血の数滴がミコトの頬に降りかかるが、ミコトはそれを気にした様子もなく、お礼の言葉を口にすると素早く目を動かして、俺の背後に迫っていたゾンビに向けて槍を突き出した。
額をまっすぐ貫かれたゾンビが、目を回してその場に崩れ落ちる。
先ほどまでゾンビを相手に涙目となっていたが、もはや苦手だとも言ってられないのか、ミコトはその感情を克服していた。
「助かった」
と俺はミコトに言って、再びミコトと背中合わせになってモンスターを睨み付ける。
「本当に、キリが、ないですね!」
襲い掛かるスケルトンドッグの噛み付きを避けて、槍で骨を砕きながらミコトは叫んだ。
「あと、少し、だ! 耐えろ!!」
ミコトに言い返しながら、俺はゾンビに向けて小太刀を振るう。
とは言っても、襲い掛かるモンスターの波は途切れる様子がない。
せめて、俺の武器が小太刀じゃなくてもう少しリーチのある武器だったら多少は余裕が出来たんだけど――。
……いや、ある。リーチのある武器が、ここに。
「ミコト、槍を借りるぞ」
呟き、俺がミコトの槍の石突部分を片手で掴むと、ミコトは素直に槍を握りしめていた手を離した。
「それじゃあ、小太刀を預かります」
とミコトは理由を聞かずにそう言うと、俺の手から小太刀を受け取った。
武器を交換し、俺は直槍の石突部分を両手で持ち、周囲のモンスターを睨み付けた。
「ミコト、合図でその場から全力で跳べ! 周囲を斬り払う!!」
言って、俺は腰を落とすと小太刀を居合抜きする要領で、その槍を腰だめに構えた。
「っ、わかり、ました!」
「いくぞ! 3、2、1――。跳べ!!」
俺の合図とともに、ミコトが地面を蹴って跳んだ。
その刹那、俺は腕に力を込め構えていた槍を全力で振り斬る。
俺のSTRと遠心力で振り回されたミコトの直槍が、俺たちを中心に群がっていたモンスターを纏めて穂先で斬りつけ、または槍の柄で吹き飛ばした。
「あ、危ないことしますね」
と地面に降り立ったミコトが言った。
「でも、これで一息つく余裕は出来ただろ」
俺は二メートルほど余裕の出来た空間に向けて言う。
ミコトから借りた槍を手渡して、ミコトから自分の小太刀を受け取る。
ミコトは俺の手から戻ってきた自分の槍を回して構えると、
「ですね。これなら、また戦えます」
そう言って、穂先をモンスターへと向けながら鋭い視線を周囲に向けた。
俺たちの間に声が割り入ったのは、その時だった。
「――いいや、お主らの戦いはこれで終わりじゃよ」




