四日目・夕 ステータススキル
「……あれ。だとしたら、俺が人間の種族スキルを手に入れた時のデメリットって何になるんだ?」
ふとした疑問が湧く。
人間の種族スキルだと思われる【曙光】のスキルを手にしているが、今のところクロエが言うデメリットは何もない。
「さぁ、の。お主がより人間らしくなるのではないか?」
とクロエが喉を鳴らして笑った。
「ユウマさんが人間らしく? ……あれ? じゃあ、人が人らしいって何ですか?」
とミコトがクロエの言葉に反応して哲学めいたことを口にする。
「いや、それは分からないけど」
と俺はミコトの言葉にため息を吐いた。
結局のところ、人間の種族スキルのデメリットは分からないということだ。
もしかすれば、種族スキルにはデメリットのないものも存在しているのだろうか?
「……そうだ。クロエ、スキルの話しが出たついでだ。スキルについて他に何か知っていることはないか?」
この際だから聞けることは全て聞いておこう。
そう考えて、俺はクロエに問いかけた。
「スキルについて知っていること、か。例えばなんじゃ?」
「スキルを取得するには条件と、確率があるとか」
「ああ、なるほどの。じゃったら、ステータスでLUKがスキルに関係していることはどうじゃ?」
「それは知っている」
俺は首を縦に振った。
「なんじゃ、知っとるではないか。あとは……。そうじゃな。ステータススキルのことぐらいか」
「ステータススキル?」
知らないスキルだ。
クロエは俺の反応から俺たちがその存在を知らないことを察したようで、説明をしてくれた。
「これは我が勝手に言っておるスキルじゃ。まあ、簡単に言ってしまえばステータスの上昇によって出来るようになったスキルの紛いもの、そんなところじゃ」
「スキルの紛いもの? ますます意味が分からないんだが」
「例えばじゃ。お主、DEXが上がって自分の身体が頭で考えている通りに動く感覚を覚えたことはないか? DEXによるイメージの模倣、それを我は『模倣』と勝手に言っておる」
言われて、俺はその言葉に思い当たる節がある。
頭の中でイメージした通りに身体を動かすこと、それはいつも戦闘でやっていることだ。
それを応用して、俺はDEXの器用さを利用して足音を立てずに走る方法を編み出している。
これも、クロエが言うステータススキルというやつだろう。名前を付けるとすれば『無音移動』といったところだろうか。
「心当たりがあるな」
と俺は頷いた。
「ステータススキルは、伸びたステータスとプレイヤーの技術次第では誰でも取得できるものじゃ。……どれ、話のついでじゃ。我がステータススキルを一つ見せてやろう」
ニヤリと笑いながらクロエはそう言うと、ローブのポケットの中から一枚のコインを取り出した。
「それは、何ですか?」
とミコトが言う。
「ゲームセンターの、コインゲームのコインじゃ」
とクロエは言った。
「なんで持ってんだよ」
と俺は呟く。
普通に窃盗だろ、それ。
「なに、コスプレ用でちょっとの」
クロエは小さく舌を出すと、そのコインを親指先に乗せた。
「離れておれ」
クロエの言葉に合わせて、俺たちは入り口から離れてクロエの様子を見守る。
俺たちが離れたことを確認すると、クロエはニヤリとした笑みを浮かべて、
「いくぞ」
とそう言ってクロエは親指を弾いた。
その瞬間、コインがくるくると宙を舞う。クロエは目を細めると、舞い上がったコインに狙いを定めて、腕を突き出し、再び折り曲げていた親指を落ちてくるコインに合わせて弾いた。
瞬間、クロエのSTRによって押し出されたコインが物凄い速度で入り口の壁へと飛んでいき、盛大な音を立ててその壁にのめり込んだ。
「どうじゃ!」
「どうじゃ! じゃ、ねぇ!!」
コスプレ用、と言った言葉から察していたが、クロエがとったその行動は、明らかにとある学園にいる女子中学生の攻撃のそれだった。というか、コイツ……。全く隠すつもりがなかった。
「スキルを見せるって話だっただろ!? なんでそうなるんだよ!!」
「じゃ、じゃから見せたじゃろ! 今見せたのが『模倣』じゃ!! イメージはまあ、例の作品からもらったが」
俺のあまりの剣幕に、クロエが狼狽えるように言った。
俺は頭を抱えると、深いため息を吐き出す。
「もう、二度とするな」
「なんでじゃ!?」
「私も、今のはさすがにマズいと思います」
ミコトも、顔を引きつらせて俺の言葉に同意してくる。
クロエは俺たちに向けて唸り声を上げていたが、やがて不貞腐れるようにそっぽを向いた。
「もう、二度とお主らの前で見せん!」
「そうしてくれ……」
これから一緒に行動し、ことあるごとに今の光景を見せられてはたまったものじゃない。
クロエは一度鼻を鳴らすと、
「これで我の知っていることはもう何もない! あとは夜になるまで自由じゃ!」
と言うと自分のペットボトルを手に取り、その中身――モンスターの血液を一息に飲んだ。
自分が披露した物まねを否定され、自棄酒ならぬ自棄血を始めたクロエから視線を外して、俺はミコトへと目を向ける。
「どうする?」
「そうですね……。私たちも、時間まで身体を休めましょう。おそらくですけど、この先はゆっくり休めないでしょうから」
クロエの言う言葉通りならば、夜になればストーリークエストが開始される。
そうなれば、ミコトの言う通り休む暇もないだろう。
俺はバックパックの中から水と食料を取り出して、ミコトと二人で分け合う。
