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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 極夜の街と幼い吸血鬼

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四日目・昼 吸血鬼

 


 ――吸血鬼。それは民話や伝承などで出てくる存在だ。



 多くの伝承において、吸血鬼の食事は血液とされている。また、血を吸った相手を自分と同じ吸血鬼にすることが出来る、なんて話は誰しもが一度は聞いたことがある話だろう。

 吸血鬼の特徴は物語によって差異があるものの、有名なのは日光を嫌うことと、蝙蝠や狼、霧などに変身できること、鏡に映らず不老不死であること、だろうか。

 無敵の化け物として書かれることも多いが、その分吸血鬼の弱点も多く知られている。例えば、ニンニクが苦手、心臓を杭で潰されると不老不死であろうが死ぬ、銀の弾丸や十字架にも弱い、水が苦手、などだ。



 俺はクロエの行動を思い出す。

 駅の階段でフードを取らなかったのは、外にあるホームから日の光が差し込んでいたからだろう。さきほど飲んでいたペットボトルの中身は、クロエが本当に吸血鬼だというならば、それは血であることは間違いない。問題は、コイツが誰の血を飲んでいたのかということだが……。



「ユウマさん、吸血鬼ってあの吸血鬼でしょうか?」


 クロエの言葉を聞いて、ミコトが小さな声で囁いてきた。


「もし、この人が本当に吸血鬼なら、新宿の街にいたあのアンデッドモンスターは……」


 ミコトが言葉を区切る。



 伝承上では、吸血鬼は血を飲んだ相手を自分と同じ化け物にする生き物だ。

 ミコトの言いたいことはつまり、新宿の街にあふれたアンデッドモンスターはコイツの仕業ではないかということだろう。

 俺はその言葉に小さく首を振った。



「それはないと思う。どの物語でも、吸血鬼による吸血行為によって、血を吸われた人は大抵が吸血鬼になるのがほとんどだ。新宿の街にいたモンスターは食屍鬼やゾンビ、スケルトンだっただろ? どれも吸血鬼じゃない。それに――」


 と俺は言葉を一度区切って、クロエへ視線を向けた。



 クロエは、俺たちが小声で言葉を交わすのを面白そうに眺めていた。

 俺は視線をミコトに戻す。



「アイツ、俺たちにスマホを見せてただろ? アイツは俺たちと同じプレイヤーだ。プレイヤーがモンスターを倒すことはあっても、反対にモンスターを増やすなんてことは、さすがにこのクソゲーでもないと思う」


 と俺は言った。



 ミコトは俺の言葉に神妙な顔で頷いた。


「そう、ですよね。この人、私たちと同じプレイヤーなんですよね。……それなのに、どうしてあの時、食屍鬼を呼び寄せて私たちが戦うよう仕向けてきたのでしょう」



 そう、コイツはプレイヤーでありながら食屍鬼を――いや、もっと直接的に言えばモンスターを呼び寄せた。

 勝てたから良かったものの、その行為は下手をすれば間接的な殺人と等しい。

 プレイヤーであるならその行為が危険であることぐらい分かるはず。


 その行動が理解できないがゆえに俺たちは、クロエがいくらスキルや種族といった手の内を晒してこようが信用することが出来ないでいた。

 そんな俺たちの戸惑いが伝わったのだろう。

 クロエはクククッと喉を鳴らすと口を開いた。



「ふむ。まあ大方お主らが困惑している理由も分かる。我が、何のつもりでスキルや種族を教えているのか分からない、そんなところだろう? 何せ、我はお主らに食屍鬼と戦うよう()()()モンスターを呼び寄せたんじゃからの」

