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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 薄明の街と狂う世界

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四日目・夜 極夜を駆ける

 雑居ビルから飛び出して、モンスターで溢れた街に飛び出た俺たちは、クロエに先導されて襲い掛かるモンスターを切り捨てながら、新宿小滝橋通りを南へと駆けていた。

 横から襲い掛かるゾンビを蹴り飛ばしながら、クロエは口を開く。



「これまで、新宿を駆け回って分かったことじゃが、ボスモンスターは北側や南側にはおらん! かといって東側の千代田区に近いところは『極夜の街』を受ける前に、別のストーリークエストで我がボスモンスターを倒しておる! おそらくじゃが『極夜の街』のボスモンスターは、西側の付近のどこかにおるはずじゃ!」

「西側ってことは、この辺りだろ!」



 言い返しながら、俺は手に持った小太刀で道を塞ぐ食屍鬼の身体を切り裂く。すぐさま襲い掛かってくるソイツに蹴りを入れて、怯んだところに追い打ちをかけるように小太刀を振って首を飛ばした。



「それだけでも、結構広いだろ!」



 言いながら、俺はその後ろに控えていた全身包帯のモンスター、マミーと対峙する。

 マミーは身長が二メートルを超える大柄な体格で、攻撃手段はその体格から繰り広げられる徒手格闘だった。

 動きはそれなりに速いが、今の俺の敵ではない。

 俺は、自分を捕まえようとしてくるマミーの横を滑るように駆け抜け、背後を取ると袈裟斬りに小太刀を振った。



「ィイイイイイイ」



 声を上げてマミーが苦しむが、まだ息の根は止まっていない。

 小太刀を振り下ろした態勢のまま、今度は身体を回してマミーの膝裏を斬りつける。



「ァアアアアアア!!」



 マミーが声を出しながら、態勢を崩した。

 その隙に俺はマミーの横へと移動して、小太刀の範囲内に落ちてきたその首めがけて小太刀を振った。

 肉と骨を切断する感触とともに、マミーの大きな身体がぐらりと揺れる。

 俺は、その身体を思いっきり蹴りつけると、前方に迫っていたゾンビへと色を失っていくマミーをぶつけた。

 マミーの身体に押しつぶされて、ゾンビの身動きが取れなくなる。俺はすぐさま近づくと、マミーが空気へと消えてなくなる前に、ゾンビの頭に小太刀を落としてトドメを刺した。