クロエに食事のことを聞いたら、
「吸血鬼の食事は血液じゃ。それさえあれば、腹も空かんし喉も乾かぬ」
という言葉が返ってきた。
食事を終えて、俺たちはクロエから離れた場所でお互いのステータスを確認し合った。
古賀 ユウマ Lv:9→10 SP:1→11
HP:50/52→52/54
MP:15/15
STR:27→28
DEF:20→21
DEX:21→22
AGI:23→24
INT:15→16
VIT:22→23
LUK:42→44
所持スキル:未知の開拓者 曙光 夜目 集中強化 視覚強化
柊 ミコト Lv:8→9 SP:0→5
HP:32/32→34/34
MP:11/30
STR:11→12
DEF:13→14
DEX:12→13
AGI:15→16
INT:30→32
VIT:13→14
LUK:25→26
所持スキル:天の贈り物 回復 遅延
俺もミコトも、それぞれレベルが一つ上がっていた。
俺のHPが減っているのは、スケルトンに油断をして頭を殴られてから回復をしていないからだ。
いずれ時間が経てばHPも回復をするだろうから、今のところは【回復】も必要がない。
俺とは別に、ミコトはMPがガッツリと減っている。これは、新宿に入る前に行った【遅延】の実験と、新宿に入った後の度重なる戦闘で【遅延】を使ったことでMPを消費しているからだろう。
「……さて、と」
これが、ストーリークエストに挑む最後のステータス調整だろう。
俺とミコトは顔を突き合わせて相談する。
「相手が分からないですけど、ユウマさんは前に出ますし、DEFやVITに割り振ったほうが良いのでは?」
「そうだな。吉祥寺を出てからSTRが足りていないって今のところ感じてないし、DEFとVITが今のところ安定だな」
「私は……。もう少しMPを上げた方がいいですよね? 【遅延】を使うのにも、【回復】を使うのにもMPが必要ですし」
「そうだな。今のMPだとすぐにガス欠するし、ミコトはもう少しMPを伸ばしたほうがいいかもな」
「そうですよね。分かりました」
「俺はDEFとVIT、LUKを中心に割り振ってみる」
相談を終えて、俺たちはそれぞれ自分のステータスへと向き合い、SPを割り振る。
古賀 ユウマ Lv:10 SP:11→0
HP:52/54→60/62
MP:15/15
STR:28
DEF:21→25
DEX:22
AGI:24
INT:16
VIT:23→27
LUK:44→50
所持スキル:未知の開拓者 曙光 夜目 集中強化 視覚強化
柊 ミコト Lv:9 SP:5→0
HP:34/34
MP:11/30→23/42
STR:12
DEF:14
DEX:13
AGI:16
INT:32→42
VIT:14
LUK:26
所持スキル:天の贈り物 回復 遅延
俺はDEFとVITにSPを4つ、LUKに3つ割り振った。
ミコトは、すべてのSPをINTに割り振ったようだ。
「MPは二時間後には回復出来てるのか?」
と俺はミコトに問いかけた。
MPを回復させる手段は身体を休めて、疲れを取ることだ。
ミコトは考えるように視線を動かすと、
「そうですね。しっかりと身体を休めることが出来れば、大丈夫だと思います」
とそう呟く。
であれば、ステータスの最終調整を終えた俺たちがやるべきことはもう何もない。
「ミコト、俺が見張りしておくから横になって休んでろ」
「良いんですか?」
ミコトが申し訳なさそうな顔で見てくる。
だが、今の俺たちにとってミコトのスキルは重要な戦力の一つなのだ。
肝心な時に、MPが足りなければそれこそ命の危険につながる。
ミコトにはしっかりと休養を取ってもらわなければならない。
「ああ、ゆっくり休んでろ」
「……ありがとう、ございます」
小さな声でお礼を言って、ミコトははにかむように笑った。
それから、ミコトは脱いでいたローブを被ると床に丸くなる。おそらくミコトが眠ることはないだろうが、それでも横になれば多少はマシだろう。
そんなことを考えてると、ふと視線を感じた。
目を向けると、自棄になってペットボトルの血を飲んでいたクロエと視線がぶつかる。
「お主、しばらく起きとるのか?」
「まあ、そうだな。誰かが見張りをしてなきゃいけないし」
「お主が見張りをするのなら、我も眠るとする。時間になったら起こしてくれ」
そう言うと、クロエは目を擦ると大きく欠伸をした。
今、クロエの見た目は八歳児そのものだ。その仕草と、その欠伸を見れば幼い子供が眠気を我慢しているように見えなくもない。……欠伸の時に見えた、口の中の牙を見なければ、だが。
クロエは、ミコトと同じようにローブのフードを目深に被ると、もぞもぞと部屋の隅で丸くなった。しばらくすると、寝入ったのかすぅすぅと小さな寝息が聞こえてくる。
まるで、俺たちに襲われることを考えていないかのような無防備だ。
もしくは、襲われても返り討ちに出来る自信の表れか。
それとも、俺たちを信用した証なのか。
いずれにしても、出会って間もない俺たちの前で眠ることが出来るその胆力には、呆れるしかない。
「ユウマさんも、休んでくださいね」
暗闇の中で、ミコトが呟く小さな声が聞こえた。
目を向ければ、横になった態勢のままでミコトは俺を見つめていた。
俺は、そんなミコトに向けて小さく笑う。
「……ああ。ほどほどに休むよ」
ストーリークエスト開始まで残り約二時間。
それまで、ほどほどに見張りをしながら身体を休めよう。