「――わざと、だと」


 ピクリ、と俺の眉が動いた。


「お前、その行為がどんな意味で、どんな結果になるのか分からないのか?」

「ああ、もちろん。分かっとるよ。下手をすれば、お主らは死んでいたじゃろうな」


 クロエは事も無げに言った。

 反省している様子はない。むしろ〝それがどうした〟とでも言いたそうな表情だった。


「もしそれで死んだのだとしたら、あの程度のモンスターに勝てないお主らが悪いじゃろ」

「――てめぇ!」



 心の奥底に燻っていた怒りが、その言葉をきっかけに一気に燃え上がる。

 俺は地面を蹴ってクロエに一息で近づくと、ローブの胸倉を両手でつかみ上げた。



「自分が何を言っているのか、よく分かった上での言葉なんだろうな」


 歯を剥き出しにして、俺は唸るようにクロエへと言葉を吐き出した。


「ちょ、ユウマさん!」


 すると、ミコトが慌てた声を出して俺の背中にしがみついてきた。



「暴力はダメですって!」

「ミコト、離せ! コイツは、わざとモンスターを呼んだんだぞ!? それがどういう意味か分かってんのか!?」

「分かりますよ! 分かりますけど、暴力はダメです!! ユウマさん、この世界にはステータスがあるんですよ!?」

「ッ、それは――」



 ミコトの言葉に、俺は奥歯を噛みしめる。

 コイツのステータスが今どれぐらいなのかは知らないが、もし俺よりも低いのであれば、俺が今ここでコイツを殴れば、コイツはただでは済まないだろう。



「くっそ!」


 舌打ちをして俺は手を離す。


 俺の背後からは、そんな俺の様子に安堵したのか大きく息をついたのが聞こえた。



「――私からクロエさんに聞きたいです。あなたがモンスターを呼び寄せたあの行動。その行動の意味を、あなたは分かっていたんですか?」


 とミコトは俺の背後から問いかけた。


 クロエはゆっくりと頷き口を開く。


「……もちろん、我がお主らにした行為がどういう意味かなど、最初から分かっとるよ」

「それが分かっていながら、私たちをモンスターに襲わせるために、わざと声を出したということですか?」

「そういうことになるな」

「それは、どうしてですか? ……正直に言って、私にはあなたの行動の意図が読めません。声を出した食屍鬼を呼び寄せた割には、私がピンチになれば私を助けてくれた。私たちを陥れたいのか、助けたいのか。あなたの行動が分からないんです」


 ミコトの言葉に、俺は思い返す。



 確かにそうだ。あの時、ミコトに襲い掛かる食屍鬼からミコトの身を守ったのは他でもない。このクロエだ。

 食屍鬼を呼び寄せて俺たちを強制的に戦わせておきながら、ピンチになれば俺たちを守る。

 それは明らかな矛盾だった。



「我の意図、か。まあ、簡単に言ってしまえば我は試したのじゃよ。お主らが、我とともに戦うほどの力があるのかをな」

「お前と一緒に戦う? どういうことだ」



 俺は顔をしかめながら声を上げた。

 コイツが何を言いたいのか、話の流れが見えない。

 だが、クロエはそんな俺にニヤリとした笑みを浮かべると口を開く。



「言葉通りの意味じゃよ。お主ら、ストーリークエスト中じゃろ? しかも、『極夜の夜』とかいう名前の」

「なッ――」


 思わず、動きを止める。



 どうして、コイツがそれを知っている?

 俺たちがストーリークエスト中だなんて言葉は一言も出していないはずだ。

 混乱する俺とは別に、背後にいたミコトは冷静だった。



「……なるほど」


 と声を出すと俺の横に立ってクロエを見据える。


「つまり、あなたも私たちと同じストーリークエスト中ということ、ですね」


 クロエは牙が見えるほどに唇を吊り上げて笑った。


「その通りじゃ」

「あなたの目的は?」

「ストーリークエストのクリアだけじゃ。それはお主らも同じじゃろ?」

「そうですね」


 とミコトは頷いた。


「今回のストーリークエストはちと難易度が高くての。同じ目的を持つ者同士、手を貸してほしいのじゃ。じゃが、だからと言って誰でもいいのではない。ある程度はレベル、そしてステータスがなくてはならん。……そこの男のようにの」


 とクロエは俺へと視線を投げかけた。


「同盟というやつじゃ。お主らは我に戦力を、我はお主らに我が知っている限りのこの世界の――トワイライト・ワールドのことを教えるとしよう。どうじゃ?」



 俺はクロエの言葉を考える。

 コイツが何の情報を持っているのかは分からないが、それでも他のプレイヤーから話を聞けるというのはありがたい。

 コイツのことは未だ信用は出来ない。だが、ストーリークエストのクリアという目的は同じだ。コイツがストーリークエストの何かしらの情報を持っていることは、その言い方からして確かだろう。