「とりあえず、目星は付けてんのか!?」


 振り返り、近づいてくるスケルトンを殴り飛ばしながら俺は叫んだ。


「そんなもの、ないわ!」


 クロエが迫ってくる食屍鬼に蹴り飛ばしながら答える。


「しらみつぶしに、探すしかないのでしょうか!」



 俺が殴り飛ばしたスケルトンの赤石に槍を突き出しながら、ミコトは言った。

 狙い違わず、ミコトの槍はスケルトンの赤石を砕き、スケルトンが地面に崩れ落ちる。



「ふっ!」



 続けて、ミコトはその横に居たスケルトンドッグに向けて槍を振った。

 スケルトンドッグは犬型のモンスターのように素早く、しかしスケルトンのように弱点である心臓付近にある赤石を砕かないと頭を落とそうが何度でも動き出すモンスターだ。

 確実に仕留めないと、何度も立ち上がり素早く動くそのモンスターは、俺であっても一撃で仕留めるのは難しい。



「くっ!」



 ミコトの振った槍をスケルトンドッグが躱し、ミコトが悔しそうな表情を浮かべた。

 すぐさま振るった槍を翻し、今度は石突でスケルトンドッグを叩く。

 石突はスケルトンドッグの足を砕き、その機動力を奪った。その隙を逃さず、ミコトはしっかりとスケルトンドッグの赤石を砕く。



「効率よく探さないと、それだけで夜が明けますよ!」


 スケルトンドッグが沈黙したのを確認して、ミコトが声を上げた。


「何か、目印みたいなものはないんですか!?」

「――そんなもの、あったら! 我がとっくにボスの元へ向かっとる!」


 言いながら、クロエは襲い掛かってくるマミーの首を飛び上がって掴んだ。


「んんっ!」


 気合の声とともに、クロエがマミーの首を持ったままその小さな身体を反転させると、クロエの身体よりも倍近くあるマミーの大きな身体が地面から浮いた。


「りゃあっ!」



 掛け声とともに、クロエはマミーを地面へと叩きつけた。

 ドンッ! という凄まじい音ともにマミーを中心として割れたアスファルトがさらにひび割れる。

 見た目が幼女なだけに結構、衝撃的な光景だ。



「うわ、ようじょつよい」

「幼女ではない! 我は十九歳じゃ!」


 思わずつぶやいた俺の言葉に、クロエが反応した。


「だったらその身体を元に戻せよ! その身体だとリーチ短いだろうが!!」

「モンスターの間を抜ける時は、この身体が一番楽なのじゃ! 小さいから狙われてもすぐに避けることが出来るし、の!」


 言いながら、クロエは近づいてくるスケルトンの肋骨の隙間に拳を叩き込み、その奥にある赤石を砕く。


「――しかし、これじゃあ本当に、夜が明けるぞ!」


 俺はそう叫ぶと、近づくゾンビの首を刎ねて、その勢いのまま前に飛び出してマミーの腕を落とした。


「ガァアアアアア」


 声を上げ、その太い腕で俺を掴もうとしてくるのを躱し、俺は小太刀を下段から振り上げる。


「ァアアアアアアアア!!」


 痛みで声を上げるマミーの身体を蹴りつけ、態勢を崩すとそのまま小太刀を首筋へと突き刺した。



「とりあえず、このまま走って西新宿駅の方面へと向かうのじゃ!」

「西新宿っていうと、こっちか!」



 マミーが息絶えたことを確認して、俺はビルとビルの間の路地に飛び込んだ。

 すると、そこには待ち受けていたかのようにゾンビが三匹立っている。

 俺はすぐさま接近して、小太刀を振ってゾンビの首を落とす。

 動きが遅いのでゾンビは攻撃を当てるのが容易い。身体の色が無くなったことを視界の端で確認して、俺はすぐさま地面を蹴って路地を駆ける。



「ユウマさん、こっちで合ってるんですか!?」


 後ろから追いかけてくるミコトが声を上げた。


「分からん!」

「分からんって、そんな自信満々に言うことじゃないでしょ!」

「どっちにしろ、ボスモンスターを探すために新宿を駆け回るんだ。だいたいの方向さえあってれば大丈夫だろ!!」

「……まあ、確かにそうじゃな」


 俺に追いつき、俺の横を並走したクロエが同意の言葉を示した。


「お主ら、ステータス画面はちょくちょく見ておくのじゃぞ。このクエスト中、ひっきりなしにモンスターに襲われるから、自分のHPだけは常に気を付けておくのじゃ。それと、レベルアップしたらすぐさまSPを割り振れ。残しておく余裕など、今はないぞ」

「……つっても、そんな余裕もあまり、ない! けどな!」



 俺はそう言って、横道から飛び出してきた食屍鬼に身体を向けると、走る勢いもそのままに地面を蹴って食屍鬼へと飛び込んだ。

 飛び込みながら、膝を突き出して食屍鬼へと膝蹴りを与える。

 膝蹴りは上手い具合に食屍鬼の顔に当たり、膝を通じて食屍鬼の頬骨が砕ける感触が伝わった。

 地面をゴロゴロと転がる食屍鬼に素早く駆け寄り、手にした小太刀でその首を落とし、俺はまた走り出す。



「何も街中すべてにモンスターがぎゅうぎゅうにすし詰めされとるわけではない。ちょっとした隙間でスマホぐらい触れるじゃろ」

「でも! SPを割り振るにはちょっと隙が出来ませんか!?」



 ミコトはそう言って急停止すると、後ろを振り返って手に持っていた直槍を下段で横薙ぎに払った。

 ミコトの後ろにはゾンビが迫っていたようで、槍の穂先に触れたゾンビの足が深く斬りつけられる。



「ひっ!」



 べちゃりと地面に倒れ込んだゾンビに、ミコトが小さく悲鳴を上げてその手に持っていた槍でゾンビの額を突き刺した。

 その瞬間、ゾンビの目玉がコロンと地面に零れ落ちて、ミコトがまた悲鳴をあげる。



「ひぃいい!」


 涙目で、ミコトは突き出した槍を引き戻すとすぐさまその場所から逃げるように足を動かし俺たちを追いかけてきた。


「もう、嫌です! この街!」


 と俺たちの後ろをついてきながらミコトが叫び声をあげた。



「なんじゃ、あ奴はゾンビが苦手なのか?」


 クロエが走りながら不思議そうに首を傾げた。


「そう言うクロエは苦手とかなさそうだな」

「まあ、そうじゃの。特別嫌いなものはないな」



 言いながら、クロエは道を塞ぐように立っていた二匹のゾンビへとそれぞれ片手で掌底を叩き込んだ。

 掌底を叩きこまれたゾンビは吹き飛び、地面を転がって動かなくなる。

 その横を、クロエは目もくれることなく走り抜け、その後ろを俺が追従する。少し遅れて、ミコトは息絶えたゾンビの横をびくびくと目を向けながら走り抜けてきた。



「――クロエ、そう言えばずっと気になっていたんだが」


 路地を駆けながら、俺は目の前を走るクロエへと声をかけた。


「なんじゃ」


 とクロエが視線を俺に向けてくる。


「お前、靴はないのか?」



 そう言って俺はクロエの足元へと目を向けた。

 出会った時からそうだが、靴を履いた様子もなくクロエは素足で街を駆けている。

 崩壊した街には、至る所に割れたガラスや瓦礫、細かな鉄骨などといった、かつての文明の破片が落ちている。それだけでなく、終わりを迎えた文明を覆う植物の木々――その枝葉が落ちているのだ。特に、ガラス片や瓦礫などといったものは新宿に足を踏み入れてから多くなっている。明らかに、素足で歩けるような状態ではない。



 だが、クロエは俺の質問に小さく目を見開くと、面白そうに笑った。


「なんじゃ、心配しとるのか?」

「いや、ただ純粋に疑問なんだよ」


 と俺はクロエに言い返した。



 崩壊した世界を素足で歩けば、足の裏がどうなるのかはこの世界に来た当初、靴もなにもなかった俺がよく知っている。



 だが、クロエは俺の言葉に喉を鳴らして笑うと、


「まあ、心配はいらんよ。DEFが上がれば皮膚は以前よりも硬くなる。というよりも、この程度じゃ我の皮膚はもはや傷つかん。……それに、我はこの姿(八歳)本来の姿(十九歳)を使い分けるからの。ローブは前を緩めることでどうにかなるが、靴はどうにもならん」



 言いながら、クロエは路地に塞がるスケルトンへと接近すると、スケルトンの胸骨へと拳を叩きこんで骨を粉砕すると、その奥に現れた赤石に向けて拳を叩きこんだ。



「なんだか、あの姿で街を走っているのを見ると、元気な子供のように見えますね」


 とミコトが後ろからそんなことを呟いていた。


 確かに、素足で走り回っているその姿を見れば、クロエが元気な子供に見えなくもない。

 ……ここが、崩壊した街でなければ、の話だが。


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