「ユウマさん、どうしますか?」


 とミコトが小さな声で聞いてきた。


「同盟を組むのはありだと思います。ただ、問題がいくつかありますけど……」



 そう言うと、ミコトの表情が僅かに曇る。

 俺はミコトに頷き、クロエに聞こえないよう小声で会話を行う。



「ああ、分かってる。俺はまだコイツ――クロエを信用出来ていない。コイツがもし、俺たちを囮にモンスターと戦うつもりだったら、俺たちは圧倒的に不利な状況になる」

「そうですね。もしモンスターに敵わないと思ったら、クロエさんは私たちを見捨てて逃げることだってできるわけですし」

「俺たち二人で戦える相手ならいいけど、強敵だった場合が面倒だ。ミコトの【回復】さえあればどうにか出来るかもしれないけど」



 ミコトは、俺の言葉を聞くと考え込むように眉根に皺を寄せた。



「……そう考えると、私の【回復】は隠しておいたほうがいいですね。奥の手ってことで」

「ああ、それと【遅延】も……と、言いたいところだけど、これはさっきの戦いで確実に知られたな」

「そう、ですね。【遅延】に関しては、先ほど使っちゃいましたし」


 とミコトはため息を吐く。



 でもまあ、これに関しては仕方のないことだ。

 あの場面で、スキルを使わずに戦うほうが無理だというもの。

 【遅延】に関しては隠すことを諦めたほうがいいだろう。



「ああ、それと。ユウマさんの【曙光】は、絶対に知られるわけにはいきません」



 ミコトが俺に向けて、注意を促すように言った。

 俺はその言葉に頷く。



「ああ、そうだな。……そうなると、同盟を組むにあたって条件を出したほうが良いだろうな。それも、クロエにとってメリットのない条件を」

「条件、ですか?」


 ミコトは小首を傾げて見せた。


「まあ、縛りみたいなもんだ。それをクロエが守るかどうかは別の話しだが、クロエにとってメリットのない条件を出して、それを躊躇することなく受け入れるのであれば、多少はその同盟ってやつも本気だと分かるだろ?」

「ああ、なるほど。分かりました。では、その交渉はユウマさんに任せます」



 俺たちは話し合いを終えると、クロエへと目を向けた。

 クロエは俺たちの話し合いが終わるのを待っていてくれたようで、



「相談は終わったか?」


 と言ってきた。



 俺は頷きを返して、指を二つ立てて見せる。



「条件が二つある」

「ほう、なんじゃ」

「一つ、俺たちの質問には知っていることや分かることは包み隠さず答えること」

「ふむ、よかろう」


 クロエは大仰に頷いた。


「我の知っていることであれば、お主らに伝えようぞ。知りたいこと、分からないこと。なんでも聞くがよい。して、二つ目は?」

「二つ目は、俺たちのことを探らないことだ」

「つまり、お主らのことは何も問うな、ということか? それは一方的すぎる条件じゃと思わんか?」


 クロエは俺の言葉に、わずかに眉をしかめて見せた。


「我はスキルの一つを晒したのじゃぞ? それなのに、お主らは我には何も教えないと言うのか?」

「俺たちの相手はモンスターだろ? プレイヤーじゃない。それなら、必要以上に相手のことを知る必要はあるのか?」


 と俺はクロエに言った。

 それに、と俺は言葉を続ける。


「お前の方から探りを入れるな、ということだ。質問をするのは構わない。だが、その質問に俺たちが答えなければそれ以上を聞くな、ということだ」

「……まあ、確かにそうじゃの。一時的な同盟ならば、必要以上にお互いを知る必要はない、か。よかろう、その条件も受け入れる。して、お主らの条件はそれだけか?」



 クロエは俺の言葉に一つ頷くと、俺の目を見据えた。

 俺はクロエに頷きを返す。



「ああ、そうだ」

「ふむ、了解じゃ。それじゃあ、同盟成立じゃな。しばしの間だが、よろしく頼むぞ」



 そう言って、クロエはクククッと喉を鳴らして笑うのだった。


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